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感情の境界線  作者: めだまやき
第一章 交錯する声音
11/30

日曜日、その扉の先

久々の部活が終わり、仲間とともに出かけた主人公、八倉志乃。そんな中、電話をしながら泣いていた

B組の山崎夏乃やまざきかのを目にする。その後同じB組の如月陽太きさらぎようたに話を聞くとある事件を聞かされる。その背後にいるのが宿敵、真柴薫と確信し訪れた日曜日。


 陽太と話し終え、家に着いた俺はまず実咲に連絡を入れた。山崎夏乃は学年全体でもかなり知名度は高い方だし、それなら実咲とも少しは交流があってもおかしくはない。

「山崎夏乃って知ってる?」

 もう夜遅かったこともあり、メッセージはすぐに返ってきた。

「知ってるよ、なんで?」

「部員から聞いたんだ。B組が大変なことになってるって。」

「もしかして川岸君のこと?」 

 もともと知っていたのか、山崎夏乃の関連のことで推測したのかは定かではないがそれでも的確に俺の考えていることを当ててくる。

「そうそう。川岸は今入院してるらしいよ。」

「入院!?」

「ああ。」

「ちょっと待って、今電話しても平気?」

 メッセージでやり取りするよりも通話の方が早いのは明らかだ。

「大丈夫だよ。」

 送信を押したのとほぼ同じタイミングで携帯からコール音が鳴り響く。

「もしもし?」

「もしもし?すこし早かったかな?」

「そんなことないよ。」

「よかった。それでもしかして川岸君の入院が夏乃に関係してるの? あの二人が付き合ってるのは知ってるけどさ。」

「ああ、おそらく関係してる。昨日俺は山崎さんが病院にいるのを見たんだ。無断遅刻だったらしい。」

「あの真面目な夏乃が無断遅刻!? それは確かに関係してるのかもね。」

「やっぱりそうか。さっき部活終った後にB組の如月が話してくれたんだ。なにやら陰湿な嫌がらせを受けてたらしい。それもクラス外の人たちからな。」

「ちょっと待って、クラス外ってなんでわかるの?」

「川岸はなかなか頭のキレる人らしい。さっき言った如月はその川岸が自分がいじめられてることを打ち明けられた奴なんだ。それで如月はB組のクラスメイトを観察してたらしい。」

「なるほど~。それなら確かにB組の人は白かもしれないね。」

「ああ。そこで考えられるのは……」

「真柴君ってわけね?」

「たぶんな。ただ、あいつにしては足の着くやり方なんだよな。」

「足の着く?」

「川岸が入院に至った原因だよ。川岸は階段から落ちてけがをしたんだ。しかも全身骨折ってくらいだからかなり段数はあったんだろう。」

「全身骨折って......」

 さすがにここまで聞いて実咲は口を閉じかけていた。無理もない。これだけドロドロとした、しかも下劣な話を聞けば誰だって気分は悪くなる。実際、口に出して話している俺もかなり精神的にきている。

「大丈夫か?」

「うん。ここまで聞いたら何とかしないとねっ。」

「そういってもらえると心強いな。」

「あはは、まぁね。あ、でも真柴君ってそこまでするのかなぁ? さすがにリスク高すぎない?」

 実咲の言う通りだ。中学の時は俺を人間不信に陥らせるという精神的なものであったが、今回のものはそれに真っ向から背く肉体的はもの。山崎夏乃に限って言えば精神的なものといえるがそれにしてもリスクはかなり高い。

「そうなんだよ。あまりにもリスクが高すぎる。特にこの学校では生徒会長にそれが知られたら一発アウトだ。」

「ってことは…」

「協力者。」

「う~ん、そうゆうことかぁ。じゃあ私がやることは夏乃からそのことを聞いて協力者を探すってことだよね?」

「ああ、話が早くて助かるよ。頼めるか?」

「もちろんだよ。夏乃とは小学生の時からの付き合いだもん。」

「そっか。じゃあ頼むよ、俺は真柴のその時の動きを少し探ってみる。」

「おっけ~。じゃあそろそろ…」

「ああ、お休み実咲。」

「またね。」


そうして俺は実咲との通話を終える。とりあえず、これで状況は整った。陽太の話を聞いた限り、川岸へのいじめは断続的なものなのはまず間違いない。ということは本当のターゲットであった山崎夏乃の状態を報告する人物が協力者で間違いないだろう。ならばその協力者は女子かもしれない。ただ、他クラスにここまでしてくれる協力者を作ることは可能なのか? 少なくとも俺にはできない。だが、真柴にとっては造作もないことかもしれないな。

