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魂印

あけましておめでとうございます。

なんとか日付が変わる前に……


 ――見えた!


 海から突き出ている齧られたとんがり帽子のような島――「石動の迷宮」までもう少しだ。

 少女――「聖女」サカキ・リンコ――を包んだ毛布から血が滲んでいる。


 洞窟前の広場にクルが降り立つのももどかしく、少女を抱えたまま飛び降りて(本体)の居る部屋まで駆け込む。 お留守番のぷーちゃんが飛び跳ねて来るが、すぐに「お願い」してリンコちゃんの身体を覆って、溢れ出る魔力を吸収してもらう。

 そうして、皮膚を裂き、血と共に噴き出していた魔力の奔流がようやく収まる。 これ以上の身体の破壊はないだろう――しかし、僅かずつでも働いていた癒しの力も同時に無くなってしまう。


 ぷーちゃんの体が淡く光る! 癒しの力を再現したのだろう。 しかし、外部からでは聖女に抵抗(レジスト)されてしまう。

 ――命の流出が止まらない……! 俺の考えが甘かったのか……


『おとーさーん!』


 クルが部屋に入って来た。 そのまま駆け寄って来るかと思ったら、入り口付近でもじもじしている。


〈クル、どうした?〉

『ふく……』

〈あ、ああ! ごめん。 直ぐに出すからいつもの場所でな〉

『はーい』


 俺は服を出しながら、自分の余裕の無さに呆れていた。

 ――考えろ! 何でもいい。


〈しーちゃん! なんでもいう事聞くから、奇跡は起こせないのか?〉

 ―〈こんな事態でなければ、その提案飛びついたですぅ。 なんとかしてあげたいのは山々なんですけど……〉―

〈せめて、痛みだけでもなんとかならないのか? もう一度話がしたいんだ!〉


 苦しそうに身をよじるリンコちゃんの動きがだんだん弱くなっていく――。


 ―〈……ボクが恩恵を上げられるのは、いーくんに対してだけ――〉―

〈くっ……〉


 ―〈スキル【知覚干渉】を取得しました〉―


 ―〈――だから、いーくんが自分でなんとかしてあげるですぅ〉―


 ――ホントにこの女神様は……

 俺は早速【知覚干渉】でリンコちゃんの知覚に侵入し、痛覚を共有する――。


 ――ぐっ! ぐあああああああ!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!


 いきなり共有せずに、徐々に比率を上げているのに、とんでもない痛みが俺の全身を駆け巡る。 この身体になって久しく感じていなかった痛みに耐えながら、少しずつ痛覚を引き受けていく。


 ―〈熟練度が規定値に到達――スキル【痛覚耐性】を取得しました〉―

 ―〈熟練度が規定値に到達――スキル【痛覚耐性】から【痛覚遮断】が派生しました〉―


 ――この痛みの中、それでも生きようとしてくれてたのか……

 共有した痛覚を引き受けつつ、こちら側で遮断して無効化する。 これでほとんど痛みはなくなった筈だ。

 リンコちゃんの顔が少し和らいだ――ような気がする。


 ――もう、俺にはこの方法しか思いつかない。 迷ってる時間もなさそうだ。

 俺は再度、リンコちゃんに呼びかける。


〈リンコちゃん! リンコちゃん! 聞こえるか?〉

(…………)


 知覚干渉に微かに反応がある。


〈頼む! 聞こえてたら返事してくれ! このままあんたを失いたく無い〉

(……あなた……私……まだ)

〈ああ! 生きてる! 生きてるんだ!〉

(……そう。 でも分かる……もう……)

〈諦めないでくれ! 一つだけ、あんたを助けられそうな方法がある〉


 ――今の俺にはこれしか……


〈聞いてくれ、今からあんたに名前を付ける!〉

(……な……まえ?)

