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23 黒領主の生徒たち

 肌を突き刺す冷たい風も、飛竜の加護を受け、クローディアを迎えに行くと思えば些末なことだ。


「みんな、行ってくる。必ずクローディアを連れて帰る」


 可愛い子どもたちはまだ夢の中にいる。次に会う時はクローディアも一緒だ。

 生徒たちには、今日救出に行くことは話していない。学校にしばらく顔を出していなかったな……。


 ギリム地方に乗り込むのは、俺とココとムムだ。

 メレディスはじめ、エリカ、カーラ、トーマス、マーサが早朝にも関わらず、俺たちを送り出すために集まった。


「ムー」

「ユージーンのことは任せて」

「「行ってらっしゃいませ」」



 俺が飛竜に乗って飛び立つと、2頭の子飛竜に乗ったココとムムが、俺を挟んで左右に並んだ。

 日暮れ前にはギリム領に着く予定だ。直行で、ムムがつき止めた屋敷に突入する。


 子飛竜も、ハイド領に来たころに比べると、ふた回りは成長しただろうか。

 ルーカスやエレノア、生徒たちもだが、子どもの成長は早い。

 クローディアには、母として、校長として、領主として、まだまだやるべきことがあるんだ。



 **********



 ムムが突き止めた屋敷に降り立とうとした時、目の前の空間に闇が広がり、飲み込まれそうになった。


「クローディアーーー!」


 飛竜の急旋回でかわしたが、敵が先制攻撃をしてきやがった。クローディアが間違いなく、ここにいる証拠だ。


「チッ。大歓迎だな。どこにいる?」

「ムー」

「ユージーン! 厩舎にいる男が、闇の空間を使う男だって!」


 クローディアを攫った奴か。早く首謀者を捕まえたいところだが、奴から抑えておいた方が、後々楽になるな……。


「仕方ない、あいつの相手からだな。飛竜、巻き込まれないよう、どこかに隠れていろ」


 ココとムムも、子飛竜を戦闘に巻き込まないよう地表に降り立つ。


「今回の件はね、僕たちも腹に据えかねていたんだよ。クローディアを攫ったバカ者たちにはね、特別、僕たちの本当の姿を見せてあげるよ」

「ムー」


 2匹がまばゆい光を発し、踏ん張らないと、飛ばされそうになるほどの突風が辺りを包む。

 神々しい黄金色と、漆黒の艶やかな毛並みの聖獣が2匹現れていた。

 自分の体よりもはるかに大きい獣の姿に恐れをなしたのか、厩舎の馬たちが悲鳴を上げるように嘶いている。


「僕たちが、闇の空間を塞いであげるよ」

「僕の餌」


 えぐっ! あいつら、闇の空間を食ってる! って、今、ムムもしゃべらなかったか!?


「ふうん。攻撃魔法は、うちの生徒たちよりも弱々だね」

「能力偏り過ぎ」


 出す片っ端から空間を食われた敵は、2匹を倒そうと闇の炎で攻撃しているが、あの程度なら大丈夫だろう。威力がなさ過ぎだ。


 ココとムムに闇空間使いの男を任せ、屋敷の中に入ろうとした――



「おい、クローディアの偽旦那。なにをいきり立っているのか知らんが、クローディアは自分の意思でここにいるんだ。その迷惑行為をとっととやめろ」


 屋敷のバルコニーから、目つきの悪い痩せぎすな男が声をかけてきた。

 偽旦那? いくらクローディアを魅了しているからって、俺の妻の腰に回している手はなんだ!!


 クローディア……。彼女の口の形が、俺の名前を必死に紡いでいる……。


「クソっ。お前の薄汚い手で、俺の妻を汚すなよ! 魅了しなきゃ女にも近づけない腰抜けが!」


 闇空間を操る男以外の使用人は、隠れているだけで、一切攻撃をしてこない。

 俺が相手にするのは、クローディアと一緒にいた魅了男だけか……。



 ――その時――


「ムム!」

「ムー」


 ココの叫びが聞こえてきた。ムムの姿がネズミに戻っている……。

 何者かが隠れて攻撃してきているのか? まだ、存在を確認できていない3人目の能力か?

