最後の方法
仲間の傷ついた、苦しむ姿を間のあたりにした主人公、八倉志乃。
これ以上仲間が傷つくのを見たくなかった彼はこれからの行動は一人で行う、と切り離してしまう。
しかし、生徒会長神霜三船との電話において仲間の大切さを再認識する……
ありきたりな表現だけど、考えるよりも先に体が動いた。
まだ外は薄暗く、生暖かい熱風が俺の頬を撫でるがそんなことは気にもならない。吹き出す汗を拭こうともせずに俺は政希と、稔と、そして 実咲を捜して走り出す。
俺に足りなかったのは人を信じる勇気。それがなかったから俺はあの三人を、ここまでしてくれた三人をあっさりと、本当にあっさりと切り捨ててしまった。
「俺は何してんだ…… せっかくここまでわかったのに実咲の様子を見てろくな説得すらせずにさ」
走りながらそう呟く。突然涙が流れそうになったが、俺は汗の噴き出ている腕でそれを拭う。政希と稔はどこにいるのか、実咲にはなんて話そうか、そんなことを考えながら夢中で走った。家の周囲を一周した後、一度俺は自分のアパートへと戻った時だった。
「なーにしてんの、志乃」【どっか行くわけないだろ】
「っ、政希、稔……」
「ははっ、顔がすげーことになってんぞ。俺たちを探すなら携帯で呼べばよかったのにさ」【俺たちは外で待ってろって言われただけだしな】
「そ、そうだけどやっぱり直接言わないとなんか気持ち悪いっていうか……」
俺の頬は恥ずかしさか、申し訳なさか赤くなっているだろう。そんなときに誰かがいや、見慣れたシルエットをした人物がアパートの階段を上ってくる。
「志乃……」【勝手に返さないでよ】
階段を上ってきたのは実咲。まだ明かりが点かずに薄暗いままのアパートの二階の廊下では色合いがよくわからないが実咲の目が赤く、泣いた後であることははっきりと確認できた。
「ほら、実咲も帰ってなんてないから。ここまで一緒にやってきたんだしあれだけで帰るわけないでしょ?」【もっと俺たちを信じなよ】
稔から聞こえた感情は俺の胸にグッと突き刺さる。俺はあの一件以来、本当の意味で人を信じることができなくなっていたのだと改めて気付く。
「とりあえず、入らないか? もちろん志乃がよければだけど」【外ではなすことじゃない】
実咲とはそのままろくに言葉を交わさず、俺は政希の言葉に従う。
「わかった、とりあえず入って」
俺はそうして自分の部屋の扉を開ける。この時に部屋を飛び出したときにカギをかけてないことに初めて気づいた。が、今そんなことはどうでもいい。
三人を部屋に入れ、俺はさっきと同じ椅子に座る。
「えっと……」
「……」【……】
どこから話せばいいのか、という前に何から口にしたらいいのかわからない。目の前に座っているのが実咲ということもあって俺の頭は混乱と沈黙に陥る。
「実咲、志乃に言わなくていいの?」
「……ううん」
外で待っている間に何か話していたのだろうか。政希が実咲に話すように促し、実咲は俺と目を合わせる。
「志乃、さっきはごめんね。私、今日も沙耶とは話してたから、稔の言ったことが信じられなくて、いや信じたくなくて……」【私、どうしたらよかったのかな】
実咲はそう言いながら(おそらくまた)涙を流し始めた。
こんなことを言われては俺まで泣きたくなる。この瞬間、実咲が、この三人が俺にとってどれだけ大切なものになっていたのかを俺ははっきりと理解した。そして俺は何も考えずにソファに座る実咲に抱き着きながら言った。
「俺こそごめん。実咲の気持ちよりも、実咲に理解してもらおうと思ってた。でもそれは間違いだった。真柴が、共有が許せない、一刻も早く真相を解き明かしたい。そんな考えでいっぱいになってた。ほんとに、ほんとにごめんね」
正直に伝えよう。自分の精一杯の言葉で。そうでなければひとの心には言葉は届かない。
「はぁ、つくづくこのカップルには嫌味がはけねぇな」
「めずらしく俺も同感だよ稔」
また、周りが見えなくなっていた。実咲とのことで頭はいっぱいで。でも、今回はそれでよかったのかもしれない。
「よしっ。じゃあ志乃、私に説明してほしいな。何で沙耶が共有なのか」【その理由がなんであれ、私は志乃を信じるよ】
実咲は俺の背中をポンとたたきながら立ち上がって言った。
