表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感情の境界線  作者: めだまやき
第三章 共鳴か孤独か
24/30

真実とその過程


「そう、つまり共有コントロールの持ち主は江藤沙耶だな」【たぶん】

「なんでよ! 沙耶がこんなことするわけないもん。適当なこと言わないでよ」【そんなの……信じたくない】


―――感情とは一時的なものだ。本心とは大きく違う。いいな、志乃?


「ねえ稔、今までありがとう。実咲、苦しませてごめんね」

 俺はこのまま三人を部屋から追い出すような形で外に行ってもらった。そして俺は机の上に置いてある携帯を取り上げ、ある番号に電話をかける。

「もしもし、神霜か? 聞きたいことがある――――」

 神霜の携帯に掛けるとそれはコール音が一回ならない間に応答があった。

「やぁ、八倉志乃。その冷たい声、何があったか心中察するよ」

 神霜の応答の声は前に聞いた鋭く低い声ではなく、学校でよく聞く柔らかく、しかし隙を見せない声だった。

「それなら話は早いな。真柴の元協力者、つまりは川岸、そして真柴を階段から転落させた犯人が分かった」

「へぇ。それはもちろん証拠も込みで僕に電話してきたってことでいいのかな? まさか君が僕に証拠なしで答え合わせをしようなんて考えるはずがない」

 まったく。相変わらず痛いところをついてくる。この電話での俺の目的が犯人の答え合わせだったら俺はこのまま通話を切っていただろうな。

「当然。答え合わせなんざ必要ない。お前は仮にも俺の追う共有コントロールの協力者の立場にあるものなんだからな」

「俺の、ねぇ。前の君だったらそこは俺たちって言うはずだけど……じゃあ俺に何が聞きたい、もしくは用意して欲しいんだ?」

 神霜の声は一瞬の間を開けて先ほど想像した鋭く低い声に代わる。

「江藤沙耶の中学時代の情報を教えてほしい」

 無理は承知だ。一年の一生徒が生徒会長にそんなことを頼むなどそもそも論外。そのうえ生徒の情報を開示してほしいなんて到底受け入れられるものではないだろう。

「……無理、だね。そもそもなぜ江藤沙耶の情報なんて必要なのか僕には全く理解できないし。せめて理由、それとそこに至った過程は聞いておかないと情報を上げるかどうかの検討すらできないな」

 神霜は食えない男だ。仮に俺がその過程とやらを話したところで俺が江藤の情報を得るかどうかは神霜に選択権がある。それに加え学校が臨時休校に追い込まれた今、俺には自分から調査して生徒の情報を集めるということができない。どう答えても神霜が損をすることはなく、俺は損しかしない。

「どちらにせよ、俺に選択権はないってことだな? ……まぁいい。話そう」

 まず、今週の月曜日、つまり真柴が転落する日の朝のことだ。俺はその前の日にクラスメイトである湯谷政希に俺の机に不信な紙が貼ってあったことを告げられた。その紙の内容は川岸は真柴のせいでこうなった、真柴を許すなってご丁寧に活字で印字してあったよ。これが俺のクラスの俺の机に貼ってあったんだから当然、クラスメイトを俺は深く疑った。まあそれ以前から共有コントロールはAクラスにいる気がしてたんだけどな。そしてその疑いを持ったまま翌日の朝に俺に対するクラスメイトの反応を観察することにしたんだ。共有コントロールは俺に対していつも通りに装うこともできるだろうが俺宛にあからさまにあんな紙を送ってきたんだ。当然、朝一番に俺の顔色を窺いたいはずだ。ただその朝、いつもは会っても話しかけてこない江藤が俺が教室に入る前に話しかけてきた。その時は偶然と思ったが今ではそれも含めてすべてが繋がっていることに気が付いた。

 俺が教室に入ってすぐさま視線を向けてきたのは野口修也、坂上夏帆、小川帆花の三人だった。その中でも特に小川帆花の視線は異常で俺にある種の殺気を向けているようにも思えた。

 そしてその翌日の火曜日、つまり真柴が転落する日に警戒していた三人のうち、野口修也を俺は除外した。俺が真柴の転落現場に駆け付けた時、俺よりも背が小さい少女が俺を気絶させたからだ。野口修也は俺よりも背が高いからな。

 そして俺は転落事故の犯人として警察の保護観察下に置かれ、しかも実質停学処分を食らった。自由に動けなくなった俺に届く情報は希薄になり、あんたとの会談に打って出ることにした。そこで過去解析オブザーバー共有コントロールと協力していることを知った俺は絶望したよ。

