表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
87/108

87 人は愚かじゃ

食堂の変化に戸惑いながら部屋へ戻った俺は、そのまま眠ってしまったらしい。


まだ体力が十分に回復していないのだろう。

思っていた以上に疲れていたようだ。

それに、身体そのものが回復のために睡眠を欲しているのかもしれない。



次に目を覚ますと、眠る前よりは少し身体の調子が良くなっていた。

相変わらず痛みはあるが、前よりも頭がはっきりしている。

ベッドの側では、茶毛親方が何か作業をしていた。

木を削る小さな音が、静かな部屋に響いている。


「おお、起きたか。」


茶毛親方が顔を上げ、俺が目を覚ましたことに気づいて笑う。


「よう眠っておったぞ。」


「以前のようにうなされることもなく、静かに眠っておった。」


そう言って、枕元を指さした。


「これのお陰かのう。」


そこには、師匠からもらった世界樹の枝が置かれていた。


いや。

ただ置かれているのではない。

いつの間にか、専用の台座が作られている。

茶毛親方を見ると、得意そうに胸を張った。


「どうじゃ。」

「御使い様に言われて作ったんじゃ。」

「店主に合わせて成長するらしいからのう。」

「少し大きめにしておいたぞ。」


言われて見れば、確かに少し余裕を持って作られている。

形はシンプルだが、木目を生かした立派な台座だ。

世界樹の枝が傷つかないよう、

接する部分には柔らかな布のような物が敷かれている。


「こっちも、もう少しで完成じゃぞ。」


茶毛親方が、作業中の物を持ち上げて見せてくれる。

携帯用の短杖ホルダーだった。

革と木材を組み合わせた造りで、腰に下げられるようになっている。


「ワシは幸せ者じゃて。」


茶毛親方は、ホルダーを眺めながら感慨深そうに呟く。


「この年になって、素晴らしい体験をさせてもらっておる。」

「まあ、世界樹を見るのは三度目じゃが。」

「これほど身近にあるのは、初めてじゃ。」


そう言って笑ったが、すぐに少しだけ顔を曇らせた。


「まあ、魔王の分体と対峙した時は焦ったがのう。」


魔王の分体。

またその話だ。

俺が眉をひそめたのに気づいたのか、茶毛親方はすぐに手を振った。


「これは心配するな。」


「店主が雪原のフェンに住む一族のために用意したこの地を、

 奪いに来た奴らがしでかしたことじゃ。」

「あの転移者も、今は力を剥奪され、神殿の牢屋の中じゃ。」


茶毛親方はそう言って笑い、再び手元の作業へ戻る。


いや。

心配するなと言われても。

魔王の分体が出た時点で、十分に心配なんですけど。


「それにのう。」


茶毛親方が、世界樹の枝へ視線を向ける。


「こうして、直接世界樹の枝に触らせてもらっておる。」

「本当は触れんらしいのう。」

「台座やホルダーを作るため、特別に触れられるようになっておるらしい。」

「スミズルが触ろうとしたら、すり抜けてのう。」

「それはもう、悔しがっておったぞ。」


そうなのか。


本当に、他の人は触れないのか。

どうにも信じられない。

だって、ほら。

心の中で呼ぶだけで、世界樹の枝が台座から消え、俺の手元に現れる。

握ると、やはり不思議なくらい手に馴染んだ。

まるで、ずっと前から使っていた道具のようにしっくりくる。


「そうじゃ。」


茶毛親方が、俺の手の中に現れた枝を見て頷く。


「その枝は、杖は、必ず魔法使いの手にある。」

「過去に見た世界樹でも、杖は必ず魔法使いと共にあった。」

「昔会うた二人の魔法使いは、どちらも無愛想でのう。」

「必要最低限の会話しかしたことがないわい。」


茶毛親方は苦笑いする。


