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83 石突の音

空中に描かれた六芒星。


それは先程、魔王を封印した物に似ている。

六芒星なのだから、似ていて当たり前かもしれん。


だが、六芒星を描く光の色が違う。

先程の六芒星は青く輝いていた。


今度の光は緑。


だが、六芒星以外の魔術陣に描かれている文字や紋章は、どこか似ている。


《違うよ。これは魔術陣じゃないよ。魔法陣だよ。》


精霊の声が聞こえる。


魔法陣……。


すまん。

魔法陣と魔術陣の違いが分からん。


誰もが、その魔法陣に目を奪われていた。



いかん。

早く母上の元へ。

ミレディ、皆を逃がせ。

騎士団や爺まで魔法陣に気を取られているうちに。


しかし、我も動けなかった。

この魔法陣は何なのか。

何が出て来るのか。

つい目が行ってしまう。



そして、魔法陣から何者かが現れた。

色褪せたローブを身に纏い、顔は見えない。

その色褪せたローブも、どこか似ている。

大きな杖を持ち、空中に佇んでいる。

先程の魔王の姿に。


そして、発せられる存在感。


魔王に引けを取らない。

騎士団から驚愕の声が上がる。


魔王を遠くから見ていただけのそなた達なら、魔王に思えるだろう。

だが違う。

確かに、姿も存在感も似ている。


しかし、その存在感は優しい。

まるで我らを慈しみ、暖かく包んでくれるような。


続いて、魔法陣から人が出てくる。

青白いオーラを発するフルプレートに身を包み、

こちらもフードで顔を隠していて見ることができない。


その数、八つ。


最初に現れたローブ姿の者の後ろに並ぶ。


先程から精霊の声や姿が見える我でなくとも、それが異様な光景だと分かる。

親方達から、ありえないという声が上がった。


あの青白いオーラは精霊力。


それを発するのは“精霊銀”。


総ミスリル製の武具だ。


ミスリルなど、帝国でも各騎士団長クラスの装備に、

溶かし薄く伸ばしてコーティングしている程度だぞ。

しかも急所を守るだけで精一杯だ。


このような装備で全身を固め、それを使いこなせるなら、

先程の魔王にも十分戦えたであろう。

負のオーラから身を守り、それを斬り裂き、

ダメージを与えることもできるはずだ。


それほどの装備で固めた者が八人。

それを従えるこの者は、何者じゃ。


「あー、パパだ。」


ヘイムの二階テラス席から声が聞こえた。

魔王が封印されて、表に出てきたソレイア嬢だ。


「おねぇちゃんもいるよ。」


その横で、リナ嬢が嬉しそうに指をさす。


なんじゃ。


グラウハイム卿もハルヴィンダもここにおるぞ。

なぜ空を指す。

その声に反応して、空中の者のうち二人が変なポーズを取った。


あれは、あのメイド三人が来てから、

グラウハイム卿やハルヴィンダが子供達に頼まれてする物と同じじゃ。


何をしている。


後ろから別の者が来て、その二人の頭をはたく。

そして、元の位置に戻る三人。

我らは一体何を見せられているのだ。

旅芸人の一団か。


「ええい、何をしている。」

「魔王が再び現れようが、この神剣・ソルブレイドで叩き伏せてやる。」

「者共、かかれ!!」


爺の声が聞こえる。

神剣・ソルブレイドで騎士団を威嚇し、ここに来ても自らは動かない。

動くのは騎士団のみ。

今度は騎士団を捨て駒にして、最後に出てくるつもりか。



騎士団が歩みを再開する。


それは、後ろに控える爺の威光か。


神剣・ソルブレイドの威光か。


それとも、魔王討伐という本来の騎士団の役目、

国を、民を守ることを思い出したのか。


だが、それもすぐに止まった。


空中のローブの者が、持っている杖を振り上げ、石突を空中に打ち付けた。


広がる波紋。


それが騎士団に届くと、騎士達が悲鳴を上げる。


持っていた武器が赤く熱せられていた。


恐らく、その熱に耐えきれず武器を落としたのであろう。


再び、ローブの者が石突を打ち付ける。


同時に、騎士団が身に着けている鎧の留め金という留め金が吹き飛んだ。


鎧が、装備が、音を立てて足元に落ちる。


ものの数秒。

ただ杖の石突を二度打ち付けただけで、騎士団が武装解除された。


