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プロジェクト完了報告:王都凱旋と新規アサイン

帰りの馬車は、どうしても殿下が同乗すると言い張るため、行きより1名定員が増えた。その上、荷馬車を新しく借りても賄えないくらいのカカオを買ってしまったため、全員の足元にカカオの木箱が積まれている。



「……レティシア、このごろごろ転がってくる特殊な形状の木の実、こんな量必要だったかな?」


「……私の手持ちであるだけ全部!と言ったら、こんなに頂いてしまって、恐縮ですわ。」



蓋もできないほど大量に入れられたカカオは、早くも木箱からこぼれ落ちて全員の足元にごろごろと転がり続けていた。このまま転がして王都に着く頃には、ココアパウダーになっていないかなぁと思うが、恐らく実が傷むだけだろう。



「レティ様、私が少し聖女の術を使うと馬車酔いが止められそうです!」


「さすがに聖女の術ってのは……いや、ちょっとお願いしたいわ」


「おい、誘惑に負けてどうする。神聖な聖女の術で馬車酔いを防ぐな。」


「しかし、お願いしたくなるほどの悪路です。追加された殿下とレティ様が買ったカカオとやらのせいで乗り心地は最悪ですし。」



しばらく、聖女の術を乗り物酔いに使う是非について討論していたが、ふと話題が途切れた後に殿下が居住まいを正して切り出した。



「レティシア、ガルドは王宮で裁かれることになる。おそらく、私財没収の上長期間の禁固刑が妥当だろう。その上で、ソラリアへは永久に立ち入り禁止とする。」


「そうでしょうね。」


「アデーレ夫人は罪に問えない。ローディンは直接の利益を得ていないので、会計長は解任するが今後の身の振り方は彼に任せようと思う。難しいのはミレーナ嬢だが、ガルドが変なことを言い出した。」


「変なこと?」


「娘は自分の指示で言われた内容の帳簿をただ漫然とつけていただけ、横領及び仲間の店へ多額の金を落とす仕組みを考え出したのは自分だ、と。」


「……え?そんなはずは。」


「ミレーナ嬢にも確認したが、……レティ、今回はガルドを信じようかと思う。」



……なるほど、バレた以上罪は自分一人で背負うってわけ。ガルドはミレーナを虐げているだけの父親だと思ってたけど、一応情も残っていたのかしら?それとも、単に女に仕事をさせたなんて耐えられないのかしら?



「どこまで事情を理解していたか、書類だけでは証明できない。しかし、ミレーナ嬢は帳簿をつける中で、その事実に気づいていたようで、我々の前で父・ガルドを庇う発言をした。」


「……ということにした?」


「ああ、クラウスとアリア嬢も分かってくれたかな?」


「殿下がそう仰るのでしたら、異存はございません。」


「……でもあの、そういうのって」


「アリアさん、今殿下の御前で言っていいことか、よく考えて発言なさいな。」



アリアは数分考え、しゅんとしながら頷いた。喋ってもいいことないって気づいたみたいね。偉いわ。



「……まあがんばりなさいな、聖女様。」


「それは言わない約束ですっ!」



*



馬車がゴロゴロ言いながら王都の門を抜けると、待ち構えていたパレードの様な馬車へ全員載せ替えられた。(もちろんカカオは回収された)街の中心部へ近づくと、大量の町民が聖女アリアに向かって手を振っている。



「アリア嬢、にこやかに笑いながら手首を左右30度くらいずつ振って。なるべく広い範囲の人に顔を見てもらえるように、背筋を伸ばして色々な方面を見つめるんだ。さっきから右ばかり見てるだろう。民が右に偏っている。」


「はいっ!」


「左はそこそこ私が引きつけるが、やはりみんなの目当ては新しい聖女だからな。ほら、顔が引きつってるぞ。手の角度はそんなにつけなくていい。」


「ひゃい!」


「クラウス、レティシア、隠れてないでお前らも少し手を振れ」


「いや、我々の顔誰も知らないでしょ……」


「求められてない人間に手を振れるほど、高貴な身分ではございませんので……」



私とクラウスは気まずさに耐えかねて、本来なら侍女などが乗るはずのスペースに引っ込み、気配を殺してやり過ごすことにした。

それにしても、すごいわ……聖女ブーム。旧レティシアの記憶によると、聖女の出現には波があるようで、しばらく見つからない時期もあれば立て続けにぽんぽん見つかる場合もある。今回は久しぶりの発見なので、おそらく教会は祭だろう。


この国で「教会」と言えば、ただ1つ。慈愛の女神を仰ぎ、慈愛・奉仕・質素倹約を美徳とする、庶民・貴族を問わず広く信仰されている宗教だ。聖女は女神の寵愛を深く賜った女性ということで尊敬されるが、教会に必ず組み込まれるわけではない。その辺、日本人のゲームクリエイターが考えたふんわり教会なのだ。


しかし、レティシアの記憶によると、ゲームには描かれていなかったが聖女の発見と教会の求心力はある程度連動しているようだ。聖女がしばらく見つからなければ、民は教会へ熱心に足を運ぶことを忘れてしまう。逆に、聖女が発見されてしばらくは、聖女が現れるわけでもない辺境の教会まで、礼拝に訪れる者が増える。

聖女の多くは簡易的だが治癒能力を宿しており、しばしば教会の施しとして庶民を治癒することがある。聖女とは、庶民にとって歌って癒せる国民的アイドルみたいなものであるらしい。


ということで、アリアは熱狂的な歓迎を受けたわけだ。今回は特にソラリアをまとめて何とかした訳だから、その歓迎も凄まじい勢い。普段は馬車で20分程度の道のりを1時間かけてパレードしたおかげで、クラウスの機嫌は最悪だった。



