17 ハイド伯爵領魔法学校の創立
第3章を開始しました。
望んでくれた方がいたので頑張れました。
どうぞよろしくお願いいたします。
ハイド伯爵領は今、夏空に入道雲が浮かぶ季節。各地で作物が実をつけ、無事に収穫時期を迎えることを、領一丸となって今か今かと待っている。
ユージーンと結婚して2年半が過ぎ、彼と初めて踊った豊穣祭から間もなく3年になろうとしていた。
可愛い息子と娘の離乳時期を検討し始めたころ。私は家令のメレディスと夫と3人で、協議の場を設けることにした。
「クローディア様、そろそろお考えを実行に移す頃合いでしょうか?」
「ここまでの準備をありがとう、メレディス。ロシスター侯爵領のように、長きに渡って王国に貢献できるものにしたいわ」
私は子育て中に考えていたことがあった。
光属性と闇属性の人間は稀有過ぎて、指導を受ける機会に恵まれない者が多く、その才能を埋もれさせてしまっている。
私も母から指導してもらって、やっと闇魔法を会得することができたのだ。
『ハイド伯爵領魔法学校の創立』
これが私の決めたことだった。
領地の経営で貯めてきた資金と、元家令のヘイデンが投資していた500万イェンが10倍以上になって返ってきたものを元手にし、校舎と寮の建設を進めていた。
校舎と寮は、伯爵邸の庭園から繋がっている広大な森を1部切り開き、その地にそこから出た木材を利用して建てている。
先生となり指導するのは、光魔法がユージーンで闇魔法が私。
ココとムムが全属性の知識を持っているから、サポート講師をしてくれるし、基礎体力作りは武闘派のエリカが担当する。あ、鬼教官が誕生するかもしれない……。
私には荷が重いかもしれないが、他の教師陣は一流で誇れる。いや、弱音を吐いてはいられない。
母から受け継いだものを、私が次に繋げていかねばならないのだから――
「ただでさえ仕事を押しつけているのに、学校運営までさせてしまうことになって申し訳ないわ」
「お気になさらず。学校の創立に携われるなど、経験したくてもできないことです。騎士をしていた時よりも多くのことができ、ここには私の天職があったのですよ」
メレディスはロシスター領に帰らず、ずっとハイド領をまわしてくれていた。
私は沢山のいい人材に恵まれていると感じる。こうしてみんながいてくれたお陰で、学校が形になろうとしているのだ。
「なかなか暑苦しいな、メレディス。ただでさえ蒸し暑いのに。それで、クローディア。とうとう生徒の募集を開始するのか? うちの実家でも連携できると、楽しみにしていたぞ」
「ユージーン。お疲れ様。2人は寝たの?」
「ああ。どっちもお互いの手を指しゃぶりにして寝ている」
子どもたちを寝かしつけていたユージーンが、遅れて執務室へとやってきた。子煩悩で育児に協力的。理想的な旦那様だとつくづく実感している。
私たちに授けられたのは双子だった。私似の闇属性の男の子と、ユージーン似の光属性の女の子。
男の子をルーカス、女の子をエレノアと名付けた。
この子たちを生んだことで、私の決意はより固くなったのかもしれない。
まだまだ少しだけだが、母の気持ちが分かるようになってきた……。
「生徒の募集ですが、イスティリア王国で一番購読部数の多い新聞に広告を掲載します」
「施設はもう完成しているよな?」
「はい。ロシスターの騎士学校に倣いましたが、魔法の使用する教室の結界は特に強くしております」
「メレディスは仕事が早いな」
ユージーンも、メレディスの仕事振りに満足している。だからますます押しつけがちになってしまう。
ロシスター侯爵家のように、これからはハイド伯爵家でもいい人材を育てて、メレディスの負担を軽減していかないと!
