夕方の始まり
宿敵真柴が大けがをし、自分は意識を失った主人公八倉志乃。
目覚めた時には警察に身柄を拘束され、尋問される。
すぐに解放されたものの、それは精神を大きく削るものであった。そして夜には登校禁止の連絡が...
怒涛の月曜日は終わり、彼らに火曜日が訪れる。そこにちらつく神霜三船生徒会長の影。
火曜日、八倉志乃が警察から取り調べを受けた翌日。生徒会室。
「ああ、君か。もう行動したみたいだね。」
生徒会室の書斎に座った生徒会長、神霜三船は扉を開けて入ってきた人物を不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
「…」
「真柴薫だけでなく八倉志乃まで手にかけるとはなかなかやるじゃないか。」
一見称賛しているように聞こえるこの言葉には神霜自身にしかわからない小さな怒りが含まれている。
ここで一つ、神霜のことを話しておこう。
神霜三船は生徒会長としてではなく、一人の人間として八倉志乃に興味を持っていた。彼の過去、今の環境、そして彼の能力。
神霜は誰も信用していない。サトウをはじめとする生徒会のメンバーや自分の代わりに情報を集め報告してくる部下、そして現在協力関係を持った目の前にいる人物でさえ信用していない。 彼らは自分に代わる眼でしかないのだ。彼に届く報告などどうでもいい。自分の前に立ち、目を見ればその人物が並べる言葉など何の価値もない。報告は最後まで聞くが、最初に目を見た時点でその人物に思考を割くことなど時間の無駄でしかない。
そんな彼が思考を割くに値すると思った人物こそが八倉志乃なのだ。だから神霜は八倉志乃の行動、つまり真柴薫に関しての調査に協力的だった。ただ、真柴薫に直接手を加える気はさらさらなく、のちに起こるであろうはずだった俺と真柴の闘争を避けるべくして早い段階で真柴薫に君と戦う気はない、と伝えておいたのだった。
だが、いま目の前にいる人物から協力を要請されてから想定が少し狂った。彼女の当初の計画は真柴薫を陥れることであった。そこには当然八倉志乃もいるだろうから、そして多くの生徒が傷つくことが安易に予想できたからこそ、神霜は断るつもりでいた。だが、その動機を聞いて神霜は協力を受け入れた。
「会長、これでしばらく真柴は目覚めません。」
神霜の目の前にいるその人物は冷徹な目をしながら彼にそう言った。A組のクラスにいる時とはまるで違う。
「共有、か。いつ聞いても驚くばかりだよ、まったく。」
「御託を並べるのはやめてください。それとも、八倉みたいに脳震盪でも起こさせましょうか?」
「まったく、血の気が盛んだな。それで、真柴を陥れるのはもう終わったことなのにいまだ君の計画は終わっていなさそうな目をしているが? 次は何をする気だ。」
「協力を要請した時に言いましたよね。もともと真柴だけだったらあなたに協力なんてしてもらう必要はなかったんです。だけど…」
「まったく、これがほんとに協力というのかな。君の言い分は八倉志乃が真柴に協力しようとしているから、だろう?」
「ええ。」
「八倉志乃が真柴に協力する理由は君が作ったんだろう?」
「そうかもしれません。それでもあんなことを経験したのに真柴に協力的な態度をとるなんて意味が分からない。なぎさがっ、あんな思いをしてっ、なのに、なんで真柴なんかに協力できるんですかっ!?」
「まあいい。それで、君は次に何をするんだ?」
「次は―――」
火曜の昼。俺は時間を確認しながら今日やるはずだった授業の内容を勉強していた。昨日の夜、担任の葉山先生からの連絡の後、風呂にも入らずにそのまま寝てしまった。肉体的にはあまり疲れていなかったものの、真柴のあんな姿を見たことや、そのあとの尋問が思ったよりの俺の精神をすり減らしていた。何日登校禁止処分になるかわからないが、少なくとも今週一週間はダメな気がする。今日の朝、ちょうどHRが終わったころの時間に政希に連絡をした。生徒に話されたのは俺と真柴はいまだ目覚めていないということ。それに今週の今週の木曜日から学校が臨時休業になるとのことだった。あの事件のことを聞きつけた一部の親から犯人が見つかるまで学校は休業にすべきだとの連絡がいくつも入ったらしい。当然といえば当然か。
