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同類

 アルマイヤーは次々と繰り出される槍を、クラウンを操りつつ避けた。しかし槍は常にクラウンとアルマイヤーを結ぶ軸を突いてくる。


「中々やるな」


 槍の穂先に注意を払いながら、アルマイヤーはつぶやいた。騎士人形の盾の背後に見え隠れする相手は、体格こそ大人と同じだが、その顔には少年らしさを十分に残している。クエルや東領公女(マーヤ)よりも年下だろう。


 だがその瞳が宿す光は別物だ。冷静にアルマイヤーとクラウンを追い詰めていく。


「そう言うことか……」


 その古参兵さながらの動きに、アルマイヤーはかつての自分と同じものを見た。主人の盾と矛になるべく、幼少から鍛え上げられた存在。アルマイヤーと少年で何が違ったかと言えば、アルマイヤーの仕えた人物が、従者など必要としないほどの、天才人形師だったことだ。


 最速の飛行型人形を繰り、必要があれば自分の手を汚すことすら厭わない。アルマイヤーのことを従者ではなく、人形師の同僚として扱う。彼女の生まれながらの肩書からは、想像も出来ない存在だった。


『こんな茶番に付き合うのはやめにする』


 その人物が自分の元から去った時のセリフに、アルマイヤーは思わず苦笑いを浮かべた。それをアルマイヤーの余裕と捉えたのか、騎士人形の槍がさらに速度を増す。その一方で、背後にいるクエルたちへの射線を切るよう動き続ける。


 いつしかアルマイヤーとクラウンは、投擲の向かない林の中へと追い詰められていた。


『こちらから動くか……』


 アルマイヤーは過去の記憶を心にしまうと、少年の動きに注意を戻した。クラウンで槍の穂先をさばきつつ、自分の体を木立の影、相手から見えない位置に動かす。


『隠れろ――』


 アルマイヤーの指示に、クラウンの姿が周りの景色に同化していく。それを見た少年が、わずかに顔をしかめた。だがすぐに騎士人形に、槍を横手に構えさせる。


 ブン!


 一陣のつむじ風を起こして、騎士人形が槍を横に払った。しかし何も捉えることなく宙を切る。少年はそれを見ると、すぐに背後へ飛び退いた。さらに腰から短剣を抜き、人形と背中合わせに防備を固める。その姿にアルマイヤーは感心した。


『無理をせず、引くことを知っている』


 アルマイヤーは木立の間を抜け、少女の腕に抱かれるクエルを目指した。少年は騎士人形をクエルたちがいる位置へ動かすが、アルマイヤーとクラウンを捉えられない。


『相手が悪かったな……』


 クラウンは人形同士で戦う為ではなく、人知れず邪魔者を排除するように作られている。風に枝が揺れる林の中で、その動きを捉えることなど不可能だ。

 

「エーリク、霧を呼ぶ!」


 不意に少女の声が聞こえた。気づけば、霧が足元を這うように広がり始めている。


『逃がしはしない』


 アルマイヤーは木立の影に身を隠しつつ、クラウンをクエルたちに向けて跳躍させた。


 ドン!


 鈍く低い音が林の中に響く。クラウンの体が、霧の間から伸びた槍によって、串刺しにされた音だ。


「なぜ分かった!?」


 そう口にしてから、アルマイヤーは足元を漂う霧に目を向けた。霧はアルマイヤーの体に沿って流れると、背後で渦を作っている。


『身を隠すためではなく、こちらの動きを読むための霧か!』


 自分の手でクエルにとどめを刺すべく、アルマイヤーが腰につけた投擲用のナイフに手を伸ばした時だ。背後から何者かが近づく気配がした。短剣を構えた少年が、まっすぐにアルマイヤーに向かって飛び込んでくる。


 キーン!


 アルマイヤーの手からナイフがはじけ飛んだ。少年は表情を変えることなく、短剣をアルマイヤーの胸めがけて突き出す。


 バサ――――!


 覚悟を決めたアルマイヤーの耳に、何かが羽ばたく音が聞こえた。次の瞬間、アルマイヤーの体が宙に浮かぶ。巨大なミミズクの人形の(あしゆび)にぶら下がりながら、アルマイヤーは小さくため息をついた。


「殿下に助けられるとは、自分も随分と耄碌したものです」

 

「まだ耄碌するには早い年でしょう?」


 人形の背に乗る人物の言葉に、アルマイヤーは小さく肩をすくめた。


「まだあなたに手を貸すのは無理なの。自分でよじ登って頂戴」


 アルマイヤーはその言葉に素直に頷くと、ミミズクを模した人形、ミネルバの背中にまたがった。ミネルバの首元には、黒い喪服を身に着けた女性、リンダが座っている。


クエルを救いに来たのですか?」


 アルマイヤーの問いかけに、リンダは首を横に振った。


「クエルさんだけじゃないわ。あなたにも、そしてあの子(マーヤ)にも私たち()()は借りがあるの。あの場にいる誰にも死んでほしくなかった。それが理由よ」


「ギュスターブ殿も絡んでいるのですね。私と(クエル)の話に、邪魔の入らなかった理由が分かりました。ですが、私に殿下への貸しなどありましたでしょうか?」


「もちろんよ。あなたは私があの監獄から抜け出すのを手伝ってくれた。それよりも、こうしてミネルバの背に乗るのはいつ以来?」


「殿下が王家を飛び出して以来だと思います」


 そこでミネルバの高度がガクンと落ちる。アルマイヤーが慌ててリンダの背中を支えた時だ。


 ドゥガアアァァ――ン!


 空が白く瞬き、天を揺るがすような轟音が響き渡った。背後を振り返ると、宮廷人形師たちの繰る飛行型の人形が、炎を上げて地面に落ちていく。


「この体では、まだあの男(エンリケ)とは戦えない」


 そうつぶやくと、リンダはミネルバを急降下させた。


「アル、飛ばすわよ。あなたが人形の繰り方を私に教えてくれたときみたいに、背中を支えてもらえるかしら」


「はい、殿下」


 ミネルバは月明かりに照らされた林の木々の上を、縫うように飛びぬけていく。アルマイヤーは、リンダがミネルバを繰る訓練をしていた時と同じように、リンダの体へそっと腕を回した。

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