ソラリア再建:関係者アサインと現地入り
善は急げとばかりに翌日のお茶会にヒロイン、アリア・ローレル男爵令嬢が早速召喚された。本人にはろくに状況説明もされていないようで、入室してから一応礼をとりつつぷるぷると震えている。なんて健気で可愛らしいのかしら、と攻略対象(要するに殿下とクラウス)をチラリとみるが、全く興味がない様子で手元のソラリア領の資料をめくったりしている。
「ほっ、本日はっ、お日柄もよく、王妃殿下、に、拝謁させて、いただきましゅ、す!!」
いや、お見合いじゃあるまいし……と私は苦笑したが、王妃様の目線は冷たい。そうなんだよね、私にはお優しい王妃様だけども、利用するつもりのない配下には厳しい方。まあそうでないと王妃など務まらないと思うけど。
「……顔を上げていいわ。」
王妃様の声には感情の起伏がほとんど感じられない。臣下の前になると、いつもの穏やかな微笑みはきれいに消え去り、顔の半分を扇で隠してしまう。
「今日はここにいるヴァレンティーノ公爵令嬢の推薦であなたをここにお招きしました。奇跡の力を持っているというのは本当かしら?いつでも発動できるの?領地以外で使用したことはある?」
「はっ、はひ、えっと、レティシア様とは学園の授業でご一緒したことが、何度か!」
王妃様も人が悪い、そりゃこの国の女性の頂点に質問攻めにされたら、落ち着いて答えられないでしょうよ。ローレル男爵家は王宮との付き合いが頻繁なわけでもないのに。
「ごめんなさい、アリアさん、来てくれてどうもありがとう。私があなたの力を借りたくてお呼びしてしまったの。」
「全然!いいんです!レティ様のためだったら私、どこでも行きます!」
そう、私は敵対すべきヒロインのアリアに、学園でせっせと親切にした結果、若干崇拝されている。ソラリアの危機を最速で救うにはゲームイベントを再現するのが早いとは思ったんだけど、私の名が入った召喚状を出せばアリアも断らないだろうという打算もあった。
「レティ、君ローレル男爵令嬢と本当に仲が良かったのか?」
「ええ、作法の時間は細かい所作の積み重ねでしょう?先生もいらっしゃいますが、爵位が上位の令嬢と爵位が下位の令嬢をペアで組ませて、上位の令嬢が教え導くことが多いのですわ。私、アリアさんとずっとペアでしたの。」
ゲーム補正ってやつの一種なのか、アリアと私が仲良くなっても、周囲の見え方は変わらなかった。公爵令嬢が身分を傘にきて男爵令嬢をいじめてるってね。
「すまない、僕はなぜかずっと君が爵位が下の令嬢をいじめているとばかり……。」
「お気になさらず、そのような噂も流れておりましたから。」
「……また君を誤解していた。」
王子は悲しそうに目を伏せた。端正な顔にやや長い前髪が落ちて、子女たちが黄色い声をあげそうな憂いがでたが、私にはその様が何となく子犬を思わせる。
「いえっ、私がいつまでも作法がままならないから、レティ様にまでご迷惑がかかっていて」
話がとっ散らかりそうになったところで、ばしっ!と扇が閉まる音がした。間違いなく王妃様の扇だ!背筋を凍らせて私は一生懸命話を戻すことにする。
「それでね、一緒にソラリア領の視察に同行してほしいの。できれば救荒作物の栽培に入りたくて」
「なるほど、ソラリアの水不足ですか……芋類の中でも水をあまり必要としない品種がいいでしょうね。レティ様、我々の領地で成果の出ている品種をいくつか指定させて頂いてもいいですか?」
「もちろん!」
いや、アリアが祈りを捧げれば万事解決、芋だろうとプチトマトだろうと関係ないとは思うけど、説明がめんどくさいのでそういうことにしておく。
ぶつぶつとひとりごとを言いながら芋の選定をし始めたアリアをよそに、クラウスがとんでもない量の書類を私の前に積んだ。
「レティシア様、ソラリアについて、王宮にあるだけの記録を全てお持ちしました。」
「……ありがとう、ずいぶん多くない?」
「ソラリアについては十分な記録がないので、少ない方かと!」
要するに全部目を通せということだ。全部のデータをAIに食わせて要約してもらえた前世が懐かしい。
「ところでレティシア様、出発は明朝5時でよろしいでしょうか?」
「よろしくないわ!?準備必要でしょうが!」
「そうですかね……?この量の資料だったらソラリアへ着くまでの馬車で読み切れると思うのですが……」
ワーカホリック!!王宮からの視察へ行くのに準備時間が半日だなんて聞いたことがない。
助けを求めてちらりとアリアを見ると、何かを察して力強く頷く。
「宰相様、だっ、ダメです!苗の手配もまだ終わっておりませんし……!」
「アリア嬢、あなたが思いつきそうな芋の苗なら王都周辺で確保できたものは全て用意させております。どれでも好きな苗を一山持っていくといいですよ」
クラウスが手を叩くと、ゲッソリした部下たちが今度は苗を持ってきた。いやいや、使わない苗どうすんのよ!
鉄壁のガードに秒殺されたアリアを見て、今度は王子が立ちはだかるように前へ出た。
「クラウス!僕も行く予定だっただろう?生憎明日から外交予定が詰まってて……」
「殿下のお手を煩わせるほどではございません。まあサクッと帰ってこられる気はしませんので、後から合流されても間に合います」
私はゲームイベントを再現してサクッと戻ってくる気満々だったが、クラウスの不吉な予言は聞き捨てならない。
「お待ちになって、サクッと帰って来られる気がしない……というのは?今回は現況の視察だと思っていたのだけど。」
「少し前から部下にソラリアを探らせているのですが、この領地の問題は飢えだけではありません。……というか、私の勘が当たっていれば食料だけが不足している訳では無いでしょう。」
「なんですって?」
「上がっていた報告はひどく大雑把なものでしたが、それでも数字を拾っていくと、いくつも辻褄の合わない点があるのです。レティ様、これは大仕事の予感がしますね?」
にこりと笑うクラウスを見て、なぜだか背筋がぞくりと冷えた。