そんなことを考えているといつの間にか手に持っていたシャーペンは止まり反対に頭が回り始める。
昨日のことをよく思い出す、できるだけ詳細に。俺が真柴を呼んだのは昼休みの中盤。場所は南階段の屋上に続く踊り場の所。俺が見た時の真柴の状態は頭から血を流し、肩が外れているように見えた。そうなった原因は警察の話から屋上にあった椅子のパイプだということもわかっている。パイプに指紋はついておらず、いまだ犯人は不明。そして俺が到着したタイミングで真柴は屋上前の踊り場から姿を現し、ためらいもなく転がり落ちた。あの時の真柴の状態はおそらく共有の能力にかかっていたのだろう。正常な人ならばいくらけがを負っているとはいえ、高台から落ちるようなことはしないだろう。
そして一番のポイントは俺の後ろを通過した髪の長い少女。俺が追いかけた時には四階の踊り場を出た角で待ち伏せをされて視界を防がれてた。その後、俺は意識を失った。
この時点でまず外部犯であることはまずない。そして真柴が共有されていたことから実行人物は裏切った能力者であることは間違いない。そしてその人物とは俺の後ろを通った髪の長い女子生徒である。
共有の能力=一連の事件の犯人はその髪の長い女子生徒であることは間違いない。これまで考えた考察から犯人は1-AからCクラスの人物には絞れる。B組は反山崎の勢力がなければまず犯人になりうる人物も、その動機も存在しない。C組は俺と知り合いのやつから反山崎というよりかはむしろ反真柴がクラスの総意となっているらしい。となるとやはり共有の能力者はA組にいるのか…
Aで疑わしい人物は坂上夏帆、野口修也、小川帆花の三人だ。その中で、野口は除いてもいいだろう。野口は俺よりも背が高く、俺の視界をふさいだ犯人は俺よりも小さかった。制服は借りたりすることで、髪はカツラを使うことでいくらでもごまかせるが身長はごまかすことはできない。
残るは坂上と小川か。
「……駄目だな。」
この二人に関して俺はほとんど知らない。話を聞きに行くにしてもそもそも俺は登校できない。それに明日仮に疑いが完全に晴れたとしても木曜から学校は臨時休業だ。かといって実咲や稔に頼んだとしても何を聞けばいいだろう。
八方塞がりだ。これ以上今は考えられない。あと気になるのは会長の動きだ。なぜ、これほどコトが大きくなっても会長は行動をしないのだろう。それとも俺が知らないところで会長はもう動いているのか?
やはり、学校にいけないことはこの調査において大きな弊害となる。
警察からも、学校からも何の連絡がないまま時間は過ぎてゆき、夕方になった。
何もやることがなく、本棚の肥やしを読んでいたところに携帯の電子音が耳に入ってきた。陽太からだ。山崎と陽太は今日にも生徒会長に相談(形だけだが)に行くといっていたな。
「今日神霜会長と話してきた」
「会長はできる限り協力するって言ってたぜ」
会長が、俺たちに協力する?!
俺は携帯を取り上げてこのメッセージを見た時、目を見張った。前も考えたが会長は危険分子は絶対に放置せずに自ら調べ上げるか、接触するか。どちらにせよ、会長は情報を収集するはずだ。なのに、単に協力するだけだとかなり違和感を感じる。
「マジか」
「それ以外になんか言ってたか?」
「マジっぽい」
「んと、志乃のことは隠してたけど八倉君が調べてるよねって聞いてきた」
俺が会長と接触したのは病院で入院してる時が最後になるがそれにしても会長は耳早いな。そんなときに俺に電話がかかってくる。
「わり、ちょっと電話かかってきたわ」
陽太とのメッセージを一度止め、電話の画面に携帯を切り替える。
相手は神霜三船。
「はぁ。」
一度深呼吸をしてから俺は電話に出た。
【事務連絡】
随時加筆、修正を行っておりますのでご了承ください。
また、最近は一話から登場人物の描写を少し詳細に描いておりますので気になる方は見ていただけると幸いです。(現在は2話まで)
連載日は毎週土曜日と奇数週の水曜日です。
これからも感情の境界線をよろしくお願いします!




