ソラリア再建:事前調査と課題整理
なんだか妙な雰囲気になってしまったが、私としては直轄領の件、早く詰めちゃいたい。なんか王妃様も殿下も打ちひしがれてて、クラウスは爆笑してるの訳分からんけど、医師団を派遣してもらっている以上、対価は支払わなくちゃね。
「レティシア様ならそうおっしゃると思いまして、ここ数日ソラリア領の資料まとめておりました。まずこちらの図をご覧ください!」
今度はクラウスの連れている文官たちが、大きな紙をばっと広げた。すごい、この前棒グラフを生まれて初めて見たはずなのに、もう使いこなして資料を作成してる。
「こちらは近年のソラリア領の税収です。一昨年から干ばつによる飢饉が発生しており、耕地面積に対する麦の収穫量は大きく落ち込んでいます。」
ここ20年をまとめた棒グラフを見ると、緩やかな減少を続けた後に直近でドカンとでかい減収がきている。これが自分のプロジェクトだったら、役員会議という名の懲罰委員会にかけられて四方八方から吊し上げくらってるわ。
「一昨年の急減は、当時の領主による横領が原因です。領主はすでに解任しておりますが、領地そのものは立ち直っておりません。」
うーんソラリア領か、元祖レティシアの記憶を辿ってもなんとなく名前だけ聞いたことあるような、としか印象にない。王都からは馬車で5日くらいかかるし、特に出向きたくなるような用事がある土地でもない。
「ソラリアは長い目で見ると、初代領主が取り潰しとなってからずっと王家が管理している領です。定期的に領主を任命しているのですが、どの領主も続きません。」
12年前〜9年前 ローウェル伯爵
8年前〜6年前フェイン伯爵
5年前〜2年前バルク準男爵
現在王家管理
「待って、離職率高すぎない?領主って数年で変わるようなものじゃないでしょう。」
「り……はい?」
「ブラック企業じゃない?だんだんアサインされる領主の爵位も下がってるし」
「褒美に〜って言って渡そうとすると謹んで辞退されてしまうのよ。」
5年前まで領主を務めていたバルク準男爵には、レティシアの記憶にも覚えがあった。貴族籍を最初に買い上げた商人で、娘を王妃に!息子を領主に!って張り切っていたようで、令嬢と同席したことはある。そういえばある時からばったりと噂を聞かなくなった。
「バルク準男爵って……今どうされてましたっけ?」
「横領および不正に税をあげたとして、元準男爵と夫人は貴族牢に入っているわ。」
「貴族牢……」
「貴族籍を買ってからあまり日も経ってなくて、よく分からず着任したところもあってね……その辺り、エルグラン公爵がうまくやってくれると思ったのだけど。一応の温情をかけて首はつなげておいたということ」
不当な増税、そして差額の着服。それを王宮に黙ってやったのだとすると本当に重罪だ。しかし、王家にも、立ち行かない領を押しつけた引け目があって、極刑にはしなかったってことか。
「そしてまた管理が我々に戻ってきた訳ですが……いくら耕せど麦は実らず、不毛の土地が広がるばかり。」
クラウスが合図すると、大きな紙には懐かしき積み上げ棒グラフが!すごい、使いこなしているわ。
「レティシア様にはおそらくご理解いただける絵図かと思うのですが」
「ええ、ソラリア領の自前の食料が緑、王都からの支援物資を赤で表しているのですよね?素晴らしい、支援物資の方を赤にして緊急性があることも伝わる良い絵図ですわ。」
「……っ!このクラウス、陛下より宰相の勅命を賜った時よりも感動しております!!」
「おい!お前陛下のことをなんだと思ってるんだ!」
本当に素晴らしい、やっぱりクラウスには現世サラリーマンの才能があるわ。男子の平均初婚年齢がせいぜい25歳くらいの異世界で、現代日本の独身と同じくらい拗らせているのが本当に心配だけど……。
「殿下、それはともかく。この絵図を見ると支援物資が日に日に増えています。横領がなくなり税は元に戻ったというのに、食料生産が元の水準に戻らないのはなぜなのでしょう?」
「ともかくって……おほん、それはだね、ソラリアはここ最近雨季が極端に短くなってしまっているんだ。そして農業も立ち行かない状況になっている。王都から食料を送って食い繋いでもらうのは簡単だけど、永久にやり続けるわけにもいかないね」
雨季が短くなっている……食料不足……王都からの支援……。なんか引っかかるのよね、ソラリア領っていう名前も……。
そうだ、ゲームの中でソラリア領行ってたじゃん!攻略対象・殿下orクラウスのルートの時!
『この地に住まう皆様に、女神様のご加護を賜れますように───』
これあれじゃん!「聖女の救済イベント」!ヒロインを呼んだら万事解決のやつ!
「補佐官を送ってはいるんだが、あちらも解決の糸口が見えないようで、報告書も釈然としない。とりあえず視察に出向くしかないかと思うんだが……。」
「賛成です!殿下!芋とアリア嬢を連れて視察に向かいましょう!!」
興奮して殿下の手を掴むと、殿下の耳がかっと赤くなった。やばい、このところヨハンの淑女教育をさぼりすぎているせいか現代日本にいた時に引っ張られがちかもしれない。
「……し、失礼しました!殿下、不敬罪だけは勘弁してください!」
「いや、不敬罪っていうか……」
「あはは、いいのよ、セドリックの手なんていくらでも掴んでやってちょうだい。」
なぜか急にご機嫌になった王妃様のおかげでギロチンは免れた。ふーよかった、家に帰ったらまたヨハンと特訓しなくちゃ。
「ところで、アリア嬢ってどなただったかしら?」
「先日のお茶会にいらしていた、アリア・ローレル男爵令嬢です!」
「ああ、君のテーブルに座ってた、紅茶をかけられた男爵令嬢だね。」
「あの子ね、なぜソラリアに連れて行くの?」
まずい!そりゃそうだ、普通の男爵令嬢を領地の視察に連れてく理由が全然ないわ!別に仲良いから一緒に行きたいです〜って程の気楽なプロジェクトでもないし!
「えーと、それは……」
「ああ、アリア嬢は奇跡の力の使い手と噂されていますからね。ご実家の領地にあった農地もアリア嬢の祈りで少し広がったとか。」
クラウス!なんて役に立つ男なのかしら。もし前世だったら私の直属の部下にしたいところだった!
「うーん、聖女ってわけでもないのだろう?」
「今のところ……ですが、覚醒するかもしれませんし……」
「えっ!彼女が聖女である可能性が高いのか?公爵に伺ったのかい?」
「え、ええ、お父様からローレル男爵令嬢には少し興味を持っておくといいと」
「まあ、ヴァレンティーノ公爵がそう仰るなら……」
ごめん、お父様。でもきっと話合わせてくれるって信じてるわ。




