似た者同士
ついに迎える犯人との直接対決。
お互い表での探り合いの時間はもうお終い。すべてを白日の下に晒すべく八倉志乃と江藤沙耶の感情はぶつかり合う。
互いの言い分、過去、懺悔……
全てを吐きだしたその先に待つ結末はいかに――――――
ラスト前話
どうぞお楽しみください!
実咲主催の女子会の日から三日後の月曜日。事前の手筈通りに俺と江藤が直接会って話す場が設けられた。今日は政希と稔、実咲たちとは別行動だ。江藤には俺が実咲と一緒だと伝えてあるがそれは嘘だ。俺と江藤の二人で話すからこそ、この事件の真相を白日の下に導けると俺は信じている。
話をする場所は前に実咲と来たあのレストラン。人目を気にせずに思う存分長く話せるため、こう言った話をするのに最適な場所だ。
約束していた時間の約三十分前に家を出て駅前の待ち合せの場所で待つ。十五分ほど待った後に江藤到着した。
「あ、八倉君。ごめん待った?」【あれ一人かな?】
江藤は学校で見る制服姿しか見ていないため、一瞬見とれるほど印象が違った。実咲の髪よりも少し長い髪を結ばずに下ろし、服装は夏らしい薄めでシンプルなシャツにパンツといったものだった。
「全然。美咲はちょっと用事があって遅れるらしいから先に行こっか」
とりあえず、あのレストランの個室に入るまで俺は何も疑っていないように装おわなくてはならない。江藤が最初から俺のことを疑っていればそれはまったくもって意味のないものとなるがやらないよりはマシだ。
そんなことを考えているうちにすぐにあのレストランに到着した。
「え、ちょっと待って。ここ凄い高級そうだけど大丈夫?」【確かにここなら話をするにはいいかも】
「俺もまだ二回目だけど値段はその辺のファミレスとほとんど同じだから大丈夫だよ」
ん? まだ俺はこのレストランの構造を説明していないのになんでこの場所が話すのに最適な所だと分かったんだ? 江藤は俺の能力を神霜から聞いているはずだ。それなのに俺に疑われるような思考を隠さずにするのはわざなのか?
「うっそ、全然そんな雰囲気じゃないんだけど」【何から話し始めよっかな】
とりあえず俺と江藤は表面上何の問題もなくそのレストランに入った。
前と同じように店に入ってから執事のような服装をした店員に部屋を案内され、俺たちは席に着く。
「おー、ここ凄いところだねぇ」【外からは隔離された空間かな】
「だよね。ここは何回来ても慣れないよ」
とりあえずの会話を適当に流しながら俺は自供させるための会話の手順を構成していく。
まずは実咲が来ないことを明かし、次に神霜のことを伝える。この時点での江藤の感情によっては違う展開になるかもしれないがその先も対策しておいて損はない。神霜が江藤を裏切ったのか、もともと協力するつもりでなかったのかは置いておき俺に情報が流れていたことを伝えればそれなりに動揺が出るはず。
「でさ、八倉君。実咲はいつ頃になったら来るって言ってた?」【なんか二人だけだと気まずいしさ】
一通り料理を注文し終わり、それを待つ時間に江藤から話し始めた。この質問にどう答えるか。料理が来ないうちに本題に入るのは望ましくない。だが、ここを曖昧に答えては後からその話から本題に入りにくくなることを意味する。ならば――――――
「ごめん、今日実咲はこない」
さっきよりも声を低く、個室の中に重い雰囲気を漂わせるように俺は言った。
「は? ちょっと待って。意味わかんないんだけど」【冗談だよね】
あからさまに困惑の表情を見せる江藤。しかしその眼光はそうではなかった。冷たく刺すような瞳でこちらに視線を返してくる。 警戒しているのか。しかし、警戒という点ではこちらも同じ。共有の能力は真柴の強盗事件から話しているだけでそれにかかる可能性がある。危なくなったら俺をコントロールして逃げ出すもしくは記憶を改ざんする手に出るかもしれない。能力者同士では共有は効かないという可能性は俺が前に脳震盪を起こしたことから否定されている。
「言葉のまんまだ。今日、向井実咲はこの場にこない」
「ちょ、ちょっと待って。八倉君なんかこわいよ?」【ふざけないで】
江藤の言葉とは裏腹にその感情は確実にさっきよりも強いものとなっている。俺が冗談で言っているわけでないのを察知してのものだろうか。
「ふざけてなんかいない。今日は真柴のことで話を聞きに来たんだ」
「いや、確かに君が真柴君のことを前から調べてたことは知ってるけどさ。何んで私がたかだか話を聞くためだけにこんな個室に案内されてるわけ?」【多少計画とはずれてもここでやるしかないか……】
多少計画からずれる? つまり俺の社会的抹殺のことか。そうはいかない。
「いい加減にしろよ、共有」
もうこれ以上シラを切っても無駄だ。とでも言うかのように俺は言い放つ。その瞬間、これまでの江藤の何も知らなかったような表情は一瞬にして消え去り、先ほどの冷たい眼光が再びこちらを向いた。
「わかった。もうこれ以上あんたの前でこうゆうキャラを演じるのはやめる」【どうせこれも聞こえてるんでしょ?】
雰囲気が変わった。聞こえてくる感情もそれに対応して冷たい声のように聞こえる。
「そうか。わかっちゃいたけどお前がやったんだな。川岸も、真柴も」
「ええ。川岸君には悪いことをしたと思ってる。でもそれはしょうがないことだった」【あんたには一生わからない】
