後編
『オリヴィア、君との縁談をなかったことにしてほしい』
「かぁ! 来ましたわぁ! これですわよ! 婚約候補である私に、まさかのヒロイン同伴でやってくる! 候補にすぎない私に執務をさせた挙句、その間に遊び呆ける王太子! さらに縁談をなかったことに! とんでもございませんわぁ!」
私はライブ配信でこの時の気持ちをグチグチ零す。
さっきまでは意識していませんでしたが、コメントも来ていますので読んでおきますわ。
『ありがちで草』
『これ、ヒロインはどんな気持ちで横にいんの?』
『●●●様とキャラ被りしている配信者』
『どんな設定のⅤチューバーだよw』
『Vではなくね?』
などなど。面白いですわねぇ。
想定外には多いものの、まだまだ視聴者の数が少ないおかげか、そこまで辛辣なコメントなどは見当たりませんわね!
「はぁ……。この時は頭が真っ白で、言われたことを理解する前に話が進んだ気がしましたけれど。こんなふざけたことを言っていましたのねぇ、ライノルト様、いえ、もう彼のことはライノルトと呼び捨てでいいですわね! 前世の気持ちなど残ってはいなかったですけど、さらに冷めましたわ!」
『あれ、婚約破棄からの処刑エンドじゃないんだ』
『婚約者候補だったから?』
『じゃあ、なんで死ぬんだ』
『殺されなきゃいけないような言動は今のところないな』
ふふふ、前世の私の死因がもはやエンターテインメント!
なんだかおかしいですわぁ。
私の方もとくに気持ちが前世に引きずられることもなく、穏やかですわね。
いえ、若干、口調と思考が前世寄りになっていますけれど!
「障害がなくなって、あとは君と結ばれるだけだね、じゃねぇですわねー」
乙女ゲーム『君に溺れて、堕ちていく』。
さて、このタイトルの意味はなんでしょう?
私は、そちらについては存じ上げませんのよねぇ。
知っているのはあくまで前世のオリヴィア視点だけですわ。
「終盤ですけれど、あっという間に私の出番がなくなりましたわー!」
ライノルトとの縁談がなくなったあと、見事に出番がなくなる前世の私。
ヒロイン・メロディと彼のめくるめく日々が描かれていく。
ですが、だんだんと会う機会が減っていきますの。
前世の私とじゃありませんわ。メロディとライノルトが会う機会ですわね。
「これは知っているわけじゃありませんけれど、わかりますわ。今まで私に押しつけていた執務がライノルトに回ってきたんですわね。つまりお仕事が忙しくなったせいでメロディと会えなくなっていますの」
『この間、オリヴィアは何をしてたの?』
そんなコメントが目に入ったので私は答える。
「最初は呆然としておりましたわねぇ。ですが、以前も言ったように家庭環境は最悪でしたの。王太子との縁談がなくなって、幼い頃から家族と離れて王宮で暮らしていた私に、家での居場所なんてものはありませんでしたわ」
かといって、今さら良縁が舞い込むかというとそんなこともなく。
溜息を吐く毎日でしたわねー。
「ショックから立ち直る前に修道院行きが決まりましたの。まぁ、下手にどこかの鬼畜に後妻として嫁ぐことになるよりはマシだったのでしょうけど。それでもねぇ」
家族にはなんとも失望したものですわ。
「おそらくメロディは私の死因に関係しておりませんわね!」
私がそう口にすると。
『おそらく?』
『事故死じゃない?』
『なんか疑わしいことがあるのか』
いよいよ、その瞬間へと物語が進んでいき、視聴者たちも盛り上がってくれていますわ。
なんで前世の私の死をエンタメにしているのでしょう?
我に返りそうになりますわねぇ。
前世の私ことオリヴィアはゲーム上のストーリーからはフェードアウトし、ヒロインと王太子の話は、会えない時間でのすれ違いを経て、仲直りというありがちな物語を進めていく。
「終わりそうですわねー」
『オリヴィアどこ行った』
『悪役令嬢、完全にフェードアウトな件』
『裏事情を知っちゃうとヒロイン、応援できねー』
うんうん。そうですわねぇ。
「まだ実家にいるはずですけど、修道院行きの手続きが進んでいる頃合いですわねー」
やがて、ヒロインたちはゴールイン! ハッピーエンドですわねぇ。
何も面白くねーですわ!
