手の平を太陽に
「よーし、やるぞー」
眼下に島を見下ろしながら声を掛ける。
「いつでもどうぞー」
「えへー、たのしみー」
「ですよー」
「クル、俺たちを落とさないでくれよな」
「KRRRRRR-」
耳には龍化したクルの声、そして頭にはいつものクルの声が伝わる。 俺たちがいるのは島の上空だ。
クルの背には人形にinした俺と、俺の擬態をその髪で担当する――なので必然的にだっこ状態となる――プル。 二人の身体はこれもプルの髪でクルに巻きつけられて固定されている。
キリンとしーしーちゃんはそれぞれ自力で飛翔だ。
「私はあまり得意じゃないから手早くお願いね」
背中に翅を生やし、やや前傾した直立姿勢で飛び回るしーしーちゃんに対し、腰から羽を生やしたキリンの姿勢は犬かきのそれに近い。 同じ【飛翔】でも種族によって違いが出るようだ。
迷宮の周囲がゴーレム化した時の影響が不明なため、先に迷宮を【空間圧縮】しておくのは見送った。 何かのはずみで元の大きさに戻った時に、ゴーレムの体を突き破るようなことがあればその部屋は消滅だし、それが核のある部屋だったら目も当てられない。
同様に、万一俺が意識を失った時――その時はゴーレムも土に還るが――に核が露出しないよう、クルにはゴーレムが崩れ去る前に海に蹴り込む役目もある。
俺は詠唱に先立ち、ゴーレム化する範囲をイメージで指定して島の頂上から徐々に拡げていく。
出来るだけ大きくのつもりで少しずつ魔力を注ぎ込んでいるが、まだまだいけそうだな……
「ちょっと! アレ!」
キリンが島を指差す。 イメージに集中している俺はそちらを見ることは出来ないが、代わりに並列意識が確認してくれる。
島の頂上から岩肌が黒っぽく変色しており、俺のイメージに合わせて徐々に裾野へ向けて拡がっているようだ。
「もう島の上半分黒くなってるんだけど、そろそろいいんじゃない?」
「いや……ちょっとな……こう、引っ掛かってるというか……」
それまで順調だったゴーレム化の範囲拡大が、途中でパタッと進まなくなったのだ。 魔力的な限界かとも思ったがまだまだ余裕がある。 どうやら島の内部に「芯」のようなモノがあると判明する頃には、意地になって込めた魔力で島の上から6割程までが黒々と変色していた。
――もはや岩石じゃなくなって魔鉱化してるっぽいけど……せっかく準備したんだから、とりあえずこのままでいいか。
懸念していた周囲環境の変化も、今のところ俺には影響しないようだ。
「クリエイト」
呪文の詠唱により仕上げに入ると、島の変色した部分が形を変える。 内部のスペースを確保する為に胴回りの太いビア樽――というより力士のあんこ型――のゴーレムをイメージしている。
小さな頭、申し訳程度の上半身に太く長く逞しい腕、長い胴は樽というより円錐台に近い。 太くて短いが安定感のある脚部と、それを支えるどっしりとした足。
イメージどおりのゴーレムが完成したが……
『おとーさん、スゴイスゴイ』
「……ちょっとどころか、滅茶苦茶大きいんですけどぉ?」
キリンにつっこまれるまでもなく、島の上から2/3を注ぎ込んだゴーレムは半端じゃなく巨きい――これでも【素材錬成】で元の体積の半分ぐらいには小さくなっているのだが……
「牛久大仏の頭も撫でられそうだな、コイツ」
「身長は……ざっと175.06メートルってところね」
「どこが『ざっと』なんだよ。 見ただけで分かるのか?」
「裁縫で培った【採寸】スキルよ」
――応用範囲広すぎだろ。
 ̄l ̄
「で、ちゃんと動きそう? 気分悪くなったりとかしてない?」
「ああ、大丈夫だ。 動くのもホレ」
ゴーレムが腕を上げ、お腹の前で手の平を上に向けて開く。 素材が魔鉱化してる所為か、動きも思ったより速くてスムーズだ。
「クル、あそこに降りてくれ」
『はーい』
俺をプルを乗せたクル、続いてキリンがゴーレムの手の平に降り立つ。 俺はプルを抱いたままクルから飛び降り――。
(ぱちん)
――クルが龍化を解く。
「クル、ありがとな」
「えへへー」
頭を撫でるとその頭をグリグリと押し付けておかわりを要求してくる。
――おーおー、かわええのー――って和んでる状況でもないな。 やることやってしまわないとな――っても既に並列意識がやっちゃってるんだが。
並列意識がゴーレムの腹に迷宮の入り口を開ける。
「ささっ、みんな入ってくれ。 プル、もういいぞ。 ありがとな」
「うん、ととさま」
プルに擬態を解除してもらい、【知覚共有】を解いて人形を回収する。 同時に分体を拵えて――。
「おかえり」
「「「『ただいまー』」」」
「まあ、十分すぎるスペースが確保できたんで、部屋割りとかは今まで通りだしお風呂もそのまま作ったぞ」
「まだ【空間圧縮】はしてないのよね?」
「ああ。 もうちょっと今の状態に馴染んでおきたいのと、ゴーレム内部の魔力の流れに興味もあるしな」
「じゃあ本格的な作業は明日からってことかしら。 ゴーレムどうするの? このまま棒立ち?」
「まあ、倒れることはないだろうが、一応座らせとくか」
ゴーレムを座らせようと足を動かしたところで――
(ガツン)
「うおっと!?」
足が何かにぶつかりゴーレムがつんのめった。
俺は一瞬パニクりかけたが、巨体なだけに倒れるのにも時間が掛かるので、「手」を突いて倒れるのを免れる為の時間は十分にあった。 冷静な並列意識に感謝だ。
「なになに!? どうしたの?」
「いや、ゴーレムが何かに躓いた」
「そうなの? 全く揺れないから分からなかったんだけど……」
「迷宮の座標をゴーレムの中心に据えたからな。 海の中で海流とかに影響されないのと一緒でゴーレムの動きや姿勢に影響されずに済むし、今の感じだと衝撃や慣性もカット――相殺するエネルギー相応の対価は消費するが――できるようだな」
「巨大ロボのコックピットとしては究極よね。 おにーちゃんのことだから全周天モニターもあるんでしょ?」
――当然じゃないか。
迷宮主は迷宮の構造を把握する為、迷宮の視覚情報をマップとして取得できる。 そうして取得したマップ情報は【メニュー】を通じて迷宮内に投影することも可能になる。 本来迷宮内しか見られないマップ情報だが、俺の場合【龍覚】――【千里眼】や【魔力感知】を包括する【龍眼】の上位スキル――が融合しており、迷宮外の情報も取得が可能なのだ。
「まあ、ゴーレム暴れてても露天風呂気分を味わえるくらいにはな」
「……なかなかシュールな状況よねそれ」
――ともかく、ゴーレムは何に躓いたんだ?