〈今までの……こんな世界にめちゃくちゃにされた「榊 凜子」じゃない――この世界を生き抜いて、この世界を見返してやる為の新しい名前を、あんたに刻む!〉


 ――「刻命」


〈ひょっとしたらあんたは人間じゃなくなってしまうかも知れない。 でも今の俺があんたを助ける為に出来る事はもうこれしかないと確信してる。〉


(う……ん…… いい……なま……え、期待し……てるわ)


〈人間に名付けたらどうなるかは正直分からない。 だからあんたは、自分の事だけを、為りたい自分の事だけを考えていて欲しい〉


(…………ええ、だ……から……)


 ――時間が無い! 正直恐いけど、俺を救ってくれた「聖女」をこんなところで終わらせてたまるか!!

 俺は魂に問いかける――初めて彼女を見た時、震える仔犬を胸に一度はトラックを睨みつけた彼女の姿に相応しい名前を――。


〈――「キリン」〉

(「キリン」……そう……私の名前……私は「キリン」!)


 そして俺の身体から魔力が抜き取られる。

 ――ってあれ? コレ、クルの時よりも……


 少女の身体が光に包まれる――そして浮き上がり、光の繭となる。


 ぴー!


 ――あ、ぷーちゃんが弾かれた。 そっか、忘れてた……ごめん。


 ―〈“普人族”現個体名「榊 凛子(サカキ・リンコ)」に個体名「キリン」を定義――保有魔力の充足を確認――「刻命」――破棄――「魂印」…………成功〉―


 ――そして光の繭が弾けた!


 ―〈来訪者 “普人族” が “始祖(オリジン)” の名前持ち(ネームド)「キリン」へと進化しました〉―


 そこに現れたのは、10歳児ぐらいの外見に、額に2本の小さな角、腰の辺りに小さな蝙蝠の羽と、先端にハートの付いた長い尻尾を持つ悪魔っ娘だった。


 名前 :キリン

 種族 :始祖(オリジン)吸魔(サキュバス)

 年齢 :16

 クラス:せいじょ


 …………なりたい自分?


「え、あ、はだか!? きゃあああああああああああ!!!」


 その場でしゃがみ込むリンコちゃ――改めキリン。


「こ、こ、この――ロリコン!!!」

〈ちょ、ち、違っ 違うってば!〉

「じゃあ、なんで幼女なのよ!?」

〈それはこっちが訊きたいよ!〉


 ぷふー


〈あ、ぷーちゃん、無事だった? ――ってああ!〉

「なによ?」

〈治療のため、あんたにあのスライム――ぷーちゃん――をくっ付けたままだったから、たぶん必要魔力の一部が吸われたんじゃないかと……〉

「…………」

〈あんたの種族が二重になってるのも、その所為じゃないかな?〉

「え?」


「――〈ステータス〉!」


 …………


「ふふ……ふふふふ」


 ――え? なにこれ……コワい。


「どうやらあなたと一蓮托生のようね」


 ――え?

 俺ははたと思いつき、【魔眼】で視る。 リンコ改めキリンの身体から俺に向かって白い糸が繋がっていた。


「こうなったらあなたを人間にして、足りない魔力を搾り取ってやるんだから!!」

〈ちょ? あんたそういう性格だったの?〉


『わーい! あたしのいもーとだー!』

「え、ちょ、こら、離しなさいってば!!」


 ――どうやら、俺の家族が増えそうです。


元聖女ちゃんの新しい名前を「ミル」から「キリン」に変更しました。

本名とかけ離れた名前も不自然かと考え直した結果です。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


ぐだぐだですみません。

なんとか目標の聖女合流まで進められました。

ここまでで1章が終わりとなります。


次章からも自由に動ける身体を求めて試行錯誤しながら、どたばたする予定です。

しばらくの間、構想期間ということで更新の方は休ませて頂きます。


再開の目途が立ちましたら、活動報告等で連絡致します。

今年もよろしくお願いいたします。

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