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感情の境界線  作者: めだまやき
第一章 交錯する声音
10/30

B組の事情

晴れて退院した主人公、八倉志乃。

久々の部活では部員たちの温かい声に新鮮味を感じる。


そんな中、前日病院で見たマネージャーの山崎夏乃やまざきなつのを気にする。

B組の真相と宿敵真柴の関係はいかに...


 帰郷して、戻ってきてから初めての土曜日。

 俺は朝起きると7時半から学校で始まる練習に向かう。今日は練習試合の日だ。まだ俺は1年だし、退院明けってこともあってほとんど役割は雑用だろう。これはむしろありがたい。雑用はやることは多いが短時間で終わるものがほとんどだ。つまり空いた時間は自由に動ける。

 部室に着くと、部員たちは俺の体を気遣ってくれた。この部は嫌味な人はおらず、俺にとってもかなり楽しい部活だ。練習試合ってこともあって3年の先輩はかなり気張っていたが、それでも俺に心配の一言をかけてくれた。中学の頃にも部活には入っていたがあの一件以来行くことはなかったのでこういった交流は俺にとって新鮮そのものだった。

 案の定俺の仕事は雑用というかほとんどモップ掛けだった。1年生同士の試合もあったが顧問は俺には休んでいるよう言った。試合に出たい気持ちもあったが仕方ない。

 練習試合、片付けも終わったところで時刻は2時を回っていた。まぁ、午前に始まったこともあって終わるのは早い方だ。1年に部員の一人、如月陽太きさらぎようたはこの後ボウリングに行かないか? と俺と数人を誘っていた。そして俺たちはマネージャーを含め8人でボウリングに行くことになった。そのメンバーの中で俺は昨日見た山崎夏乃の様子が少し気になっていた。彼女は昨日はなぜ午前中からあんなに思いつめたような顔をして病院にいたのだろう。今日は全くその様子は見えないが、何か抱えているのかもしれない。

 駅前のボウリング店に俺たちは入ると、陽太は俺たちにスコア勝負の話を持ち掛けてきた。部員たちはノリノリでその勝負を受け、いよいよボウリングが始まる。

 始めてから少しして俺はトイレに行った。

「――――っえ、うん。わかった。」

 戻るときにかすかに店の裏口から声が聞こえてきた。気になって見に行くと電話をしていたのは山崎夏乃。さっきとは表情が一変し、病院で見た思いつめた顔つきになっている。

「ねぇ、山崎さん。どうかした?」

 さすがに心配なので声をかけてみた。

「あ、八倉君。どうしてここに……」【なんで】

「いや、トイレから出た時にちょっと聞こえちゃって。昨日病院にいた時もそんな顔してたよね。何かあったの?」

 昨日のことを出した瞬間、彼女の眼には涙が浮かんだ。

「あ、はは……そういえば昨日まで入院してたんだよね八倉君。見られてたんだ。」

【あんま見られたくなかったところかも】

「うん、昨日は偶然病院のロビーで見つけたんだ。」

 彼女は何か言いたげな表情をしてた、その時

「おいおい、志乃~駄目だよ山崎さんは。彼氏持ちなんだから~。」【志乃山崎さんだったのか~】

「いやいや、そんなんじゃねーよ。だよね?」

 陽太もトイレだろうか。タイミング悪く俺たちに突っ込んでくる。山崎さんに助けを求めるが彼女は依然目に涙を浮かべたまま何か言いたげな表情のままだった。

「っておいおい、泣かしたのかよ志乃? お前それはないわ。」 

【え、マジで? なんかの間違いじゃねーのか?】

「いや、泣かせてないから。あと俺も彼女いるからな?」

「あ、まじ?」【待ってヤバい】

「大マジだぜ?」

「うわぁ、ホントごめん二人とも。なんか大事な話の途中だった? ごめん、俺消えるわ」

【やらかしたぁ】

 何か事情があることを察したようで陽太はごめんを連発しながらトイレに走りこむ。

「えっと、大丈夫?」

 とりあえず俺はもう一度山崎さんに話しかけるが果たしてかける言葉として大丈夫はあっていただろうか。

「うん、声かけてくれてありがと。」【迷惑はかけたくない】

「いや、なんかごめんね。変なことになっちゃって。」

「全然平気だよ。」【川岸君大丈夫かな】

 ん? どっかで聞いたことあるな。川岸……あ、山崎さんの彼氏か。大丈夫かなって土居ゆうことだ? でも聞くわけにはいかないよな。

「八倉君?」【どうしたの】

「ああ、いや。じゃあ俺はもう戻るね。」

「うん。」【途中で抜けないと】

 俺はまた勘違いされるのを避けるため先に戻ることにした。ただ、少し川岸については気になるな。確か陽太は川岸と同じB組だったはず。あとで陽太に聞くか。


 7時半を回ったところでボウリングは幕を閉じた。盛り上がった後に疲れはどっと来るもので、練習試合の後ってこともあってみんなぐったりとしていた。俺たちは駅で別れた後、方向の一緒の陽太に声をかける。