パチン。


指を鳴らす音が聞こえる。

何事かと思った瞬間、いきなり口の中に何かが入ってきた。


甘い。


本当なら、得体の知れない物が突然口に入ってきたら吐き出さないといけない。

それなのに、ついそのまま噛んでしまう。


これは……。

シュークリーム。

不味くはない。

だが、美味くもない。


ヴァルナの、いつもの微妙な菓子じゃ。


ついつい食べてしまう。


見れば我だけではない。

ここにいる者の口に、色々な菓子が入っておる。

騎士団にもじゃ。


皆、不思議に思いつつも、微妙な顔をしながら食っておる。

身体の疲れが取れる。

失われた体力や魔力が回復していく。


パチン。


また指を鳴らす音が聞こえた。

つい身構えてしまうが、今度は雨が降ってくる。

降った雨が地に落ちると、魔王に汚染された場所が浄化されていく。

身体に触れた雨が、体の傷を癒していく。


「マリー!」


アルマ様の声が聞こえた。

そうだ。

母上。

母上の元へ駆け寄る。

雨に濡れて、爺につけられた傷が光り輝いている。

ブラスも駆けつけ、母上の様子を見る。


「これは……高度な治療魔術と同じ効果が、この雨にはあるのですか。」

「大丈夫です。皇后陛下の容態は落ち着いています。」

「このまま休ませておけば、じきに目を覚ますでしょう。」


ブラスの言葉に安堵する。


目の端に、見捨てられた妹、第二皇女の姿が見えた。

この雨のお陰か、目を覚ました側近に助けられている。

あんな奴でも、血を分けた妹じゃ。

命が無事な姿を見て、思わず微笑んでしまう。


「おのれ、おのれ、面妖な術を使いおって。」

「魔王、ワシが相手じゃ。」


爺がようやく、自ら出てくる。

先程までの醜い笑顔はなく、

憤怒の顔で神剣・ソルブレイドを振り回しながら進んでくる。


さあ、来い。


ここにいる者をコケにしたことを後悔させてやる。

騎士団を、母上を、ゴミのように切り捨てたことを、その身に刻んでやる。

拳に、足に力を込め、跳ぼうと思った時だった。


「そこまで!!」


威厳のある力強い声が響いた。

そこには、近衛と第八騎士団を率いた皇帝陛下がいた。


「おお、ルートヴィヒ。良い所に来た。魔王がいるのじゃ。」

「遅参のことは後じゃ。手を貸せ。」


爺が叫ぶ。

皇帝陛下は手を上げた。


「第八騎士団、第六騎士団に手を貸して駐屯地に戻せ。」

「近衛は帝都の治安回復に回れ。」


戸惑う騎士団。

爺と皇帝陛下の間で目を泳がす。


「皇帝の命ぞ。動け。」


その怒声に、騎士団が動き出す。


「貴様、ワシの命令を無視するな。子供の癖に。」

「誰のお陰で皇帝の椅子に座っていられると思っておる。」


神剣・ソルブレイドを振り回しながら、皇帝陛下に怒鳴る爺。


皇帝陛下はそれを無視して、馬を進めた。

我の所へ、母上の所へ来て、馬から降りる。

そして、優しく母上を抱え、頭を撫でた。

爺に斬られた傷跡を見て、涙する。


「すまんな。痛かったであろう。心が裂けたであろう。」


母上の頭を優しく抱きしめる。


「恐れながら、皇帝陛下。このままでは、皇后陛下の傷に触ります。」

「この雨のお陰で、傷は塞がり落ち着きましたが、できるだけ早く安静に。」


ブラスの言葉に、皇帝陛下は頷き、手を上げる。

第八騎士団団長達が側に来て、母上を救護用馬車の中へ運び込む。

妹も促され、同じ馬車へ乗り込む。

そして、動き出す馬車。


それを皇帝陛下が見送る。

そして振り向き、我の頭を撫でてくれる。


「すまんかった。今更じゃが、いつも其方にしわ寄せがいくのう。」

「それに、何もしてやれん。」


その顔は父親としてなのか、皇帝陛下としてなのか、我には判断できなかった。


「後は任せろ。」

「これでは、父上と変わらんか。」


そう笑いながら、爺を見る。


「アルマ様、リオニー様。妻を、娘を助けていただき、ありがとうございます。」


皇帝陛下は振り向き、お二人に礼を言う。


「いいのよ。いつものことじゃない。」


アルマ様が笑いながら手を振る。


「遅れて来たのだから、皇帝らしいところを見せなさい。」


リオニー様が発破をかける。

それに頷き、皇帝陛下は爺の所へ向かう。



