24 エピローグ
私も手を伸ばそうとしたが、腕が強張り、動かすことができなかった。
私を屋敷に入れようとするモーガンを、ユージーンが光の槍で押しやり私を片腕で拾い上げ、輝く翼で再び宙へと舞った。
空から地上の戦況を確認すると、なんと、ジェイクの放った光の矢がファントム使いのスーミを木に磔にし、闇の空間をココとムムに食べつくされ魔力が切れたバートは、ロザンヌの薔薇の蔦に巻かれ地面に転がされていた。
その周りを生徒たちが睨みを効かせ、取り囲んでいる。
ユージーンはそっと私を地面に降ろし、ココとムムに私を預けた。
「さあ、あとはお前だけだな」
「私が魅了魔法しか使えないとでも思っているのか? クローディアほどではないが、私の闇魔法もなかなかだと自負しているが?」
モーガンはデュラハンとリッチを召喚し、バルコニーから飛び降りながら腰に差した剣を抜いた。
「多勢に無勢って言葉を知らないようだな。ボコボコにしてやる」
「お前こそ、万夫不当を知らぬ阿呆だな。まとめて相手してやる」
私も戦わないと。――そう思ってウズウズしていると、ココとムムがその柔らかい毛で包み込んでくれた。
「クローディア、僕たちが魅了を解いてあげるからね」
「ムー」
再び聖獣になった彼らが、聖なる力を私に送り込んでくれる。不思議な感覚だ。私の頭の中にかかっていた深い靄がスウッと晴れてゆく。
「ココ、ムム、ありがとう。ユージーン、みんな……」
「クローディア先生が普通にしゃべった! 動いた!」
「もう、クローディアにかけられていた魅了は解けたんだよー」
戦い始めていたユージーンたちの方を確認する。すでに生徒たちも戦闘に混ざっていた。大事なお子さんたちに怪我をさせてなるものか。
「あなたたちはこの、スーミとバート――動けない敵を見張っていて。ココとムムは分かれて、デュラハンとリッチをお願い」
「はーい」
「ムー」
剣を構えたフィンと、アメリのヘルハウンドがリッチに向き合い、一進一退の攻防戦の様相を呈している。
ユージーンはモーガンとサシでの討ち合い繰り広げ、縦横無尽に駆け回るデュラハンを、他の生徒たちが逃げ回りながら魔法を放って攻撃していた。
私の旦那様とかわいい生徒たち……。
私を助けるため、みんなが戦ってくれている……。そう思うと、私の中でなにかが弾けた。母の血が疼く……。母の過激な性格も、守りたい者を想うからゆえだったのだろう……。
「モーガン! もう、闇属性の人々を心配しなくていい。私が貴方の分もやっていくから! 帝国の再興は諦めてもらうわよ!」
私は怖がられようがなんだろうが、容赦なく異形の者と闇の手を呼び出した。見ただけで背筋が冷えるようなモノたちが、デュラハンとリッチをガッチリ絡めとり離さない。
異形対アンデッドの絡み合いだ。夜眠れない生徒も出てしまうだろう……。
動きを止めたデュラハンとリッチに、全員一気でトドメを刺していく。
一方で、上空から滑空して来たユージーンの槍が、モーガンをひと突きにしていた。
――戦いに、決着がついたのだ――
「私の先祖も、こうしてウィンドラの闇の手に捕らわれたのか……」
急所を外され命を助けられたモーガンが、私の出した闇の手に捕まりながら、呆然として呟いた。
「良かったじゃない。命はあって。これからも、ギリムの人々や闇属性の人々の生活を見続けられる可能性があるじゃない。また反旗を翻した時は、何度でも捕まえてあげる」
「ははっ。それは僥倖だ……」
王国転覆を目論んだ、モーガン、バート、スーミの3人は王国騎士団へと引き渡された。
私が助けに来てくれたみんなにお礼を言っていると、ユージーンが生徒たちにからかわれていた。
「ユージーン先生、マジ天使でしたねー」
「すっげー、似合ってましたよー。血生臭い堕天使感、半端なかったですけど」
「そう? 私は素敵だと思ったわよ?」
「ハア……。だから、あれを使いたくないんだよ……。お前たちにも教えようか?」
「俺は……まだ、いいっす……」
「彼女が喜ぶなら考えてみようかな……」
昔、友人のケネスさんに大笑いされて以来、トラウマになってずっと秘密にしていた力だそう。ユージーンの中身をよく知る人ほど、その姿に大笑いするらしい。
女子生徒の評判は良かったが、ユージーンや男子生徒からすると、少し恥ずかしいとのこと。
私は……。旦那様は宗教画の天使どころか、本物の天使だったんだなと思い、惚れ直していた……。
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――月日は流れ、クローディア誘拐事件から5年が経とうとしていた――
クローディアとユージーンの子、双子のルーカスとエレノアは7歳となった。
