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新たな脅威

「おはようございます、ショウ先輩」

「パイセン、おはよーっす」

 まだ半分寝ているような顔をしたユウジとジェボクが、もそもそと寝袋から這い出してきた。

「すみません、先輩。俺たちだけ、見張りをすることもなく一晩中寝させてもらって」

「俺たちだって、見張りぐらいできったっすよ?」

「気にするな。おまえたちはまだ、シェルター外での野営に慣れていないだろう? それに、俺も見張りはイチカたちに任せて、ほとんど寝ていたからな」

 と、ショウは後輩たちに笑いかけた。

 結局、あれからグラウンドの状況は変化することなく、ショウたちは旧陸上自衛隊横浜駐屯地の格納庫にて一晩を明かすこととなったのだ。

 夜間の見張りを担当したのは、主にイチカたち《ジョカ》三姉妹。彼女たちは睡眠を必要としないし、また、暗視装置(ノクトビジョン)も搭載しているので、夜間の見張りには最適任と言える。

 そのため、野営に不慣れな後輩二人とアイナは一晩中寝てもらい、ショウも夜明け前の僅かな時間の見張りを受け持っただけだった。

 ユウジとジェボクが起き出した時、彼ら以外は既に起きていて何やら作業中。

「パイセン、何しているんすか?」

「ああ、この格納庫に残されていた、断熱材や配線を回収していたのさ。大した量ではないが、これでも収入にはなるからな」

 C-4以外ほとんど何も残されていなかった格納庫だが、断熱材や配線などが残されている。ショウたちは、それらを回収していたのだ。

「できればこの固定されている棚も持って帰りたいところだが……さすがにこれを《ベヒィモス》まで運ぶのは厳しいから諦めたよ」

 格納庫の壁や床にがっちりと固定されている棚などは金属製で、これらは立派な資源である。発掘者であれば当然持ち帰る対象となるわけだが、駐めてある《ベヒィモス》までの距離と棚類の重量を考えて、運び出すのは厳しいとショウは判断した。

「あれ? 今回って依頼発掘だから、この基地で見つけた物は全部依頼主であるカワサキの上層部の物になるんじゃなかったっすか?」

「ああ、ジェボクの言う通りだ。だが、カワサキ上層部からの依頼は『大型兵器の発見』だ。断熱材やらは対象外になる。とはいえ、これらもカワサキに提出する義務はあるから帰ったらそうするが、依頼主の判断によっては俺たちで自由にしていいってことになる可能性もあるんだよ」

「つまり、依頼主次第ってわけですか」

 ユウジの問いに、ショウは笑いながら頷いた。

 カワサキ・シェルターを纏めるのは彼の養父であるウイリアムだ。彼は大雑把なところがあるから、おそらく断熱材や配線などはショウたちの自由にしてもいいと言い出す可能性が高い。

 だが、カワサキはウイリアム一人で運営しているわけではない。彼以外の運営メンバーの判断によっては、断熱材なども提出しろと言われるかもしれない。

 特に経理部主任のザイゼン・ケイゴはその辺りには厳しいので、彼の判断によっては提出する方へと話が流れる可能性が高くなるだろう。

「まあ、たとえ提出しろと言われたとしても、その時は報酬に多少の色はつけてくれるだろう」

「おお! そうなるといいっすね!」

 ケイゴは仕事には厳しいが、融通の利かない人物ではない。そのことをショウもよく知っている。

「さて、それよりも外の様子を確認しよう。今日中にこの基地跡から脱出したいところだしな」


◆◆◆


「それで、グラウンドの方はどうなりましたか?」

 携帯流動食で簡単に朝食を済ませたユウジが、格納庫の入り口の方へと目を向けながらショウに問う。

「昨日から変化ないな。さて、これからどうしたものか……」

 陸上自衛隊横浜駐屯地跡のグラウンド一杯に広がった〈スライム〉の成れの果て。

 昨日ショウたちが〈スライム〉を倒した後、グラウンドの様子を窺っていたのだが一向に変化は現れず、結局一行は格納庫で一晩を明かすことになった。

 発掘を生業にする以上、予定通りにシェルターへと帰還できないことはよくある。そのため、数日分の水と食料を携帯するのは発掘者の常識であり、一夜を格納庫で明かすことは問題ない。

 だが、グラウンドのコンディションは一晩経っても変化は見られず、いまだにぬかるんだまま。もちろん、グラウンドに広がっているのは酸性の液体であり、強行突破も難しい。

「格納庫の屋根から駐屯地内の建物にロープを張って、それを伝って移動するってのはどうっすか?」

「ロープ自体の用意はありますが、グラウンドから建物まで届くほどの長さはありません。それに、ここからどうやって外の建物にロープを固定するのですか?」

 ジェボクの質問に対し、イチカが冷静に答えた。

「うぅん、駄目かぁ……」

「当たり前だ。おまえでも思いつくようなこと、ショウ先輩やイチカさんが思いつかないわけがねーだろ」

「うるせーよ、おまえだって俺と同じレベルのくせに」

「違いますー。ジェボクよりは俺の方が少しは賢いですー」

「そんなことねーわ! ユウジより俺の方がちったぁ賢いっての!」

 仲良くじゃれはじめる後輩たちに苦笑しながら、ショウは改めて格納庫の外へと視線を向けた。

「ねえ、しょーちゃん。これってちょっと変じゃない?」

 ショウの隣に並び、同じようにグラウンドを見ていたアイナが首を傾げた。

「何が変なんだ?」

「もう一晩も経っているのに、〈スライム〉の残骸が【ブルーパウダー】になっていないんだよ?」

「【スライム】などの軟体動物系の【インビジリアン】は、〈ゴブリン〉や〈ウルフ〉などの動物系より【ブルーパウダー】になる速度が遅いって言われているんだ。もちろん、どうしてそうなるのか理由は分かっていないがな。だから──」

