82 死人に口なし
アステリア帝国東方。
ミュラー辺境伯領国境の戦場、その本営。
騎士団総長であるサフィール伯爵を始め、ミョルニル公爵、ミュラー辺境伯、
そして東方戦線に集まった諸侯や将軍達は、
帝都から入る情報に、ある者は戦々恐々となり、
ある者は唖然とし、また別の者は怒りを通り越して呆れていた。
帝都の帝宮とは連絡が取れない。
ようやく第八騎士団と連絡が取れ、そこから入ってくる情報は、
どれも信じがたいものばかりだった。
クリスタルの山が消え、世界樹と思われる大樹の出現を確認。
第二皇子と第二皇女が、それぞれの勢力を率いて世界樹の接収に向かった。
先帝カール様が、第六騎士団を率いて参戦。
アンリシア様が率いる手勢が、それらと交戦。
世界樹防衛戦を開始。
その後、世界伝言が流れ、魔王の分体が出現。
第二皇子と第二皇女の手勢が壊滅。
アンリシア様の手勢が、魔王と交戦を開始。
帝宮は沈黙し、連絡も出入りもできない。
次から次へと入る帝都の状況。
またもや、帝宮の、帝室の、皇位継承権争いを端に発している。
騎士団総長はため息をついた。
帝室の権威も評判も下がってばかりだ。
第八騎士団、医療・後方支援部隊からの連絡というのも最悪だった。
近衛はどうしている。
帝宮で何があった。
連絡も取れず、政府中枢からの指示もない。
万が一のことも考えて、いくつかの指示は得ているが、
魔王復活など想定していない。
帝都は混乱しているらしい。
その混乱を治めるべき第六騎士団は、
先帝カール様が掌握して動いていないという。
魔王討伐に参加しているのかと思えば、
距離を取り、何もしていないとの報告だった。
民の混乱を治めるでもなく、倒れた兵の救助をする訳でもなく、
ましてやアンリシア様とその手勢の魔王討伐を支援する訳でもない。
まるで、アンリシア様達が全滅するのを待っているかのようだ。
第八騎士団の騎士団長からの報告だった。
彼女は、騎士団総長たるワシに命令をしてほしいと訴えてきた。
第八騎士団に、魔王討伐参戦の許可を求めてきたのだ。
何をやっている。
あの爺様は。
なぜ動かん。
帝宮の外にいて、第六騎士団まで側にいる。
宝剣まで手元にあるという。
何をしている。
父親として、魔王と戦っている二人の娘を思う。
騎士団総長として、騎士として、民を、傷ついた兵を救わず、何が騎士か。
怒りがこみ上げてくる。
かつての爺様。
カール様なら、いの一番に突撃しただろうに。
何があった。
まるで、娘達が全滅するのを待っているじゃと。
一番近い所にいて、そんなことをするお方には見えんかったが。
ワシも老いたか。
カール様の変化に気づかんとは。
皆が動揺しておる。
帝都の状況にも。
カール様の行動にも。
「失礼します。」
テント内に伝令兵が入ってくる。
「大陸連合国から軍使が来ております。」
その言葉に、皆の視線がワシへ集まった。
「なんの用じゃ。先ほど追い返したばかりじゃろう。」
「追って、こちらから人を遣わすと伝えたはずじゃ。」
少し興奮し、伝令兵に当たってしまう。
「それが、大陸連合国の総指揮官が来ております。」
「なんじゃと。」
総指揮官自ら、催促に来たか。
帝宮とも総司令部とも連絡が取れないこの状況で。
ええい、腹立たしい。
ワシは第八騎士団にいつでも動けるよう命令を出し、テントの外へ出る。
そこには、許可もしていないのに、
すでに大陸連合国の総指揮官一団が来ていた。
いかんのう。
軍が動揺して、機能しておらん。
ワシは腕を組み、壇上から睨みつける。
「先ほど、軍使に伝えたはずじゃが、伝わっておらんのか。」
その言葉に、大陸連合国の総指揮官は、気に食わない笑みを返してきた。
「流石は、大陸に名高いサフィール伯爵。余裕ですなぁ。」
「魔王が帝都で復活し、世界が大変だというのに。」
「人類が団結して戦わなければならない時に。」
いけしゃあしゃあと、のたまいおって。
何が人類団結じゃ。
ワシ等に負けて逃げ帰るところへ、魔王が現れた。
敗戦の責任転嫁と、我が国へ堂々と侵攻できるチャンスが来たと
喜んでいるだけだろうに。