「……もう、馬車に群がる不敬な民は軽く引いてしまってもいいのではないでしょうか?」


「クラウス、それは絶対にダメよ」



*



歓迎ムードから一変し、王城に入ると多くの貴族が待ち構えていた。何もせず入口付近にたむろしているような貴族など、公爵令嬢の私や、すでに宰相位にあるクラウスにとっては恐るるに足らない。ただ、男爵家のアリアからすると針のむしろのような心地らしい。先程の可愛らしい戸惑いの表情は消え、下を向いて硬い表情だ。



『まあ、あの子が新しい聖女様?』

『優雅なレティシア様と比べてずいぶんと可愛らしいこと』

『学園の成績はパッとしないそうじゃないか』

『男爵家のご出身で公務が務まるかしら?』



パッとしない成績ですって?高位貴族の淑女教育が指導要領のベースになってるんだから、男爵家出身者が良い成績なわけないでしょうが!

アリアへ声を掛けたかったが、基本的に謁見を申し込んで中央の入口から参内する場合、声を出してはいけない規則。歯がゆい想いで謁見の間へ到着すると、王妃殿下が待っていた。



「長旅ご苦労さま。セドリック、万事つつがなく終わったようで何よりだわ。」


「先んじてお送りした報告書の通り、ソラリアの行政は総入れ替え、当面は王宮から派遣した行政官を通じて、ヴァレンティーノ公爵令嬢に指揮監督を命じます。」



王妃殿下は軽くうなずくと、私の方に駆け寄ってニコニコとご挨拶して下さった。



「レティシア!大役ご苦労さま、お疲れのところ申し訳ないわね、本当に大活躍だったこと!」


「王妃殿下!もったいないお言葉でございます。まだ行政組織の再編などやることは山積みですので。」


「ええ、その辺は息子とクラウスを上手くこき使ってちょうだい!」



雑にバンバンとクラウスの肩を叩くと、後ろにぷるぷると控えていたアリアへ目を向けた。



「顔を上げてちょうだい、アリア・ローレル男爵令嬢。あなたのことはセドリックから報告を受けています。この後速やかに聖女任命式を行い、あなたをこの国の聖女として正式に発表するわ。それまで王宮への滞在を許可します。」


「は、はい、えーと、タウンハウスはあるのですが……」


「警備上の理由からタウンハウスへの帰宅は許可出来ません。少なくとも任命式までは王宮で専属護衛と行動してください。」


「専属の護衛!?そんな方、過分なのでは……」


「いいえ、これは聖女様に妥当な措置よ。窮屈に思えるでしょうけど、慣れてくれるとありがたいわ。」


「でも、護衛なら、お兄様方もお強いので!本当に大丈夫ですっ!」


「……あなたはもうただの男爵令嬢ではないのよ。わきまえてくださるかしら。やたらに謙遜されると、周りの者も仕事しにくいわ。」



アリアと王妃殿下、わかってたけど相性悪いな……。殿下をさりげなく見たが、首を振るばかりだ。母上の態度は諦めろと言いたいらしい。

王妃殿下は青い顔をして俯くアリアを一瞥すると、さして気にした風もなく使用人に護衛を呼んでくるよう指示をだした。


─────っていうか、これルート分岐点じゃない!


ゲームの時間軸なら、学園入学直後の聖女覚醒時に行われる分岐だ。学園入学後にセドリック、聖女覚醒後にクラウスと出会い、この後王妃様から護衛として最後の攻略対象・ルーカスを紹介される。その後、攻略対象に選んだキャラと庭を二人で散歩!



「アリア嬢、紹介するわ。王立騎士団第3部隊所属の騎士で、あなたの専属になるルーカスよ。」


「初めまして!俺はルーカス、えーと、ベル……ベルなんとか……ベルナルド……?」



とはいえ、この名字を忘れてしまう癖はなんでだっけ?ルーカスルートを攻略したから1回は読んだ気がするのだけど、後半の展開が全然思い出せない。

クラウスが呆れたように補足した。


「ベルグレイヴ、あなたのお名前はルーカス・ベルグレイヴ伯爵令息です。これでも剣の腕は一流でして、護衛任務には適任なのでご安心ください。」


「はは!そうだった!よろしくな聖女様!」


「よろしくお願いします……」



ルーカスは屈託のないゲーム画面通りの笑顔を見せているが、アリアは心ここに在らずといった感じだ。しっかりしなさい、ここは一番重要な分岐よ!



「悪いけどルーカス、アリア嬢に王宮の中を一通り案内してあげてちょうだい。私たちは残って少し話します。」


「承知しました!」



え、決まっちゃった!?嘘でしょ、ルーカスルート確定ってこと?分岐までくる順番もごちゃごちゃだから、そもそもルート分岐に関係ないのかもしれないけど。

セドリックもクラウスも全く意に介す素振りも無くアリアとルーカスを見送った。嘘でしょ、2人ともルート逃してるのよ?



「さて、レティシア。聖女覚醒の時に近くに居合わせてしまったようね?」


「は、はい……アリアの能力は本物だと思いますわ。」



まだアリアの力を疑っているのかと念を押す意味で強調したが、王妃殿下は予想と裏腹にしてやったりといった顔でにこりと微笑んだ。



「そうなのねぇ、残念だわぁ。話すしかないわね。国家機密。」


「ええ、全く本当に遺憾ではございますが、レティシア様にお話するより他ないかと。」


「母上、どういうことです?」



どうしよう、全然話されたくないわ。

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