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22 静かに怒れるユージーン

「「ユージーン様!!」」


 珍しくフィンとアメリが大声を張り上げ、光属性の生徒たちの訓練場所までやって来た。


「どうした?」

「クローディア様が拐われました!!」


 目の前が真っ暗になったが、一瞬だった。クローディアを攫ったのはどこのどいつだ。血が上った頭を冷やし、状況把握に努める。


 ざわつく生徒たちを静め、フィンとアメリの話を聞いた。


 3人が闇魔法の戦闘訓練中、何者かの手が闇の空間から現れ、クローディアに近づき、気を失ったように見えたクローディアを闇の中に引きずり込んで行った――


 相手は闇属性の人間1人か? いや最低でも2人いるな。闇の空間を開いている者と、クローディアの魔法を止め意識を奪った者だ。


 マーサに頼んでエリカを呼び出し、生徒たちの授業をエリカに任せた。いつもなら、エリカの授業に不満をもらしていただろう生徒たちも、ことの重大さを感じてか大人しく従った。


 マーサもエリカも顔を蒼白にしていたが、あいつらは強い女性だ。気丈に振る舞って、生徒たちを安心させてくれるだろう。


 俺は伯爵邸に向かった。情報を漏らさない信頼できる人間に協力を仰がなくては――



「ココ! ムム! クローディアが拐われた。空いている飛竜をウィンドラ公国から呼んでくれ」


 呑気に庭園で日向ぼっこをしていた2匹に指示を出す。あいつら……、伊達に聖獣の子ではないよな。すぐに治めたが、一瞬だけ2匹から聖なる気が轟々と溢れ出していた。


 父オリバーに、ロシスター騎士団の派遣を要請し、次兄ブルーノに王都騎士団に似たような事件の情報が入っていないかを照会し、悪友のケネスには、各領の情報を集めてくれるよう頼んだ。


 自分自身で領民に心配をかけないよう気遣いながら、ハイド伯爵領内を探し回り、ウィンドラ公国から飛竜が到着してからは、飛竜に乗って国内各地を飛び回ったが、普通の誘拐とは違って、なんの痕跡も見つからなかった。

 闇の空間という、雲を掴むような手がかりから追うしかないのか……。



「メレディス、ハイド領と学校のことは引き続き任せた。俺はクローディアの捜索に専念する」

「ユージーン様、少しはお休みください!」

「エリカ、マーサ。生徒たちを頼んだぞ。カーラ、ルーカスとエレノアに何事もないよう、ロシスターの騎士が到着したら守らせよう話してくれ」


 戻れる日にはハイド領に戻り、全体の状況を確認した。クローディアが見つかれば別の飛竜でココかムムが俺を呼びに来る。


 だが、クローディアの消息は一向に掴めなかった……。



 **********



 クローディアが拐われてから1週間が過ぎ、ケネスの所に配置していた飛竜が、手紙を持って戻って来た。


 “最近、ギリム地方に、闇属性の者が多く集まっているらしい”


 闇の空間を操るのは闇属性の者だ。クローディアを攫った奴が潜伏している可能性は充分ある。例えそいつがいなくても、同じ属性の者同士繋がっていて、情報を得られるかもしれない。


 クローディアを連れ去ったんだ。そいつが見つかれば話し合いをする気など毛頭ない。

 俺はギリムに乗り込むため、準備を始めた。


「待て! ユージーン! お前はハイド伯爵の夫だ! 他領に勝手に飛竜で乗り込んでは、ハイド伯爵クローディアの責任問題になるぞ!」

「ウォルト兄上……」


 長兄が自ら応援に駆けつけてくれていた。ウォルト兄の言うとおりだ。ギリムを治めるのは……。ん? あそこは王国の直轄地か……。


 ウィンドラ公国の現公コンラッド殿に協力を仰ぐか。すでに、お借りしている飛竜の件で、こちらでなにか問題が起きていると思われているだろう。

 クリフトン様には心労をかけてしまうが、やむを得まい。クローディアのことを正直に伝えよう。


 俺は、王都の騎士団にいる次兄のブルーノ経由で、国王に謁見を申し出た。


「ムム、クローディアがいるのはギリムで間違いないか、目立たぬよう子飛竜で確認して来てくれないか? 王都で用件が済んだらすぐにでも動きたい。できる限り情報を集めて来てくれ」