そういう提案は、戦に勝った方がするものじゃ。
貴様らを皆殺しにして、兵だけを吸収してもいいのだぞ。
「聞くところによると、帝宮は沈黙し、
大陸最強といわれる近衛騎士団はすでに全滅したとか。」
情報が洩れている。
帝宮とは連絡も取れんが、近衛が全滅したとはまだ聞いておらん。
しかし、こ奴の言動に将兵の間へ動揺が走る。
「さらに、建国の英雄カール大帝は、
神剣ソルブレイドを持ち出して逃げ出したとか。」
ええい、逃げてはおらん。
傍観はしとるが。
その言葉に、将軍達が色めき立ち、剣を抜こうとする。
やめんか。
そのような態度を取れば、こやつの嘘を肯定したと取られてしまうではないか。
ワシは手を上げて止めた。
こ奴の言葉は全て嘘だ。
じゃが、その言葉には事実が混じっておる。
だからこそ厄介だった。
将兵の間に、不安が広がってしまった。
こ奴をここまで入れた時点で負けか。
一体、誰がここまで入れた。
いくら混乱しておるとはいえ、草がそれほど近くまで来ておるのか。
それとも、魔族の仕業か。
『軍神』様からも、今回の国境越えには魔族がいると聞いておるし。
「さぁ、このような時に、人類同士が争っている場合ではありません。」
「共闘して、魔王と戦うべきです。」
芝居臭い演説をしている。
将兵を不安で煽り、自陣営に有利に進めようとしている。
こ奴の虚言には事実が紛れておるから、強く否定できん。
将兵の視線がワシに刺さる。
どうする。
魔王が復活したのは事実。
そして、帝都が滅びるのも時間の問題かもしれないのも事実。
総司令部と連絡が取れん以上、ワシが最高指揮官。
ワシの権限で、越権行為覚悟でどこまでできる。
一番良いのは、こ奴ら大陸連合国の指揮官を殺し、
大陸連合国の指揮権を奪うこと。
目の前におるから、楽にできよう。
しかし、目の前の将兵を見る。
こ奴は建前上、共闘を、手を結んで魔王討伐を叫んでおる。
ここで手にかければ、ワシらが魔王の手先と言われて詰むだろう。
動揺した兵と、大陸連合国の兵がぶつかって勝てるか。
それを理解しているのか、総指揮官は笑顔でこちらを見てくる。
「サフィール伯爵。」
後ろから、ミョルニル公爵が声をかけてきた。
振り向くと、彼は静かに頷く。
「サフィール伯爵一人に責任は取らせません。」
隣のミュラー辺境伯も頷く。
そうか。
ワシら三人の首で勘弁してもらうか。
帝都の方を見て、ため息をつく。
許してくれ。
我が愛する家族よ。
ワシは騎士じゃ。
それも騎士団総長。
納得はいかんが、できるだけ多くの民を救わねばならん。
そのために、他国に頭を下げる。
そのために、多少の犠牲は必要だと言い訳して、民を傷つける。
先で、常世で待っていてくれ。
すぐに行く。
もっとも、行き着く先は違うかもしれんが。
騎士団総長として政治的判断をしたワシは、
そなたらと同じ所には行けんだろう。
再びため息をつき、大陸連合国の総指揮官を見る。
そして、共闘という名の、事実上の降伏を申し出ようとした。
その時だった。
『トヨミアス・ダオ・クパンカ・ヒデオン三世』
『アステリア帝国の帝都に出現した魔王の分体が封印されました。』
『世界は魔王の脅威から解放されました。』
世界伝言が流れる。
魔王が封印されたと。
世界が魔王の脅威から解放されたと。
その瞬間、全軍から歓声が上がった。
そうか。
危機は去ったか。
何があったか分からんが、魔王に勝ったか。
ワシは満面の笑みで、大陸連合国の総指揮官を改めて見る。
「帰れ。今なら、そなたらのその高貴なる精神に免じて許してやる。」
ワシの言葉に、次々と将軍や諸侯から声が上がる。
恥を知れ、と。
大陸連合国の総指揮官達は、悔しそうにこちらを見る。
「軍使にも伝えた。今日一日はこちらも行動は控えてやる。」
「だが、明日になったら総攻撃じゃ。」
ワシの脅し文句に青い顔をして、大陸連合国の者達は逃げ出していく。
ふん。
その下心がなければ、共闘できたかもしれんのに。
歓声を上げる将兵を見ながら、将軍や諸侯に命令を出す。
「今一度、将兵を把握しろ。」
「明日、総攻撃をして大陸連合国を蹴散らし、退却させる。その後、凱旋じゃ。」
