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 閑話─配信系発掘者 その7

「それで? 誰が助けてくれたのか、結局分からずじまいだったってわけ?」

「そうなんだよ」

 ヨコハマ遺跡で識別名(コードネーム)〈オーガ〉という、トンデモな怪物と遭遇して、正真正銘絶体絶命の危機だった俺は、どこの誰とも知らない人に助けられた。

 おそらくは、相当な距離から〈オーガ〉を狙撃して俺を助けてくれたのだ──と思う。

「ああ、あの配信なら俺もアーカイブで見たけど……」

 俺の目の前でそう言うのは、いわゆる幼馴染であり、親友でもあるスルガ・ヨシキである。

 カワサキ・シェルターに何とか無事に帰還した俺は、規定の隔離期間を終えたその足でこいつの家を訪れたのだ。

「確かに〈オーガ〉が倒された時、少し経ってから小さな銃声が動画に入っていたんだ。つまり、すっげぇ遠い所から狙撃したんだと思うぞ」

 音って奴は、光よりも伝達速度が遅い。もちろん、その時の大気の状態や周囲の建築物の密集具合などで状況は様々だからどれぐらい遅いかは一概に言えないけど、音速が光速よりも遅いのは確かなわけで。

「銃声が遅れて聞こえるぐらい離れていた所から、〈オーガ〉を一撃で倒すとか……そっちの方が怪物じゃね?」

「確かになぁ」

 俺の言葉に、ヨシキも頷く。そして、何かに気づいたような様子で、首を傾げながら眉を寄せていた。

「どうしたヨシキ?」

「凄腕のスナイパーって言えばさ……最近、ちょっとある人の話を聞いたんだ」

 ヨシキの知り合いにそんなトンデモ人物がいるの? 初耳なんだけど?

「ほら、ライトも覚えてね? 小さい頃、合同学習場で一緒だったユウジとジェボクを」

「ユウジとジェボク? ああ、いたな、そんな奴ら」

 今の時代、学校なんてものは存在しない。だが、同じぐらいの年齢の子供を集めて、私的に最低限の学習を行ってくれる場所は存在する。

 それは「合同学習場」や「私塾」などと呼ばれ、ここ、カワサキ・シェルター内にも数か所ほど存在しているのだ。

 その合同学習場では、シェルター内で公用語となっている日本語、英語、中国語の基本的な読み書きと会話、それに四則演算などを教えている。

 20世紀終盤から21世紀初頭の義務教育レベルの学習だが、それ以上のレベルの学習を望むのであれば個人的に教師を雇うか、専門家の下に弟子入りするのが今の時代の常識だ。

 中には教育用のAIを購入して子供に学習させる親もいるらしい。俺やヨシキの場合、近所の合同学習場で同時期に学び、それ以降ヨシキは実家のジャンク屋を継ぐために親父さんの下で修業し、俺は色々な職場を転々として活動資金を稼ぎ、現在は発掘者兼配信者として活動しているわけである。

 で、今、ヨシキが口にしたユウジとジェボクは、同じ時期に合同学習場で一緒だった連中であり、いわゆる「同級生」って奴だろう。

「あいつらなら当然覚えているさ。二人で一緒に問題起こしては、しょっちゅう学習場の先生に怒られていた奴らだろ?」

「そうそう、その二人。あいつらも最近発掘者としてデビューしたらしくて、ウチでバイクを買ったんだよ」

「へえ、あの二人も発掘者にねぇ」

 威勢はいいけどちょっと臆病なジェボクと、そんなジェボクに苦笑しながらも楽し気に付き合っていたユウジ。俺から見て、問題児でありながらもいいコンビだと思えたあの二人も発掘者デビューしていたとは。

 あいつらを誘って、チームを組んで発掘する様子を配信するのもいいかもしれないな。

「で、あの二人と俺を助けてくれたスナイパーさん、どう関係してくるわけ?」

「最近あいつらがちょくちょく世話になっている先輩の発掘者がいるんだけど、ユウジとジェボクが言うには、その人は神がかっているほど狙撃が上手いらしいんだ」

「え? ってことは、俺を助けてくれたのってその先輩さんだったり?」

「もちろん確証はないけど……もしかしたら、おまえを助けてくれたのはあの人かもな」

 ヨシキもその先輩さんのことはよく知っているらしい。ヨシキいわく、まだまだ若手ながらも周囲からの評価も高く、カワサキのベテラン発掘者たちからも一目置かれているとか。

 しかもヨシキがユウジたちから聞いたところによると、その先輩さんは美人三人とチームを組んでいるらしい。

 え? 何? その先輩さん、いわゆる「ハーレム・パーティ」持ちって奴?

