最後の偽り
江藤沙耶は共有の能力を持ち、これまでの事件の犯人である。
そう確信をした主人公、八倉志乃はこれ以上の被害を出さないため、そして何より江藤その人のために自供をさせる用意を着実に進めていく。
違和感なく聞こえる日常の会話から活路を見出し、主人公が導く答えとは……
感情の境界線、いよいよクライマックスーーーーーー
江藤沙耶の自供を得るべくして振出しに戻った俺たちにとって学校の臨時休校ほど不都合なものはなかった。江藤について詳しく知っている人物を洗って話を聞くことはできるが大抵は端末上でのやり取りに過ぎない。情報が得られるだけありがたい話だが、本人に直接会って感情や
表情を読んだ時の情報よりも信頼性と、その情報の重要さを測りかねる。まず間違いなく、本人と直接会った方がこちらとしては得るものが大きい。
そして江藤の情報を集めるにあたって二つ目の障害となったのは江藤と親しい男子がほとんどいなかったことだ。江藤は確かにA組で上位に位置する女子のグループに入っているが、江藤個人として男子に関わったことが極端に少ない。女子に話を聞くこともできなくはないが、下手に探りを入れていることを感づかれると話は厄介になりかねない。
「それで、誰からいくんだ?」【一人目は重要だぞ】
今日は朝から政希と稔は俺の部屋に来てもらっていた。午前中にこれまでの事件の要点をまとめ、考察、江藤が事件を起こした動機などについて考え、現在に至る。
「そうだね。江藤は特定の男子と親密に関わってないみたいだし、とりあえず席の近い人から当たっていくのがいいんじゃないかな」
あまり期待はできないが、席が近ければ最小限の会話はしているはずだ。
「確かにそれなら一定のことは知ってると思うけどあんまり期待はできないんじゃね?」【ま、わかってるとは思うけど】
稔の言う通りいくら席が近いとはいえ、そもそもの関わりがなければ持っている情報はかなり少ないだろう。ただ、ないよりはいくらかマシにはなる。そもそも今回の自供を得るために一番重要な立ち位置にいるのはほかでもない実咲なのだから。正直俺たちがどれだけ情報を集めようとも江藤が周囲にぼろを残している可能性は極めて低い。
そんなふうにして、時間をほぼ浪費している状態の時、俺のスマホに実咲から電話がかかってきた。
「もしもし、実咲? なんか掴めたのか?」
「あ、もしもし、ママ? うん。帰るのがちょっと遅くなりそうだから連絡したよ。うん、うんん。わかった、帰るときにまた連絡するね」
まったくもって脈絡のない会話。俺の声などまるっきり無視で実咲は一人でしゃべっていた。
通話が終わり、俺は電話を切ろうとしたが未だに繋がったままの画面を見てはっとした。
「志乃、スピーカとミュート。多分実咲は中継するつもりだよ」
俺は政希に言われるがままにしてスマホを操作した。
「実咲? どうかしたの」
「ごめんごめん。さっきママから連絡あってさ。私いっつもこうやって集まって遊ぶと帰るの遅くなっちゃうからさ。一応電話しておかなきゃって思って」
「あー、実咲のママって結構そうゆうところ厳しいんだ~」
少し雑音が入ってはいるものの、実咲たちの会話はしっかりと聞こえる。おそらく実咲たちは今、ファミレスかどこかで雑談を始めたところだろう。タイミングを見計らって俺に電話をかけたのか、それともこの会話をはじめから聞けということか。どちらにせよ、これから聞こえてくる会話からできるだけ不信な点を絞っておかないといけない。
「それでさー、真柴君の話に戻るけどさ~。実咲は彼氏持ちの視点から見てもやっぱり真柴君はありなの?」
「あー、どうだろうな~。私、志乃からよく真柴君のことについて聞くけど、私はそんなにタイプじゃないかなぁ」
「えー、それって八倉君が実咲を引き留めたいだけなんじゃない?」
この会話を聞いた途端、俺の後ろで稔と政希は爆笑していた。女子のことは分かっていたつもりだったが、あくまでそれはつもりなんだと、改めて思い知った気がしたが今重要なのはそこではない。
「それなら実咲はさ、八倉君からどうゆうふうに聞いてるの? 真柴君のこと」
とここで江藤が食いついてくる。
「えっと、中学の時からずっと完璧人間で俺には到底かなわないって言ってたよ。まあでも真柴の考えてることはお見通しだって、なんかすごい自信気に言ってたなぁ」
「あはは。それおかしいでしょ。到底かなわないのに考えてることはお見通しって。やっぱり八倉君、何か隠してるんじゃない?」
この辺の会話からなんとなく、これまでの会話の道すじが見えた気がした。ただ、江藤は実咲を疑っているようには聞こえないことが少し疑問に残る。まだ時分が疑われていないと思っているのか、それとも実咲の探りは余裕でかわせる自信があるのか。共有であれば万一のことがあっても実咲と他二人の記憶を改ざんするパワープレイが実行できなくもないのだろうがそれはあまりにリスクが高い。