「気さくに話せたのは、そなただけじゃ。」


ああ。

やはり、そうなのか。


俺が、その魔法使いなのか。


でも、魔法使いって何。

時々、まだヘイムが小さかった頃、

リビングでマルタさんやベルンさんが、

リナちゃんやソレイアちゃんに本を読み聞かせていた。

その時、魔法使いの話を聞いたことがある。

確か、魔術ではなく、魔法という何でもありの力を使う、


とんでもない存在だったはずだ。


この世界に七人いて、超帝国と喧嘩して勝ったとか。

昔話の中で、驕った者への戒めとして登場するとか。

そんな感じだったよね。

俺が覚えていることを何とか話すと、茶毛親方は頷いた。


「そうじゃ。大体合っておる。」

「しかしのう。」


茶毛親方は、削っていた木片を机に置く。


「世間一般の認識は、その程度じゃ。」

「実は、詳しく知っておる者はほとんどおらん。」


世界樹の守護者。


世界の調停者。


かつて一人の魔法使いが超帝国と戦争をして、一方的に勝った。


それ以降、各国と魔法使いの間で協定が結ばれた。

魔法使いは魔法伯として迎えられ、辺境伯並みの待遇と権力を持つ。

魔法使いが住む場所と、その周辺は自治区として認められる。

その他にも、様々な特権が認められているらしい。


だが、どの魔法使いも世俗にはほとんど関わらない。


世界樹の側に、自らの拠点である魔法使いの工房を建て、

そこへ籠もって暮らしているという。


その周囲には、世界樹の恩恵にあずかろうとする者や、

行く場所のない者が自然と集まり、やがて村や町ができる。

魔法使いも、騒ぎや犯罪を起こさない限りは、その滞在を許すらしい。


ということは。

ノートさん達。

雪原のフェンに住む一族は。


「そうじゃ。」


俺の考えを察したのか、茶毛親方が答える。


「そなたが出ていけと言わん限り、安住の地を得たわけじゃ。」

「店主。」

「そなたは、そんなこと言うまい。」


そりゃそうだ。

本人達のせいでもないのに。

親や先祖が身勝手に犯した魔族堕ちのせいで、ずっと追われてきた人達だ。

そんな人達に、どうして出ていけなんて言えるのか。


「雪原のフェンに住む一族だけではないぞ。」


茶毛親方は、少し楽しそうに笑う。


「噂を聞いて、他の者達も来るかもしれん。」


えっ。

他にも来るの。

そうか。

雪原のフェンに住む一族だけじゃないんだ。

ダークの称号を持つ人達は、他にもいる。

でも、来たとして、そんなに住めるのかな。


「土地が足らんようになったら、帝国政府に言えば良い。」


茶毛親方は、何でもないことのように言った。


「ヘイムの北側と東側は無理かもしれんが。」

「再開発予定の南側や、第二皇子と第二皇女の争いで壊れた西側などは、

 喜んで譲ってくれるぞ。」

「それで店主の機嫌が取れて、悪くても中立でいてくれる。」

「帝国政府にとっては、大儲けじゃからのう。」


どうやら、魔法使いの存在。

魔法使いの工房というものは、色々な噂に尾ひれ背びれがついているらしい。


ただいるだけで。

そこに工房があるだけで。

あらゆる意味で、抑止力になる。

それに運が良ければ、魔法使いが力を貸してくれることもある。

上手く付き合えば、帝国政府にも十分な旨味があるそうだ。


「もっとも。」


茶毛親方が、笑いながら付け加える。


「ヘイムの入り口には、別次元とはいえ、

 魔王の分体が封印されておるからのう。」

「いつ復活するか分からんが。」


それ。

初耳なんですが。

復活するの。

いつ。

どうして。

俺が目を見開くと、茶毛親方はさらに大きな声で笑った。


「そん時は頼むぞ。」


俺にどうしろと。


師匠。


こんな無茶振りされてますけど。

どうにかして。

って。

