真相と激情
自宅謹慎になり、情報も満足に集めることはかなわない。翌日から学校は臨時休業に入り、新たな情報はもう手に入らない状況下で主人公、八倉志乃は自宅に調査の仲間を集まらせた。
だが、犯人である共有を導き出すには今までの情報で十分であった。
そして―――
※注意 今回で犯人は判明します。自分の推理を確立できていない方は今一度これまでの回を読み直し、犯人の予想をつけてから読んでいただけると幸いです。 byめだまやき
「ここまで聞いたならもう教えてよね。誰が怪しいの?」【隠さないで】
「隠すつもりはない。小川帆花と坂上夏帆、だよ」
そう聞いた二人は再度瞳孔を大きく開いた。
「……」【本当にその二人、なのか?】
「稔? なんか気付いたのか?」
「いや、志乃の考えは分かったんだけどさ…」【なんか引っかかる】
「ちょっと稔、らしくないよ」【どうしたの】
俺には稔の感情が聞こえるから気持ちはなんとなくわかるがそうではない実咲には今の稔は異常に見えるのだろう。
「引っかかるってことか? 俺も間違ってるかもしれないし、気になることがあるなら言ってくれ」
正直、坂上と小川に目を付けたのはあの日の朝に俺に視線を向けてきたからという根拠しかないため案外この推理は脆い。
「志乃、もう一回共有について話してくれないか?」【それでまとまると思う】
「え、うん、いいけど」
そうして俺は稔と実咲に共有についての俺の考察を話し始める。
「能力、共有。所持者は不明。真柴の強盗、俺が入院していた時の態度、そして階段からの転落。強盗と俺の見舞いに来た時の本人の証言から共有にかかった時からそれが解けるまでその間の記憶は抜け落ちる。発動のトリガーはその能力者が共有しようとした人物と目を合わせること、だと思う。強盗の直前も真柴は誰かと話した後だとか言ってたし、転落した直後も俺の後ろを通った人物がいた。あと、解除条件は一定の衝撃を加えれば解ける」
話していて改めて思ったがやはり強力な能力だ。これを悪用したならば(実際悪用しているが)それはただのお遊びでは済まない。
「ああ、真柴が病室に来た時のことはよく覚えてるぜ。俺がそれを志乃に言ったんだしな」【あんときゃ真柴は異常だったからな】
「って、ちょっと待ってよ志乃。なんで根拠がそれだけなの! 一番重要なこと忘れてるじゃん?」【おかしいよ】
と、稔の前に出て実咲が俺の額を軽く押しながら言う。俺はその勢いに少し押されながら言う。
「大事なこと? 俺なんか忘れてたか…?」
そういうと実咲はハァとため息をつき、呆れたような目を俺に向けながら口を開く。
「あのさ、志乃。なんで入院のことは覚えてるのにそうなった理由は考えないの? これ前も言ったけど志乃は起こす理由もないところで脳震盪を起こしたんじゃないっけ? で、そのおかげで共有を持つ人を絞れたんじゃん!」【もっと自分のことも考えていいんだよ】
「そういえば…」
実咲の言う通りだ。俺が脳震盪を起こした理由、それは階段で後頭部を誰かに触れられたから。つまり、今の考察では少し穴がある。
「なるほど、つまり発動条件はもう一個あるってことだな?」【志乃も記憶持ってかれてんのか?】
「確かに。俺もその共有にかかってた可能性が高いわけだし結構記憶抜けてるかも」
「はぁ? そんなわけないでしょ。私言ったよね、志乃が目を覚ました時にさ。もう、言い訳しないの」【今大事な話なんだから】
「いや、ごめんごめん。それにしてもなんか脳震盪の記憶が薄くてさ。これ何回目だろ」
「もしかしたら能力者同士では能力に体制が付くのかもな。まあそれはそうと、今の出なんとなくつかめたぜ。やっぱり志乃の考えよりもっと怪しい人がいる」【たぶんだけど】
ピンポーン
っと、このタイミングでなんでインターホンが鳴るんだろう。俺の部屋にいる全員がそれを思ったような顔で俺を見る。
「いや、俺にそんな顔されてもなぁ…」
俺も不本意ながら少し不満を漏らしてしまったが仕方ない。
「はーい」
そして玄関に向かって扉を開けるとそこには政希がいた。
「うおっ、政希?! 早いな」
驚きを隠せずにいると政希はいつも通り、いやいつもより冷ややかな目で俺を見ている。
「おいおい、どうしたんだよ志乃。確かに少し遅くなるって言ったけどそんなに驚くことじゃねーだろ? それとも、なんかあったか?」【なんとなく悪いことした気がする】
「あー、いや。むしろいいタイミングだったかも。気にしないで」
と、政希の感情に返しながら俺は政希を部屋に招いた。
「って、え! 政希?」
「おいおい、俺って志乃の家に来たらそんなに驚かれるキャラだったっけ?」【なんでそんな驚くんだよ】
「まったく、いっつもタイミングが悪いんだよ政希ぃ」【だよな、志乃】
「は? 俺がいつタイミングが悪いことしたんだよ」【おい志乃、稔はさっきなんて言ったんだよ】
まったく、さすがだな。なんで俺に稔が感情を向けたことが分かったんだ。
「いや、いつもだろ。ちょうどさっきまで話してた病院の時とかな」
「うん、いったんお終い! これ以上やっても時間の無駄だよ。それで稔は何が引っかかってるの?」【早く聞かせてよ】
