近づく真相
生徒会長、神霜三船から衝撃の事実を知った主人公八倉志乃。
しかし彼の自宅謹慎処分はいまだ解けず、これ以上の情報を自力で集めることは不可のだった――――
感情の境界線㉒
「共有が考えている次の計画は君、つまり八倉志乃の社会的抹殺――――」【君に話せるのはここまでだ】
神霜にそう告げられた後、俺は彼の案内の下にクラブの裏口から家に帰った。窓から見える外の景色は夕焼けが終わり夜を迎える準備のできた紫炎に焼ける。それは俺の気分を助長させるかのように数分足らずで空を覆ってゆく。
神霜から言われたことはとても信じられることでも、そして理解できるものでもなく俺は戸惑うばかりだ。ソファから部屋の鏡を見る。そこには紫炎に染まった空を背景に、この上なくダルそうに力なく立つ俺が移る。
「俺、こんなに細かったけ?」
こんなことになるなら真柴なんて追っかけて西条高校にいかなければよかった。
そう思った瞬間、俺は自分の頬を殴った。
「そうじゃ、ないだろ。そんなことを言ってどうすんだよ」
そういって俺は自分自身を無理に奮い立たせるがそれの効果も薄い。
「寝るか」
今日これ以上考えていても得るものはないだろう。神霜に話された内容だけは忘れないように紙にメモをして俺はソファに横になる。
翌日、水曜日。
肉体的な疲労は全くないが目が覚めた瞬間、昨日頭に入った膨大な量の情報がまたしても思い出され、朝から気だるい気分に襲われる。起き上がって軽く伸びをして、母親に似た茶髪がかった髪をとかしに洗面台へと携帯をもって向かう。ロック画面を確認するが通知は一つも無く、なんとなく寂しい気持ちになるがそれはアップテンポの音楽をかけることで紛らわせる。
そういえば今日で学校は一時休校になるんだったな。となれば今日を除いて学校で情報を集めることは物理的に不可能になる。できれば坂上夏帆と小川帆花には接触しておきたかったがそれも叶いそうにない。
「結局今日も何もできないのか……」
自分の持っている情報は政希や山崎よりも格段に真柴、川岸の両事件の真相に近いものだ。本当は伝えるべきなんだろう。けど、どうしても今はそれをする気になれない。
警察はいつまで俺のことを保護観察するつもりだろうか。気になってネットで調べてみるけれど、あまり詳しい情報は得られない。まぁケースバイケースだろうから仕方ない。ドライヤーと櫛で髪をとかし終わった後俺はもう一度携帯を確認し音楽を止め、政希に電話を入れた。
何度か呼び出し音が鳴った後に政希が出る。
「もしもし」
「よ、志乃。なんか久しぶりだな」
「そうだね。最近俺は自宅謹慎だからさ、政希たちにもなんか電話かけづらくて」
電話に出た政希の声はいつもと変わらずクールを感じさせるものだった。久しぶりに友達と通話越しとはいえ話すのはなんとなく泣けてくる気がする。
「俺は全然気にしないけどな」
「あはは。俺が気にするんだよ」
「まあ三日たったから少しはクラスは落ち着いてるよ。この前も志乃は実家に帰ってから休んでたしな。とはいえ真柴はまだ目覚めないらしいな。二人に見舞いに行きたいってやつが結構いて俺たちもいっぱいいっぱいって感じで連絡できなかった。悪いな」
「ううん。政希が誤ることじゃないよ。でも、真柴はまだ目を覚ましてないんだね」
学校ではある程度の情報が学校から回ってくるのだろうが俺にはそういったものでさえ回ってこない。もはやこれは謹慎ではなく、監禁といった方がいいかもしれない。
「そっか。それでどうしたんだ、志乃?」
「あー、あのね…今日さ、うちに来てよ。政希と稔と実咲で。陽太と山崎さんは呼ばなくていいから」
「ってことは能力者のコトだな?」
「うん。昨日さ、警察の目をくぐって神霜から話を聞かされたんだ。さすがに俺たちに味方する気はないらしいけど、重要な情報を教えてくれた」
「わかった。けど俺達が行く時間は少しばらつくと思うぜ? 特に俺なんか今日はリハだからかなり遅くなるけどいいのか?」
「全然。もし二人が帰っちゃっても俺は待ってるよ。三人には絶対話しておきたいしさ」
「おっけ。じゃあ二人にも俺から伝えておくわ」
「うん、ごめんね朝に」
「いや、まあまだ六時台だし」
「あ、確かに」
「じゃあまたな」
そういって通話を終える。まだ、稔や実咲に坂上夏帆や小川帆花については話していないが政希はそうでないことを信じたい。軽音の準備中に見つけた神を持ってきてくれたのはほかでもない政希なんだから。その時俺も教室に入った時に疑わしい人物を観察する、と政希の前で言ったし、鋭い政希なら言わなくても俺と同じような人物に目をつけているはずだ。
