↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/24

18 鬼教官エリカ

「なにをしている?」

「やばっ。黒領主とその旦那だ!」


 私とユージーンが、3人の所にたどり着いた。


「お前たちは、自分が入学する学校の創立者と、その配偶者の名前も知らないのか?」

「いえ、ハイド伯爵のクローディア様と、その夫であるユージーン様です……」

「知っているなら最初からそう呼べ。次はない」


 ユージーンが男子生徒の相手をしているうちに、私は怯える女子生徒の元へ行き、できる限り穏やかに声をかけた。


「貴女、大丈夫? 名前はなんていうのかしら?」

「はい……大丈夫です、領主様。私はアメリと申します」

「これからよろしくね、アメリ」


 こちらに来て早々、アメリに辛い思いをさせてしまった。今までだって、闇属性だと差別されてきただろうに……。

 男子生徒へのお小言はそのままユージーンに任せ、私はアメリを女子寮へ案内した。


 まずは、寮母マーサのところへ向かう。


「マーサ。早速、男子生徒がいざこざを起こしたのよ……」

「あらまぁ。この年頃の男の子は、カッコイイをはき違えていて、とってもバカですからねぇ」

「「……」」


 私もアメリも、肝っ玉感満載で男子生徒を『バカ』呼ばわりするマーサに、完全に圧倒されてしまった。

 彼女のお子さんたちは王都で所帯を持ち、旦那さんも他界しており、マーサはハイド領で一人暮らしをしていた。

 5人の男の子を育て上げた、本当の肝っ玉母さんだ。


 母親としても尊敬できる人が『一人より、賑やかな暮らしがいいですから』と、住み込みの寮母を快く引き受けてくれた。


 向かって左側が男子寮で右手が女子寮。女子寮の1階には食堂とマーサの部屋がある。

 1期生として、男子生徒18名、女子生徒4名。うち、闇属性の生徒男女各一名が入学し、この領で生活する。


 取りあえず今日は治めたが、しばらくは闇属性の生徒たちのことを気にかけておかないと……。



 **********



 それから2日が経ち、開校式と入学式の日――


 私を含めた闇属性の3人に、子どもたちの視線が集まっていた。

 黒髪黒目は色鮮やかな他属性の中で、余計目立ってしまう。


 滞りなく式を終わらせ、一昨日のことを受け、私とユージーンが急きょ計画したことを実行に移した。

 夫婦による光と闇の戦いを、デモンストレーションするのだ。


 お互いを信頼しているからこそ、全力で打ち合える。生徒たちを訓練場に移動させ、私とユージーンが睨み合った。


「みんな、よく見ておいて。あなた方が学んでいくのは、とても素晴らしい力なのよ」

「これから身につけてゆく力に誇りを持て! そして、それを得る機会を与えてくれたハイド伯爵に感謝しろ!」


 ユージーンったら……。


 この学校に学費はない。指導者や職員の人件費は、マーサの分しかかからないから、領の負担で遣り繰りできる。

 生活費として食事代程度は徴収するが、家で暮らしていた時とさほど変わりはないはず。

 優秀な者への、負担金免除制度もすでに制定済みだ。


 だからって『感謝しろ』は、言い過ぎね……。困った旦那様……。



 口上を述べ、最初にユージーンが、私に光の剣で連撃を加えてきた。

 私が彼の光の剣を無詠唱で出した闇の空間に吸収させ、続けて私が放った闇の手をユージーンが身軽に躱して行く。

 できる限り禍々しくない闇魔法を選んでいるが、あまり怖がられないと嬉しい……。


「うおおおおっ」

「すげえ!!」

「カッコイイわぁ!」


 初めて見る光と闇魔法に生徒たちも驚きを隠せないようで、みんな嬉々とした表情をしている。

 ユージーンと魔法を打ち合いながら、生徒の様子を確認していたが、明らかに様子の違う子どもが3名いた。


 光属性の男子生徒で、最初に闇属性のアメリを馬鹿にしたジェイクという子と、あとの2人は闇属性の女子生徒アメリと男子生徒フィンだ。


 光属性のジェイクは、単純に私の闇魔法を忌むように見ていると感じたし、アメリは本気の打ち合いに怯えているだけ。

 だが、闇属性の男子生徒フィンだけは、なにを考えているのか読めなかった。


 他の子どもたちは純粋に、自分たちがこれから得ていく力を目の当たりにし、期待で胸が膨らんだらしい。



 デモンストレーションの効果もあってか、しばらくは何事もなく授業を進めることができた。


 表立って大きな騒ぎになっていなかったが、光属性と闇属性が合同で行う体力増強の授業と、寮生活の中で、生徒たちの関係性が心配になる報告が入ってきた。


 男子寮は、伯爵家の次男ジェイクが仕切り、フィンをからかったり、除け者にしたりしている。フィンはジェイクを相手にしていないようだが……。

 女子寮は、侯爵家のご令嬢ロザンヌが、他の女子を従えはじめた。大袈裟な嫌がらせはないようだが、いつも一人で過ごしているアメリをマーサが気にしていた。

 エリカが受け持つ体力増強の授業中も、同じような雰囲気らしい。


 私には学生経験がないので分からないが、ユージーンが留学していた時も、大なり小なり派閥ができたりしたらしい。

