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感情の境界線  作者: めだまやき
第一章 交錯する声音
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奇妙な助言と少女

何者かによって脳震盪をおこし、いまだ入院生活を送る主人公八倉志乃。

入院生活最後の日に彼が見たある人と意外な来客とは...


 時系列は数時間前に戻る。それは八倉志乃が倒れた日の昼のこと。

1年R真柴薫はその日の昼休み、ある人物を屋上前の階段に呼び出していた。真柴はこの人物を使って自分のある計画を完成させようとしていた。サトウが生徒会長にそのことの一部を話したことは彼にとってショックであり、想定外でもあったがそれで計画が遂行できないわけではない。

 影響があるとするならばコトが済んだ後のこと。彼の性格はそれを知る人(八倉志乃など)から言わせれば本性は計画的かつ冷徹な性格の持ち主である。しかし、そんな彼の内心は西条高校のトップに君臨する生徒会長、神霜三船が自分に関わってきたあたりから珍しく、いやほぼ初めて熱くなっていた。彼がこの西条高校に進学した理由の一つでもあった生徒会長とここまで早く対峙することをだれが予想しただろう。今の彼の中ではそれが最大にして唯一のモチベーションだった。

 そして迎えた昼休み。計画の完全な遂行のための最後の仕上げだ。心躍る中、彼はいつものように自分に優等生の仮面をかぶせる。階段を上っていくとすでに呼び出していた人物は到着していたことに気付く。

「わざわざありがとう〇〇。」

 優等生を被った彼はいつもの笑顔でその人物に声をかける。

「は? マジその笑顔キモいからやめて。あと頼んどいて待たせるとかないわー。」

 待たせていた人物は笑顔で彼を罵る。

「ああ、じゃあ俺もこのトーンで話そうか。」

 彼は一人称を僕から俺に変え、さっきまでと一変して高圧的な態度をとる。

「あと、別に俺からお願いって頼んだ覚えはないんだけど?」

「いやいや頼んだでしょ。記憶いいように変えんなって。」

 彼女は態度の変わった彼を見て微笑を浮かべながら立ち上がって言った。背格好は彼と比べかなり小さいがその目から覗く眼力は見誤ってはいけない。お互い表の仮面をはずし話は本題へと移る。

「山崎の様子はどうだ?」

「ええ、かなりキテるわね。そりゃあれだけ彼氏が痛めつけられて、しかもそれが自分のせいだってわかったら誰だっておかしくなるわよ。」

「そうか。川岸もいい頃合いだ。そろそろ動けるな?」

「ええ。今日中には伝えておくわ。」

「そうか。頼む。」

「はいはい。じゃ、私もう行くから。」

 そして声をかける暇もなく彼女は立ち去っていく。彼女を見送った後、一度階段に座り優等生に戻る。

 これで最大の邪魔者がいなくなる。あいつ以外に俺と対等に渡り合うやつはこの学年にはもういない。つまり俺がこの学年を仕切るしかなくなる。なんと素晴らしいことだろうか。人の上に立ち、人を使い自分の業績とする。

この時の彼は放課後にあんな結末を迎えるとは全く思っていなかった。


 日付は変わり金曜日。

 俺は慣れない病院のベットで目を覚ますという奇妙な一日の始まりを経験することとなった。正直言って暇を持て余している。昨日の出来事に対し考えを深めることもできるが、それをやったところであまり意味はないだろう。事態は刻一刻と進んでいるはずだ。

 いまだに意図をつかめないサトウと生徒会長に、真柴の強盗事件。自分で動きたいのはやまやまだが保険の先生に安静にしろ、と言われた以上そうするのが賢明だろう。

 病院ではあまり人とは会話しないため、感情が俺に聞こえてくることはほとんどなかった。久しぶりに感じたつかの間の「普通」の生活。今日はゆっくりとするしかなさそうだ。

 そんな矢先、病院のエントランスに知り合いの人物の顔が見えた。1-Bの山崎夏乃(やまざきかの)、確かB組のリーダー格だ。あまりしゃべらず不思議な雰囲気をまとっているらしいが彼女の周りには自然と人が集まるようだ。