「それでもさ?」

 アイナは真剣な表情でショウの言葉を遮った。

「一晩経っても全く【ブルーパウダー】化が見られないなんて……あり得るかな?」

 義姉のその指摘に、ショウははっとした表情を浮かべる。

 確かにアイナの言う通り、グラウンドに広がる〈スライム〉の残骸は、全く【ブルーパウダー】へと変化する様子を見せていない。

「イチカ、どう判断する? おまえのセンサーに何か反応は?」

「センサー類に反応はありません。ですが、アイナ様がおっしゃる通り変と言えば確かに変です。あの【スライム】は通常とは異なる変異体。通常体とは違う【ブルーパウダー】化を見せても不思議ではありませんが……」

 確定するには情報が足りない。イチカは最後にそう付け加えた。

 イチカの体内にも各種センサーは搭載されているが、人間サイズの大きさに詰め込まれたセンサー類は、どうしたって性能が限られてしまう。

 彼女のその真価が発揮されるのは《ベヒィモス》と連動した時だ。

 その《ベヒィモス》と遠く離れている今、イチカの索敵・分析能力は半減していると言っても過言ではない。

 通常の【インビジリアン】でも各種研究が進んでいないのだ。それが変異体ともなれば、イチガが言うように想像を超えるような現象を起こしても不思議ではない。

 だが。

「…………こいつは無理をしてでも、強行突破した方がいいかもしれないな」

 何となく嫌な予感を覚えたショウは、誰に言うでもなくそう呟いた。


◆◆◆


「うわぁ……嫌な臭いがするぅ……」

「ぶつくさ言いうなよ、ジェボク。それよりも足を動かせ」

「わーってるってばよ」

 ぐちゃぐちゃと湿った音を立てる足元。そして、その足元から漂う異音と異臭。

 ショウたち一行は、多少のダメージは覚悟して格納庫からの脱出を試みた。

 彼らが装備するアーミーブーツは、耐弾耐刃、そして耐熱耐摩耗に優れた物──後輩二人のブーツはショウたちの物に比べると性能が劣るが──である。

 そのブーツの上から更に、持ち合わせていたタオルや予備の衣服などを巻き付け、できる限り〈スライム〉の残骸に対する防御を固め、一気にグラウンドを突っ切ることにしたのだ。

 一歩グラウンドに足を踏み入れた途端、じゅわっという嫌な音と共にブーツに巻き付けた布類が酸に耐え切れずぐずぐずと溶け崩れていく。

「おまえたち、急いではいても焦ってあまり泥を蹴り上げるなよ? 酸を帯びた泥が飛び散るぞ」

 先頭を行くフタバが、周囲に鋭い視線を向けつつユウジとジェボクに警告を飛ばす。

 一行が足を動かす度、どうしたって足元の泥を蹴り上げてしまう。その泥には当然〈スライム〉の残骸が含まれており、結果酸性を帯びた泥が周囲に飛び散ってしまうのだ。

 そのため、ショウたちは極力足元の泥を蹴り上げないように注意しながら、慎重にグラウンドを横断していた。

 普通であれば数分もかからない距離を、慎重にゆっくりと進んでいく。

 慎重に進めば泥を蹴り上げることは少なくなるが、そうすると今度は酸を含んだ泥に足元が徐々に侵される。

 ショウやイチカたち姉妹はともかく、まだまだ経験の浅いユウジとジェボク、そして完全に素人であるアイナは、焦った表情を浮かべながらも慎重に足を進めていた。

「うわ、もう足に巻いた衣類がなくなっているよ」

「そりゃ、ただの布だからな」

 ブーツの上から巻き付けた只の衣類など、さほど堤防としての役目を果たすこともなく、グラウンドの中央に至る前に溶け崩れてしまった。

 それでも、僅かながらも堤防として役立ってはくれた。後はブーツが溶けて素足にダメージが届く前に、グラウンドを突っ切るのみだ。

 しかし、嫌な予感というものは大抵当たるもので。

 今もまた、先ほどショウが感じた予感が現実になろうと動き出す。

「ショウ様、足元の泥が僅かながら動いています」

 その異変に真っ先に気づいたのは、やはりイチカだ。彼女に搭載された動体センサーが、足元の泥──いや、〈スライム〉の残骸が僅かに流動していることを感知した。

「〈スライム〉の残骸が動いた……? まさかっ!?」

 とある閃きがショウの脳裏を掠め飛び、彼は反射的にグラウンドの中央へと視線を向けた。

 そこで、「嫌な予感」が現実となる。

 地面の土と混じり合い、泥となっていた〈スライム〉の残骸。それが、グラウンドの中央に集結しつつあったのだ。

 まるで、倒される前の〈スライム〉が、細分化した己の体を再結合させるかのように。

「C-4で爆散させた〈スライム〉の破片のどれかが、『株分け』を引き起こしていたのかっ!?」




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― 新着の感想 ―
敵のスライムが中々にしぶといですね。ショウたちは脱出を試みますが、スライムの復活があるかも!? 誤字・脱字等の報告 一件報告しました。 参考意見です。 特にありませんでした。
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