『オリヴィア、消えてて草』
『エピローグで一行だけ語られて終わりそう』
キーッ! この乙女ゲーム!
本当にオリヴィアを無言のフェードアウトさせるつもりですの!?
「クソゲーですわぁああ!」
『結局、なんで死んだん?』
『お前ら、設定に乗ってやっているの優しいなw』
『オリヴィアは実は死んでない』
『じゃあ、この主はいったい誰なんだよ』
『寿命で死んだオチじゃね』
「エンディングに突入しやがりましたわぁあああ!?」
あろうことか、その後のオリヴィアについて触れないまま、エンディングが流れ始めましたの。
「なぁああにがハッピーエンドですのぉ!?」
『草』
『草』
『www』
『実はモブだった令嬢』
無情にもエンディングが終わり、画面は真っ黒に染まる。
え、ここで終わりですの?
そう思ったところで。
『メロディはライノルトと結ばれた』
『お?』
『エンディング後パート!』
『続いた!』
コメント欄と一緒に私も引き込まれますわ!
『しかし、メロディは王妃になるための教育を受けてこなかった。多くの苦労が彼女に待ち受ける』
『おお?』
『シンデレラエンドのアフターに待ち受ける現実は厳しいみたいな』
『そういうタイプのシナリオ?』
なるほど? そういう感じですのね!
『失策を続けてしまうライノルトとメロディ。やがて、彼らは民からの支持を失っていく』
『なんかヤバそうで草』
『これぞ現実』
『クソゲーじゃね?』
『製作者の自己満足』
コメント欄がゲームの内容に対して賛否両論になってきましたわねぇ。
『とうとう民は王家に反旗を翻す。ライノルトとメロディは王宮を脱出し……』
『うわ』
『ぜんぜんハッピーエンドじゃなくて草』
『プレイヤーはどんな気持ちでこれ見たらいいんだよ』
あらあら。あらあら。
「こんなことになっていましたのねぇ」
『この展開を知らないってこと?』
『オリヴィア、すでに死んでいる?』
『だから、あくまでそういう設定……』
『空気嫁』
ふふふ、オリヴィアがどうなったのか。
それは、はたしてゲームで語られるのかしらねぇ。
『そうして二人は遠く離れた国に辿り着き、静かな余生を送った』
『あ』
『終わり?』
『──END 君に溺れて、堕ちていく』
『終わったぁああ!』
『終わった!』
『最後までオリヴィアについて触れなくて草』
「終わりやがりましたわぁああああ!」
途中でフェードアウトして、それっきりですわ、前世の私!!
『確かに墜ちたね……』
『王太子が落ちぶれたね』
『そういう意味?』
『メリーバッドエンド』
『それはちょっとちがくね』
「タイトル回収してんじゃねぇですわぁああ!」
『草』
『草』
『草』
こうなったら、と私はもう一人のヒーロールートに突入!
オリヴィアの死の真相が描かれるまで、とことんやってやりますわよ!
けれど、流れとしては概ね一緒でしたの、もう一人のヒーローの方も。
オリヴィアの出番は、むしろさらに激減ですわ。
『オリヴィア、モブだったのでは』
『自称・悪役令嬢』
『逆に可哀想』
「キーッ!!」
視聴者たちと一緒に徹夜のライブ配信へ突入。
もう一人のヒーローも攻略し終え、とうとうエンディングテーマが流れてしまいましたわ!
『まだだ、まだ慌てる時間じゃない』
『エンディング曲が終わったあとからが本番』
『ボリューム少なくない?』
『三千円代のクオリティ』
『返金! 返金!』
くぅ。諦めムードが漂いますわ!
『メロディはレクスと結ばれた』
『来た』
『ここからが本番』
『どうなる!?』
ドキドキしてきましたわね!