 こんな平日の朝早くから、病院に来るのはかなり不自然だ。よく見ると彼女はとても暗く、人と会話できそうにない表情をしていた。あの時の俺とよく似ている表情だと思う。なんとなく気持ちがわかる気がするが、わざわざ病院に来たということはカウンセリングでもするためだろうか。ああいうときは人に声をかけてもらいたいものだが、カウンセリングを受けるならば下手に接触しないほうがいいかもしれない。

 夕方になると学校が終わった実咲はや稔、政希たちが俺の見舞いに来くれた。今日は大した動きはなかったようで昨日以上の情報は得られなかった。


 その日の夜。午後9時を回ったころに俺の病室に人が現れた。

 神霜三船。意外過ぎる来客に俺は少し戸惑ったが、ロビーで話したいといわれたのでロビーに向かった。

「遅くに済まないね、八倉君。」【生徒会で遅くなってしまったよ】

 神霜会長は俺の能力を知らない。ここは探りを入れるよりも会長の真意考えた方がいいだろう。

「いえ、今日は暇を持て余していたところなので問題ありません。」

「そういってくれると助かるよ。して、早めに要件を済ませておこうか。」【できるだけね】

「急ぎのことなんですか?」

「いや、そういうわけではないんだけどね。」【あまり長くは外で話したくないんだ】

「――――ん?そういうことか」【これは驚いたな】

「え、どうゆうことですか?」

「いや、少しね。まぁそれはさておき昨日のことは知ってるかい?」【知らないわけないか】

 真柴は解決したといっていたが、サトウのいるR組なだけあってさすがに把握が早い。しかも俺が聞いていることも知ってるとは……

「さすが生徒会長ですね、耳が早い。真柴のことですね? もちろん知ってます。それがどうかしたんですか?」

「いや、特にそれといった変化はないんだけどね。」【君は興味深いな】

 いまいち会長の意図がつかめないまま会話は一向に進まない。

「一つだけ。これだけは言っておくと、今回のことについて僕は真柴君と戦う気はない。それだけ言いに来たんだ。ほかにも話すつもりだったけど君には必要なさそうだね。」【また来るよ】

「いや、待ってください……」

 そういった会長は俺の返答を待たずして帰ってしまった


 どういうつもりで来たのだろうか。会長と直接話したがやたらに目が合った。そこに多少の違和感を覚えたが、目を見ることでその人の考えてることがわかるといわれるくらいだから不自然ではない。

 そんな会長との一件を終え、自分のベッドに戻る。今日は分からないことが多い。B組の山崎のこともそう出し会長もそうだ。とにかく、明日になれば俺は晴れて退院できる。ベッドに横になりながら忘れていた重要なことについて考える。


――――新たな能力者がいたとするならばその能力はなんなのか?


今ある情報としてはその能力は触れるだけで俺に脳震盪を起こさせ、しゃべるだけで意識を奪える代物。……いや待てよ?

本当に俺は触れられただけか? あの時後ろに意識を向けたから俺は後ろから人に触られたことが分かったのだ。ってことはその人はただ触っただけ? それとも能力を隠すための工作か。何かしらの能力があるならばそれは隠そうと思うのが自然なはずだ。

真柴はその人物と話したら記憶がその後から抜けていたといっていたな。つまり、能力にかかっている時間の記憶は抜けるのか? となると俺もその能力にかかっている間の記憶はなかった可能性が高いな。もしその間に脳震盪を起こすような挙動をとったのなら……

ありえない話ではないが少し話が飛躍しすぎかもしれない。考えれば考えるほどわからなくなってくる。

そんなことをしているうちに消灯時間になってしまった。明日は部活に出て、その時間に情報を集めよう。そう考えながら俺は寝た。


今回の投稿は先々週の休載分になります。お待たせして大変申し訳ありませんでした。

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