食卓にて
遅くなってすみません。
キリンがポロポロと大粒の涙を零している。
『おねーちゃん……おなかいたいの?』
〈クル、大丈夫だからそっとしてあげなさい〉
『でも、ないてるよ?』
〈クルは優しい子だね。 心配しないでいいから、食べなさい〉
『はーい』
〈熱いから気を付けるんだぞ〉
…………
「――っはあ~~~っ」
上を見上げてたキリンが両手で顔を覆い、そのまま肘をテーブルにつくと大きなため息を吐いた
〈……ごめんな〉
「――んっとに……もう! いきなりコレは反則よ!」
〈喜んで貰えると思ってたんだ……その、色々思い出させてしまう事は考えてなかった……〉
テーブルの上、キリンの目の前には、肉じゃが、キュウリのお浸し、味噌汁、そしてご飯が並んでいる。
「ううん、とても嬉しいわ。 むしろ、コレを目の前にして食べられないおにーちゃんの方が辛いんじゃないの?」
〈まあ、辛くないって言えば嘘になるかな〉
「うーん……」
キリンが顎に手を当てて考える仕草をする。
〈今はいいから。 冷めないうちに食べないと後悔するぞ?〉
「じゃ、遠慮なくいただきまーす!」
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「…………た、食べにくいわね」
〈クル、そんなにジロジロ見てたらキリンが食べられないだろ?〉
早々と自分のごはん――ハンバーガーと肉肉肉じゃが――を平らげたクルが、じ~っとキリンの方を見ている。
『だってー、おねーちゃんすごいんだよー!』
〈なにが凄いんだい?〉
『“ふぉーく”も“すぷーん”もつかってないのに、いろんなものがたべられるのー!』
――それか〜。
〈クルもお箸が使いたいのか?〉
『おはし?』
〈キリンが持ってる2本の棒があるだろ? あれがおはしだ〉
『あたしもつかうー』
〈だったら後で教えてやるから、キリンにゆっくり食べさせてあげなさい〉
『はーい。 おねーちゃん、ごめんなさい』
「あら、謝らなくていいわよ。 お姉ちゃんも一緒に教えてあげるからね」
『わーい! ありがとー、おねーちゃん!』
…………
「なによ?」
〈いくらなんでもゆっくり食べすぎだろ〉
「だってー、美味しいんだもん」
〈ま、口に合って良かったよ〉
「ん。 ありがと」
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『やったー! みてみて! おまめさんがつまめたのー!』
〈すごいなクル! よくやったぞ!〉
「ホント、こんなに早く使える様になるなんて」
『えへへー』
〈じゃ、これからクルもお箸使おうな〉
『うん! あたし、もうちょっとれんしゅーしてるね』
「頑張るのよ!」
クルは再びお皿からお皿へ煮豆を1つずつ移す練習に戻った。
――本当に嬉しそうに練習するなぁ。
〈助かったよ。 キリンの教え方がうまくてさ〉
「ふふ、私には本当の妹がいたからね」
〈いたってことは……〉
「そ。 私が中学に上がったばかりの頃に交通事故でね……ちょうどあの時のトラックみたいに」
〈そうだったのか……〉
あの時、トラックを睨んでた顔を思い出す。
「だからかな? 思わず身体が動いちゃったんだ」
〈俺はどうだったかな……勝手に身体が動いたのは同じなんだけど〉
「周りに何人か居たけど、誰も動かないっていうか、気付きもしてないって感じだったわね」
〈そうだったか? 俺は目の前の女の子しか見てなかったからなぁ〉
――ん? なんでジト目なんだ?
「あの仔犬……どうなったのかなあ……」
〈無事だと思うぞ。 キリンが命がけで守ったんだ〉
「そう……そうよね!」
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食後、みんな揃って床でゴロゴロしてるんだけど、ぷーちゃんのダメ力のなんと凄まじいことか! 垂れずにはいられない…………あ、そうだ。
〈クル! お風呂どうする?〉
『はいるー!』
「え!? ええっ! お風呂があるの!?」
〈あれ? 言ってなかったっけか。 あるぞ。 露天風呂風なのが〉
「私も入ってみたいんだけど……」
〈なら、ちょうどいい。 クルと一緒に入ってやってくれないか? あ、しーしーちゃんも一緒に入ったらどうだ?〉
「是非とも入らせていただくですぅ!」
「いいわよ。 やったー! まさかお風呂に入れるなんて!」
キリンがぴょんぴょん飛び跳ねている。 見た目相当に幼く見えるぞ。
『おとーさんはー? きょうもいっしょにはいろーよー』
――あ、ヤベ!
「お・に・い・ちゃ・ん」
〈は、はい?〉
「あの子と一緒にお風呂入ってたの?」
〈き、昨日が最初で、その1回だけだよ――〉
「スケベ!」
〈しょうがないだろ! クルが自分で身体洗えないってんだから。 俺も今みたいな身体も無かったし眼も見えなかったんだぜ?〉
「そんなんで、どうやって教えたのよ?」
〈視覚はマッピングの立体映像だし、洗い方なんかは【意思疎通】でイメージを伝えたりかな〉
『おとーさんにせなかあらってもらったのー』
――ああ! お願いだ、クル。 これ以上ややこしくしないでくれ!
「身体の無いおにーちゃんが、どうやって洗ってあげたのかしら?」
〈えーっと、それは――〉
『おとーさんに、あたしのからだをつかってもらったのー』
〈クル! おとーさんがちゃんと説明するから、黙ってようね……ひいっ!〉
キリンの目が……目がコワい!
「おにーちゃんのヘンタイ!!」
――ああ、誰か助けてくれ!
―〈呼んだですぅ?〉―
〈あ、そうだ。 しーちゃんお助け!〉
―〈シー・シーに毎日お菓子をあげるですぅ〉―
〈え? あ、はい。 お願いだからキリンの誤解を解いてくれ!〉
―〈まかせるですぅ〉―
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「わかったわ! おにーちゃんが変な事しないように私が見張ります!」
――どうしてこうなった?