『……メロディ』
『お?』
『お?』
『モノローグじゃなく台詞?』
『なんかちょっと違うぞ』
エンディング後のパート。
どうやらライノルトエンドと違い、モノローグではなく台詞で進むみたいですわね?
『君が国を滅ぼさずに済んでよかった』
『え?』
ん?
『なんて?』
『ん?』
『不穏』
『どゆこと』
『今度はオリヴィアもきっと幸せになれたかな』
『オリヴィア様……?』
……!
『オリヴィア!』
『オリヴィアの名前出た!』
『おいおい』
『今度、とは』
『もしかしてループもの?』
『何を言っているの、レクス』
『君は何も知らなくていんだよ、メロディ』
黒髪のヒーロー・レクスが美しく微笑むスチルが表示される。
『もう、この世界に君は要らない。彼女の幸せのために』
『あ……』
ヒロイン・メロディの台詞が途切れるとともに。
『──END 彼女が生きて、君が墜ちる』
これって……。
『怖っ』
『ヤンデレ・ループ野郎エンド?』
『おいおいおい』
『つまり2ルートの横分岐じゃなくて縦につながっていて、レクスルートが二周目世界?』
『こっわ……』
『ホラーでは?』
えええ……?
「怖っ! 怖いですわぁ! なんですの、今の!?」
『オリヴィアの魂はどういうルートを辿っているんだよ』
『今ここ』
『日本でゲーム配信しているのがレクスの望んだ幸せか……』
『草』
「し、知りませんわぁあ!?」
『結局、今世のオリヴィア的にはいつどこで死んだ自覚あんの?』
そんなコメントが目に入る。
「わ、私の記憶は……」
『うん』
『壮大な伏線回収』
『ここまでゲームと一体化』
「修道院に辿り着いたあと、流行り病にかかって普通に死にましたわ。とくに殺された記憶もありませんわね。あと、同じ病気の人たちもたくさんいましたので毒ではないと思いますわ!」
『普通!』
『ほぼフェードアウトと同じ』
『なんというオチ』
『現実はゲームより普通』
好き勝手に言ってくれやがりますわぁ。
『一周目・ライノルトルート→流行り病』
『二周目?・レクスルート→王妃エンド』
『三周目・KAORIルート→ゲーム配信者』
『最後はなんだよ』
『ん? おかしくない?』
『KAORIに王妃オリヴィアやってた記憶あんの?』
「私が王妃になった記憶は……ございませんわねぇ……?」
そんな前世の記憶はございませんわ。
私にあるのはライノルトルートのことだけですのよ。
『ということは』
『〝今〟が〝二周目〟なのでは……?』
『つまり、このあとKAORIは死んで?』
『あー……』
『怖っ』
「ひっ、ひぃいい!? 私、これから死ぬんですのぉおお!?」
『ご愁傷様です』
『呪いのライブ配信だった』
『この配信含めてゲーム』
こうして私のゲーム配信と乙女ゲームのプレイは終わったのですわ。
とくにだからといって何がどうなるのでもなく。
私は、これからも日本で生きていく予定ですの。
「香織、ご飯よー」
「はーい」
私はパチン! と両手で自分の頬を叩く。
言葉遣いが前世に引っ張られすぎていたけど、どうにか修正!
きちんと今世の人生に向き合って生きていかないとね!
「はぁ、まったく。とんでもない体験だったわ!」
私の人生が、まだあと一回あるのか、ないのか。
もしもの時のために備えつつも、きっちりと今世を楽しんでいく。
ゲームのことを忘れないために制作会社もフォローしておいて続報もチェックね!
「……異世界、元の世界に戻った時に使える知識でも蓄えておこうかな」
やることは、まだまだたくさんある。
そんな人生の、青春の一ページ。
私の人生は、まだまだこれから……ですわ!
読んでいただき、ありがとうございます!
宣伝!
『傾国の悪女になんかなりません!』蛮族令嬢クリスティナ、念願の書籍1巻、発売しました!
よろしくお願いします!




