ちゃんと視て
すっかりご無沙汰してすみません。
ちょっと体を壊してましたorz
「せっかく日のある内にお風呂してるんだから、外の景色を堪能しないか?」
きっかけは、悪戯心で俺が発した言葉だった。
皆で身体を流し終え、思い思いに湯に浸かっている時だ。
「外の景色って、カメラか何かで中継でもするの?」
「残念だが外では俺の力は使えないから、そういうのは無理っぽいな」
俺自身はいくらでも外の景色を見られるんだが、他人に見せるには【知覚共有】でもしないと出来ない。
「じゃあ、どうやって?」
「ん~、こんな感じかな?」
俺は風呂場の下半分を残して後の内装を取っ払った。
『わー! すごーい!』
「え? 水? 海の中なの!?」
「ふわ~、きれいですぅ」
「天井がすごいですよー」
驚くみんなを見て、内心ガッツポーズの俺。 着替えの最中から脱衣場と風呂場をこっそりと移動させ、海中に出しておいたのだ。 入口側には島の外壁というか岩壁が見えている。
海面下およそ5メートル。 海面から降り注ぐ午後の日差しが海中に差し込み、波に揺らめく光のカーテンっぽくなっていて、なかなかに良い眺めだ。 惜しむらくは魚をはじめとする生き物の姿が無い事か。
「どうだ? 驚いたか――って、ん?」
((えへー))
ぷーちゃんがキラキラした眼で俺を見てる――と思ったら、いつもどおりによじよじと登ってきた。
――ちょ、ま、前から登るのは色々とアレだから……
ぷーちゃんは無事(?)登りきると俺の頭をぺしぺしと叩いてくる。 感動してるんだけど、うまく表現する方法が無いのだろう――って思ってたんだ。
『ととさまー、すごいー』
声だ! ぷーちゃんが声を発している。
――いや、それよりも……
「ととさまって、しーちゃんから?」
『うん。 ぷるはととさまのこどもになるのー』
「ははっ、そうか。 嬉しいよ」
『ぷるもー』
そして再びぺしぺし。
「それにしてもいつから話せるように?」
『えっとね――』
たどたどしいながらも、昨晩しーちゃんのお蔭(?)で自己増殖が出来るようになり、一晩で足りなかった体内組織の構築がほぼ完了した事。 感覚を掴んで話せるようになったのは昼前に起きてからという事。 俺を驚かそうとキリンに口止めされていた事を話してくれた。
――キリンめ……
「ととさま」呼びはくすぐったいが、俺が「ごしゅじん」なのも変わりはないので「そんけー」してるからなのだそうだ。
そんな話を――ぷるには途中で降りてもらったが――してる間、他のみんなはというと、壁際――というか水面――に向かってバシャバシャと移動していた。 全員が景色に気を取られてすっかり無防備な事になっている。 計画通り……なんて事はないぞ。 想定外ってやつだ。
「これでも迷宮なのね?」
「そのようだ。 ちなみに空間固定してると、外からは視認出来なかったぞ」
「へ~。 物好きが泳いでても見られる心配は無いようね」
『おとーさん、おみずなのにぬれないよ?』
「本当ですぅ。 水に直接触っているようなのに濡れないし、柔らかくないし不思議な感じですぅ」
ガラスとかがあるわけじゃなく、水そのものの壁だから気になるのか、みんなペタペタ触っては感触を確認しているようだ。 岩にしろ水にしろ、迷宮の壁は質感をそのまま伝えるように出来ているようだ。
「まあ感動してもらえたなら、サプライズ成功かな?」
『さぷらいず?』
「相手が喜びそうな事でびっくりさせる事をサプライズっていうんだ。 もっとも、俺だって今さっきぷるに驚かされたけどな」
『えへー』
『じゃあ、あたしもさぷらいずするー』
そう言うなりクルの身体が光り出した。
――え、ちょ? まさかこんなところで龍化する気なのか? それって単に驚くだけのドッキリなんだけど。
「ちょっと、まさかそんなノリでお披露目しちゃうの?」
なぜかキリンが慌てている。
光を纏ったクルの身体が……縮んで……いく?
――え!?