「それと、許可もなく奴らをここに通した者を探せ。」
「軍紀が乱れておる。」
その声を合図に、皆が動き出す。
同時に、再び世界伝言が流れた。
神殿で聞いたことがある。
かつて魔王が討伐された時や、
災害級の化け物が退治された時、
それに貢献した者の名が世界伝言で呼ばれる。
神殿に行けば、その名前を何度でも見ることができる。
確か、エンドロールだったか。
《アルマデッタ・ヴァル・セイレス・ミョルニル》
ミョルニル公爵の顔が綻ぶ。
母親の名が呼ばれたからじゃ。
分かるぞ。
ワシも、
《ミレディア・サフィール・ソルヴェルン・アステリア》
娘の名前が呼ばれた時は、思わず叫んでしまった。
やはり参加しておったか。
嬉しくもあり、魔王戦に参加していたことを思うと心配にもなる。
そして、もう一人の娘同然の存在である娘。
《アンリシア・ヴァレリア・ソルヴェイン・エーテリア・アステリア》
本当に無理しおって。
どうせ、周りが止めるのも聞かず、真っ先に暴れただろう。
そして驚いたことに、
《マリー・モナート・ソルヴェイン・ドンネル・アステリア》
の名前が呼ばれた。
そうかそうか。
昔のマリーが戻ってきたか。
皇后のマリーなら、決して動かなかっただろう。
昔のマリー。
皇后ではなく、国母としてのマリーが。
さらに驚いたのが、共に戦ったのであろう民間人の名前の中に、
ダークの称号持ちの一族達の名があったことだ。
そうか。
感謝する。
よく世間の冷たい風に負けず、魔族堕ちせず、共に戦ってくれた。
それを聞いた将兵も驚いている。
これで、少しは理解が進むだろう。
ダークの称号持ちは悪ではない。
皆と同じ人間なのだと。
しかし、気になることがある。
魔王討伐の場にいたはずだ。
先帝。
カール様の名前が呼ばれなかった。
第六騎士団の名も。
嫌な予感がする。
何も起こらなければ良いが。
ワシは通信兵を通じて、第八騎士団に命令を出す。
アンリシア様達の救助に向かうように。
帝都の治安回復に動くように。
騎士団総長の権限で命令を出す。
そして、帝都で何が起こったか、情報を送るようにと。
◇
勝ったぞ。
我達は勝ったのじゃ。
我は力を使い果たし、その場に寝転がりながら、天に向けて手を上げる。
見たか。
我らの勝ちじゃ。
帝都中から歓声が聞こえる。
ああ。
その歓声が、この勝利が現実なのだと思わせてくれる。
ヘイムを見ると、世界伝言を聞いて表に出てきたのだろう。
子供達やエミリア、マルタ、冨樫など、非戦闘員も外へ出てきて喜んでおる。
待たせたのう。
魔王を封印してやったぞ。
我はもどかしかった。
二階のテラス席で聖域展開をし、ただ眺めているだけだったのが。
分かっている。
我が聖域展開をしていなければ、
魔王の負のオーラを少しでも中和していなければ、
あの負のオーラに触れるだけで生命を吸い取られてしまう。
それでも、皆が傷つき倒れる度に、心が裂けそうであった。
途中で母上が参戦した。
何事かと思ったが、
アルマ様やリオニー様が笑っているのを見て、なぜか安心した。
親方達の魔道具が破壊され、魔王がこちらへ向かって歩み始めた。
我を不死者の軍勢に加えると言った時、
怒って魔王へ向かおうとした母上を見て、幼き頃の記憶が蘇った。
アルマ様やリオニー様、親方達、ミレディ一家も含め、皆で遊んだ記憶。
その記憶の中の母上は、とても優しく微笑んでくれていた。
そして、発動する六芒星の魔術陣。
魔王の負のオーラが消える。
今なら、聖域展開を止めて戦闘に参加できる。
ヘイムの庭から声が聞こえた。
跳べ。
殴れ。
蹴れ。
これは精霊の声か。
なぜか聞こえて、なぜか分かる。
言われんでもない。
我は深呼吸して、魔王を睨む。
身体に力がみなぎる。
床を蹴り、跳ぶ。
魔王へ殴りかかる。
何度も殴り、蹴る。
今までの鬱憤を晴らすかのように。
よくも、皆を傷つけてくれたな。
ヘイムを汚してくれたな。
アルマ様を。
リオニー様を。
ミレディを。
母上を。
ここは、店主の。
ヴァルナの大切な場所じゃ。
柄にもなく叫んでしもうた。
