新規案件受注:王家直轄領再建プロジェクト
会議の結果を受けてあれこれと交通整理をし、眠りについたのが2時。そして王宮からの使者が我が家の門を叩いたのは7時ぴったりだった。
「7時って、なんというか、非常識ではあるものの大手を振って責められるかと言われたら微妙な感じの時間ね……」
「お嬢様!!お早く!!こちらに腕を通してくださいまし!!」
ばあやに急かされながら慌ただしく着替えて下へ降りると、広間には当たり前のようにクラウスがいた。いやいや、予感はしていましたけども。
「おはようございます、宰相殿。なんというか、その、お早いお着きで……」
「もちろんでございます。レティシア様のご用命とあらばこのクラウス、朝議をすっぽかすだなんて文字通り朝飯前。医師団を叩き起して5時から準備させていた甲斐がございました。」
「まあ、理不尽な宰相様ですこと。今をときめくお方はやはり違いますわね……」
こちとら前世からの低血圧。転生してから権力にものを言わせて9時台の起床も珍しくないというのに、お陰様で今日は健康的な時間に起きてしまった。頭はほとんど回らず、嫌味をどっさり言ってやりたいのにキレがない。
「そう仰らず!久々の大仕事に医師団も異常に張り切っておりますよ。ヴァレンティーノ公爵もたちどころにお元気になられるでしょう!」
「どうせ戻る馬車で私を回収するのが目的でしょう?」
「回収だなどととんでもない!このクラウス、少しでもレティシア様の教えを乞いたく、殿下を出し抜いてここまでやって来てしまいました。」
……殿下を出し抜いて?とんでもない話が聞こえた気がしたが、考える間もなく馬車へ押し込まれてしまった。
「レティシア様、王宮へ着くまでにこの資料たちのアドバイスを下さいませ!例えばこちらの王都における小麦価格を一覧にした資料ですが、升目状になった表とは別に時間軸を横、価格を縦で表すには……」
「こんな細かい資料を馬車で広げないで!酔うわよ!!」
とはいえ今まで、私の話を理解はしてくれても賛同して積極的に質問してくる人はかなり少なかった。久々のビジネス談議に白熱していると、あっという間に王宮の入口に到着した。
まあ、王宮にいるべきといえばそうなのだけど、ただし、王宮の入口で仁王立ちして待ち構えるには、少々ふさわしくない人物がいる。
「……殿下?こんなところで何を?」
「もちろん、レティシアを待っていたに決まっているだろう。クラウス!」
「何か?」
「何か?じゃない!王妃命令を無視して朝の7時から医師団を叩き起すだなんてどういう事だ!レティシアは私が迎えに行くはずだったんだが!?」
「殿下、ヴァレンティーノ家に到着したのが7時、出発は6時、従って医師団を叩き起したのは5時でございます。」
薄々察してはいたものの元社畜の私もドン引きのタイムスケジュール。こいつ多分現代日本に生まれてたらコンサル会社で最年少出世(ただし会社に住んでいる)しそうだな……。
同じくドン引きでトーンダウンした王子に連れられ、なんと3日連続王妃様と謁見してしまった。
というか、その日から休みなく、1週間連続で王宮に参じている。
朝は医師団から話を聞き、昼頃わちゃわちゃと殿下とクラウスが迎えにきて、王妃様とお茶をする。
楽しいと言えなくもないけど、毎日はちょっときついかな……と思い始めたところでクラウスが口火を切った。
「お二人とも、レティシア様もお暇ではないのですから、既成事実を作ろうとせずハッキリと打診したらいかがですか?」
幼なじみならではの無遠慮な口調に王妃様も殿下も紅茶を吹いた。
「クラウスお前、なんというか、もうちょっと手心というか……!」
「いえ、セドリック、これは私たちが悪いのよ。」
王妃様は私の方へ向き直ると、姿勢を正してまっすぐこちらを見た。殿下もそれに倣っている。私だって2人が何を言い出しかねているのか、もちろんわかっていた。
「王妃様、私とてヴァレンティーノ公爵家の娘。もちろんお二人の言わんとするところは察しているつもりでございます。」
「それでは……」
「はい」
私はゆっくりと息を吸った。
多分、予想以上にいばらの道になるだろう。普通の令嬢なら、もっと身の丈にあった暮らし方があるのかもしれない。でも、私はもっと広い世界で自分を試してみたいのだ。前世ぶりに胸がわくわくしている。
「王家直轄領であるソラリア領の復興、このレティシア・ヴァレンティーノにお任せください!!」
王妃と殿下は何故か前世のお笑い芸人を思わせるくらいの見事なズッコケを見せ、クラウスは堪えきれず吹き出した。
「……あれ、違いました?」