「確かにそうかも……。あーもうほんっとに気になってきた。ねぇ今から電話して聞いてきてもいい?」
「あ、それなら八倉君ここに呼ぼうよ。私も真柴君の中学時代のこと聞きたいし!」
「えー、でもこの女子会に男子一人って結構キツくない? 私はそれ止めた方がいいと思うけどなぁ」
一瞬自分があの場に呼ばれることになるのかと焦りながらも期待を抱いたがそれは江藤によって否定される。この反対は俺を警戒してのものか、それともただ俺を女子会に入れたくないのか。そもそもこの会話からは江藤が疑われていることに感づいているのかすらわからないし、判断はしかねるな。(後ろで今なお爆笑してる二人は放っておこう)
「えーいいじゃん、誘っちゃおうよ。実咲も顔見て話した方が盛り上がるでしょー?」
「うーん、でもこのメンバーって志乃と話したことあるっけ?」
「私はあんまりないかも。朝に少しおはよ、って言うくらいかな」
江藤を疑うキーポイントの話になり、実咲はその話について少し深堀をし始めた。
「え、そうなの? 沙耶の性格だったらもうクラス全員と話してると思ったけど」
「そりゃぁいろんな人に話しかけてるけどさすがに全員じゃないよ。八倉君にも話しかけようと思ってたけどその前に実咲が彼女になっちゃったし~」
さて、これにどう切り返すか。いま江藤は実咲の色恋話をくすぐることでこれまでの俺を避けるような話の進め方をごまかした。このままその話に流れていけばこれ以降俺がこの女子会に登場することはないだろう。
「ね~沙耶~。さっきからなんか志乃のこと避けてない?」
「そ、そんなことないよ。私、話したことないからあんま分かんないって言うか……」
「あ、じゃあこの際話してみなよ。実咲の前だし別に大丈夫だよね? ね、実咲」
もう一人の(声だけでは名前が出てこないが)女子は実咲とグルではないか、と疑うほどの起点の効いた返しをしている。この返しのおかげでおそらくは俺はこの女子会に呼ばれる電話を受け取ることができるはずだ。
「いや、別にいいけど…… じゃあ電話かけてみよっか?」
「はーい、よろしく~」
そして俺は通話しっぱなしだった携帯のミュートを切り、少しの間を開けてから電話に出た。
「もしもし?」
「あ、もしもし志乃? 今さ、沙耶たちと女子会中なんだけどね」
あっちでスピーカーにしているかもしれないリスクを考えるとここは下手に江藤に手を出さないほうが得策だ。
「え、うん。それって今俺と電話してていいの?」
「あっはは。いいのいいの。ちょうど今ね、沙耶たちと志乃を呼ばないかって話になっててね」
「いや、なんで俺が呼ばれるんだよ。でもごめん、ちょっと今立て込んでるからまた機会があったらな」
「えー、でも……」
「それに俺一人でその女子会に乗り込む勇気もないよ、さすがに」
「そっかぁ。じゃあまたね、志乃」
「ああ」
短い通話を終え、実咲は電話を切った。これ以上女子会を盗聴するわけにはいかない。盗聴していた会話から少しは江藤の不自然な点が見つけられた。
そしていつの間にか静かになっていた後ろの二人から朗報が届く。
「おい、志乃。さっき連絡とった江藤の隣の席のやつに話を聞いたら結構いい情報が入ったぜ」
「ほんと? どんな情報?」
「江藤はスマホの画面を開くときに少し表情が歪むらしい」【画面に何か仕掛けがあるっぽいな】
「それも尋常じゃない歪み具合だったらしい。でもそのあとすぐに元の表情に戻ってたらしい」【すぐに戻ったってことはロック画面か……】
「ちなみにその画面なんだけどさ、そいつが目にしたのは江藤ともう一人の女子のツーショット写真らしい」【顔を知らないってことはうちの学校じゃないのかもな】
「なるほどね……」
ここまでパーツがそろえば江藤に直接会ってもう少し聞き出せば自供を得ることは難しくないかもしれない。スマホの画面を見て顔が歪むのはおそらく江藤が事件を起こした動機であるはずだ。
前もって実咲には俺と江藤の会談の場を設けてもらうつもりだったし、あの会話の様子なら俺との会談の場を設けるのは何ら不自然もない。そして実咲の行動力ならその会談は明日だろう。もうこれ以上陰でこそこそ動き回る必要はない。会長が言っていた俺を社会的に抹殺する計画も犯行を自白させることで阻止してやる。
かつてないある種の高揚感に駆られながら俺はこれまでの情報を政希と稔と共にまとめ始めた――――――
先週、今週、そして昨日の投稿の遅延、本当に申し訳ありませんでした。
次回の投稿は今週の土曜日、次々回の投稿は来週の土曜日となります。
そして、次々回でこの感情の境界線、ついに最終回を迎えることを予定しています!
おそらく、のころ二話はとんでもない文字数になると思いますがご容赦ください。




