分体は本体を超えるか
遅くなってすみません。
〈……と、とりあえずコレはキレイに洗ったから大丈夫だよ〉
『よかったー』
「くくく…… はい! 出来たわよ」
『ありがとー、おねーちゃん』
クックと笑いながらも、キリンがクルの髪をまとめ上げる。
〈じゃあ、最後にゆっくり浸かって上がろう〉
『うん!』
「ボクのお風呂もお願いするですぅ」
〈あ、しーしーちゃん! ゴメンな〉
俺は桶の中のお湯――かなり温くなっていた――を入れ替える。
「あー、いえいえ。 傍から見てて楽しかったからボク的にはおっけーですよ」
―〈欲を言えば、ずっとローアングルからの眺めなのを改善してほしいですぅ〉―
〈うーん、羽でも生えて飛べたらいいのにな〉
「こうですか?」
――え?
そう言ったしーしーちゃんの背中に淡い光で出来た薄い膜のような羽が現れたかと思うと、パタパタと光の粒子を零しながら俺たちの方へ飛んできた。
『うわー! しーしーちゃんすごいすごい!』
―〈ちょっと! シー・シー! なんで飛べるですぅ? ボクは飛べないですよ?〉―
――こら本体! あんたが驚いてどうすんだよ!
「この身体は小さい分、とっても軽いですぅ。 でもって神気に溢れてるから概念力で飛べる気がしたですぅ」
〈分体とはいえ、さすがは神様ってことか…… ところで、疲れたりしないのか? しーしーちゃんもだけど、本体のしーちゃんも〉
「感覚的には小走り程度なのですぅ」
「私よりもずっと飛んでられそうね……うらやましいわ」
―〈ボクの方は特に影響なさそうですぅ うう……まさか分体ちゃんを羨ましいと思う事があるなんて……〉―
〈まあまあ、とにかくずっとローアングルってのは解消されたんだからさ、そこは素直に喜ぶべきじゃない?〉
―〈では素直に……シー・シー! もっといーくん成分の補給に努めるのですぅ!〉―
「はいですぅ! しー姉の為に頑張るですぅ!」
――おい。
なんてことをしつつ、みんなでまったりとお湯に浸かる。 キリンは羽と尻尾を出したまま浸かろうと、「く~」とか「あ~」とか言いつつ頑張っていた。
そして、しーしーちゃんもみんなと一緒に湯船の中――じゃなく、お湯に浮かんだクルの胸の間――で、お湯に浸かっている。
――それはクルのおっぱい成分を補給してるのか?
〈ところでクル、今まで男の子とか男の人の裸って見たことなかったのかい?〉
「うーん、女の子にそれを訊いちゃうとか、事案で通報されそうだわね」
――おい、やめろ! 泣いてるおとーさんもいるんですよ!
『おかーさんのところにいたこどもは、あたしとまおーちゃんだけだったしー、はだかをみたのはおかーさんと……あ、えっちなおねーさんのもみたよー』
〈えっちな!?〉
『うん。 おかーさんとこでおむかえしてくれたひとー』
――あのダークエルフのお姉さんか!
〈え、あの人エッチなのか?〉
「ちょっと〜、なに食いついてるのよ?」
『なんでー? えっちなおねーさんはえっちじゃないよ?』
――んん?
「ははーん」
〈え? どういうこと?〉
「いく兄はニブいですぅ」
〈しーしーちゃんまで!〉
「名前よ。 お姉さんの名前が「エッチナ」さん。 そうよね?」
『うん。 おかーさんがいそがしいときに、あたしやまおーちゃんのおせわをしてくれるんだよー』
――まぎらわしいわ!