 クローディアが何かを伝えたそうにしているが、声を出せないようだ。


「敵はどいつだ? どこにいる!」

「ははははっ。無力になったら、お前たちをたっぷりなぶってやるよ」


 今度はココが、元の姿に戻ってしまった。次は俺か……。早く敵を見つけて倒さないと……。




「ユージーン様ー」

「クローディア様ー」

「ココ先生ー、ムム先生ー」


「は? お前たち! どうしてここまで来たんだ」


 上空を見上げると、残してきた飛竜が篭を持ち、その中に生徒たちがぎゅうぎゅう詰めになっていた――


「俺たちだって、クローディア様を助けたいです!」

「微力ながらお手伝いさせてください!」


 ガキのくせに無茶してきやがって。飛竜を操っているということは、誰か協力者がいるな?

 来てしまったものは仕方がない。全員無事で帰るだけだ。


「敵は3人! まだ隠れている奴が1人いる。そいつを探せ!」

「「「はーい!」」」



 **********



 ユージーンに、ココとムム、生徒たちまで助けにきてくれた……。


「光属性の奴等がこんなに来たのか……」


 モーガンは、目の前の光景が信じられないようだ。

 闇属性の私を、光属性の生徒たちが助けに来たことに、驚きを隠せていない。


 でも、ムムに続いてココが元の姿に戻ってしまった。

 ファントムは一体だけじゃないみたいだ。何体も出てきて、生徒たちを襲いはじめている。


「みんな気をつけて! いつの間にか魔力を奪われてしまうよ!」

「このー! 姿をみせろー!」


 生徒が1人、また1人と、魔力を封じられて行く。


「落ち着いて周りを見ろ! 必ず痕跡はある!」


 そうよ、ユージーン! みんなお願い、影を見て! ああ、影のことをどうやって伝えたらいい……。


 教えようとすると言葉が出なくなる。適当で関係ない言葉ならいくらでも出せるのに。


「早く全員の力を押さえてくれよ、スーミ」


 もう1人の敵はスーミと言うのか。どこにいるんだろう?

 残っているのは、ユージーンと生徒が数名のみ……。このままでは、全員魔力を封じられてしまう。


 私が話せる言葉で、影に取りついたファントムを知らせる方法は……。

 対義語なら、影と言わずに、みんなが当ててくれるかもしれない……。


 あとは、私が味方に情報を伝えるためではなく、単純に単語を発していると、自分の頭と精神に叩き込めば……。


 集中しよう。これから私が発する言葉は、ただの単語の羅列だ。


 ――対義語、光と影――  ――対義語、光と影――

 ――対義語、光と影――  ――対義語、光と影――


「対義語! 光と――グゥッ――」

「このっ! 余計な真似を!」

「きゃあっ!」


 やはり影という単語はしゃべれず、モーガンに殴られ壁に激突した。頬に鈍い痛みを感じたが、これくらいどうってことはない。

 私からのヒントで、生徒たちが考えはじめた。


「対義語だよね。クローディア様が伝えたかったのはなんだ……?」

「光と……、光と闇?」

「闇は僕たちが食べ尽くしたよ」

「なら、ええと……光と影?」

「影か。そう、影だ! みんな影をみろ!」


 気づいてくれた。ファントム程度なら、あの子たちの敵にならないはず。これなら行ける。


「いた!」

「影が動いてる!」

「捕まえろ!」


 魔力を封じられていた生徒も、次々とファントムを倒し、魔力の存在を認識できるようになっていく。


「あの木の影に本体がいるよ!」


 ココとムムが走り出した。


「ココ先生とムム先生に加勢しよう」


「お前たち、そっちは任せたぞ! あの三白眼……、クローディアを殴りやがって……。許さん!」


 ユージーン、私は大丈夫だから……。


『偉大なる太陽神――我が背に自由、手には誇りを授け、敵を撃ち取る力を与えよ――』


 ユージーンが詠唱している姿を初めて見た。


 ユージーンの背中に光り輝く翼が生え、手には彼の背丈をゆうに越す光の槍が握られていた。

 2枚の翼で羽ばたき宙に浮いたユージーンが、沈む太陽の光を背にして銀朱色に輝いている。

 神々しい……。本物の天使みたいだ……。


「迎えに来たよ、クローディア」


 そう言ってユージーンは、私に手を伸ばした――

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