そのまま光は弾け、現れたのは今のキリンよりちょっと幼く――10~11歳ぐらいか――見える女の子だ。
白銀に輝く髪や顔だちなんかは確かにクルで、出会った頃の裸ん坊幼女をそのまま大きく――いや、一部とてもじゃないけどそのままとは言えない部分はあるが――した感じだ。
驚く俺を見て得意気にドヤってたクルだが、何かに気付いたようで急におどおどし始めた。 キョロキョロ周りを見てキリンを見つけるとぴゅーっとその後ろに隠れてこっちを覗き見ている。
「クル」
『は、はいい』
「それが今の自然な姿なんだな?」
『うん……』
「初めから知ってたんじゃないだろう? いつ気付いたんだ?」
「えっと……おかーさんのところへ行って、戻って来た時だと思う。 龍化を解いた後もなんか変身してるような感覚が残ってて……」
気が付けば、舌っ足らずな幼い口調が薄れ、はきはきと話せるようになっている。
「あの後熱心に龍化の練習してたのは、服の出し入れだけじゃなくて、そっちの確認も一緒にしてたのか」
「でも、そっちはほんのちょっとだから。 いっぱい練習して、龍化解いた後でパンツ穿けたの、ホントに嬉しかったの……」
「おいで」
見ててかわいそうになるぐらいビクビクしてるけど、キリンにも促され、ゆっくりこっちに歩いてくる。
俺が手を上げると目をギュッと瞑り身体を強張らせる。
俺は出来るだけそーっとクルの頭に手を乗せ、撫でてやる。 手が触れた瞬間ビクッと身体を震わせたクルだが、撫でられてるのに気付いて、不思議そうな顔で見上げてくる。
「いきなりクルが大きくなったからびっくりしたぞ」
『おとー……さん?』
「ん? 何か悪い事でもしたのか?」
『で、でも……』
「【適応変化】っていう能力みたいね」
いつの間にか近くに来ていたキリンが話す。
「昨日、私が確認したのよ。 クルちゃんのスキルを視た時に気付いたの」
「【鑑定】か」
「そ。 本当はクルちゃんがバラす前に、おにーちゃんに視て欲しかったんだけどね」
「だからそれまでは伏せておくつもりだったんだな」
「ええ。 そういう訳だから、クルちゃんを責めちゃダメよ」
「分かってるよ」
「ねえ、おにーちゃん――いえ、イクルさん。 私たちの事を想ってくれるなら、ちゃんと『視て』欲しいの」
「…………」
「私たちに何が出来て、何が出来ないのか、私たちを『家族』として守ってくれるにしても、イクルさんは全てを知っておく必要があると思うのよ」
「いや……でもそれは……」
「でないと――」
そう言うキリンの身体から、角、羽、尻尾がいつの間にか出ていた。 その羽が大きく拡がり、キリンの身体を覆い隠してしまう。 何事かと見ていると、閉じられた羽がゆっくりと開いていき――。
「…………」
俺は言葉を失ってしまう。
「――でないと、ある日突然こーんな悪魔に食べられちゃうわよ」
そこには妖艶を絵に描いたような美女――角、羽、尻尾付き――が立っていた。
 ̄l ̄
 ̄l ̄
「――ホント、サプライズのつもりが驚かされっぱだったな」
「私だってびっくりしたわよ。 このタイミングで暴露する予定じゃなかったのに」
すっかり萎んで、幼女に戻ってしまったキリンが言う。
『おねーちゃん、ゴメンね。 ぷーちゃんがおとーさん驚かせたって聞いたらつい……』
「いいのいいの。 可愛いから許しちゃう」
『きゃー』
すっかり姉妹らしく――ごく一部、妹の方がリッパだが――なった2人がじゃれ合っている。
「一応忠告しておくわね――」
さっき、キリンに囁かれたんだが……
「【適応変化】って、精神にも働くの。 つまり逆もあるんだけど……」
何故か顔を赤くしてキリンが言う。
「覚悟した方がいいわよ。 身も心もオトナになったクルちゃん……きっとスゴイから」
逆成長のクル……3歳児にほぼ「おかーさん」な精神が……
キリンはナニを吹き込まれたのか……