今度は神剣・ソルブレイドの切っ先を、爺が皇帝陛下に向けた。


「貴様、何をしているか分かっているのか。」

「このままでは、帝国の、帝室の威信が。」

「堕ちたのは、帝国ではなく、父上の名声でしょう。」

「なっ。」


言葉に詰まる爺。


「何を言っている。魔王がいるんじゃぞ。」

「倒さんと、帝国が、世界が。」


爺は空中のローブの者を指す。

それを見て、皇帝陛下は大きなため息をついた。


「あれが魔王に見えるとは、耄碌されましたか、父上。」

「なんじゃと。無礼な。あれはどう見ても魔王じゃ。」


爺が唾を飛ばしながら反論する。


「あの者が魔王なら、この世界には他に七人の魔王がいることになりますな。」

「魔王が他にいてたまるか。」

「父上も会ったことがあるはずです。世界の守護者、魔法使いに。」


その言葉に、爺が目を見張る。

我も空中のローブの者を改めて見る。


「姫様。あの者達のマントや鎧の紋章が。」

「ローブの紋章が。」


ミレディに言われて目を凝らす。


八枚の葉。


以前見たのは四枚の葉じゃったが。

あの一枚一枚の葉。

間違いない。


魔法使いの紋章。

それが八枚。

八人目の魔法使いじゃ。


我は『大地母神』神殿を見る。

そなたなのか。


《そうだけど、違うよ。》


精霊の声が聞こえる。

どういうことじゃ。


ソレイア嬢やリナ嬢の反応。

それに答える者。

先程の菓子の味。

同じ存在がいるとでも言うのか。

混乱する我らに、爺の声が聞こえる。


「黙れ黙れ。そんな訳あるか。」

「ここの主は死にかけておると聞いておる。」

「あれはまやかしじゃ。魔王じゃ。」


馬上から喚き散らす爺。


「聞けい、心ある帝国の志士よ。」

「『太陽神』からこの神剣・ソルブレイドを授かったワシが命ずる。」


神剣・ソルブレイドを高く掲げる爺。


「こやつは、もはや皇帝ではない。反乱者じゃ。」

「元より皇帝は我一人。」

「この者を捕らえ、魔王を討て。褒美は思いのままぞ。」


誰も動かない。

皆の視線が、掲げられた神剣・ソルブレイドへ向かう。


神剣・ソルブレイドが、どこにある。


「なぜじゃ。なぜ誰も動かん。」


何も気づかず、爺は喚き散らす。


「だってよ、皇子様。」

「褒美は思いのままだってよ。良かったじゃないか。」

「これで次期皇帝だ。」


嘲るような声が聞こえてくる。


転移勇者、田中だ。


今まで隠れていた、第二皇子と残された僅かな手勢が姿を現す。

魔王の負のオーラから、結界を張ってその被害から免れた者達だ。


「おお、フリードリヒか。そうじゃ。」

「こやつを、ルートヴィヒを、父を捕らえよ。」

「次期皇帝はそちじゃ。」

「こんな呪われた地に汚されたアレクではなく、そちじゃ。」

「早う、早う。」


そんな僅かな手勢で何ができるか。

皇帝陛下に睨まれて、身動き一つ取れんではないか。


情けない。


一度軍勢を率いて、ここまでのことをしたんじゃ。

最後まで根性を見せんか。


「ほらほら、先帝様のお言葉だぜ。何を躊躇してるんだよ。」


転移勇者の田中が煽る。

しかし、第二皇子は怖じ気づいて何もできん。


「ちっ。使えねぇなぁ。」

「まあ、いい。皇帝の座なんて興味ない。」

「この世界樹は俺のもんだ。これを手に入れて。」


田中が不審な声を上げる。

それを止めようとした側近達が吹き飛ばされた。


何だ、これは。

禍々しい気配。

田中の周りに、いくつもの魔力魂が現れる。

なんと濃い魔力魂じゃ。

そういえば、魔王の負のオーラが充満する中、

こやつは結界を張り、今周りにおる者を平然と守っておった。


伊達に転移勇者ではない。


予想通り、かなりの者を手にかけ、糧にしておるな。

魔力魂の一つでも着弾すれば、かなりの被害が出るぞ。

これほどの力があれば、魔王との戦いにどれほど助けになったか。


いや、いらん。

こんな禍々しい気配を、魔力を発する者の手助けなどいらん。


それに、信用できん。

後ろから魔王ごと吹き飛ばされそうだ。


残っていた近衛が武器を構える。

そう。

危険じゃ、こいつは。


「おっ、おい貴様。それはなんだ。」


田中の横にいた第二皇子が悲鳴を上げる。


これはこれは。


禍々しさの源はこれか。

