《フギ》強襲
「ん? 避難が遅れた住民か?」
南部の防衛拠点へと応援に向かう、KSSTの車両。
現在のカワサキ・シェルターは、西部方面から襲撃を受けている。だが、カワサキの上層部はこれを陽動と判断し、他方面の警戒を強めるように指示を出した。
今、南部の防衛拠点へと向かっているKSSTの車両は、その応援部隊である。
その移動の途中、車両の助手席で昼間なのにがらんとしたカワサキの様子を眺めていたKSSTの隊員は、街中をゆっくりと歩く者たち──その数は三人──がいることに気づいた。
「そこの人たち! 早く近くの避難エリアに向かってください! 現在、カワサキ全域に避難命令が出ています! 無暗に出歩くのは危険です!」
車両の外部スピーカーを通じて、その人物たちへと避難を促す。
だが、その人物たちは避難指示が聞こえると同時にぴたりと足を止め、KSSTの車両へと目を向けた。
「…………なんか、不気味な連中だな」
「俺の気のせいかもしれないけど、あの三人全く同時に動いていないか? こっちを見るタイミングも一緒だったような気がするんだが……」
「何となく……機械みたいな印象の連中だな」
同じ車両に乗り合わせていたKSSTの隊員たちが、三人の人物たちを見つめながら言葉を交わす。
「早く避難してください! カワサキ全域に避難指示が──」
もう一度スピーカーのマイクを握って警告を発する隊員。だが、警告の言葉を全て言い終えることはなかった。
なぜなら彼の頭部が、当然弾けたからだ。
◇◇◇
車両──六人乗りの人員輸送車両──に乗り合わせていた他の隊員たちは、呆然と倒れた仲間へと目を向けた。
その彼は、頭を四散させ、その中身を周囲に撒き散らしていた。
「…………な、何が……?」
「銃撃されたっ!?」
「こ、この車両の窓って、防弾仕様だろっ!? それが撃ち抜かれたっ!?」
突然のことに混乱するKSST隊員たち。だが、そこは彼らも訓練を積み上げてきただけあり、混乱しながらもなかば条件反射的に応戦態勢に入る。
防弾加工された車両内に素早く身を伏せ、反射鏡を使って車外の敵の姿を確かめる。
敵──既に彼らは三人の人物を敵と断定した──は大振りな自動拳銃を両手に構え、微動だにせず六つの銃口を自分たちへと向けていた。
「連中、身を隠すこともなく銃口を向けているだと?」
「随分と舐められたものだな!」
「仲間がやられた以上、放っちゃおけねえぞ!」
既に混乱からは回復し、いつでも反撃できる態勢を整えるKSST隊員たち。
仲間内のリーダー格の隊員は、タイミングを見計らって反撃用意の指示を出す。
この時、隊員の一人がマルチデバイスを用いてKSSTの本部へと連絡、状況の報告と対応そして応援の要請を伝える。
「こちら、第2分隊所属第13小隊。南方面防衛拠点への移動中、市街地エリアS-19区画にて不審者三名を発見。現在その不審者たちからの攻撃を受けている! 至急、行動の指示と念のため応援を願う!」
「本部了解。不審者は極力捕縛し情報を吐かせたいが、難しいようであれば射殺も止むなし。併せて、付近の部隊を直ちに応援に向かわせる。不審者の特徴は?」
「三名とも男性、全員同じ体格。同じ服装……全身を覆う灰色のフード付きロングコートを着用。現在、両手に大型自動拳銃を所持。それ以外の装備に関しては不明。動きに明らかな統制が見受けられ、相当な訓練を受けた者たちと判断します」
「本部了解。西の襲撃者と関連ありと推測。至急、団長にも報告する」
本部との通信が途切れ、通信を担当していた隊員もライフルを構えて外の状況を改めて確認する。
「な……っ!? おい、何だよ、あの動きっ!?」
襲撃者たちは、人間離れした速度でKSSTの車両に迫る。
その移動の際、風圧を受けたせいか彼らが被っていたフードが外れ、それぞれの顔が明らかになった。
髪と瞳は黒。肌の色と顔つきからして、人種はモンゴロイドか。
そこまでは決して珍しい特徴ではないが、KSST隊員たちの目を引いたとある特徴があった。
「三人とも同じ顔っ!?」
「三つ子かっ!?」
彼らの言葉通り、襲撃者たちは同じ顔をしていた。特に表情を浮かべることなく、無表情のまま両手の銃を構えて発砲する。