「ああ、わからないさ。お前がすることなんて理解したくもないね」
「よくそんなことが言えるもんだね。まあいいや。ねえ感情感知、どうして私が共有って分かったのか教えてくれる?」【話はそこからよ】
ここで江藤がこれを求めてきた理由はなんだ? それを知っても江藤にとって何の意味もない。だが、それで話が進むというなら喜んで教えようじゃないか。
「――――――ふ~ん。そんな小さいミスを繰り返してたんだ、私」【でもそれって証拠はないみたいね】
俺は江藤を疑った理由、そして確信した理由を神霜に話したように伝えた。つまり、江藤が犯人である証拠の三日前の情報のことはまだ伝えていない。その状況で江藤は自分が犯人であることを隠そうともしなくなった。
「それで、お前はここまでのことを起こして何がしたかったんだよ」
俺は一応江藤の要求にこたえて話したつもりだ。次は俺が江藤にしゃべってもらう番だ。
「簡単だよ。復讐」【ただそれだけ】
復讐。簡単に使っていい言葉じゃない。
「復讐? 笑わせんなよ。こんなに大勢を巻き込んでおいてまさか個人にとは言わないよな?」
「ううん。私が復讐したかったのは一人だけ」
個人のためだけに陽太や山崎さん、川岸の友人の何人もが苦しんだ。この際真柴があんな風になったのはいったん置いておいたとしても悪質すぎる。それにターゲットは川岸ではなく真柴のはずだ。
「ふざけんなよ江藤。じゃあ何で川岸はあんな目に合わなくちゃいけないんだよ。お前の復讐の相手は真柴薫じゃないのか?」
川岸が階段から転落し、昏睡状態になったのは江藤のせいとみて間違いない。ターゲットが真柴ならなぜわざわざ江藤は真柴に協力した。
「そうよ。だから川岸君のことは仕方なかった。あいつを陥れるために私はあいつの信用を得ようと思った。あいつが中学と思想が変わっていないならこの学校でもBの山崎さんをはじめとする多くの人たちを陥れようとするはずだもの。なら最初に協力者としてあいつの信用を得た方が後で動きやすいでしょう」【あいつの思想に賛同する気はないわ】
ちょっと待て。俺は中学でも小学校でも江藤沙耶、なんて人物は聞いたことがないぞ。つまり別の学校だったはずだ。なのになんで中学の時に真柴がやったことを知ってるんだ?
「お前、せめてそれ以外のやり方はなかったのかよ。復讐が正しいなんて思わない。だけどやるにしても別の方法があっただろ? 周りを巻き込むことに罪悪感すら感じないって言うのか」
「戯言を言わないで。私にだってそのくらいわかってる。でもね、同じやり方じゃないとだめなの」【“あの子”が受けた苦しみと同じでないとね!】
「あの子?」
「まさか忘れたなんて言わせない。内溝なぎさ!!!」【だからあんたも巻き込んだ】
「内溝!? なんでお前がその名前を知ってるんだよ」
「転校したでしょ? その転校先の学校が私の中学だったの」【あの時のなぎさはもう……】
「……」
「そこでの沈黙はまったく意味がないと思うけど。でもあの時なぎさの話を聞いて私はとにかく真柴薫という人物に憎悪の念が沸いてしょうがなかった」【そう、殺意すら沸いたものよ】
確かに内溝はあの事件の後に転校していった。ただ、あれ以降彼女が人に心を開く様子は一切なく、周りにいた友達も次第に減り、ついにはいつも一人になっていた。
「転校してきたなぎさはこの世を見捨て、この世から見捨てられたような表情をいつもしていた。でもあるとき席の近かった私にポツリポツリと一言ずつ何があったのか話してくれたの。そうして私は決めた。真柴薫になぎさの代わりに復讐する」【でもそれを私はなぎさに言わなかった】
なぜだろう。さっき表情が一変した時の江藤の感情は冷たいものだったのに話を聞けば聞くほど彼女の感情は表情とは裏腹に温かく、柔らかなものになってゆく。
感情とは一時的なものだ。本心とは大きく違う。いいな、志乃?
親父の言葉が江藤の感情と重なって聞こえる。初めは小さく、そしてだんだん大きくなるその声は俺の思考を覆って反響する。
「それで私はこの西条高校に入学した。情報はなぎさが故郷から持ってきてくれたわ。復讐の計画は順調。そして彼の強盗を境に共有して共有して共有して――――――。地の底に落としてやるつもりだった。でもね、そこにあんたが割り込んできた。あんたは中学でなぎさがどんな目にあったか知っているにもかかわらず、彼が傷つくなり彼に協力しようとした! それなら、ってあなたも復讐の対象になった」
【ねえどうして? あなたも真柴の被害者でしょう? それに感情を読めるならあなたはなぎさのこともわかったはず。教えて。どうしてよ。私だって、私だってこんなことしたくなかった!!!!!!】
江藤の感情が俺の思考を埋める。深く、深く突き刺さったこの感情は俺には大きすぎる。なぜ、こんなことになってしまったのか。どこで道を間違え、踏み外してしまったのか。お互いにそれを鮮明に理解しているからこそ、視界を遮る涙はあふれ出る。視界の向こうで聞こえる彼女の嗚咽も俺と同じだろう。
その時に個室のドアが開く。
「――――――八倉、江藤……」【……】
お楽しみいただけたでしょうか。
いよいよ次回で最終話となります
次回の投稿予定日は3月20日。本日同様に少し字数は多くなってしまうかもしれませんがどうぞよろしくお願いいたします。