「よしっ! じゃあ休憩だな! メレディスも休め!」
「えっ? 待って! ……もう、強引なんだから」
「チビたちが寝ている間しか、ゆっくり2人になれないだろ?」
「相変わらず仲がよろしいようで、なによりです」
私の手を取って執務室から連れ出そうとするユージーン。子どもが生まれてからも、以前と変わらず私を構い倒してくる。
嬉しいけれど、周囲からの生温かい視線がこの上なく恥ずかしい……。
メレディス……ニヤニヤしてないで、さっさと休んで……。
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――それから1月後――
「予想以上に片寄ったな……」
「そうね……。覚悟はしていたけれど、悲しい現実ね……」
生徒募集に申し込んできたのは、光属性の子どもが20人、闇属性の子どもが2人だけだった。
初年だし、応募者が少ないことと、闇属性の子が少ないことは覚悟していた。でも、あからさまに闇属性の子の申し込みが少なかった……。
肩を落とす私の頭を、ユージーンが撫でて慰めてくれる。
「実績を作ればいいだけの話だ。これからが勝負だな」
「そうね。これから結果を出していきましょう」
クヨクヨしている暇はない。全員が寮生活を希望している。親御さんから大切なお子さんたちを預かるのだ。準備をしなければならないことだらけなんだ。
あっという間に1期生となる子どもたちが、ハイド伯爵領に集まってくる時期となった。
2日後には開校式と入学式がある。私の学校長としてのスタートだ。でも、緊張するな……。プレッシャーに押し潰されそう……。
「ムー」
「難しい顔してないで笑っていればいい、ってムムが言っているよ」
「ありがとう。あなたたちも生徒のこと、よろしくお願いね」
「任せておいてよ」
「ムー」
ココは相変わらずよく人に懐いてみんなに可愛がられていたけれど、この2年半でムムの人馴れが大分進んでいた。
まだ私に一番懐いているけれど、子どもたちや屋敷の者たちともよく遊んでいる。
ユージーン曰く、『あんなに甘やかされて、懐かないわけがない』そうだ。2匹が丸々としてきた気がするのは……、気のせいではない。
「クローディア様ー。ルーカス様とエレノア様がお目覚めでーす」
「分かったわ、エリカ。すぐに行くわ」
私室に戻ると双子が私を見つけ、まだ少し覚束ない足取りで必死に歩いて来た。エレノアは要領がいいのか、猛スピードのハイハイに切り替えた。その後ろをルーカスが、マイペースでヨチヨチ歩いてくる。
「エレノア様は、ユージーン様にそっくりですよね……」
「ルーカス様も、クローディア様に似ています」
カーラが苦笑いでエリカを制している。2人の息は……、ピッタリということにしておこう。正反対の性格だが、私や子どもたちのお世話をするという目的が一緒だからか、まずまずうまくやっているみたい。
私は双子を抱き上げ、庭師のトーマスのところに向かった。私が3年前からはまり、植えつけを続けてきた秋咲きの花たちが、庭園を彩っている。
トーマスは、自分が双子のおじいちゃんだという気持ちになっているらしい。『クライヴ様の代わりはわしがせねばならん!』と、使用人たちに話していたそうだ。
父も母と一緒に、今のハイド領を見ているだろうか……?
「さあ、お庭に花を見に行きましょうね」
「クローディア! 2人はキツイだろ? おいでエレノア」
廊下でバッタリ会ったユージーンが、エレノアを抱っこした。
ユージーンの腕には彼似のエレノア。私の腕には私似のルーカス。4人並んで庭園を歩く。どうしよう……。とても幸福だ……。
そんな穏やかな時間は、耳をつんざくような高笑いで終わりをむかえた。
「アハハハハハ! あいつ全身真っ黒だぜ? 見てみろよ!」
「本当だ……。気持ちが悪いな……」
光属性の男子生徒2人が、1人でいた闇属性の女子生徒を指差して笑っていた。
「クローディア、エレノアを頼む」
「私も行くわ。トーマス! この子たちをお願い!」
「はい」
私とユージーンが、3人のいる真新しい寮の方へと向かった。前途多難……。まだ開校式前だというのに……。




