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2 サクヤ

『ようこそ、妖刀奇譚へ。』


 朔弥の視界の中央に文字が浮かび上がる。


(すっげ……本当に目の前に文字があるみたいだ。触ることができそうなくらいに鮮明だ)


『この世界に決められた物語はありません。』

『幕府側に所属し、倒幕側のプレイヤーを倒すか。』

『倒幕側に所属し、幕府側のプレイヤーを倒すか。』

『人々から依頼された妖怪退治を行うか。』

『全ては自由です。』

『あなた自身の行動で、この世界が変わることもあります。』

『どうぞお楽しみください。』


 説明書の最初のページにも書かれていた文章が表示されているだけだが、どこか朔弥の気持ちを切り替えるような気分にさせた。


『まずはあなた自身の姿を決めましょう。』


「おぉ、なんか男が表示されて……あ、アレか。キャラメイクってやつか」


 目の前には男性が1人表示され、その横には髪型や顔のパーツ、身長だったりを詳しく決めることができる項目がある。

 項目の下には【ランダム生成】というボタンもある。


 確か説明書によると、ランダム生成は予め決められたパーツをランダムに選んでキャラメイクをする。みたいなこと書いてあったな、と思い返す。


「細かく決めたい人はこういうの凝っちゃうんだろうな……でも俺は……うーん……」


 性別を女性にして、またすぐ男性に戻してみたり。

髪型をアフロに変えてみたり、目のパーツを変えてみたりと色々と弄ってみるが、ちょっとめんどくさく感じた朔弥は、キャラを男性にしてからランダム生成のボタンを押し、確定する。


 そのまま次の項目に切り替わった。


『この世界で生きるための名前を決めましょう。』


「はいはい、名前ね。まぁ……サクヤでいいか」


カタカナで名前を入力し、次へ。のボタンを押す。


『それでは妖刀奇譚の世界にいってらっしゃいませ。』


 視界が眩しいくらいに真っ白になり、思わず目を瞑る。

 

 そうして目を開けた次の瞬間。

 見知らぬ町が広がっていた。


 通りの両脇には、軒を連ねる木造の町家が並んでおり、黒ずんだ柱の間には細かな格子戸がはまり、その奥からは住民の話し声が聞こえる。


 ドラマなどでよく見る和服を着た男性が下駄をカランコロンと鳴らしながら、足早にサクヤの横を通り過ぎた。


「なぁんか……江戸というか、幕末というか……いい感じにごちゃ混ぜというか……でも、本当にすごい。今まさに、ここにいるみたいだ」


 サクヤは辺りを見渡し、深呼吸をした後に軽くジャンプをする。土の匂いが鼻を通る感覚や、ジャンプした後、足に来る衝撃も現実と変わらないような気がした。


「おぉ、そうだ、一番大事なとこ」


 リアルでは包帯をされていた左手をみる。

 男性にしてはちょっと華奢なような気がするが、そんなに気に留めなかったサクヤは生唾を飲み込んだ後に手を開いて閉じてを何回か繰り返す。


「動く……はは、動く!」


 手首をくるくる回しても痛みは感じない。

 事故に遭うまでと同じような感覚。


「めっちゃ最高だよ、妖刀奇譚」


 軽く深呼吸し、気持ちを落ち着かせようとしている時に、視界の端に見えるUIのようなものに気がつく。


 手を伸ばすが、触れるわけではない。ただ視界の左上の端に体力と魔力のゲージが見えており、逆側の右上の端にはこの町であろうミニマップが表示されている。


「体力は文字通りそのまんまで……魔力はアレか。忍法だかを使う時に消費するMPって確か説明書に書いてあったな」


 腕を組んで色々と考えていると、サクヤの視界にNPCとは違う雰囲気を持った人が入る。


 大きな刀を背負い、武士というよりは山賊のような服を身に纏っている。顔は般若のようなお面をつけていて表情がわからない。

 

(あの人は……NPCじゃなくてプレイヤーか。頭の上に名前が書いてある。あんな装備もいつか出来るってことか)


 そういえば自分は今どんな装備なんだろう、と気になったサクヤは説明書に書いてあった内容を思い出す。


(確かウィンドウ表示って考えれば、勝手に視界に表示され……たわ)




 【サクヤ】Lv1 状態:普通

 ・ステータス

 ・装備

 ・アイテム

 ・依頼

 ・設定




 という項目が視界の中央に表示される。


(とりあえず設定から見るとして……音量を変えたり、血の表現をマイルドにするとかそういうのを変えられるのか。ログアウトもここから、ね)


 設定を閉じ、そのまま上から一つずつ確認していく。


(ステータスは計五つで…… 筋力・体力・敏捷・技量・幸運。数値を上げるにはレベルアップ時に貰えるポイントを振り分けるって説明書に書いてあったけど……これは自由度高いな。お、最初はちょっとだけポイントもある)


「まぁ、こういうヤツの定石なんて分かんないから、速いタイプにしちゃえばいいか」


 サクヤは軽く考えた後に思考を放棄し、敏捷と技量に振り分け、余った分を幸運に割る。


「よし。次は装備だ」


 装備のボタンを押すと、初期装備が記載された画面に切り替わる。


「武器の名前は刀【無銘】。明らかに最初から持っている武器で……捨てられないアイテム扱い。まぁ捨てたら捨てたで、お前は何で戦うんだよ。ってことかな。

 それで防具は……流浪人のなんたらって書いてあるし、最初から持ってる雑魚防具みたいなやつなんだろう……あ、こっちは捨てようと思えば捨てられるのか」


(アイテムと依頼は……別に今見なくてもいいか。大したものはないだろうし)


 背筋を伸ばし、首を鳴らす。


「そんじゃあ早速、刀を使ってみるか」


 腰に帯刀されている無銘の黒い柄頭に手を置く。

 そのまま鞘から抜こうとする。が、多分街中では武器は出せない扱いになっているのかもしれない。サクヤが思いっきり力を込めても抜くことはできなかった。


「街中で刀を振るな、おとなしく外で使えってことかよ……」


 軽く辺りを見渡しつつ、視界に映るミニマップを頼りに入り口に向かって歩く。


 道具屋か何かの店先でNPCの店主とプレイヤーが話し、道端ではプレイヤー同士がどこの妖怪を倒しにいくかを相談。


 色々なプレイヤーもNPCもまるでこの世界で生きているように自由に過ごしている。


 ここが本当の世界のように。

【サクヤ】Lv1


・ステータス

 筋力 1

 体力 1

 敏捷 10

 技量 10

 幸運 3


※初期ステータスポイント 20/20


・装備

 武器 刀【無銘】

 頭 無し

 胴 流浪人の着流し

 右手 流浪人の籠手

 左手 流浪人の籠手

 脚 流浪人の下駄

 装飾 無し


・技

 無し

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