ますます両親に似てきた2人は、すでに学校の生徒に混ざり、幼いながらもその才能をいかんなく発揮している。
モーガンの商会を当てにし、ギリムの街に集まっていた人々は、ロシスター領の騎士学校に行く者もあれば、ハイド伯爵領の魔法学校に行く者もいた。
もちろん、そのままギリムの街に定着した者もいた。
当時未成年だったスーミは、あの後ハイド魔法学校に入学した。モーガンが身寄りのないスーミの才能に気づき、彼を利用していただけで、スーミが罪に問われることはなかった。
モーガンとバートは鉱山に送られ労役し、罪を償っている。
フィンは魔法学校卒業後、ロシスター騎士学校に進学し、剣の腕を磨いている。コンラッドの息子チャールズが入学する頃には、騎士学校の指導者になっている予定だ。
アメリはハイド伯爵領家令のメレディスに付き、領地経営を覚えながら、学校経営にも携わるようになっていた。
卒業生の中から、両家を支えるいい人材が生まれている。メレディスも、少しだけ肩の荷が下りたようだ。
――そして今日は豊穣祭――
クローディアとユージーンが出逢い、初めて踊ったあの豊穣祭からもう9年、クローディアは25歳、ユージーンは27歳となっていた。
「クローディア。侯爵家へのしょう爵おめでとう」
「ありがとう、ユージーン。国へ魔法使いを派遣できるようになるなんて……。みんなのお陰だわ……」
ハイド伯爵領魔法学校は、希少で優秀な光と闇の魔法使いを多数輩出していた。
ハイド領で学んだ者たちは、王国国立学園の魔法科の卒業生と共に王国魔法師団に入団し、王国を支える存在となりつつあった。
クローディアたっての希望で、ハイド伯爵の誘拐事件は公にならなかったが、国王よりギリム帝国の末裔による国家転覆の謀を阻止したことと、魔法師団へ希少な人材を輩出していることの貢献を理由に、ハイド伯爵家は侯爵家へとしょう爵することが決まった。
「クローディアが、栄誉あることをやってきたからだ」
「全部、貴方が私を救い上げてくれたからできたことよ……」
クローディアは思っていた。
ユージーンと出逢わなければ、叔父に殺されていたかもしれないし、ずっと元家令に搾取されていたかもしれない。
領民に『黒領主』と遠巻きにされ続け協力を得られることもなかったし、母を知ることもなかった。
結婚して子どもに恵まれることも、学校を創立することもなかった。
伯爵家を侯爵家にあげることなんて、絶対にできていなかったと。
ユージーンもまた思っていた。
あの日、クローディアと出逢い、彼女の父クライヴに婚約を申し込んでいなかったら、侯爵家の三男としてどこかの令嬢のところに婿に入れられ、きっとつまらない人生を送っていた。
クローディア以上、自分の心を動かすものはない。
何年経っても胸を焦がすような想いや、包み込まれるような穏やかな愛情を得られることはなかったと。
彼はただ、クローディアを好きになり、一途な愛情を彼女に注いだだけだった。
「俺の人生は最高に幸せだ。クローディアと出逢ってからずっと……」
「私だって同じ気持ちよ。ユージーンがいてくれるようになってから、ずっと幸せ……」
「あっ、またクローディア先生とユージーン先生がいちゃついてるー」
「羨ましいか? 早く、俺くらいいい男になって、クローディアくらいいい女を捕まえてみろ!」
そして、2人は一度だけ見せつけるように踊ると、どこかに消えていた。
「お父様ったら、お母様を他の人と踊らせたくないのよ」
「困った人だね。仕様がない、僕たちがみんなと踊ろう」
『黒領主』ハイド侯爵クローディア・ハイドと、その夫ユージーン・ハイドの仲睦まじさは、イスティリア王国各地で活躍する卒業生たちから広まり、王国で有名な『月と太陽』のお伽噺になぞられ語られる。
『月の女神の化身ハイド侯爵様は、太陽神の化身である光の翼を持つ天使に見初められて、たいそう愛され大事にされ、生涯仲睦まじく幸せに暮らしたそうな』
お伽噺と違うのは、太陽神の化身ユージーンが、月の女神の化身クローディアを手に入れた後、他の者に奪われたりせず、ずっと2人一緒に居られたこと――
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ブクマ、評価をくださった方、感謝申し上げます。
2作同時進行で辛い時もありましたが、お陰様で最後まで辿り着けました。
もう1つの「巻き込まれ雑貨屋~」の方が好評で、日間ランキング14位にも入ることができました。
もしよろしければ、作風はガラッと変わり、ほのぼのとなりますが、読んでくださると嬉しいです。
みなさま、最後まで本当にありがとうございました。