師匠が、またいない。

俺が辺りを見回していると、茶毛親方が口を開く。


「おう、御使い様か。」

「今はキッチンで張り切っておるわい。」

「あそこなら、プリセスガードの嬢ちゃん達も来んからのう。」


そういえば先日も、師匠はプリセスガードの皆さんに追いかけられていたな。


「店主を助ける時に、人間の姿になられてのう。」


茶毛親方は、少し声を落とした。


「それで、御使い様のお名前と正体が分かったのよ。」

「セレスティア・ソルヴェイン・アステリア。」

「かつて、アステリア辺境伯時代におられた伝説の戦乙女じゃ。」


アンリ先生の先祖。

かつて、裏切りによって孤立した街を、単身で守った英雄。

本人は英雄ではないと否定しているが、

援軍が来るまで街を守ったのは事実だという。


「アンリ姫を始め、騎士に憧れておる女性達にとっては、憧れの存在じゃ。」

「皆、話をしたくて、うずうずしておるわい。」


そうなのか。

ただの理不尽料理馬鹿じゃなかったのか。


「ハンスやキッチンの連中は、妙に納得しておったぞ。」


茶毛親方が笑う。


「流派至高不敗じゃったか。」

「伝説では、セレスティア様はその伝承者だったそうじゃからのう。」


そうなのか。

そう言われると俺、師匠のことを何も知らないな。


「それに、週末の収穫祭で一儲けするんじゃと。」

「今から張り切っておる。」


金儲けですと。

師匠。

何をするつもりなの。


「さっきも言ったが、魔法使いは謎が多すぎるんじゃ。」


茶毛親方は、携帯ホルダーへ金具を取り付けながら続ける。


「ここヘイムが魔法使いの拠点、工房であるという話や。」

「魔王の分体が封印されておるという話が広まってからのう。」

「貴族や裕福な商人の足が止まりおった。」


なんだって。

それは一大事じゃないか。

大きな収入源だったのに。

俺の顔色が変わったのを見て、茶毛親方が笑う。


「皆、世界樹や店主に興味はある。」

「じゃが、怖いのじゃ。」

「学園などで学んでおるからのう。」

「実際にはどんな存在か分からず、

 アンタッチャブルな存在だと認識しておる。」

「店主が表に出てこんのもあって、皆、様子見じゃ。」

「今ヘイムに来るのは、これまでの常連客や、

 そんな噂を気にせん者くらいじゃ。」


それは困る。

いや。

今まで通りなら、それでいいのか。

でも、せっかく増築までしたのに。


「安心せい。」


茶毛親方は手を止めずに言う。


「アルマやリオニーの派閥の貴族。」

「ブルボン公爵家、西園寺公爵家、カスパール侯爵家などの

 大物貴族は、ここぞとばかりに来ておる。」

「あいつらは、したたかじゃ。」

「伊達に大貴族と呼ばれておらん。」

「この状況でヘイムに来ることの利を、よく分かっておる。」


茶毛親方が、急に難しい話を始めた。

政治の話は分からん。

情報量も多い。

ちょっと待って。

一度に全部説明されても、頭が追いつかない。

俺が困った顔をしていると、茶毛親方は豪快に笑った。


「それでええ。」

「政治的なことは、アンリ姫やアルマ、リオニーに任せておけ。」

「上手くやってくれる。」

「店主は他の魔法使いと同じように、表に出んでよい。」

「今まで通り、キッチンで料理でも作っておれ。」


そう言って、茶毛親方が手を差し出す。


「ほれ。」


俺は世界樹の枝を渡す。

茶毛親方は受け取ると、携帯ホルダーの最終調整を始めた。


「皆、そなたのことを知りたがっておる。」

「魔法使いのことを知りたがっておる。」

「こんなに身近な魔法使いは、初めてじゃからのう。」


茶毛親方は、木と革の接合部を慎重に確かめる。


「相手にするな。」

「そのまま、謎の存在。」

「神秘的な存在でおれ。」


