―勇者―
残酷描写ありです。
「くそっ!」
――あと少しでボス部屋だってのに、雑魚で時間稼ぎかよ!
縦長の部屋の奥で、数人の魔族が怪しげな動きをしている。 しかし壁に開いた穴から溢れるように出て来る戦士蟻の群れが行く手を阻む。
――「盾」が押されかけてるのか? タワーシールドが傾いでいる。
俺は「聖剣」を振り払う。
何の抵抗もなく、目の前の6匹が纏めて真っ二つになった――ように見えるらしいが――!
「ってぇ!」
スキルが無理矢理動かすからそう見えるだけだ――くそう! 腕が折れやがった!!
「おい! 強化切れてるぞ! さっさと治して掛けやがれ!」
「はい」
ちらと振り返れば「聖女」がポーションを取り出し、躊躇うことなく一気に飲み干すところだった。
……何度見ても胸くそが悪くなる光景だ。
ほどなく俺は光に包まれ、折れた腕は繋がり、力が漲る。 そして今度こそ苦も無く蟻共を斬り払えるようになった。
そうして群がる蟻共を3分の2程減らした頃、前方に光が見えた。
少し高くなった壇のような場所で、数人の魔族が光を放つ魔法陣を囲んでいるようだった。
――召喚陣か!? 何を――。
蟻共を斬り払いながらも焦りが募る。 光は段々と強くなり――繭を形作る――人型だ!
――悪魔か!? この状況で高位のモノでも出て来られるとヤバい!!
「リンコ!! 俺と「槍」に障壁を張れ! 「弓」は援護しろ! 「炎」は引き続き周囲の雑魚を!」
「はい」
「分かったわ~ん」
「あ~い!」
俺と「槍」の身体が淡い光に包まれる。
そのまま残った距離を跳ぶ――。
光が弾ける――!!
同時に「弓」の【アローショット】が予定通り手足を射ち貫く。 ――よし!
俺と「槍」はギリギリで壇上に取り付き、そのままの勢いで「槍」の【ホーリーランス】がそいつの腹を貫いた。
俺も【ライトソード】を振り下ろそうとして――初めてそいつに気付いた。
――こいつ、人間か!
着ている服こそ見慣れないものだが、矢にも槍にも抵抗した形跡がない。
驚愕に眼を見開き、「槍」に腹を貫かれて口からは鮮血がボタボタと零れ落ちる。
未だ己の状況を理解出来てはいないだろう……
「ああ! なぜ……そんなはずが―― 」
今のは「聖女」か!? 「聖女」がしゃべったのか? 余程ショックな事でも無い限りは――。
まさか、知り合いか?――いや、そんな筈はない。 「聖女」には人と知り合う時間など無かったはずだ。 何より……
「ちっ! 男か――」
女だったら色ボケ共にいいかげん飽きてたから助けたかも知れないがな――こんな荒んだ討伐隊に男なんてお荷物を抱える余裕など無いし――どうせコイツは助からねえ。
「――そのまま死んどけ!」
俺は剣を振りおろし、そいつを斬り捨てた――。
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――俺は「勇者」なんだそうだ。
18年ぶりに聖教国に「聖女」が降臨したって噂を耳にしたと同じ頃、王国のお偉いさんが俺の村にやって来てそう伝えてきた。
かつて「魔王」の封印に成功し、大陸において人間の版図を拡げるのに大いに貢献した、聖教国の「討伐隊」の伝説については俺も知っていた。
各国、各種族の精鋭達が「聖女」の呼びかけで聖教国に集まり、「勇者」を筆頭とした「討伐隊」を組んで、「魔の領域」の根源である「迷宮」を潰して回ったという。
俺がそんな「勇者」だって!? 俄かに信じられる話ではない。 なんせ俺にはこれといった恩恵など何も無かったからだ。
しかし、聖教国から国王を通じての直々の召喚に応じない訳にもいかず、半ば強引に俺は聖教国へと送られた。
聖教国で俺が「勇者」となった理由が判明した。 “勇気ある者”、言い換えれば“恐怖心を持たない者”だ。
俺には生まれつき「恐怖心」というものがまるでなかった。 大きな災害や、村を荒らす魔獣、ガキんちょだった俺など片手で捻るような大人達――それらに遭遇し、相対しても「怖い」と思ったことは皆無だったのだ。
「勇者」の条件、それは迷宮討伐の最中でも、恐怖心に囚われずに己の意思を保ち、討伐隊のメンバーに的確な指示を出せることだった。
引き合わされた「討伐隊」のメンバーは全員女性だった。 そしてその全員が妖しく輝く魔石の付いた黒い首輪を嵌めていた。
「聖女」を除く4人は好きにしていい――聖教国の宰相は、事もなげにそう告げた。 ついでにいうと4人は既に俺に尽くすことが至上の喜びとなるよう“教育”されているとも。
言われて見れば、4人の中に「人間」は居なかった。 獣人、亜人、エルフ……「人間」以外を“人”と認めない、いかにも聖教国らしいと思った。
何の恩恵も持たない俺には、ありとあらゆる効果が付された武器・防具が渡された。 念じればスキル同様に武器が俺の身体を使うのだそうだ。
――結局は俺も「人形」だということだ。
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「討伐隊」として実際に幾つかの迷宮に挑んで程なく、俺は4人の女を「使う」ことになった。 スキルに動かされるだけの身体は簡単に壊れ、苛立ちだけが募り、そうでもしなければ正気が保てなかったからだ。
「聖女」はその「癒し」と「結界」の力を発揮するために「生娘」である必要がある為、「手付け」は厳重に禁止されたが、「聖女」――名は“リンコ”とだけ聞かされた――にとっては何の救いでもないだろう。
聖教国が目を付けたのは「転移者」である「聖女」の「異空間収納」の能力であり、少人数での迷宮攻略を可能にする「道具」として徹底的に利用し尽くす事だけに特化していた。
「聖女」が口にしているポーションは「異空間収納」の膨大な内容物(食料・水・予備の武器・道具など)により消費され続けるMPを回復させるものだが、“濃縮”されている。
魔法職なら誰でも知っているが、ポーションは“苦い”ものだという――それを“濃縮”したそれは最早“薬”などではなく、明らかに“毒”であり、味覚を破壊するに止まらず、消化器も徐々に爛れ、普通なら食事など出来る筈もない。
首輪により「意思」を完全に奪われた「聖女」は、その“毒”を平然と飲み、血の味しかしないであろう食事――ほとんど流動食のようだった――も、生命維持の為に欠かすことなく摂らされる。
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そして、ようやく俺たちはこの「魔の山の迷宮」まで来た。 魔王を守る最後の砦にして、最強の「守護者」――“暗黒竜”の棲む山に。
――「聖女」に残された時間はもうほとんど残ってないだろう――急がないと――早く!
魔王を守る最後の砦にして、最強の「守護者」――“暗黒竜”の棲む山に。
の一文を追加。




