前編
「ふぁぁあああああ!?」
今、異世界転生という現象を経験しておりますわー!
といっても、それは世間一般でいう? ものとは違いますわね。
「香織ー? 何を一人で騒いでいるのよ」
「あ、ごめん、お母さん」
なんの変哲もない一般家庭。
マンションの一人部屋から、ドアの向こうのお母さんに返事をした。
そう。
異世界転生といっても、魔法のあるファンタジーな世界へ転生したのではない。
逆だ。
今世の私が生まれ、生活している場所は日本。
科学文明が発展した世界、地球という星の上である。
しかし、前世の私がいた世界は魔法のある世界だった。
「まさか、こっちに転生するなんて。ビックリですわぁ……」
あら、いけない。つい前世の口調が出ちゃった。
でも、これ。
地球からファンタジーな世界に転生するより、余計に周りに打ち明けづらいわぁ。
魔法のある世界なら、そういうこともあり得るかも? と思われても、こっちでは絶対に無理。
確実に頭がおかしいと思われ……。
いえ、もう『ああ、そういう設定のキャラ作りね』という痛い目で見られるに違いない。
「キャラ作りねぇ……」
それはそうと、なぜ私が前世の記憶なんてものを思い出したのか。
それは、とあるダウンロード版ゲームのタイトルイラストを目にしたせいだ。
「乙女ゲーム『君に溺れて、堕ちていく』ねぇ……」
タイトルイラストには、前世で見たことのあるメンバーが描かれていた。
リアル人物をイラスト風にするとこんな感じなんだぁ。
私はとりあえず電子決済で、そのゲームを購入し、携帯機にダウンロードする。
さて。ダウンロードが終わるまでに整理しておこう。
私の前世は、この『君に溺れて、堕ちていく』の世界の住人だった。
前世の私はタイトルの集合絵には描かれていない。
かといって、モブ扱いなのかというと、どうやらそうではないらしい。
ゲーム紹介のページをスマホで調べると、登場人物として前世の私がしっかり描かれていた。
「オリヴィア・スターリング侯爵令嬢。銀髪に赤い瞳の色。人前で笑うことのない、冷徹な人物。王太子の婚約者候補として名が挙がっている……」
候補。
確かにそうだった。
でも、その扱いはそうではなかったわけだが……。
そう。何を隠そう、前世の私。立派な悪役令嬢でした!
そんな私が来世を迎えている理由は? 当然、死んだからである。
まぁ、流石にもう引きずっていないけど。
いや、前世の記憶なんてものを思い出したのだから、引きずってるのかも?
「……これ、怖い物見たさもあるけど」
嫌な予感がする。
こういうのって一度、地球を経由してから、また『元の世界』に戻るとか。
そういうパターンなんじゃない?
あるあるよねー。この手のネタには今世で詳しくなっちゃったのだ。
まともな親のもと、普通の家庭、普通の友人関係で過ごせた今世。
前世の闇なんて引きずりもせず、元気に生きてきたものよ。
「家庭環境、最悪だったなー」
今思えば、である。
戻りたいとは思わない。
魔法があろうと、絶対に日本の方が満たされた生活を送れる。
まぁ、衛生面は中世っていうほど不潔じゃなかった。
地球の価値観でいうと近世とかなのかな?
どこか別の地域で魔導列車みたいなものが作られていたとか。
いろいろと想いを馳せていくうちにソフトのダウンロードが終了する。
ゲームプレイが可能になったのだ。
「さて」
プレイはする。中身を確認しなければならない。
でも、他ならない、この私がこのゲームをプレイしても大丈夫かな。
プレイ途中でゲーム世界に引きずり込まれるとかあったら嫌だし……。
「……準備してからにしよ」
私はゲームプレイの前に攻略情報を調べ始めた。
もしもの時に備えて、メモを取るだけではなく、可能な限り暗記する形で。
攻略情報だけでなく、裏設定だとか、隠しルートだとか、ファンディスクなどの存在もあるか調べる。
やっていることは完全にオタク活動だ。
そして、ゲーム世界に吸い込まれないように、もしそうなった場合、親が事態を把握できるように証拠を残す。
また、前世メンタルに引きずられないための策も用意した。
それが。
「転生した悪役令嬢が、前世の世界を描いた乙女ゲームをプレイしますわ!」
ゲーム配信である!
あくまでキャラ作りとして前世の私のガワを被る。
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