「もう、切り替え早いなあ」
いまだ涙ぐんだままの俺には少しハードルが高い要求だったが、最大限に応えよう。
「なるほどねぇ」【そうゆうことなんだ】
あらかた話し終えた俺に実咲はそう言った。
「そうだな。それよか俺は会長の化け物じみた言い癖に改めて驚いたぜ」【やっぱり一人じゃ太刀打ちできないな】
「ただ、ここまで来たらもう証拠は集められない」【明日からは臨時休校だしな】
「そうだね。会長の言ってることは正論だけど、それは不可能だと思う。特に相手が共有なんて能力を持ってるんだから物証なんてあるはずない」
そう、神霜の言ってることは不可能なのだ。それが俺であっても、神霜であっても。異能者が何か起こすなら当然自分の異能は利用するに限る。そしてその能力を利用したうえで物証は絶対に残さない。そうすればいくら筋の通った理論であっても、自分が否定し続ければそれ以上、自分に火の粉が飛んでくることはない。
「じゃあこれ以上俺たちが何かしても無駄ってことかよ」【ふざけんなよ……】
「いや、そうじゃないだろ。俺たちにできることはもう一つある、だろ? 志乃」【最後の一つが】
と、自信ありげに政希は俺に振る。
「そうだね。たった一つだけど、まだ道はある。真柴の時と同じだよ。直接話して、自供させればいい」
そう、それしかもはや道はない。本人が自供すれは警察とまではいかなくとも神霜は無視できないだろう。ただ問題が
「でもそれをやるには口実が必要だよな」【それをどうするか……】
「ねえ実咲、江藤沙耶とは面識があるよね?」
「え、うん、あるけど。でもさすがに志乃たちと一緒に会いに行くのは無理だよ?」【さすがに怪しいでしょ】
「ああ。それはもちろんわかってる。もし機会が設けられるのなら俺たちはそこにはいかない。実咲は俺と行動してることが知られてるだろうけど、実咲一人だけなら調査のことだなんてふつうは考えない」
「確かに私だけだったらそうだと思うけど、それじゃ意味ないじゃん。もしかしてその時に電話をつなげ、なんて言い出さないよね?」【女子会盗み聞きの罪はおもいよ?】
「しない、しない。実咲には俺の感情読みのことを相談してほしいんだよね」
「え、ちょ。それ沙耶に言っちゃっていいの?」【ばらしちゃってもいいの?】
実咲は一瞬驚愕の色を浮かべたがすぐに納得したようだ。
「そっか。神霜会長と協力してるなら当然、志乃の能力も知ってるってことだもんね。そこから沙耶の能力とかについて掘り下げていけばいいんでしょ?」【私にできるかな】
「なんかDeath Noteみたいなことするんだな。自分しか知らないはずの情報を相手から引き出すなんてさ」【おもしろそう】
これに面白そうという政希の性格はさておき、言っていることはあっている。俺の能力のことは神霜を含めて四人しかいない。ただ、共有は俺のことを知っているのだろう。だから真柴が強盗を働く日に俺は階段で脳震盪を起こさせられた。
「そうゆうことになるね。実咲はさ、俺と話してるとなんか思ってることを見透かされてるようなことを口にするんだよね~、みたいな感じで相談形式にするんだ。そうすればあっちは俺の能力を知らないふりをしないといけない。神霜の裏切りにも気づかない程度の頭脳ならそのうちぼろが出るはずだ。そこを録音できればあとは後日、俺と一対一でゆっくり話をつける」
「やっぱり私、責任重大だね」【もしそうなら私は沙耶を許さない】
はは、なかなか冷徹な感じになってきたな。まあ冷静に状況に対処するにはある種冷めた感情も必要だ。(これを冷めている感情というには違和感を覚えるが)
「日時はいつがいい?」【早めにやっちゃいたいよね】
「いつでもいいよ。ただ、できるだけ早めにしてほしいかな。会話は携帯の録音アプリでも入れて最初から録音しておいてほしい」
「わかった。じゃあ明日にでも話してくるね」【私も早く真相が知りたいし】
江藤沙耶は共有である。その証明の最後の方法である自供にむけこうして俺たちは動き始めた。
【事務連絡】
随時加筆、修正を行っておりますのでご了承ください。
連載日は毎週土曜日と奇数週の水曜日です。
これからも感情の境界線をよろしくお願いします!