そして、皆のお陰で封印できた。
皆、ようやった。
何じゃこれは。
皆の名前が呼ばれておる。
これが、世界伝言エンドロールか。
名を呼ばれた常連客達が驚いておる。
まさか呼ばれるとは思っていなかったのじゃろう。
誇れ。
そなたらの援軍があったから勝てたのじゃ。
我の名前が呼ばれた時など、恥ずかしかったぞ。
「姫様。」
ミレディやプリセスガードの皆が集まってくる。
皆、なんじゃその顔は。
涙でぐちゃぐちゃではないか。
騎士にはなれんかったが、それでも魔王討伐の勇士じゃ。
婚約者共が偉そうにしたら、威張り返してやれ。
この時、お前は何をしていたと。
ああ、良い気持ちじゃ。
我は半身を起こして、皆を見る。
そして、見てしまった。
軍靴の音を響かせながら、こちらへ向かってくる第六騎士団を。
「全軍、抜剣!!」
爺が宝剣を掲げ、命令を下す。
抜剣の音が聞こえる。
ヘイムの皆の歓声が消えた。
帝都が歓声に包まれる中、ここだけが静寂に沈み、軍靴の音だけが響いている。
「そういうことね。」
ハルバードを杖代わりにして、リオニー様が歩いてくる。
「死人に口なし。」
「カール様は、今回の魔王討伐に何もしなかった。」
「すぐ側にいて、宝剣を、神剣ソルブレイドを持ちながら何もしなかった。」
「唯一まともに攻撃できる剣を持ちながら。」
リオニー様が爺を見る。
爺、なんと醜い笑顔をしている。
「お茶会でアンリちゃんにしてやられた。」
「今回も絶妙なタイミングで参戦するつもりだったのでしょうけど、
それも私達が覆した。」
「二度も、活躍の場を奪われた。」
「我慢ならないのでしょうね。」
「だから、抵抗できない私達を皆殺しにして、魔王討伐の功績を奪い取る。」
「そして、世界樹を手に入れる。」
リオニー様はため息をついた。
「しかし、世界伝言で名を呼ばれませんでした。」
「皆が、何もしていないと知っています。」
ミレディが叫ぶ。
「そんなの、どうとでもなるわ。」
「自分は後方で指揮をしていたと。」
「私達がソルブレイドを振るう隙を作るために、捨て石になったとでも。」
「いくらでも言えるわ。」
「だって、死人に口なし。証人がいないもの。」
リオニー様は寂しい顔でこちらを見る。
「しかし、騎士団の者が見ています。」
ミレディが否定するように叫ぶ。
「あいつらは軍人よ。」
「皆、口を噤むか、
いかにカール様が私達の犠牲に苦しんでいたかと吹聴するわ。」
リオニー様が足を引きずりながら、門へと向かう。
「せめて、子供達だけでも逃がしなさい。時間は稼ぐわ。」
そう言って笑ってくる。
なんだ、それは。
本当にあの爺様か。
あの爺は。
怒りがこみ上げてくる。
だが、すぐに動かなければ。
「ミレディ、子供達を、皆を逃がせ。」
ミレディにそう告げ、我も身体を引きずって門の方へ向かう。
もう騎士団は、門の近くまで来ている。
そんな騎士団の前に、アルマ様と支え合いながら、母上が立ちふさがった。
「止まりなさい。ここにいるのは、魔王討伐を成し遂げた勇士達よ。」
両手を広げて叫ぶ母上。
その背中はまさしく、我やミレディが、皆が憧れた母上であった。
ああ、母上。
今、そちらに参ります。
ここには、あ奴らを入れさせません。
ここの者達には、指一本触れさせません。
身体が重い。
まるで、自分の身体ではないみたいだ。
母上の言葉に、騎士団が止まる。
騎士団が割れ、爺が前に出てくる。
宝剣を掲げ、まるで自分こそが『太陽神』様の代理人であるかのように。
この場の支配者であるかのように。
「ここで何をしている。皇后よ。」
「ここは皇后のいる場所ではない。今なら許してやる。帝宮に戻れ。」
爺は母上に、宝剣の切っ先を向ける。
「どきません。」
「わらわは皇后として、一人の戦士として、
人間として、なにより母親としてここにいます。」
「そう言う貴方こそ、ここで何をしているのです。」
「宝剣まで持ち出して、魔王討伐に何もせず、
遠くで震えていただけではありませんか。」
誰もが思っていたことを、母上は言い放つ。
「黙れ!!」
爺が剣を振るう。
母上が吹き飛び、地面に倒れ込む。