六つの銃口から放たれた銃声は、一回しか聞こえなかった。つまり、三人は両手に構えた拳銃を全く同じタイミングで撃ち放ったのだ。
「うぎゃあああああああっ!!」
襲撃者たちが放った弾丸は、車両の装甲版を貫きその陰に隠れていた隊員たちに襲いかかり、運の悪い一人が太腿を半ばえぐり取られて悲鳴を上げた。
「拳銃弾だからと言って油断するなっ!! 拳銃用のピアシング弾を使っているぞっ!!」
その後、三人の襲撃者は不気味なほどに統制の取れた動きを見せ、KSST隊員に襲いかかる。
もちろん、KSST隊員も果敢に反撃するが、彼らが放つ銃弾はことごとく襲撃者たちに回避されてしまう。
「な、何なんだよ、あの動きっ!? あ、あいつら本当に人間かっ!?」
襲撃者たちの凶弾によって、次々に倒されていくKSST隊員たち。そして、最後に残った一人が涙を流しながら反撃するも、その体に弾痕が刻まれるまでそれほどの時間は必要としなかった。
◇◇◇
「ほむほむ。この《フギ》って連中、なかなかいい動きをするじゃーん」
三体の《フギ》からリアルタイムで送られてくる各種データをマルチデバイスで受け取りながら、ダミニと呼ばれる女性はにんまりとした笑みを浮かべた。
「これで急増の試作機? じゃあ、完成品の性能はどんだけぇ? って感じだよねぇ」
「え? 何か言った?」
「んにゃ、何でもなーい」
近くにいた同僚の看護師にそう答え、ダミニは一緒に避難している他の者たちへと目を向けた。
ここは通称「カワサキ病院」の地下にある、避難エリア。医師や看護師、そして入院患者などを受け入れるスペースである。
このような避難エリアはカワサキ・シェルターのあちこちにあり、今回のような非常事態が宣言されると住民たちは手近な避難エリアへと駆け込むことになっている。
カワサキ・シェルターはその建築期から今日まで、盗賊などの武装集団から何度も襲撃を受けてきた。そのため、ここの住民たちはこのような緊急事態は何度も経験してきたのだ。
それでも、緊張と恐怖を隠すことは難しい。特に小さな子供たちは、涙を浮かべつつも必死に恐怖を押し殺していた。
「だいじょぶ、だいじょぶ。このシェルターには強ぉい人たちがいっぱいいるからねー。絶対、みんなを護ってくれるよぅ」
ダミニはにぱっと笑いながら近くにいた小さな女の子を抱き締めた。
「ほんとに? ほんとにだいじょーぶ?」
「ほんと、ほんと。ウイリアムのおじちゃんやカツトのおじちゃんはとぉーっても強いからねー。ぜぇぇったい、みんなを護ってくれるって!」
わしゃわしゃと頭を撫でられ、その女の子がようやく笑みを浮かべた。
「なんせ、当初とは計画が変わっちゃったからねぇ。少なくとも、ここへの襲撃はもうないんだなー」
「え? お姉ちゃん、何か言った?」
「んんー? 何でもないって! すぐに怖い人たちはいなくなるからねぇ!」
ダミニは笑顔を浮かべて女の子の頭を撫でながら、次の指令を《フギ》へとこっそり送った。
◇◇◇
KSSTの応援部隊がその場に駆けつけた時、既に戦闘は終了していた。
現座には半壊状態の車両と、その中に転がるKSST隊員の死体。死体はどれも、正確に頭部を四散させていた。
「しっかりとヘッドショットを決めていやがる。こりゃ、相当な凄腕だぞ」
「やられた隊員たちだって、決して弱くはないんだよな」
「俺たちKSST隊員は全員、団長の過酷な訓練を受けているから弱いわけがねえよ」
言葉を交わしながら、隊員たちは現場を確かめていく。
「使われたのはおそらく50口径のピアシング弾。襲撃者は同じ顔をした三人の男……ああ、何だ、この動きは? とてもじゃねえが人間の動きとは思えねえぞ?」
倒された隊員が装備していたカメラに残された映像を確認しつつ困惑した表情を浮かべる。
カメラに残された映像には、同じ顔をした三人の襲撃者たちが、無表情のまま機械のような動きで攻撃をする様子が記録されていた。
「襲撃者たちはどこへ行った? 周囲の監視カメラを照会して足取りを追ってくれ!」
応援部隊の隊長は本部へと連絡を繋げ、状況を説明した後に襲撃者の動きを確認させた。
しばらく待った後、KSST本部から隊長へと連絡が届く。
「襲撃者たちの足取りが掴めた。連中はその現場での戦闘後、そのまま北へと向かったようだ」