今欲しい、坂上夏帆と小川帆花の情報を放課後に得られることを俺は心の底から祈りながら机に座り授業内容の学習を始めた。
放課後。
時計は5時を回り、授業が終わる時間となった。
さすがに政希はまだ来ないとして部活のない稔が一番に来るだろう。そんなことを予想しながら今か今かとインターホンが鳴るのを待ちわびていた。それから数分後、最初の訪問者が俺を訪ねてきた。
「はーい」
扉を開け、最初に現れた人物を見ると、そこには稔と実咲がいた。
「よお志乃! なんか久しぶりって感じだな」【音沙汰ないから心配したんだぜ?】
「もう、うるさい稔。志乃、会いたかった」【連絡は取りにくかったから】
実咲や稔たちはそれぞれ俺のことを心配してくれていたようだ。一応、謹慎前に実咲たちとは焼き肉に行ったがいざ謹慎となるとやはりそれなりに連絡しにくいのは確かにわかる。俺はこんなに心配されていたのにちっともそれに気を向けられなかったのか。改めて考えると情けなくなるが、そうしてる間に実咲が俺に抱き着いてくる。
「志乃、自分だけで背負いこまないでね?」【私に吐き出してもいいんだよ】
久々に触れる人のぬくもりは心地よく、俺もそっと実咲を抱き返す。
「ちょ、俺のこと忘れんなよ?」
「は? ちょっと何見てんの稔。ありえないんだけど!!」【私一人でくればよかったな】
「ふ、ふざけんなよ。人の前でイチャついておきながらなんで俺が責められるんだよ」【理不尽だろ】
「あっはは。やっぱり稔はいいなあ。お前がいると自然と笑顔になれるよ。教室ではみんなの意見をまとめるクラス委員なのにね」
「いや、俺もし六時中あんなんじゃ疲れるっていうか…」【意地悪だな】
「あはは、ごめんごめん。最近笑ってなかったから、ちょっと気が抜けちゃって、ハハ」
「ねえ志乃、最後笑ってなかったよね」【たまにそーゆーとこあるよね志乃】
と、実咲は俺を見上げながらそう言う。
「あー、やっぱ実咲には嘘つけないかぁ~」
「ちょ、それ俺ならいいってことか?」【遊び始めたな】
これから話す内容とは打って変わって実咲と稔との再会は明るいものとなった。笑うことで俺の気持ちも少し和らぎなんとなくあんなに重い話でも自然と口から出る。神霜の能力のこと、今回の犯人と協力関係にあること、俺を共有が社会的に抹殺しようとしてること、そして俺に生徒会入りを求める神霜の考え…
「あ、あのさ志乃」【やっぱりっていうか…】
と稔が口を開く。
「やっぱ、お前の家来たらマジで混乱するわ。前に来た時もそうだったけどまとめて一気に話すのはマジで混乱する」【こまめに伝えないと俺たちもついていけねえ】
それは正論だ。俺はまとめて話す傾向があるのはここ最近でも明らかになっている。
「それで、最初に志乃は言ってたけど、共有ってやつに目星はついてるの?」【会長にも聞かれたんでしょ?】
「ああ、会長にも聞かれたけど、A組にいるってことしか言ってない」
A組といった瞬間実咲と稔の動向が開くのが俺にはわかった。まさかここまで調べてその犯人がA組にいるとはだれも思わない。
「え、ちょ、は? A組にいるのか?」【灯台下暗しってやつ?】
そう言う実咲に対して稔はまた別の印象を抱いたようだ。
「俺たちのクラスにいるのか…」【俺のせい、なのか?】
クラス委員としての立場を持つ稔にはやはり、信じがたい話なだけに実咲以上にショックがあったのだろう。
「ここまで聞いたからもう教えて。誰が怪しいの?」【隠さないで】
「隠すつもりはない。小川帆花と坂上夏帆、だよ」
そう聞いた二人はもう一度瞳孔を大きく開き、俺の部屋には異様な沈黙が走る。
「……私としてはその二人を疑いたくない…な…」【だって、だって…】
「……」【ホントにそうなのか?】
「稔? なんか気になることあるなら言ってほしい」
「いや、その二人じゃないんじゃないかって。だって――――」【志乃の話だともっと疑わしい人がいるだろ――――】
【事務連絡】
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連載日は毎週土曜日と奇数週の水曜日です。
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