「マリー!!」
アルマ様が叫びながら駆け寄る。
嘘じゃ。
嘘と言ってくれ。
母上が動かない。
それどころか、倒れた母上から流れ出る赤いものは何じゃ。
母上が、血の海に沈んでいく。
嘘じゃ――。
立ち上がり、爺を殴りたかった。
母上の元に駆けつけたかった。
しかし、身体がもう動かん。
無力じゃ。
「殺せ。ここにいる者を一人残らず。」
「そこに転がっている愚かな孫二人も。」
「結界に隠れておる孫も。」
「皇后も貴族も一人残らず。」
「こ奴らは魔王と戦い、力尽きた。」
「苦しんでいるのを介錯してやるのじゃ。」
戸惑う第六騎士団。
だが、爺が宝剣を掲げると、動揺は収まり、再び動き出す。
無念。
ここまでか。
あんなに苦労して。
皆で力を合わせて。
ここまで来て。
最後に、あの爺に持っていかれるのか。
後ろから、武器を構える音が聞こえる。
「戦うな。皆を逃がせ。」
そう叫ぶのが精一杯で、我は仰向けに倒れ込む。
なんじゃ、あの光は。
空中に六芒星が描かれる。
光を増していく。
これは、先程魔王を封じたものと似ておる。
まさか。
もう封印を破って出てきたのか。
軍靴の音が止まる。
恐らく、皆も気づいたのだろう。
そして空中に現れる。
ローブ姿。
まさか、本当に。
師匠のニューワールド講座 77
~神剣・ソルブレイド編~
師匠
『なんです。』
ちょくちょく出てきてますけど、
宝剣って何ですか。
『お答えしましょう。
宝剣――
正式名称は、神剣・ソルブレイド。
アステリア帝国が建国された時、
神々が、
「アステリア帝国は正当な国家であり、
それを治める皇帝もまた正当である」
と認めた証として、
『太陽神』から直接授けられた神剣です。
いわゆる、
帝権神授説ですね。
太陽神の力が封じられており、
限定的ではありますが、
その権能を振るうことができる、
まさに天界の武器です。
一度抜けば、
夜であろうと太陽が昇ったかのような光を放ち、
敵を焼き尽くす。
まさしく、
アステリア帝国の象徴ですね。
この神剣が授けられた事で、
建国当初、
不満を抱いていた諸侯達も沈黙し、
『太陽神』神殿からも正式な支持を得る事ができました。』
なるほど。
凄い剣なんですね。
でも、こんなに凄いなら盗まれたりしないんですか。
今回だって、先帝とはいえ持ち出されていましたけど。
『そこが今回の味噌ですね。
あれは神剣です。
神に認められた者しか扱えません。
基本的に持てるのは皇帝のみ。
他の者が手に取ろうとしても、
重すぎて持ち上がらない。
あるいは、
剣そのものに触れる事すらできず、
手がすり抜けてしまいます。
防犯対策は完璧ですよ。
今回は、
建国の英雄であり、
神剣を授かった本人でもある初代皇帝だからこそ、
特例として扱えたのでしょう。
もっとも、
三代目が即位し、
『太陽神』から認められた後、
二代目が持てるかどうか試してみないと、
本当のところは分かりませんがね。』
へぇ……。
『こうした認証機能は、
神剣だけではありません。
高価な魔道具や、
国宝級の品々にも、
似たような仕組みが使われています。
そして、
神々が授けるのは剣だけではありません。
王錫、
聖槍、
聖典、
王冠など、
神によって授ける品は様々です。
ちなみに、
超帝国は邪神から、
金の茶釜を授かっていますね。』
なんで茶釜!?
『さあ……。
授けた本人に聞いてください。』
『ただし、
神授の品だからといって安心はできません。
まともな神々であれば、
統治者が建国の理念に反し、
民を顧みない政治を始めれば、
その力を失わせます。
場合によっては、
ただの地上の品へ戻したり、
没収したりする事もあります。
つまり、
神授の品とは、
権威を与える物であると同時に、
統治者を戒める鎖でもあるのです。
効果が絶大だからこそ、
失った時の反動もまた、
計り知れません。』
作者メモ
※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。
※本編とは時空が違います。
※本編の都合により、設定が変わる事があります。