田中の額に光り輝く紋章。


「くそが。」


ノートが毒づく。

そう。

ノート達の額の紋章とは似ているが違う。

禍々しく光り輝いている。


魔族の紋章。


「ククク、アハハ!」


田中が狂ったように笑い出す。


「あの方が言ったんだ。」

「あれは俺の物だ。手に入れて世界を制するのは俺だ。」


両手を振りかざし、魔力魂を操る。


「みんな、死んじゃえ!!」


田中が手を振り下ろす。


「えっ。なんで。」


魔力魂は消えていた。


「おのれ。」


再び、魔力魂を作り出す。


「今度こそ。」


手を振るうが、それも消える。


「なんだ。何が起きている。」


先程までの余裕は消え、田中が焦り出す。


「なんで上手くいかない。あの方に言われた通りに修行して、

力をつけて、言う通りにこの馬鹿皇子に従ったのに。」


あの方とは、邪神かトリックスターじゃろうな。


「お前か。お前が邪魔しているのか。」


田中が空中のローブの者、魔法使いを睨む。


そうだろうな。


先程から何度か、杖の石突を打ち付けている。


「そこまでだな。」


皇帝陛下が田中に近づく。

そして腰の剣を抜く。


その刀身は光り輝き、燃えている。

誰もが知っている。


神剣・ソルブレイドだ。


先程まで、爺が持っていたはずの宝剣。

爺の手には、黒ずんだ錆びた剣が握られている。

帝陛下の手に神剣・ソルブレイドがあるのを見て、爺が驚いている。


田中は魔法使いを睨み、皇帝陛下に気づいていない。

そのまま皇帝陛下が神剣・ソルブレイドを振るい、田中の意識を刈り取った。


「こやつは魔族だ。捕らえよ。」


皇帝陛下が第二皇子に命令する。

その声に我に返ったのか、第二皇子とその手勢が田中を捕らえる。


「よくやった。この者を『太陽神』様の神殿に連れていけ。」

「そして帝宮に戻っていろ。母上の、マリーの側にいてやれ。」


皇帝陛下は第二皇子の頭を撫でる。


「はっ、はい、父上。」


近衛によって魔封じの魔道具を幾つも付けられ、

田中は第二皇子達に連行されていく。


あとは、爺だけか。

爺が慌てて馬から降り、皇帝陛下に近づく。


「貴様、いつの間にワシから取りおった。返せ。」


錆びた剣を捨て、詰め寄る。


皇帝陛下は何度目かのため息をつき、剣の柄を向けた。

それを喜んで掴む爺。


「なんじゃこれは。重い。重すぎて持てん。」


皇帝陛下から取り上げた神剣・ソルブレイド。

だが、重すぎて持てないらしい。

やれやれ、と首を傾げて、皇帝陛下は爺が捨てた剣を拾う。


「まだ、分かりませんか。」


錆びた剣が再び光り輝き、刀身が燃え上がる。

そして、爺の剣が元のただの剣に戻る。


「何がじゃ。」

「父上。貴方はもう『太陽神』様に認められた方ではないのです。」

「嘘じゃ。嘘を言うでない。」

「それを寄こせ。」


ふらつきながら歩く爺。

皇帝陛下は何も言わず、剣を差し出す。

しかし、爺はそれを掴むことができない。


「お分かりですかな。」


皇帝陛下は静かに告げた。

そして、皇帝陛下が静かに手を上げる。


「この者を捕らえよ。偉大なる先帝カール様を騙る偽物だ。」

「本物は帝宮にて指揮を執られている。」

「はっ。」


近衛達が動き出す。


ここにいたのは偽物。

宝剣は、神剣・ソルブレイドは皇帝陛下の手にあった。

そういうことにするか。


そうじゃな。

色々と許せんが、それが無難じゃ。

これ以上、帝国の、帝宮の恥を晒せん。

しかし、大勢の者が見ている。

いずれ、あることないことが広まろう。

威信も何もあったものではない。



皇帝陛下がこちらへ来る。


「アンリよ。どうだ、戻ってこんか。」


我は首を横に振る。


「母上のことは気になりますが、あそこにはもう我の居場所はありません。」

「そうか。」


皇帝陛下は寂しそうに答える。


「これも予の不徳の致す所か。」

「いつでも戻ってこい。お主の部屋も席も、きちんと掃除しておく。」


そう言って、そのまま馬に乗る。


「では、行く。あまり歓迎されていないようだからな。」


皇帝陛下はヘイムを、空中の魔法使いを見る。

そして手を上げ、近衛を率いて帝宮へ引き上げていく。



これで、ひと段落か。


周りを見る。