そんな無茶な。

俺はただの食堂の店主ですよ。

でも、茶毛親方は気にせず話を続ける。


「のう、店主。」

「知っておるか。」

「この世界は、過去に何度か滅んでおる。」

「今の文明も、何度目かの文明じゃと。」


いきなり話題が変わった。


「ワシはのう。」


茶毛親方の表情が、少し懐かしむようなものに変わる。


「まだ若い頃、木工修行の一環として世界を旅したことがある。」

「同じように、鍛冶の修行をしておったスミズルと一緒にな。」

「その時、色々な場所へ行った。」

「さっき話した、他の世界樹を見たことも。」

「魔法使いに会ったことも、その旅の途中じゃ。」


茶毛親方は、遠い記憶を辿るように目を細めた。


「世界にはのう。」

「滅んだ文明の跡だと言われておる古代遺跡がある。」

「すごいぞ。」

「転生者や転移者が言っておった。」

「高層ビルとかいう建物の群れが、地底湖に沈んでおったり。」

「機械でできた巨人の墓があったり。」

「明らかに、我らの文明とは違う跡が残っておる。」


茶毛親方は目を輝かせながら話す。

本当に、冒険が好きだったんだな。


「親方の称号を得てからのう。」

「『学問の神』様の神殿にある禁書も、見ることができるようになった。」

「そこにも書かれておった。」

「正確な数は分からん。」

「じゃが、確かに滅んだ文明が幾つもあったと。」


茶毛親方は、そこで作業の手を止めた。

先程までの楽しそうな声が、少し低くなる。

俺を真っ直ぐに見る。


「店主よ。」

「いや。」

「今だけは、魔法使い殿と呼ぼうか。」


その呼び方だけで、部屋の空気が変わった気がした。


「人は愚かじゃ。」

「人は未知を恐れる。」

「それを克服しようとする。」

「知的好奇心から未知を暴き、神秘の謎を知りたがる。」

「それ自体は、悪いことではない。」

「じゃが、やがて触れてはいけない領域へ入り込む。」

「各地の伝承や超常現象を暴き、全ては科学や学問で解明できると考え始める。」

「そして神秘を否定する。」


茶毛親方は、ゆっくりと首を振る。


「本当は神々や精霊、妖精を始めとした存在に支えられ、

 この世界で生かされておるのに。」

「神秘を否定した自分達こそ、この世界の支配者だと振る舞い始める。」

「超帝国が良い例じゃ。」

「もっとも、手痛い反撃を喰らったがのう。」


そう言って、苦笑いを浮かべた。


「まあ、そんな具合に世界で好き勝手を始める。」

「我々こそは神々に選ばれた。」

「この世界の生命の頂点だと。」

「笑えるのう。」

「神秘を。」

「神々を否定しておきながら、自らの正当性を示す時には神々を使う。」


茶毛親方は、呆れたように息を吐いた。


「ワシもスミズルも、禁書で見た。」

「過去に何度も現れた魔王。」

「世界にとって、人類にとっての脅威。」

「じゃがのう。」


茶毛親方は、俺から視線を外さない。


「確かに甚大な被害は出る。」

「だが、魔王によって人類や文明が滅んだ記録はない。」

「生き残っておる。」

「まあ、完全に滅んで記録すら残らなかっただけかもしれんが。」

「ここ数万年は、時系列で文明の記録が残っておる。」

「そして、文明が滅んだ理由は、結局人類同士の争いじゃ。」


超兵器同士の撃ち合い。

科学実験の暴走によるバイオハザード。

中には、小惑星を落としたことで寒冷化を引き起こした文明まであったという。


「信じられるか。」

「この大地を離れ、空の上。」

「宇宙とかいう場所にまで、住む場所を広げた文明もあったそうじゃ。」


茶毛親方は、悲しそうに目を伏せる。


「じゃが、全部滅んでしもうた。」

「ワシはのう。」


少し間を置いて、再び口を開く。