「ムー」


 単身では人間と言葉を交わせないが、最高に強くて安心でき、かつ、小さくて目立たないムムに偵察を頼んだ。

 2匹がクローディアについて来た時は面倒だと思ったが、教師になったり、諜報になったり、予想以上に助けられたな。




 国王への謁見の許可が下り王城に行くと、謁見の間ではなく国王の執務室に通され、俺は面食らっていた――


「前口上はいらん。オリバーの息子ユージーンだな。そなたの妻、クライヴの娘であるハイド伯爵クローディアが拐われたのか?」

「はい。闇魔法を使うものに拐かされました。目撃者もおります」


 王は父たちのことを知っているのも分かるが、口振りがずいぶん親しげだ。今まで父に連れられ挨拶していた時には感じなかったが……。


「それで目星をつけた、ギリム地方を調査する許可がほしいと?」

「はい。近年、闇属性の者がギリムに集まっていると情報を得ました」


 ここではね除けられたら、王国に背いてでもギリムに乗り込んでやる。


「実はな、今朝方、友好国ウィンドラ公国のコンラッド殿より書状が届いてな。ほら、見てみるがよい」

「失礼いたします」


 王から書状を受け取り、ザッと目を通す。――コンラッド殿……。感謝する……。


 内容は、クローディアは本来なら公国の公となる存在で、今回の件は公国としても遺憾であり、王国の最大限の協力を求む。というものだった。


「それとな……。オリバー先輩からも圧力がかかってきたよ。『息子に協力しなければ、学生時代のお前の悪行を王妃にばらすぞ』っとな……」

「学生時代、王と父に関係があったとは初耳です」


 眉を下げて困ったように語る王の姿に、いつも威厳をもって王座に座っている姿が重ならなくなってしまったな。


「こちらとしても、断るわけにはいかんということだ。クライヴ先輩にも申し訳がたたんしな」

「疑問に思っていたことがありました。クローディアが成人する2ヶ月前に、特例でハイド伯爵領を相続したことです。もしや、王の計らいでしたか?」


 王の目はそのまま俺を見据えていたが、髭を携えた口元が弧を描いていた。


「ユージーン。好きに動いて構わん。ただ、ほどほどにしてくれよ?」

「ありがとうございます!」




 国王のお墨付きを得た。ハイド領に戻ってギリム地方に乗り込む準備をせねば。

馬車なら2日かかる王都へも、飛竜なら3時間でハイド領まで帰れる。休憩などはせず、俺はハイドまで戻った。


「ムムは戻って来たか?」

「まだだよ。でも、気配が近づいているから、もう少しで帰って来るはずだよ」


 一時でも時間が惜しい。だが、ムムの持ち帰る情報が鍵になる。はやる気持ちを押さえて準備に専念し、ムムの帰りを待っていると、いつもの間の抜けた鳴き声が聞こえた。


「ムー」


 こいつの姿を見られることがこんなにも待ち遠しく感じ、愛おしくてかわいいと思ったのは多分初めてだな。


「ムム情報を教えてくれ!!」

「ムー」


 ココの通訳を挟みながら情報を聞いていった。


「クローディアはギリムに間違いなくいるって。実際にムムが姿を見たらしいよ」

「クローディアは無事なのか? 元気そうだったか?」

「ムー」


 痩せぎすで人相の悪い黒髪黒目の男と、ギリムの街を2人で歩いていただと!?


「ムー!」

「悋気を起こすなって。クローディアは魅了にかかっているみたいだよ。まずは落ち着いて話を聞いて」


 そうだよな。クローディアが俺を裏切るわけがない。俺が人相の悪い男になんか負けるわけがない!


「街の闇属性の人々は、魔法を使えるほど魔力が高まっていないみたい。強い魔力を持つのは、その痩せ男と、ガタイのいい男と、もう1人いるみたい」

「犯人はその3人ってことか?」


 街の人々を敵にしなくていいのは朗報だ。犯人3人を、思いっきり滅多打ちにしてやる。


「ムー」

「痩せ男と、ガタイのいい男は一緒にいたから間違いないって。でも油断は禁物だよ。魅了も闇の空間も厄介だし、残りの1人も敵なら、相手の能力が分かっていないんだから」

「ああ。肝に銘じておく」




 明日はクローディアを奪還する決戦の日になる。俺は双子の所へ向かった。


「カーラ、少しだけ3人にしてくれ」

「はい」


 なにが起きているのか分からないまま、スヤスヤと互いの手を握りあって眠る我が子に、そっと声をかける。


「ルーカス、エレノア。明日、お母さんを必ず助けて戻ってくるからな。絶対、これからも4人で一緒に暮らすんだ――」


 クライヴ様、レイラ様。クローディアを取り戻し、家族みんなで幸せに生きてみせます――



 クローディアが拐われてから10日が過ぎていた。疲れが溜まっていたのだろうか……。

 俺は双子の顔を見ながら、いつの間にか一緒に眠っていた――

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