一つ言えることは川岸を階段から突き落としたのは真柴本人ではないということ。あいつは自ら手を下さない。俺の時も噂を流す、という初動は起こしたがそれ以降は一切関与していない。自然に噂は流れ続け、俺の評判は終わった。(もちろん、俺の時の決め手は真柴との会話だったが)

時計を見ると午後10時を回っている。俺は夕食を食べていないことを思い出し、キッチンへと向かった。


翌日、日曜日。

今日は部活もオフのため、俺には予定がなかった。政希はバンド練習にいそしんでいるだろうし、いったん日常から離れてゆっくりしようか。そう思って俺は押し入れの中の段ボールからいくつかの小説を出す。久々に読書をしよう、と俺は心に決めページをめくり始める。

――――山崎夏乃の目には涙が浮かんでいた

――――頼む志乃、助けてくれ

――――俺の邪魔はできないぜ?


日曜の静かな昼、誰もいない小さな部屋で読書を楽しむ……はずなのに。少しずつページをめくっていくごとに、これまでのことが脳裏に浮かんで止まない。決め手には真柴の言葉。

どうしようもなく動きたくなる。俺は読んでいた本を閉じ立ち上がる。そして押し入れから服を出す。俺と同じように上京してきたのだから確か真柴も一人暮らしだったはずだ。もっとも俺と違って真柴は日曜でも忙しいのかもしれないな。(いろんな意味で)

住所は…

しまった住所がわからない。どうしたものだろう。あの頃は俺は真柴が西条高校に行くという噂を知った後、担任に進路希望書を提出して革新を持ったんだったな。あいつの新居なんて聞きだせるはずない状況だったからな。

 焦った俺は携帯を取り出しダメ元ながら連絡先から真柴の住所を知っていそうな人物を探す。その時一人だけ、たった一人だけ目に留まる。

 生徒会長、神霜三船。

 よりによって会長しかいない。会長なら確かに知っていそうだが、会長か。電話をかけるにしても相応の覚悟が必要になる相手だな。真柴のところに行くにはそれしか手がないとはいえ、ここで神経をすり減らしかけない。できるだけ簡潔に、そう決めてコールボタンを押す。

 コール音が重なる度、心臓の拍動が速くなっていくのを感じる。

「誰かと思ったら珍しいお客さんだな。」

 神霜会長はまるで自分の部屋に俺が入ってきたかのような口調で電話に出た。

「こんにちは、会長。」

「そんなに改まらなくてもいいよ。して、どうしたんだ?」

 前にも思ったが電話越しでは感情は聞こえないため、俺にとってはかなり不自然な感覚だ。会長と話す場合には感情を読むというアドバンテージがあったからこそ探り合いで対等に話せていた部分があったが、電話ではそれが一切ない。

「大した用事ではないんですが、単刀直入にききます。真柴の住所を教えてもらえないでしょうか?」

 下手に探りを入れられないように簡潔に、話を済まそうとする。

「真柴君の? 知らないけど調べることはできるよ。ただまあ、理由くらいは聞いておこうかな。」

 当然といえば当然か。人にそう簡単に他人のことは教えない。そんなのは当たり前だが、この場合はその当たり前がつらい。

「ですよね。知っていると思いますが真柴は強盗でかなりクラス、学年の信用を失っています。一応同じ中学の卒業生として聞いておきたいこともありますし。」

「へぇ? それをわざわざ本人の家に行って聞く必要はあるのかい。この前病院に僕が言った時は必要ないと判断したんだけど。君はもうそのことについて詳しく知っているだろう?」

 しまった。確かに病院で会長は俺にそのことについて話そうとしていた。それを今になって本人に聞きに行くと知られては。

「……」

俺は意図せずして沈黙を貫いてしまった。

「まあ、いいよ。そのことについては目を瞑っていよう。少し待ってくるかい?」

「……はい。」

それから少ししてもう一度電話がかかってくる。

「やあ八倉君。調べてきたよ。彼の住所は――――だよ。」

「ありがとうございます。」

 簡潔に、簡潔にこれだけ話した後俺は電話を切る。携帯でその住所を確認した後、俺は扉を開く。


聞き出しに行こう。もうこれ以上あいつによって被害が出ないように。説得するわけじゃない。探るわけでもない。ただただ現実を突きつけるためだけに。


随時加筆修正を行っております。ご了承ください。


【お知らせ】

来年一月より水曜日と土曜日に更新を行うことにしました。

より一層感情の境界線を応援していただけると幸いです。

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