「今くらいが、一番良いと思っておるのじゃ。」

「二百年戦争で、妖精や精霊はほとんどいなくなってしもうた。」

「じゃが、ここヘイムにはエマがおる。」

「庭園へ行けば、妖精も精霊もおる。」

「何より、神々はまだ我々の側にいてくれておる。」


茶毛親方が、今度は目を大きく開いて俺を見る。


「神秘と科学が、危ういながらも均衡を保っておる。」

「今が、ちょうど良いと思っておる。」


なんだ、この世界。

そんな歴史があるのか。

俺が何も言えずにいると、茶毛親方は肩の力を抜いた。


「すまん、すまん。」

「つい熱くなってしもうた。」


いつもの笑顔に戻り、完成した物を差し出してくる。


「ほれ。」

「これでどうじゃ。」


携帯ホルダーに収められた世界樹の枝を渡される。


すごい。

綺麗に収まっている。


世界樹の枝が傷つかないよう、内側は柔らかな素材で優しく包まれている。

ホルダーからの抜き差しも、とても滑らかだ。


「店主の身体に合うように、最終的な調整をするのは、

 自力で動けるようになってからじゃ。」


茶毛親方は満足そうに頷く。


「まあ、何が言いたいかというとな。」

「政治的なこと。」

「貴族や帝室、他国からの接触など。」

「そういうものは、アンリ姫やアルマ、

 リオニー達に任せて、表に出るなということじゃ。」

「神秘を売りにして、面倒なことは丸投げしておけ。」


それでいいのか。

いや。

俺としては、その方が助かるけど。


「まあ。」


茶毛親方がニヤリと笑う。


「学園長。」

「リオニーの親父殿は、そなたに会いたくて鼻息を荒くしておると、

 リオニーが愚痴っておったがのう。」


そう言って高笑いした。

そして、一仕事終わったとばかりに、どこからともなく酒瓶を取り出す。


「ふう。」

「仕事終わりに飲む酒は、気持ち良いのう。」


俺は呆れた目で茶毛親方を見る。

その横で、完成したホルダーから世界樹の枝を抜き差しする。

茶毛親方は酒を飲みながら、その様子を満足そうに眺めていた。


「その様子では、街中へ出て収穫祭に参加するのは無理かもしれんのう。」

「じゃが、店の三階席や庭へ出れば、

 収穫祭の熱狂くらいは感じられるじゃろう。」

「来年を楽しみにしておけ。」


茶毛親方は、さらに楽しそうに話を続ける。


「それにのう。」

「城壁と堀の外側にある並木通りが、

 早速帝国学園の生徒達のデートスポットになっておるぞ。」

「道は綺麗に舗装され、ベンチもある。」

「ちょうど木々も紅葉しておってのう。」

「老若男女を問わず、沢山の者が散策しておる。」

「そのままヘイムへ来れば良いのに、皆様子見で中へ入ってこん。」


茶毛親方は、面白そうに笑う。


「勝手に屋台まで出ておってのう。」

「エミリアが、配管工ブラザーズを連れて怒鳴り込んでおったわ。」


ああ。

何となく想像できる。


怖いもんな、エミリアさん。


今でも夢に出てくるからな。

書類地獄。


「色々な問題も、良い方向へ向かっておる。」


茶毛親方は、また酒を口へ運ぶ。


「最近は大変じゃったが。」

「今年の収穫祭は、良きものになるじゃろうて。」


そこへ、部屋の扉が開いた。

赤毛親方が入ってくる。


「トレース。」

「いつまで経っても戻ってこんから見に来たら。」

「何をしておる。」


そうだ。

もっと言ってやれ。


台座と携帯ホルダーは嬉しいけど。

怪我人の側で酒を飲むな。

俺は期待を込めて、赤毛親方を見る。


だが。

おかしいぞ。


なぜ、椅子を持ってくる。

そして、なぜ座る。


まさか。

その予想通り。


茶毛親方と赤毛親方は、いつもの飲兵衛親方達へとジョブチェンジした。


頼むから、怪我人の側で宴会を始めないでくれ。