 そのまま日が経ち、今日の夕方。学校は明日から臨時休業に入る。つまり今日が学校で情報を集められる最後の日だ。わずかな情報を共有すべく俺はこれまで調査を共にし、俺の能力のことを知る……仲間、を俺の部屋に集めて考察をしていた。共有コントロールの能力の詳細を含めてな。そこで改めて共有コントロールの能力について考えてみると共有は真柴の強盗の時のようにコントロールする対象と一定時間話をするか、相手に触れることでその対象をコントロールできるということがこれまでの共有コントロールの動きからわかる。ならば俺のクラスで一番怪しいのは江藤沙耶だ。


 教室に入る前、つまりまだクラスメイトを疑うという行為のスイッチの入っていない俺の顔を窺いつつ、自分に疑いが向かないように後ろの席に座る小川帆花に触れることで小川帆花をコントロールする。そうして小川が俺に殺意を向けるように仕向け、自分は警戒対象から外れる。江藤と席が対角にある俺は小川が江藤に触れられていることはその時確認できなかったが、どちらにせよ、こう考えると筋が通っている。俺はまったく気付かなかったがさっき仲間が気付いた。

「長々と説明ご苦労さま。君が考えてることはなんとなくわかったよ。でもそれを裏付ける証拠や動機は一切わかっていない。犯人と断定するには十分な状況証拠だけどやっぱり物証がなければその推理の正確性は半減だね。僕ならそれに物証をつけて然るべき人に報告するよ。せめて動機か物証のどちらかは持ってきてほしかったよ」

 電話の向こうで少し微笑する神霜の声が聞こえた。それが挑発なのか、もしくは俺に対する失望なのか、はたまた推理が的確だったからなのか、俺にそれを知るすべはない。

「あ、もしかして僕からその動機とかを聞こうとしてたのかな? それは悪いけどいくら君でも教えられないな。君もさっき言ってたけどあくまで僕は彼女の協力者なんだから。まあ表面上に過ぎないけどね」

 最後の表面上に過ぎない、は神霜の凄みが分かる。

――――ん? ちょっと待て、いま神霜は彼女・・といわなかったか? となれば犯人は女子生徒であることが証明された。

「神霜、いま共有コントロールのことを彼女、って言ったよな。ってことは共有コントロールは女子生徒ってことが証明される。それが江藤沙耶であるかはさておき、俺の推理が正しかったことが一つ証明されたな」

 強気にいこう。神霜は俺の過去、つまりは中学から高校に入り、真柴をどんな形で探ってきたかを知っていると考えていい。でも俺は神霜のことを、詳細な動きをまったく知らない。ならば、俺はこれ以上知られても困ることはない。とすれば俺はこの交渉で少しは強気に情報に探りを入れても損をすることはない。

「それで、君はこのまま一人になる気なのか?」

 強気になろう、そう決めた瞬間に神霜から痛烈な一言が発せられる。

「……」

 心中察するといっていたがそれはこうゆうことか。この人物は俺が言葉を発するだけでどれほどの情報を手にしているのだ。

「黙っているってことは正解かな? 大方、君たちが真実にたどり着いた時に向井実咲が発狂したのだろう? そこで君はこの問題を一人で背負うことにしたって感じかな?」

 本当に話していればいるほど神霜の恐ろしさを感じる。

「そうですね……」

「ならば君はすぐに三人を連れ戻すべきだよ。僕は直接関与しないにしても彼女とやり合うには君以外の視点も絶対に必要になる」

「……」

ツーツーツー

 神霜は最後にそう言い残して電話を切った。結局俺が知りたい情報は得られず、神霜が一方的にこちらの情報を得ただけだった。


 俺は弱い。神霜が化け物なのかもしれないけど、それにしても弱い。神霜と話してようやく実感した。これは俺一人では背負える問題じゃない……


 ありきたりな表現だけど、考えるよりも先に体が動いた。

まだ外は薄暗く、生暖かい熱風が俺の頬を撫でるがそんなことは気にもならない。吹き出す汗を拭こうともせずに俺は政希と、稔と、そして 実咲を捜して走り出す。

 俺に足りなかったのは人を信じる勇気。それがなかったから俺はあの三人を、ここまでしてくれた三人をあっさりと、本当にあっさりと切り捨ててしまった。


―――感情とは一時的なものだ。本心とは大きく違う。いいな、志乃?

【事務連絡】

随時加筆、修正を行っておりますのでご了承ください。


連載日は毎週土曜日と奇数週の水曜日です。


これからも感情の境界線をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