 男の夢を体現した発掘者かよ! ちくしょう!

 羨ましくてライちゃん涙出てくらぁ!

 しかし、「ハーレム・パーティ」って実在するんだな……。そんなの、創作の中にしか存在しないって思っていたよ。


◆◆◆


「で、配信にもあったけど、ライトが手に入れた例の【クリスタ】ってどうなったんよ?」

「ああ、あれなぁ……」

 俺を襲った〈オーガ〉の体に埋まっていた、青白い【クリスタ】らしき物体。それをカワサキに持ち帰った俺は、当然いの一番にアレを鑑定してもらった。

 その結果。

「アレ、【クリスタ】ではないっぽいんだよ」

「え? 【クリスタ】じゃなかったの?」

 結論から言えば、アレは【クリスタ】によく似ているものの、【クリスタ】とは全く別物らしい。

 特定の振動を与えても電気を発生させないそうで、見た目はよく似ているが【クリスタ】ではないと鑑定されたんだ。

「それでもなかなかに珍しい物質らしくて、カワサキの上層部がそれなりに高額な値段で買い上げてくれたんだけどさ」

 なんせあの【クリスタ】モドキ、【インビジリアン】の体から切り離しても崩壊しないのだ。

 ご存じのように、【インビジリアン】は命を絶たれると短時間で体が崩壊する。そのため、【インビジリアン】の各種研究はあまり進んでいないのだが、あの【クリスタ】モドキが【インビジリアン】と同じ組織で形作られているとしたら、【インビジリアン】の研究が劇的に進むかもしれないそうなのである。

 もっとも、あの【クリスタ】モドキがどんな物質なのか、判明するのはこれからなのだろうけど。

 参考までに買い取りを担当してくれた人に言わせると、もしもあの【クリスタ】モドキが正真正銘の【クリスタ】だったら、買い上げの値段が二桁は違ったらしい。

 それぐらい、【クリスタ】は希少で高価なのである。

 だけど、あの【クリスタ】モドキのおかげで今回の発掘は黒字だ。買ったばかりなのに早々に失くしてしまったSMGを買い直しても、まだ余裕があるぐらいの収入になったのだ。

 「人形の館」で購入したあの〈舞い散る聖羽〉ってSMG、ちょっとしか使わなかったけどかなり扱いやすかったんだよね。また同じSMGを買い直そう。そうしよう。

「発掘で黒字かー。そりゃ景気のいい話じゃん。そんなに余裕があるのなら、ウチで何か買ってくれよ。てか、買え」

「ばーか。余裕があると言っても、そこまでじゃねーよ」

 と、互いに笑い合う俺とヨシキ。

 実際、新しい車両(ビークル)を買えるほどの余裕ではないんだ。

 そりゃ確かに新しい車両も欲しいけど……そういや、いつぞや見たあのでっかい装甲車、あんな車両を俺も購入してみたいものだな。

 ま、今使っている車両だって決して悪くはない。俺とヨシキの二人で組み上げた車両で、愛着もかなりあるしね。

 それに、今は車両よりも優先して購入すべき物もある。武器弾薬、防具類。それ以外にもあると便利な発掘用装備やアイテムとか。だけど、個人的には配信や編集用の機材が欲しいんだよねぇ。

 ほら、俺って発掘系配信者だし。

 まずは配信用の撮影ドローンを上位の機種に変更かな? 今よりも通信性能が良くて、カメラの解像度も高い奴が欲しい。

 編集用機材は……とりあえず後回しにするか? 今は生配信がメインだし、その内必要になってくるとは思うけど。

 よし、決めた。まずはSMGの再購入。その次に、撮影用ドローンの機種変更だ。

 また「人形の館」に行かないとね。あそこに行けば、店長のエマさんと会えるし、もしかすると以前出くわしたメイドさんもいるかもしれない。あのメイドさん、「人形の館」の常連さんっぽかったし。

 うんうん、やっぱり期待しちゃうよね。男の子だもの。

 あ、「人形の館」に行ったら、メインで使っているオートショットガンのメンテナンスもお願いしょうかな。一応、自分でもメンテしているけど、時々は本職にやってもらった方がいいよね。

 よし、じゃあ、早速「人形の館」に行ってみるか!

 ヨシキの家を後にした俺は、その足でいそいそと「人形の館」へと向かうのだった。



 これにて今章は終了。

 しばらくお休みを挟みまして、次章へと入っていきます。

 次回の更新は7月13日(月)の予定。

 引き続き、よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
先週に引き続きの番外編でしたが、こちらはこちらで楽しめました。配信系発掘者という職業も中々てすね♪ 誤字・脱字等の報告 1件、報告しました。 参考意見です。 特にありませんでした。
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