酒の匂いが。

強い。

飲兵衛親方達の宴会は、その後も続いた。



やがて、二人が戻って来るのがあまりにも遅いため、

様子を見に来たハルヴィンダちゃんとノートさんが現れる。

二人は無言で飲兵衛親方達へ近づいた。

そして、見事な拳骨を一発ずつ落とす。


「収穫祭の用意が終わってませんよ。」


ハルヴィンダちゃんに叱られ、ノートさんに襟首を掴まれた飲兵衛親方達は、

そのまま部屋の外へ引きずられていった。



ようやく部屋に静けさが戻る。

酒の匂いだけを残して。


師匠のニューワールド講座 82

~失われた文明編~


師匠

『なんです。』

高層ビルとか、

巨人の墓とか、

宇宙へ行った文明とか、

本編で言ってましたけど……

本当なんですか。


『そうですね。

過去には、

本当に様々な文明が存在しました。

なかなか文明が育たないこの世界に業を煮やした創造神が、

コネを使って、

色々な世界から文明の種を持ち込んだのです。』


えぇ……。


『例えば、

ヴァルナさんがいた世界にあったような、

高層ビルが林立する巨大都市を千年も経たず、

築いた文明もありました。

ですが――

バイオハザードが発生。

解決策として大量破壊兵器を乱発し、

文明ごと滅びました。』


いきなり終わった……。


『巨人の墓。

あれは巨大機動兵器の工場。

あるいは軍事基地だったと言われています。

当然、

戦争で使われ、

文明は衰退していきました。』


『さらに、

二千年も経たず宇宙へ進出した文明もあります。

宇宙コロニーまで建設し、

人類は新たな時代を迎えた……

かと思えば、

今度は宇宙で人類同士の戦争です。

革新だの、

独立だのと言いながら、

小惑星を落としていました。』


もうやりたい放題じゃないですか。


『ええ。

さすがの創造神も焦ったそうですよ。』


『そんな調子で、

創造神は長い年月、

色々な世界から文明を持ち込んでは、

滅び。

また持ち込んでは、

滅び。

その繰り返しだったと記録されています。

その名残こそが、

現在世界中に残る古代遺跡やアーティファクトです。

『学問の神』の神官達は、

今日も世界中を飛び回り、

発掘しては現地政府と揉めていますね。』


なんか想像できる……。


『そして、

ようやく安定したのが、

今の時代です。

スキル、

レベル、

ジョブ。

それらを組み込んだ現在の世界ですね。

もっとも、

あまりにも失敗を繰り返したので、

中央から命令が下り、

六大神をはじめ、

多くの神々が雇われる事になりました。

おかげで、

何とか世界は回っています。

……その代わり、

邪神やトリックスターまで親会社から派遣されてきましたが。

本当に迷惑な話ですよ。』


なるほど……。


『何度世界が滅びかけた事か。

それなのに創造神は、

管理を六大神へ丸投げです。

今回も、

早々に諦めて、

「次はどんな文明にしようかなぁ」

などと言いながら、

文明カタログを読んでいましたよ。』


駄目だこの創造神。


『だからこそ、

《時渡り秘法》のような、

世界を左右する権能は与えられません。

結果として、

『夜を司る女神』が実質的な管理者になっているのです。』


『本当に、

あの親の七光り引きこもりは……。』


『ヴァルナさんも、

あんな自堕落な人間になってはいけませんよ。

体型も似ていますし、

すぐ引きこもりたがる所もそっくりですし。

はぁ……

苦労しそうです、私。

ちゃんと導けるでしょうか。』


最後、俺への悪口になってるんだけど!?




作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