ソラリア再建:想定外事象と聖女覚醒
代官府の近くに急遽設けられた畑に、アリアがうずくまっている。なんとなく理由は分かる気がして、声を掛けるのを躊躇った。
「……レティシア様、私、なんのお役にも立てなかったみたいです。ごめんなさい。」
「アリアさん……私こそ……」
アリアを連れてくれば、食糧問題は一発で解決する。そんな下心盛り盛りで連れてきたのは私の方だ。ただ、ゲームの前提から話すのも難しいので、どうしても歯切れが悪い。
「この近くに、足の悪いおばあちゃんが住んでいるんです。王都に出稼ぎに行った娘さん夫婦に代わってお孫さんを見てるらしいんですけど、配給を取りに行けなくて、役人さんに運んでもらってるからどうしても後回しになって、あまりいっぱいは食べられないって。だから、この畑に実った芋は全部差し上げますねって約束したんですけど……」
ソラリアが農耕に向かない土地というのは本当のようだ。もちろん、過小申告されていたほどでは無いけど、日照りが強すぎるという問題はあるんだと思う。
どうしたらいいかわからず立ち尽くしていると、張本人だと思われるおばあちゃんがアリアの様子を見に来た。
「まあまあ、こんなに暑いのに、いつまでも畑にいてはダメよ。せめてお水を飲んで」
「おばあちゃん……お芋が……」
「いいのよ、王都から来たお姫様みたいに綺麗な女の子とおしゃべりできただけで、元気が貰えたわ。私たちは大丈夫、慣れているもの。」
そう言っておばあちゃんが手を握ると、アリアは大粒の涙をぽろぽろ零した。その涙が畑に落ちたところを見て、『涙程度の水分でも、多少は芋の足しにならないかな』と私が考えていると、畑がピンク色に発光しだした。
「……ちょっと!アリアさん、足元見て!なんか光ってるわ!」
「え?光ってる?」
狭いとはいえ、小さい公園くらいはあろうかという規模の芋畑全体がピンク色に発光している。特に、萎びていたりほぼ枯れていたりと状態の悪い芋の苗が光源になっているかのように光っていた。クリスマスイルミネーションかと見紛うくらい、くっきりした人工的な光だ。
「きゃあああ!?なにこれ!?」
そうだ!これは聖女覚醒イベントの、覚醒時スチル直前!聖女の術が発動したときにはピンク色の光に包まれる設定だったわ!とすると、恐らく今、芋を実らせようとすれば叶う!
「アリアさん!芋のことを考えて!いっぱい実らせたいんでしょう!?」
「えっ今!?はい、芋だけじゃなくて他のものも、お肉やお魚もいっぱい実らせて、ソラリアの皆さんがおなかいっぱい食べれるようにして欲しいですううう」
アリアがそう叫ぶと、承知したとばかりに強い光が広範囲に広がり、ソラリア全域を包んだ───────
*
光源──もといアリアのそばにいすぎたからか、いつの間にかおばあちゃんも私もアリアも畑に倒れていた。普通に考えたら畑に倒れた時点で土まみれで不快なはずなのに、何故かふかふかの布団に倒れ込んだかのように心地よかった。
「レティシア!レティシア!!」
殿下の柄にもなく焦った声で呼ばれて目覚める。なんだか温泉に入ってマッサージを受けて12時間寝たのかってくらい快調だった。
「あら殿下、おはようございます。」
「何があったんだ!広場にいたら、突然ここが妙に光り出して……!」
「殿下、お足元をご覧下さいまし。」
「足元……?」
後ろから追い掛けてきたクラウスや、ミレーナとローディンたちが畑の入口に立って言葉を失っている。さっきまで萎びた芋の苗が点々と植えられていたはずの畑が、なぜか青々とした蔓に覆われていた。ついでに、土は暖かく程よく水分を含んでふわふわ。
ローディンが思わずといった様子で土を少し掘り返すと、大きな芋がたくさん地中に埋まっているようだった。
「……これは、君が?」
「まさか。もちろんアリアさんですわ。聖女の術覚醒の瞬間もしかとこの目に焼き付いてましてよ。」
「……聖女?アリア嬢が?」
「ええ、間違いございません。」
遅れてきた村の住人たちが、歓喜しながら芋を掘り返し始めたが、掘っても掘っても無くなる気配はなかった。これで食料問題は解決したわ、やっぱりアリアを連れてきて正解ね!
*
その夜は、到着した日と打って変わって本当に賑やかな宴になった。広場のど真ん中で火をたいて、飲めや歌えの大騒ぎ。中心はもちろん、覚醒したての聖女・アリアだ。
あれから、領内の他の畑はもちろん、なぜか家畜も元気はつらつになっており、あちこちで歓喜の声が上がった。アリアはたちまち『ソラリアの地を救うために現れた聖女』ということになり、焚き火のある中心部で村人達と踊っている。
学園でダンスの授業を受けた時は、ステップをよく間違えていたアリアだったが、音楽に合わせて即興で村人と踊る方が性に合っているようだった。
ガルドの断罪で暗い雰囲気になりそうだったソラリアは一変し、お祝いムード一色だ。
「レティ様、飲んでおりますか?」
「クラウスじゃない、探したのよ。」
宴だというので来てみたが、正直私はアリアのオマケ感が強すぎて居心地は良くなかった。殿下とクラウスはガルドとたっぷり語り合っているというので、いっそそっちに向かおうかと思っていたところ。
「それにしても、すごい歓待ですね。レティシア様、このジュースは飲まれました?」
「美味しいの?頂くわ。」
小さな器にちょっとだけ注がれたジュースを飲むと、あの懐かしい匂いがふわっと広がった。これ……チョコレート?ココア?いや、カカオか!
「あはは、苦いでしょう!この飲み物は近くで取れる実を潰して作っているそうで、若返りや長寿の効果があると……レティ様?大丈夫ですか?」
「これよ!!クラウス、この実を買って帰りましょう!!」