 一人で過ごすことを好む者もいるから、大事にならない限り、生徒の人間関係に大人が介入するのは止めた方がいいと言われた。


 日増しに沈んでいくアメリの表情……。私とフィンと、3人で闇魔法の訓練をする時は、時折笑顔を見せてくれるけど……。

 飄々と躱せるフィンより、アメリの方が心配だった……。



 **********



 エリカの大きな声が、書類作業をしていた私のいる教室まで聞こえてきた。今は、エリカが担当している体力増強の授業中だ。

 教室の窓から訓練場を眺めると、騎士の訓練服を着て、仁王立ちで生徒たち熱血指導するエリカがいた。


「男子は街外れの風車まで、女子は街中の噴水広場まで走り込みをする。領民が目を光らせているぞ! サボろうとは思うな!」


「「ええー」」


 生徒たちから不満の声が漏れる。


「誰だ? 今、文句を言ったやつは? 特別に訓練内容を追加してやるぞ?」

「……」


 エリカが担当する、体力増強を目的とする授業は、鬼教官が厳しいと、生徒たちから恐れられるようになっていた。


「そら! よーい、スタートぉぉぉ!」


 今日、生徒たちは街の方へ走り込みをさせられていた。

 小一時間ほどして、生徒の声が聞こえ始める。どうやら、足の早い者から続々と訓練場に戻って来たらしい。

 私は片付けていた書類作業の手を止め、再び窓の外に目をやった。


 ヘロヘロになりながらも、みんな無事に戻ってきた。領民も学校の生徒たちを温かく? 見守ってくれている。サボれた者はいないはず。

 大分遅れて、最後に足を引きずりながら、アメリが戻ってきた。


「よし、いい時間だな。それぞれゆっくり昼飯にしろ!」

「「はい」」


 青白い顔をした者から、グッタリとした者まで、昼休みと聞いて息を吹き替えした。


「あーあ、これじゃあ、昼飯が胃に入りそうも無いや」

「俺はいつもどおり食えそうだな」


 次々と生徒が食堂に向かう中、エリカがアメリを呼び止めた。


「待て、お前は終礼の鐘がなるまで居残りだ。」

「えっ?」

「私は走ってこいと言ったんだ。歩いた分、居残りで体力を増やさねばならないな」


 残っていた生徒の視線が、エリカとアメリに向かう。


「……」

「お前のような女がいるから、女は貧弱だと思われるんだ。特に、ここにいる女どもは貧弱過ぎて話にならん」


 大人しいアメリは、なにも言えない。周りの女子生徒の空気が凍りついている。



「エリカ先生! アメリは足を怪我しています!」

「なんだ、ロザンヌ。私の指導方法に文句でもあるのか? 魔物と戦う時、怪我をしているからって、相手が攻撃を止めてくれるとでも思っているのか?」

「くっ」


 女子生徒を従えるロザンヌとエリカの間に、見えない火花が散っている。


「私に指図するなど100年早い! もっと出る所が出てから物申せ!」

「ぐぬぬ」


 ――キンコンカンコン――


「チッ、終礼か。今日は特別に勘弁してやるが、次はないからな。さっさと飯を食いに行け!」


 スタスタとエリカはメイドに戻るため、伯爵邸の方に向かった。


「ねえ……。あんた大丈夫?」

「うん……。ありがとう……」

「ふん。余りにもエリカ先生が理不尽で、見ていられなかっただけよ」


 ツンツンしながらも、ロザンヌはアメリの足をチラチラ見ている。


「足、大丈夫?」

「マメがつぶれちゃったみたい……」

「仕方ないわね。あんたたち! アメリをマーサさんの所に抱えて連れていくわよ!」


 ロザンヌは、取り巻きの女子生徒たちにそう言って指示を出した。


「ほら、みんなで抱えて運んであげるから」

「うっ……。ありがとう……」

「鬱陶しいから、泣かないでちょうだい」

「うん」






 ――時は少しだけさかのぼる――


「エリカはそれでいいの?」

「はい。誰になんと思われようが構いません。クローディア様のお役に立てられるならば、それでいいのです。念のため、アメリには最初に話をしておきます」



 エリカはアメリにこう言ったらしい。


「これからお前に厳しく当たる。私を信じて我慢してついてきてほしい。それに、お前は本当に体力をつけなくてはならないからな。次第に慣れてくるはずだ。少しの間、歯を食い縛ってやってみろ」


 アメリは黙って頷き了承した。



 女子生徒たちと馴染めないアメリを心配したエリカは、わざと自分が悪役になり女子全員の敵となって、彼女たちを団結させようとしたのだ。

 仕切り屋のロザンヌが、必ず行動に出るだろうと――


 共通の敵をつくるため、敢えて自分が泥をかぶったエリカ……。忠義のメイド騎士だわ。






「最近、本来の自分を出せるので、毎日が楽しいんですよ」


 エリカが庭師のトーマスにそう言っていたと聞いたのは、しばらく経ってからだった。

大変お待たせいたしました。

「巻き込まれ雑貨屋~」からこちらに戻って来ました。

おかげさまで、日間の異世界転生恋愛ランキングに入ることができました。

どうぞ、そちらもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。