やりすぎは禁物です
トイレがトラブっててんやわんや……
遅くなってすみません。
『~♪』
クルがゴキゲンだ。 もう犬尻尾ならブンブン、猫尻尾ならピーンってなもんですよ。 ドラ尻尾はどうなんだろ?
俺の胸に体重をあずけて、後頭部が顎に当たったなと思ったら、そのままぐりぐりまでしてくる始末です。
――ここまで喜ばれると、今まで放っておいた分罪悪感が出てきてしまうな…… ん?
そんな事を考えてると、クルが顔を上げて後ろに反らすように俺の顔を見てくる。 ちょうど見下ろしてる俺と目が合うと、にこーっと笑う。
つられて笑うとそれで満足するのか、また前を向いて身体を揺らし、足をぱたぱたと遊ばせるのだ。 ちなみに俺の両手はクルのお腹の前で組まされている。 小柄な身体と、上から迫る胸の圧倒的体積のお陰で、手が置ける場所は上下にかなり狭いのだ。
ほんの数センチ動かすと触っちゃいけないモノに触ってしまうので、俺はかなり緊張してたりする。
『ぷーちゃんにしたみたいに、ぎゅーってしてほしいなー』
この状況でそう言われて断れるだろうか? そういう事なのだ。
『…………』
さっきと同じ様に上から振り向いたクルが、俺の上をじーっと見ている。 口を少し尖らせてるところを見ると、完全に納得はしていないようだ。
((えへへー))
そう。 クルが膝に乗ったのを見て、ぷーちゃんがよじよじと俺に登って来た。 顔にしがみつかれたので仕方なしに肩車する格好になったのだ。
こちらも先ほどからゴキゲンで、俺の頭をぺしぺしと叩いてくる。
『あたしもそっちが――』
「お菓子とあ~ん……」
『むぐっ』
クルが両手で自分の口を塞ぐ。 そう、ぷーちゃんと交代したがるクルを宥める為に、お菓子の提供と「あ~ん」する約束をしてるのだ。 いや、さすがにクルを肩車は……ねぇ?
「いい時間だし、そろそろおやつにしようか。 しーしーちゃん、キリンに声かけてみてくれるかな?」
「はいですよー」
クルの胸に腰かけてたしーしーちゃんが光の粉を振りまきながらスイっとキリンの作業部屋の方へ飛んでいく。 少し離れているのだが、扉の前でくるくると飛び回り、体当たり(?)とかもしているようだ。
「 」 ってここまで声が聞こえてくる。
しばらくしてしーしーちゃんが戻って来た。
「はぁはぁ、気配はしてるですけど、返事がないですよー」
「しょうがない、あまりやりたくないけど視てみるか」
俺はキリンの作業部屋の中を視る――が、何だ? 視界が何かで塞がっているようだ。
俺は天井から下を視てるのに……? 触った感じだと布(?)のようだ。 まさかとは思うが――。
俺は作業部屋の前まで行き、扉を開け――って――慌てて逃げた。
ドドドドドドドド……
扉からあふれ出す布の津波。 作業部屋の3倍以上あるリビングの3分の2を覆う布の山を吐き出して、ようやく止まったそれを掻き分けて部屋の中に入ると、部屋の奥でキリンが一心不乱にミシンを踏んでいた。 余程集中してるのか、こちらに気付きもしていないようで、こうして見てる間にもポイポイと服が吐き出されてくる。
近くに落ちていた糸巻きの芯を放り投げると、キリンの傍で見えない何かに弾かれて届かない。
――障壁張ってやがるし……
俺は気合を込めて……
〈くぉおるぁあああああああーーーーーーっ!!!〉
「きゃーーーーーっ!!」
椅子から転げ落ちるキリン。
「いきなり何なのよ! びっくりする……じゃな……い? 」
やおら立ち上がり、腰に手を当てて怒鳴ったまではいいが、周りの惨状に気付いたようで尻すぼみになる。
「どういう事か訊きたいのはこっちなんだけどね。 1日に何回着替えさせる気なんだ?」
「えーっと……もしかしなくても作り過ぎたのかな?」
「百や2百じゃ効かないような気がするんだが、いくつ作ったなんて覚えてる顔じゃねーな」
「……お前は今まで食ったパンの枚数を覚えていりゅのか? 」
「照れるぐらいなら言うんじゃねーよ」
――取り敢えず仕舞う場所が必要だな。
俺は作業部屋をちょいちょいと拡げる。 幅と奥行きともに倍ぐらいでいいかな――っと。 拡げた部分は丸々クローゼットにし、ハンガーラックもついでに作って並べる。
「え!? いきなり広くなった? おにーちゃんなの?」
「他に誰がやるんだよ?」
「あれ? 服が勝手に動いて……部屋に入ってく……?」
キリンからは見えないように「触手」を使って運び、へやの奥の方からハンガーに架けていく。 人海戦術(全部俺)だ。
そうやって服を片付けると、後には大量の下着が残った。
「……後は任せる」
「いったいどうやって……なんて訊かないわ。 色々出来る事が増えたみたいだけど、私が知ってた方がいい事ってある?」
「そうだな……ココが俺の腹の中だって事と、この迷宮が移動できるようになったって事かな?」
「へ~…… って、はあ!? え? なにそれ」
 ̄l ̄
「――かくかくしかじかって訳だ」
「そんなんで分かる訳ないでしょ!」
なんて事を交えつつ、ざっくりと俺の現状について皆に説明する。
今はテーブルを囲んでティータイム……というか壮絶な「あ~ん♥」合戦が一段落着いたところだ。
「口移しでもいいわよ」は聞かなかった事にしよう。 そうしよう。
ちなみにだけど、俺とぷーちゃん共に独立した味覚を獲得していた。 俺は自分の身体の再認識で。 ぷーちゃんは俺との【知覚共有】と【魔身】からの情報で口内を再現出来たようだ。 俺たちと同じものを食べる時は口を使って食べるのーって喜んでいた。
「う~ん。 覗き放題に、触り放題かぁ……」
――まあ、なんて人聞きの悪い迷宮なんでしょう!
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