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初勝利

短い…。

 自分達が最前線に立たされることは、誰に言われるまでもなく全員が分かっていた。

 指揮官であるイヴ自体がぞんざいな扱いをされているうえ、ほぼ全員が元奴隷なのだから。

 それに対しては、もう諦めがあった。自爆という方法も何度も目にして来ている。

 覚悟はあった。

 イヴの立場から、それらを退けることは難しいと分かっていたからだ。

 だから、イヴから告げられた言葉に全員が瞳を見開いた。


「絶対に生き残るわよ」


 説明の最後、告げられた言葉。

 生きる意思と覚悟を宿した瞳に、ギル達は力強く頷いた。


 自分達と生きる、と言ってくれたイヴの為に。















 最前線に置き去りにされたイヴは、遠くに見える獣人の軍勢を見据えて息を吸った。

 すでに戦いは始まっている。圧倒的に不利なのはイヴだ。

 獣人は千単位で布陣し、イヴ達は四百弱。

 目の良い獣人ならば、イヴ達の人数を正確に把握できるだろうし、その少なさから何かあると考えても不思議ではない。

 その為、動きはまだないが、獣人達が攻めようとしているのは分かった。

 わずかな動きである為、イヴには見えないがギルやマーリャにはそれが察せられた。

 だから、イヴは自分が考えた初撃の準備に入る。

 ギル達は自分よりも後方に下がらせて、おもむろに口を開く。


『 顕現せよ。我が求めるは憎悪を焦がす光。天地を結ぶ裁きの槍に願う。悪しき魂に慈悲なき鉄鎚をもたらさん  雷炎大槍  』


 雷をまとう極大の槍。

 炎で構成されたそれは十数メートルにも及び、イヴの頭上に浮かぶ。稲光を発しながら、三本(・・)の炎の槍が。

 ギル達も獣人達も動きが止まる。

 その圧倒的な存在感と凶悪な破壊力を秘めているその姿に。

 はるか後方、嘲笑いながら戦場の方向を見ていたカイン達にも視認できた。

 呆然と口を開いて固まっている彼らなど知らないイヴは、両腕を掲げ、勢いよく前方へと振った。同時、炎の槍が空中に金と紅の線を描いて獣人達へと飛び、次の瞬間、凄まじい爆音とともに着弾した。

 距離をとっていてさえも巨大と思えるほどの噴煙が昇り、爆風が強風となってイヴ達を襲った。

 その凄まじさに固まっていたギル達は、イヴが剣を抜く音で我に返った。

 怒号と噴煙、風がやまない状況で聞こえるはずのない音だ。だが、それは闇夜に浮かぶ灯火のようにしっかりと耳に届いた。


「必ず生き残れっ!」


 懇願ではない。命令だ。

 死を覚悟して臨むことを許さない強い声だ。

 手足に力を入れて、雄たけびを上げる。

 瞬間、噴煙の向こうから巨大な狼が飛び出してきた。

 灰色の毛並みがまだらに赤い。仲間の血を浴びたのだろう。

 怒りと憎悪に彩られた淡い灰色の瞳がイヴを見据えた。だが、その突撃を予見していたのかイヴはあっさりと剣を横なぎに払って斬り伏せる。

 返り血を浴びながら、もはや何も言わずに駆けだしたイヴの背中を追って、ギル達も武器を構える。

 成長途中の小さな背中が、とてつもなく大きく見えたのはギルだけではなかった。軍人達でさえも、イヴの背中にひかれ、走っている。

 何故か、誰一人として負ける可能性を思い浮かべることができなかった。











 『雷炎大槍』を放ってから三時間。

 満身創痍になりながら、しっかりとした足取りで返ってきたイヴ達に、カインは頬を引きつらせた。

 全身を返り血で真っ赤に染めあげて、変わらない淡々とした眼差しで報告する妹に、カインは我知らず恐怖していた。

 それを見抜いたギルとゼイルは、一瞬だけ視線を交わしてから心で嘲笑した。

 嫌いでたまらない奴が怯えている様が愉快なのだろう。悪趣味と言われても、二人なら笑い飛ばすに違いない。

 だが、ギルとゼイルはそう遠くない未来、カインに対する嫌悪が殺意に変わることを知らない。





 後に作られる、聖女帝イヴ=ラディエラ=サディエランの伝説。

 その最初の事柄として、これを『ドゥオークの降臨』と呼ばれるようになる。




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