倒れた兵や騎士達は第八騎士団や、

駆けつけた各神殿の神官達の治療を受けている。


魔王の負のオーラにやられた者も、

『学問の神』様と『天秤の女神』様のご命令で作られた治療薬で癒されていく。


ブラスが確認したが、魔王の負のオーラの呪いを癒す効果があるらしい。


じゃが、この治療薬では、

今も苦しんでいるヴァルナを助けることはできんそうじゃ。


どうすればよい。


魔王を封印して、帝室のごたごたもある程度は片付いた。

なのに、そなたがこのまま死んでもうては。


我は空中の魔法使いを見る。


其方は誰じゃ。


ヴァルナなのか。


いや、どうでも良い。


のう、魔法使い殿。


ヴァルナを助けてくれ。


其方ならできるであろう。


その力を振るってくれ。


我だけでなく、ヘイムの皆が魔法使いを見る。

その視線が、ヴァルナを助けてくれと訴えている。


魔法使いが世界樹を指さした。

そして、声を作っているのか、いつもより少し低い声で告げる。


『世界樹は、明日の朝。』

『日が昇りきったら枯れる。』


残酷な言葉だった。

世界樹が枯れる。

それは、ヴァルナの命が尽きるということか。


『世界樹の雫。』

『世界樹の雫を捧げよ。』


そう言って、杖の石突を叩きつける。


再び描かれる六芒星の魔法陣。

そして、その中に消えていく。

魔法使いと、後ろに控えていた八人。

元から誰もいなかったかのように。


「世界樹の雫。」


その言葉だけを残して。

それは、なんじゃ。


師匠のニューワールド講座 78

精霊銀ミスリル編~


師匠

『なんです。』

今回出てきた精霊銀――

ミスリルってそんなに凄いんですか。


『そうですね。

とんでもない代物ですよ。

以前、

精霊や妖精のお話をしましたね。

彼らはこの世界とは違う世界、

それぞれの精霊界や妖精界の住人です。

つまり、

この世界とは違う法則の中で生きています。

そして、

ミスリルとは――

精霊界の銀。

向こうの世界の金属なのです。

もちろん、

この世界の銀にも魔力は宿っています。

魔術武具や魔道具の材料として広く使われていますが、

ミスリルは別格です。

硬さ、

しなやかさ、

魔力伝導率、

そのすべてが桁違い。

さらに、

精霊界そのものの力を秘めています。』


おおっ!

ゲームだと序盤を少し過ぎた辺りで手に入る、ちょっと強い装備なのに。


『……。

前にも似たような会話をしませんでしたか。

まあ、いいでしょう。』


『当然、

価値も希少性も桁違いです。

アステリア帝国でも、

一部の要人が着る鎧に、

薄く溶かしてコーティングしたり、

心臓など急所を守る部分だけに使われる程度。

全身ミスリル製の鎧など、

まず存在しません。

もし一式でも見つかれば、

国宝どころか、

人類の宝です。

かつて勇者が身に着けていたと言われていますが……

勇者の最後は、

だいたい碌なものではありませんからね。

勇者本人と共に、

伝説の中へ消えたと言われています。

もしその装備一式が残っていれば、

今回の魔王の分体相手でも、

もっと余裕を持って戦えたでしょう。』


そんなに凄いんだ……。


『本当に貴重ですよ。

百年に一度あるかないか。

神々の力の残滓であるクリスタルを、

浄化したり、

その力を使い切った時に、

ごくわずか残る事があります。

それを精製して、

ようやくミスリルになるのです。

つまり、

この世界では、

鉱山から採れる物ではありません。

店で売られるなど、

論外です。』


なるほど……。


『まだまだ語りたい事はありますが、

話し始めると今日一日では終わりません。

ですから今回はこの辺で。

"とても貴重で、とても凄い金属"

まずはそれだけ覚えておいてください。』


いや師匠。

そのうちアダマンタイトとかオリハルコンとか、

まだ出てきそうなんだけど。


『……。

勘の良い弟子は嫌いではありませんよ。』




作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


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