中編
乙女ゲーム『君に溺れて、堕ちていく』。
舞台の始まりは、ヒロインの入学シーンから。
そこでヒロインは攻略対象の王太子ライノルトに出会う──
「入学して速攻で浮気するんじゃねぇですわー!」
ゲーム画面には、ありありと前世の婚約者が浮気する様が映されている。
私が今いる場所は、今世で暮らしている国、日本。
すでに前世の束縛とやらからは解放されているはず。
「婚約者候補って言いながら、すでにズブズブの王妃教育を受けさせられてますのよ、この時!」
私の設定は『転生した悪役令嬢』というキャラ付け。
配信者としてのアイコンに前世の顔を使うと著作権に引っかかりそうだから、マスクをつけてのワイプ顔出しですわ。
ちなみにライブ配信ですのよ。
視聴者がいるかは、気にしてはいけませんわ。
木っ端な配信者がゲーム配信をやったからって食える世の中じゃありません。
でも、この配信は私の自己満足がほぼ占めていますからね。
「オリヴィアは『人前で笑わない冷徹な人物』って、そんなの教育で笑えないか、家庭環境で笑えないかって、察しろってもんですわ! ちなみに理由は両方! 今思えば、最低な環境だったんですわねぇ……!」
オリヴィアがライノルトの婚約者候補に名が挙がったのは、七歳の頃。
物心こそついているけれど、そこまで自分で頭が回るかといえばそうではないお年頃。
「今世でいえば小学一年生ですわよ。ロクな判断力なんてあるわけねーのですわ!」
元から侯爵令嬢ということもあり、お国柄、ご時世的にも、すでに教育が始まっていた。
それに加えて王妃教育なんて始まるものだから自由時間なんてあったものじゃない。
「どこの教育ママですの? 日本でも、そういう人はいる? おっかねぇですわぁ……」
そうして、あれこれ詰め込まれた数年間。
努力と根性なしでは生きてこられなかった日々。
「で、オリヴィアは家族とはほとんど交流がないまま、王宮で育ったんですわ」
いちいち毎日、王宮に出かけていたのでは、時間の無駄ということで。
私は家を出て王宮で暮らすようになりましたの。
「婚約者ではなく候補に留めて、まるで昨今の乙女ゲーネタへの配慮みたいなことしてますけど。逆に最悪ですわ! ここまでやるなら、はっきりと婚約者に据えるべきではありませんこと!?」
というオリヴィアの背景説明が一切なく、ゲームはヒロイン視点で進行していく。
あとはお決まりのパターンですわね。
「婚約者としてなら許される忠言も、たかが婚約者候補にすぎないのに出すぎた言葉となるわけですのね……。じゃあ、この時の数年間の拘束、教育期間はなんだって話ですわ!」
『婚約者のいる相手と結ばれるなんて、乙女ゲーにはありません!』って話は、わりと浸透してきている。
でも、その配慮をしてみせた結果、こんな『実情は婚約者に等しい苛烈な教育を受けながら、婚約者としての権利だけはない』みたいなことになっている。
「バカですの? ネタ切れですの? ヒロインに非がないようにすればいいってもんじゃねぇのですわ!」
なお、ヒロインの名前は変えられるゲームでした。
よっぽどひどい名前をつけてやりたいと思いましたが、そこはそれ。
ゲームで彼女側の事情を掴めば、彼女は悪くないことがわかるかもしれませんからね。
なんたってヒロインですし。
ヒロインの名前はメロディ・クレッセント。
別に音楽家育成系のゲームじゃありませんわ。
設定はありがちな平民設定ですわね。
特待生とかそういうのではありませんの。でも、優秀ではありますわ。
貴族のいる学園に通えるレベルの生徒ですわ。
「まぁ、逆ハーレム狙い系のヒロインじゃないことは及第点ですわねー」
と言いつつ、そんなヒロインの選択肢を選んでいるのは今世の自分なのだけど。
ヒロインのお相手役となるヒーローはライノルト様とあともう一人。
パッケージにもいる黒髪の人物ですわね。
ちなみにライノルト様は金髪ですわ。今世の目線でいえば、ありがちー! ですわね。
ゲームのボリュームは意外に少なく、トントン拍子で進んでいく。
「これ! この時! 私、王宮で仕事していましたわ!? 何を市井でヒロインとデートしていやがるんですの、ライノルト様!」
シンプルなヒロインとヒーローのデートイベントが、私ことオリヴィア目線を加えると地獄のゲームに早変わり。
「あああー! 警護計画が! 気分で行き先を変えるんじゃねぇですわぁあ!」
王族であるライノルト様は、当然だけど市井の街に降りる際、護衛がつく。
予め、どういう場所へ赴くかによって計画され、人員配置もされるものですわ。
なにせ、そうやって守っておかないと王族に何かがあってからでは遅いですもの。
それをあろうことか、二人して手をつないで駆け出して護衛たちを振り切りやがりましたのよ! こいつら!
「盛り上がってんじゃねぇですわぁ! 人の迷惑を考えやがれですわよ! ライノルト様!」
こう、お話を離れた場所から追っていくと思うのですけれど。
「ライノルト様って、けっこうお花畑だったんですのねぇ……」
前世でオリヴィアとしてお会いしていたライノルト様は、もっと理知的なイメージでしたけど。
こうして見ると責任をわかっていないクソガキですわねぇ。
そうして、あれよ、あれよという間にゲームは終盤へと差しかかる。
「いよいよですわね……。前世の私は死にましたわ。おかげさまで今世の生活があるわけですけども。普通は死ぬものじゃありませんわ。ところで私の死因についてはネタバレですから配慮してボカしておきますわ!」
ゲームのライブ配信であることを忘れて、前世の愚痴大会じみたことになっていました。
ふと思い出して、視聴者を確認すると。
「あらまぁ。素人のライブ配信にこれだけの人数が!? いつの間に」
よくて十人集まるか否か。
そういうものだと認識していましたけれど、視聴者数が想定外の桁になっていました。
まぁ、これでもトップ層の配信者とは比べるべくもありませんけどね!
コメントも気付けばたくさん来ていましたわね?
あいにくと画面に流れるタイプではなく、コメント欄の確認が必要な動画サイト。
また読み上げアプリも使用しておりませんでしたので、気付くのが遅れましたわ。
「はい、皆さん、ライブ視聴、およびコメント、ありがとうございます。私、前世オリヴィア・スターリング侯爵令嬢、今世は配信者『KAORI』でやらせていただいておりますわ。このペースだとクリアまで行けそうですので、引き続きお付き合い願いますわ!」




