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感情の境界線  作者: めだまやき
第一章 交錯する声音
12/30

やるべきこと

静かな日曜日。平和に過ごすはずだった主人公を世界は休ませてくれない。記憶という悪戯に意識を向けさせられ、宿敵の家へと向かう。

宿敵を問い詰めるうちに見えてくる真柴強盗事件の背景、山崎夏乃やまざきかのに対する計画。


第一章の終了ということで気合入っちゃいました。


 会長から真柴の住所を聞いた俺は真柴の家に行くため駅に向かう。これ以上あいつの被害者が出るのはもう許さない。真柴の家は一本電車を乗り換えて三十分ほどで着いた。

小さなアパートの階段を一歩ずつ踏みしめて真柴の部屋の前に着く。一度深呼吸をした後俺はインターホンを押す。

「はい。」【こんな日曜にだれだ?】

 何も知らない真柴は学校では予想できない起きたばかりの寝癖が付いたまま玄関から出てきた。そして俺の顔を見た瞬間その眠そうな顔は変わり目に冷たい眼光が宿る。

「おまえ、なんだよ八倉。」【なんでテメーがここにいる】

 強盗の一件で俺に対する態度が少し変わったと思えば全くそんな様子はない。

「なんだよ、だって? 人一人殺めかけといてよくそんなことが言えるな?」

 俺が出した声は思っていたよりも大きく、小さなアパートの通路ではほかの住人に聞こえるほどだったらしい。昼の買い出しだろう主婦たちの視線が俺たちに集まる。

「は? 何のことだよ。とりあえず入れ。」【ふざけやがって】

「ああ。」

 こんなことで目立つのはごめんだとでも言わんばかりの表情を俺に見せ、最低限の反対をしたところで俺を部屋に入れる。

こうゆう小さなことが完璧にできるからこそ人はこいつに騙されるんだ。ここで映る真柴の行動すべてを嘘偽りだと否定したくなる衝動を抑えながら俺は真柴の部屋に入る。

その部屋は1DKのリビング4帖ほどの小さな部屋だった。机とベット、そのほかはほとんど物がなくシンプルな部屋だ。

「おいおい、突然押しかけてきたと思ったらお前なんてことしてくれたんだよ。」【お前マジで覚悟しろよ?】

「は? 覚悟するのはお前の方だぞ?」

「さっきも言ってたがどうゆうことだ? 俺は人を殺めたりなんかしてない。」

 話がいよいよ始まるであろう時に部屋に扉がノックされる。

「ああ、もう今度はなんだよ。」

 軽く舌打ちをして扉に向かう。

「真柴君? 大家だけど。」

「あ、大家さん。すみません、さっきのことですよね。ちょっとケンカしてた友達が押しかけてきて。――――はい、そうゆうことはないんで大丈夫です。――――はい、ご迷惑おかけしました。」

 つぶやいてのは部屋の中で小さくだった。おそらく大家には聞こえていない。大家が来た瞬間人格が豹変し、しかもそれが崩れない真柴には凄みすら感じられる。

 部屋の中に戻ってきた真柴はさっきの真柴とは全く違い、座っている俺を睨みつけている。

「それで、なんだよ? ここで騒がれても困るし話だけは聞いてやるよ。」【それ以上はない】

「ずいぶん上からだな。」

「当たり前だろ? で、なんだ。俺が殺めたとか言ってたよな。」【何のことだか】

 真柴と話すときに感情を読んだところで本心じゃないことは今までの経験から十分わかっている。だから感情に焦りが見えても、隙が見えてもそれは本心じゃない。少なくとも俺と話しているときはそうだ。となると本心を読み取る重要なファクターは表情……。

「ああ。お前、B組の山崎夏乃をはめようと、いやハメたな?」

 山崎夏乃のことを口にした瞬間真柴の表情は少し歪んだように見えた。が、それだけでは確信にはならない。

「へぇ、知ってたのか。大方如月あたりから聞いたのか?」【悪いがお前の人脈は考察済みだ】

!? なるほど。こっちが真柴を警戒するなら真柴は俺を警戒するのは当然か。

「ああ、そうだ。陽太から聞いた。けどそんなことはどうでもいい。」

「へぇ? なかなか冷たいんだなぁ、八倉君。せっかくお友達が教えてくれたのに。」【陽太ねぇ】

「言っとくけど俺にもう一度手を出すんだったら覚悟しとけよ?」

「おお、怖い怖い。」【いつでも出せるんだぜ?】

「もういい真柴、はっきり言おう。お前の協力者は川岸を殺しかけた。」

 ここで言い合っても話は始まらない。一方的に俺が遊ばれるだけだ。

「はっ、川岸を殺しかけた? 何を言い出すかと思えばそんなジョークかよ。笑えねぇ」【あいつ、何考えてんだ…】

 素早く話題を転換したことが功を奏したのか川岸のことを口に出すと真柴のトーンが変わった。言動はいつも通りだが、表情の乱れまでは制御できていない。動向が少し開き、明らかに動揺している。

