ちちとして (おふろーⅢ)
加筆修正のつもりが書き下ろしに……
※お待たせしました? 加筆完了です。
――いや、
正確には朱い魔力の塊が、俺の身体――上半身の一部、肋骨で覆われるぐらい――を形作っているように見える。
肩から先や胸から下は無い――というより、朱が急激に薄れてそこから先を維持出来ないといった感じだ。
『おとーさーん! あたまおわったよー!』
――お!
俺は顔を上げてクルの方を見――てすぐに顔を逸らした。
クルは濡れた髪を持て余し気味に右手に持ち、首をそちらに傾けながら、身体をこっちへ向けている。
『つぎ、どーするのー?』
――と訊かれても、DTが女の子のお風呂の入り方なんて、詳しく知ってちゃいけない気がするんですよ? まあ、身体に触れないようにしながら水分を取ればいいのかな?
〈少しお水を絞って、もう一回「おだんご」にしようか。 濡れてるからやり易いと思うぞ〉
『わかったー』
――って、クルちゃんや? そのままこっち向いてするんですか?
〈クル? 鏡を見ながらの方がやり易くないかい?〉
『だいじょーぶだよー、あたしちゃんとおぼえたもん!』
――なのにどうして頑なにパンツを被ろうとするんでしょうか?
その言葉通り、最初に比べるとかなりテキパキと髪をまとめ上げていく――のだけど……頭に集中してるからか、膝がだんだん緩んできてますよ~? それ以上開くとヤバイですよ~?
横を向いてても、360度の視界が、クルの仕草を伝えてくる。 人間、目の端に動きがあると、そっちを意識しちゃうんです。 俺の場合、イコール“視ちゃう”んですよ……
――斯くなる上は、少し上でぽよんぽよんしてる丸い物体に集中するしか――。
『おとーさん、どーお?』
――神よ!
―〈!? ~~~~~~~〉―
――も、戻って来てたんだー。 ま、また今度、お話しよう――。 。
―〈 〉―
ギリギリのところでクルが横を向き、左手で押さえた「おだんご」を見せる。 確かにちゃんと纏め上げられているようだ。「ちゃんとおぼえたもん!」は実績に裏付けされた!
――なのにどうして頑なにパンツを被ろうとするんでしょうか?
〈おー! ちゃんと出来てるぞ〉
『やったー! えへへー』
〈もう一回ピンで留めて――よしよし! 次は、濡らさないでおいてたタオルを――〉
『これー?』
〈――そうそう、それ! それで「おだんご」を下から支えるようにしながら、頭を巻いちゃおう〉
『うん!』
ぎこちないながらもクルクルとタオルを巻いていくクル。 横は向いているが、両手を上げてやや胸をそらしての作業だ。
――ほんと、おっきくなったよなぁ……
『できたー、かな?』
〈いいんじゃないかな? あ、端っこは折り込んで留めるんだ。 そうそう!〉
『わーい、つぎはからだをあらうんだよね?』
――うん、それも身体だけどね? どうして胸を持ち上げながら訊くのかな?
〈そーなんだけど、クル? 例えおとーさんにでも、そういう事をしちゃだめだ!〉
『むー、なんでー?』
〈クルはまだ思った事がないかも知れないけど、俺はそういうのは「恥ずかしい」事だと思ってる〉
『はずかしいことー?』
〈そうだ。 簡単に言うとだな、おとーさんが「もうクルと一緒にお風呂に入りたくない」って思うような事なんだ〉
『えっ……』
胸を持て余すように揺すっていたクルの動きが止まる。
〈いいかい? 俺はクルの事が大好きだ。 これは神に誓って断言する!〉
『う、うん』
――まだ表情が硬い……そりゃそうか、タイミング間違えたかな~。
それに引き替え……
―〈 〉―
――こっちはだんだん調子が戻ってきたのかな? ――っと。
〈同時に、俺はクルの「おとーさん」なんだ。 だからかな?「大好きな“娘”にこういう事はして欲しくない」っていうのがあるんだ〉
『そーなんだ……』
〈でもなー、正直に言うと、「いいぞ、もっとやれー」っていう俺もいるんだよ?〉
『――へ?』
――クルが目を丸くする。
〈クルは俺と繋がってる――あの赤い糸を見たら疑いようも無い――から、さっきみたいな事をした時に、俺が心の中で喜んでるのが分かってるんだろ?〉
『うん! わかるよー! おとーさん「えへへー」ってなってるもん!』
――ぐはぁ!!!
―〈ぷっ! くくくく……〉―
〈ソ、ソーダッタンダネー。 そうやって“喜んでる俺”をもっと喜ばそうとして、あんな事したり、こんな事したりしてた――違うかい?〉
『ううん! そーなの。 おとーさんによろこんでほしくてー』
――ホント、俺にはもったいない娘だよなー。
〈俺はもっと――せめてクルの心が今の身体に追い付く位に大きくなるまで――クルの「おとーさん」でいたいと思ってる〉
『あ、あたしも、イクルにずーっと「おとーさん」でいてほしい!』
〈でも、クルがしてるあんな事やこんな事は、“俺”は嬉しいけど、クルの“父親”としては嬉しくないことなんだよ〉
――我ながらややこしいなあ。
〈クルの“父親”としては、もっとクルと遊んであげたいし、褒める時もクルの頭を撫でてあげたい――〉
――その為にも俺は身体を、手足を取り戻したい!
〈――そして、もっと「悪戯っ子」のクルや「甘えん坊さん」のクルを見たい!〉
『うん……うん!』
クルはこっちを真っ直ぐ見て頷いている。
〈――だったら?〉
『おとーさんが「恥ずかしい」とおもうよーなこと、しないよーにする?』
〈そーだ!! クルの「おとーさんによろこんでほしい」って気持ちだけで、おとーさんこんなに嬉しくなるんだぞ! やっぱりクルはいい子だなー!〉
『えへへー。 あたし、いたずらもいっぱいするー!』
――お、おてやわらかにね?
〈さあ! 身体もきれいに洗っちゃおう! お湯から出て時間経っちゃったけど、寒くなったりしてないかい?〉
『へーきだよ! このおへやぬくいもん!』
〈よーーし! じゃあ、おとーさん見ててやるから、教えた通りにひとりで洗ってごらん〉
クルは輝くような満面の笑顔で――、
『うん! がんばるぞー!』
そう言って鏡に向かった。
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きゃーきゃー騒ぎながら身体を洗うクルの背中を見ながら、俺はさっき覚えた違和感を思い返していた。
――俺、“頭が生えた”かも知れない。