〈つまり、男の子や男の人の裸は見たことなかったんだね?〉
『うん。 おとーさんがさいしょだよ』
〈ちなみにだけど、キリンは――〉
「えっち!」
〈いや、そうじゃなくて! 俺が何の話をしようとしてるか分かるだろ?〉
「ナニの話よね?」
――誰がうまいこと言えと。
〈だから、その、女の子が最初に男のナニを意識するのって、いつぐらいなのかなって〉
「そうね……私は小さい頃パパと一緒にお風呂に入ってて、大きくなったら生えてくると思ってたらしいのよね。 全然覚えてないんだけど」
〈そういうのもあるのか〉
「それでパパから聞いて、男の子と女の子は違うんだーって。 ほとんどの子はお父さんと一緒にお風呂に入ってる時に自分と比べて興味を持つんじゃないかしら?」
〈なるほどな。 男だと姉や妹がいるかいないかで、状況が変わるんだよなー〉
――最近は娘とお父さんが一緒にお風呂に入るのを嫌がるお母さんが増えてるらしいけど。 俺ぐらいだとまだまだ子供はお父さんと一緒にお風呂に入るもんだったからなあ。
〈クル〉
『なーに?』
――キリンよ、キラキラした眼で見るんじゃない!
〈元の人形がつるつるだったから、クルは男も女も一緒だと思ってるかも知れないけど〉
『ん?』
〈クルが「余ったぷーちゃん」って言ってるコレは、男の人の身体の一部なんだよ〉
『おとこのひとにはみんなついてるの?』
〈そうだよ。 そしてとっても大事なところなんだよ〉
『そうだったんだ!』
そう言ってマジマジと覗き込んでくるクル――を押し戻す。
〈大事なところって言っただろ? だから本当はあまり人に見せたり、まして触らせたりしちゃダメなんだよ〉
『でも、おとーさんかくしたりしてなかったよ?』
〈クルやキリンが隠してなかったからね。 本当は恥ずかしいのを我慢してるんだぞ?〉
『あたしがみてるとはずかしいの?』
クルの顔が曇る。 昨日の話をよく聞いてくれてる証拠だ。
〈ああ。 だけど、今日はいいんだぞ。 クルが知らなかった事だしね〉
俺はクルの頭を撫でて安心させてやる。
〈それとな、大事なところっていうのはクルも一緒なんだよ〉
『あたしもいっしょ?』
〈そうだ。 クルのソコも女の子のとってもとっても大事なところなんだ〉
『じゃー、みせたりさわらせたりしたらダメなんだね?』
〈そうだ。 特に男の人にはね。 やっぱりクルはえらいなー〉
『えへへー。 でもおねーちゃんはー?』
〈キリンもだよ。 でもキリンはダメだって知ってたのに大事なところを隠さなかったから――〉
「ぬ、濡れ衣よ!」
キリンが慌てて割って入る。
「私よりいいカラダしてるクルちゃんが堂々としてるのに、ちんちくりんの私が隠せるわけないじゃないの!」
『じゃー、おとーさんとおんなじだったんだね?』
「そ、そうよ」
〈そういう事にしとこうか。 ということで、こうして湯船に浸かってる時はいいけど、それ以外はなるべくタオルなんかで大事なところは隠すようにするんだぞ〉
『うん! おねーちゃんもだよ!』
「わ、わかったわよ。 全く……人をダシにするなんて……」
――あとで埋め合わせはしとこうかな。 けど、ノリノリだったのは間違いないだろ?
〈よし、十分あったまっただろ。 そろそろ上がろうか〉
『はーい』
「ええ」
「はいですぅ」
――なんかすっげぇ仕事した気分なんですが……
脱衣場で心なしかぐったりしてると、各々バスタオルを巻いた女の子達が突撃してきた。 先頭はキリンだ。
「ちょっと! お風呂上りにフルーツ牛乳が無いってどういう事よ!?」
〈え? ええ?〉
「今すぐ出しなさい! 早く!」
〈は、はいい!〉
俺は言われるがまま、人数分のフルーツ牛乳を出す。
「コレよコレ! これが無いとお風呂に入った気がしないのよねー」
〈いや、確かにそうかも知れないけど。 ここは銭湯か?〉
「いいじゃない。 って、あ! こらーっ! 手は腰でしょ腰!」
…………
『おいしー!』
「おいしいですぅ」
しーしーちゃんは、パタパタ飛びながら用意したアンプル用の細いストローを咥えて飲んでるんだけど、花の蜜を吸う妖精っぽく見えなくもないかな?
―〈アゴが疲れるですぅ〉―
――しーちゃん、それは言っちゃいけないよ?
エッチナおねーさん:正確には「イェッティナ」さんです。
「コレ」や「ソコ」の名称は折りを見てキリンが教えるんじゃないでしょうか。
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1行目、傍点失敗してたのを修正。