「川岸は今入院してるんだぜ? しかも集中治療室で。それでもジョークって言ってられるのか?」

「なるほどな。お前の言いたいことは分かった。だから殺めただのなんだの言ってたのか。」【もちろんそれだけじゃないよな】

 少しぐらついたとてそれは一瞬に過ぎない。何度も揺らがせ、全てを吐かせることができたその先に真柴の本心、すなわち目的が見えてくるはずだ。

「というか川岸のことまで知ってるのか。なかなかやるじゃねーか。」【協力者は知らないみたいだな】

 今の感情は意図的なのか、それとも無意識なのか。感情を意識的に起こすなんて常人じゃまず考えられないが、真柴はそれを軽くやってのける。

「わかってるのか、真柴? お前はたとえ間接的であったとしても人を殺しかけたんだ。」

「それが俺の意思じゃなかったとしても、か?」【どうするのが最善か…】

「お前の意思じゃない? どうゆう意味だ?」

「お前もわかってるんだろう? 俺がそんなリスク高いことやるわけないって。」【そこんところは痛いほどわかるんだろ?】

「……」

 的確に、一番聞かれたくないことを真柴はこの状況から導き出す。本当にこいつは常人か? こいつのトークスキルは能力を疑ってもおかしくはない。

「だよなぁ。その通りだ、八倉君。」【惜しかったな】

 さっきの動揺の様子はどこかへ吹き飛び、余裕の表情で立ち上がり、キッチンに向かいながら真柴は言った。

 クソッ。確かにまだ証拠も得ていないし、協力者だって暴けてない。このままだと…。いや、それはダメだ。何とかして真柴を止め…?!

 待てよ? 真柴を止めるよりもやることがあるんじゃないか?

――――俺の意思じゃないにしても、か? 

――――俺がそんなリスク高いことやるわけないって

――――助けてくれ八倉、もう何が何だか……

 まさか、真柴の協力者は真柴を裏切ったのか。そして真柴は俺に助けを?これをあいつにぶつければ何か情報を得られるかもしれない。けど、これすらもダミーだとしたら相当手痛い。

「面白そうな顔してるなぁ?」

 考えることの没頭するあまり真柴が戻ってきたことにすら気が付かなかった。

 でも、行動しないことには何も始まらない。そんなときにスマホが着信音を鳴らす。実咲?

……なるほど。

「おいおい、もしかしてお前裏切られたのか? あの、人の上に立つことが生きがいの真柴君が?」

 あえていつも取らない煽る口調で話した。真柴が乗ってくるかどうかはわからないが少しでもイレギュラーを発生させた方が人の判断力は鈍る。

「へぇ? 何かわかったのかと思えばそんなことか。失望だな。」【おもしろい】

「感情が制御できてないぜ? お前らしくもない。」

「おっと、俺としたことが。まぁ、落ち着け。お前の考えてることを聞かせろ。」【話はそれからだ】

「ああ。まず、なんでBの山崎夏乃をハメたところから話そうか。」

 言動と感情が一致していない。表情も言動と合っていない。これはチャンスだ。俺は勢いに任せ、思いつくがままに言葉を口にしていく。

「まず、お前は西条高校に入った時点で俺たちの学年の覇権を狙ってたんだろ? そして中学と同じように情報を集めると同時に自分の知名度を上げていった。Bの山崎夏乃はそんなお前に唯一対抗できる頭脳と知名度、信頼の持ち主だ。お前が狙わないはずがない。そしてお前は俺の時と同じように山崎をつぶそうとした。精神的にな。そのあと山崎夏乃が川岸健人と付き合ったことを知るとお前はそれを利用したんだ。川岸を陰湿なイジメに合わせ、協力者の一人はそれが山崎のせいであることを噂する。自分のせいで川岸がいじめられていることを知った時の山崎の心境は絶望だろうな。そのあとはお前の前に山崎を呼びだして完全に折る、つもりだった。」

「だった、か。」【含みがあるな】

 一気に話して乾いた唇を真柴が入れたお茶で潤し、もう一度話始める。熱が冷めないうちに。

「そうだ。お前の計画はここで頓挫した。その協力者は最後の仕上げに川岸を精神的にではなく肉体的に陥れた。階段から突き落として。この時点でお前はその協力者に裏切られた。時系列で考えると、川岸が落とされたのは俺が入院した日。おそらくお前の計画では山崎を折る日だったんだろ? だがその前に川岸が落とされた。その時に山崎を折れば自分が犯人だと名乗り出るようなもの。

結果的にお前は山崎を折るのをやめたわけだ。そしてその日の放課後、お前は身に覚えのない意志で強盗を働いた。多分、お前の協力者の手で。」

「嘘を見破ってたのか? あの時点で。」【嘘だろ?】

「そう、お前は俺に会いに来たときに政希に嘘をついた。話しをしていて急に意識が飛んだ。演劇部の被り物を被ってたから誰だかは分からないと言ってたがさっき連絡があってな。その日演劇部は活動してなかったんだ。活動日以外は部員たちが衣装を倉庫にしまい、カギは持ち帰っている。活動中に盗むにも無理がある。つまり被り物なんか被っていなかったんだ。お前は協力者に呼び出され、話をしていた。違うか?」

「そんなこと、よくわかったな。」【ごまかしようがないな】

「それで、協力者は誰だ? そいつも能力者なんだろ?」

 尋問に近いが俺なりに真柴に協力を申し出ているつもりだ。

「ああ、能力者だ。能力は共有コントロール…」【俺にもやるべき時が来たな】

「真柴、お前の俺にやったことはひとまず忘れよう。俺と―――」

「悪いが、帰ってくれ。俺にはやるべきことがある。」【時間が惜しい】

「は? おまっ」

 考えられない、そう思った瞬間には真柴は俺を玄関まで引きずっていた。体格でかなうはずもなく俺はそのまま玄関の前に放り出されてしまった。


事務連絡




更新は毎週土曜日の夜を目安としております




随時加筆、修正を行っておりますのでご了承ください

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