「陽太、この後飯食いに行かないか?」

 もちろん突然のことだから断られるつもりでいた。だけど飯じゃなくとも話を少し聞きたかった。B組の、特に川岸のことについて。

「今からかぁ~さすがに手持ちが少ないんだよな。あ、もしかしてさっきのことか?」

【あんときは悪かった】 

「ん~それもあるけど、ちょっと聞きたいことがあるんだ。飯は無理なら少し飲み物でも飲みに行こーぜ? ほんとは俺もあんま手持ちないんだ。」

「なんだよ。最初からそう言えって。それなら断ることもないしな。んじゃとりあえずそこのサ〇ゼでも入ろうぜ。」【安いし】

「ああ、そうしよう。」

 サ〇ゼに入った俺と陽太はとりあえずドリンクバーとデザート一つを注文する。

「それで、どうしたんだ?」【最近変なことばっか起こってんだよな】

「さっきさ、山崎さん泣いてたじゃん? それでさ、川岸が関係してんのかな~って思って。」

「いや、お前それ聞いてどうすんだよ。確かに俺B組だから何があったかは知ってるけどさ、俺たちにはどうにもできないと思うぜ?」【俺も何とかしたかったけど】

 陽太はさっきまでの陽気な様子から一変し真剣な目になった。口はきゅっと閉じ唇をかみしめている。どうやら陽太も自分なりに動こうとしていたらしい。

「陽太、お前らしくない。一人でどうにもできなくなったなら俺に話してくれよ。クラスは違うけどやれることがあるかもしれない。なにがあったんだ?」

「……」【話して…いいのか?】

「陽太! 頼むよ。」

 口を閉じた陽太に俺はもう一度頼む。

「わかった。志乃、助けてくれ。」【もうおれ一人じゃ背負えない】

「ああ、もちろんだ。」

「ありがとう。じゃあ、川岸のことから話すよ。川岸はさ、今入院してるんだ。志乃とおマジ病院で。」【なんであいつが...】

 陽太は少しずつ、後悔を吐き出すように話し始めた。

「川岸が、入院してる? でも俺病院で見てないよ。」

「当然だ。あいつはその時集中治療室にいたんだからな。」

「集中治療室!? 何があったんだよ…」

 陽太がここまで口を閉じる理由がわかった気がした。ただそんな重症になる理由がわからない。

「おとといの木曜日の夜、部活の帰りに階段から落ちたらしい。15段落ちて全身骨折だったらしい。俺も詳しいことは分からないけど大手術になるって聞いた。彼氏がそんなことになってるんだ。夏乃が昨日は学校無断遅刻して病院行ってたんだ。」【川岸…】


 山崎さんが昨日病院にいたのはそういうことか。

「なるほどな。陽太はその前に何かしてたんだろ? どうして動いてたんだ?」

「実はさ、川岸俺に言ってたんだ。夏乃が誰かに手を出されてるって。手を出すってのは恋愛沙汰じゃなくて戦略的な意味合いだとも言ってた。それで俺は夏乃の周りを調べてたんだ。でも観察してみるとなにかと被害にあってるのは夏乃じゃなくて川岸の方だったんだ。でも、それに気付いた時には川岸はあのありさまだった。俺が、俺がもっと早く気付いてれば川岸は…」

【全部俺の……】

 陽太は一気にそう言って頭を抱え込んだ。持ってきた飲み物はほとんど減っていない。

「そうだったのか。陽太、抱え込むなよ。話してくれてありがとな。俺はその誰か、に心当たりがある。」

 山崎夏乃はB組だけじゃなく学年全体で見てもかなり人を動かす力のある人物だった。そんな人物を直接ではなく間接的に狙い、その人物を陥れる、か。聞いたことのあるいや、体験したことのある話だ。真柴、あいつの可能性が高い。

「ほんとか、志乃。」【話を聞いただけなのに】

「ああ、俺も少し調べてみる。川岸のことは俺に任せてくれ。あ、あとクラスで山崎さんと仲のいい人はもう少しだけ観察しておいて。また同じことになったらさすがに...ね。」

「わ、かった。ついでだけど、川岸はあれより少し前からほかのクラスのやつから嫌がらせを受けていたらしい。それも結構陰湿なもの。」【川岸の荷物の中身みてわかったんだ】

「そっか、わかった。それとの関係も調べてみるよ。つらいこと話させて悪かった。」

「いや、俺の方こそ。少し楽になった。ありがとう志乃。」【頼むな】

 話し終えた俺たちは店から出て帰った。


 


事務連絡


更新は毎週土曜日の夜を目安としております


随時加筆、修正を行っておりますのでご了承ください

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・いい感じにミステリー具合が増してきて、安心して考察できる。 [気になる点] 登場人物の外見的な特徴を文章で伝えれば、人物像をよりイメージしやすいかもしれません。 [一言] 今後も執筆頑…
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