と、二人の間に実咲が入って言う。
「…ああ。確かに貴重な時間をこれ以上無駄にするのはよくないな。悪かった、稔、実咲」
「いや、俺こそ」
「じゃあ話すぜ。志乃がさっき言ってた話からすると俺たちが追ってる共有の能力者は小川帆花でもなければ坂上夏帆でもない。可能性としては確かにその二人もあるかもしれないけどさ。でも志乃が警戒してた朝にたまたま志乃のことをみた可能性も捨てきれないっていうか…」【でもそれより...】
稔はそこで一息つく。未だ自分の考えに、推理に確信が持てないでいるのだろうか。
「稔、ここで間違ったことを言っても気にしないで。私なんか全然わかんないんだもん。それに比べたら稔はすごい」【いいなぁ稔は】
俺が言おうとしたことを実咲が代わりに言ってくれた。的外れな励ましであってもそれは自分が人に応援されているという一種の確信に変わる。
「ああ、ありがとな実咲。うん、それでさ… 確かに志乃が小川から感じた殺気? みたいなのは怪しいけどでもそれが俺の中では決定的だよ」【それは共有が偽装しようとしたんだろうね】
「なるほどな」【気付かなかった】
「そういうことか」
「え、ちょっと待って、全然わかんない」【なんで二人とも納得してるの?】
「そう、つまり共有の持ち主は――――――
江藤沙耶だな」【たぶん】
不自然。言われるまで全く気が付かなかった。あの日、江藤は確かに不自然な行動をしていた。「うっそ、なんでよ。なんで沙耶が共有なわけ? 沙耶がこんなことやるわけないじゃん。それに真柴の話になっても沙耶は全く興味を持たなかったんだよ?」【おかしいよ】
そう。確かに江藤沙耶は俺たちが教室で真柴の話をしていてもまったく興味を示さなかった。男女関わらず、ほとんどのクラスメイト達はきゅしつで真柴の話をしたときに集まってきていたにも関わらず。
当然だが、真柴に興味を示さない人は一定数いるからそこのみで判断することはできない。しかし…
「信じられないかもしれないけど実咲、少し聞いてくれ。稔、たぶん俺と志乃もお前の思考回路を理解した。どうして共有が江藤になるか話してくれ」【だよな、志乃】
実咲は江藤の名前が出てから気が狂ったようになっていたが、政希のおかげで俺が出る幕はなさそうだ。実咲はA組の女子の要。クラス委員とは違い別の立場から女子の中心人物の一人として学校で過ごしてきた。ほぼ全員の女子生徒にコンタクトをとってきた実咲には過酷すぎる話だ。
「実咲、落ち着いてくれ。まだ決まったわけじゃないし、俺も適当に言ってるわけじゃないんだ。江藤沙耶は志乃が警戒した朝に不自然な動きをして見せた。それが最大の理由なんだ」【受け入れなくて当然だよ】
稔は優しい性格の持ち主だ。俺のために今はクラス委員という立場と参謀の立場を両立してくれているがそれは到底無理な話だったのかもしれない。俺が稔に負荷をかけてしまっていることも理解しているつもりだった。
でも、今この瞬間も稔に任せてもいいのだろうか。ほぼ、いや彼女である実咲があんなにも苦しみ、無理をしている稔にさらなる負荷をかけることは本当に正しいことだろうか? 俺は今この場で話し始めなければ今まで一体何をしてきたのだろう。
感情なんて読まなくても、このことは分かる。今、この二人は確実に苦しんでいる。
―――感情とは一時的なものだ。本心とは大きく違う。いいな、志乃?
そうだ。俺が聞いているものは本心なんかじゃない。そして感情でもないんだ。うわべだけの、自分の意思で変えたり隠したり、ごまかしたりできるものが人の感情であってたまるものか。
そんなことに今まで気が付かなかった自分に嫌気がさす。
「ねえ稔、今までありがとう。実咲、苦しませてごめんね」
突然そんなことを言い出せば俺の意図を理解できず、驚くだろう。事実、実咲と稔、そして政希までもが目を丸くして俺のことを見つめている。
「ここからは俺が何とかするよ。俺のせいで無理させてごめん。」
自然と、考えるまでもなく自然と、俺の口は動く。今自分が何を考えているかなんて自分でも理解していない。
「何言ってんだよ志乃。しっかりしろよ」【なんでそうなるんだよ】
「そうだ、ここまで来たのに何でだよ」【気なんて遣うな】
実咲はぽかんとしながら依然状況が理解できずにいる。
「とりあえず、実咲。これ以上ここにいてもつらいだろうから追い出すような形で悪いけど今日は帰って」
「…う…ん」【わかった】
実咲は今の俺の異常さを汲み取ったのか、自分のためか、今の俺では判断もできない。そして実咲は俺の家を出る。
「政希、稔。二人は少し外に出ててもらえないかな。これで適当にファミレスにでも行っててほしい。終わったら呼ぶから。もちろん、そのまま帰ってもいいけど」
俺は一人になろうとしている。それを察したのか稔と政希は俺の言う通り外に出て行った。俺の出した金は受け取らなかったけど。
そして俺は机の上に置いてある携帯をとる。
「もしもし、神霜か? 聞きたいことがある――――」
【事務連絡】
随時加筆、修正を行っておりますのでご了承ください。
連載日は毎週土曜日と奇数週の水曜日です。
これからも感情の境界線をよろしくお願いします!




