74 ここは渡さん
手甲の留め金を調整し、しっかりと留める。
フル装備での戦いなど、初めてかもしれん。
精々、練習か街道の見回りくらいだった気がする。
街道の見回り……そうか。
あの時の違和感、あの体験を思い出した。
あの時に、我はすでにヴァルナと会っていたのだな。
街道で真っ昼間から問題を起こしおって。
ヴァルナとの本当の出会いを思い出す。
ここヘイムではなく、街道で、あんなでかい建物を呼び出しおって。
思わず少し笑ってしまう。
そして我は、神殿に運び込まれたヴァルナを見る。
ベッドの上で治療――いや、延命を受けているヴァルナを。
白かったシーツが赤く染まっている。
エマが持ってきた、
人工呼吸器とかいう、どでかい魔道具を付けて、なんとか息をしている。
これはすごい魔道具だと、こんな時だというのに少し感心してしまった。
もし無事に生き残れば、ぜひ解析させて普及させたいのう。
御使い様がチートじゃと騒ぎそうじゃが。
その御使い様は、ヴァルナの上で奇跡を使い続けておる。
『大地母神』神殿から駆け付けた、
治療に特化した高位神官達が代わる代わる
ヴァルナの生命維持に尽力していたが、
今は御使い様がそれを担っている。
ブラスに、これから始まる戦の負傷者の治療に当たるように、
そして魔力を温存するようにと言われ、今は体を休めている。
最初はヴァルナの容態を見て声を上げた。
それでも歴戦の治療師としての意地か、すぐに治療を始めた。
だが、やはり結論は同じだった。
苦しみを延ばすだけだ。
いっそ楽にしてやれと――何人かの神官にそう言われた。
それでも治療を願うのは、我らの罪か。
御使い様も、悔しそうに話しておられた。
『私が行えるのは延命だけです。』
『私は、あまり治療の力が得意ではないのです。』
『本来なら、何十年。
ヴァルナさんは才能がありませんから、何百年とかけて修行して。』
『身体を鍛え、魔力回路を育て、学んで。』
『ようやく行う奇跡を、魔法を。』
『こんな形で、こちらに来て一年も経たずに行ってしまった。』
『こうなるのは、当たり前ですよ。』
御使い様の声は震えていた。
『あの時、天界に行くのではありませんでした。』
『少しでも手助けができるようにと、
神々に直訴しに行くのではありませんでした。』
『側にいて、止めるべきでした。』
『女神様の力を借りに行った。甘やかした。その結果がこれです。』
泣いておいでですか、御使い様。
『結局、私はいつも誰も守れない。』
『戦乙女とか、女神候補などと持ち上げられて、このざまです。』
御使い様の光が、かすかに震えている。
『ヴァルナさんを治すには、
エリクサーやネクタルなど天界の薬か、神々の直接の奇跡が必要です。』
『今、地上にそのような物はありません。
チーター共が悪用するから、全て回収して天界です。』
御使い様は天を見て嘆く。
『今回の一件、主神様から神々の関与は禁止されました。』
『唯一許されたのが、今の私だけです。』
御使い様が我を見る。
『人の世の事は、人の手で。』
『主神様からのお言葉です。』
『成し遂げなさい。でなければ、神々は二度と天界への扉を開かないでしょう。』
『神々は、転生者や転移者のせいとしても、
なぜこの世界の者は、これほど争うのか疑問に思っています。』
『邪神やトリックスターの暗躍もあるでしょう。』
『ですが、強く心を持てば、そんな誘惑は跳ね除けられるはずです。』
『心に隙があるから、そう望むから、踊らされるのです。』
『望み、願わなければ、邪神やトリックスターも干渉できません。』
『それができないのであれば、
もう神々はこの世界に干渉すべきではないのです。』
我だけではない。
この場にいる者すべてが、御使い様の独白に聞き入っていた。
これは、ここだけの話ではない。
この世界にいる、全ての人間に関わる話だ。
神々が人間を試そうとしている。
結果次第では、神々は我らを見捨てる。
そうなれば、どうなる。
穀物は育たず。
病気や怪我をした者は治療を受けられず。
人は飢え、残った食べ物や資源を巡って争い――。
そして。
『主神様ではありません。創造神様からのお言葉です。』
『何回目かの、やり直しの準備をするかと。』
喉が渇く。
それはもう、死刑宣告ではないか。
『ここを守りなさい。』
『そして、ヴァルナさんを救う術を見つけるのです。』
『天界が回収し損ねた薬を探すか。』
『この際、チーターでも何でもいい。何かヴァルナさんを救う術を。』
『でないと、ヴァルナさんが死ねば、主を失った世界樹は枯れます。』
『そうなれば、この世界を、この大陸を癒し維持することはできなくなります。』
『少なくとも、この国は滅びますよ。』
我は手を強く握りしめた。
帝位継承争いなど、些細な話ではないか。
『皆さん、魔法使いと世界樹のことを知らなすぎます。』
『帝室や神殿の書庫や壁画に書いてあるでしょう。』
知らん。
そんなもの。
残っているのは、きらびやかな戦果やおとぎ話ばかりじゃ。
『さぁ、動きなさい。』
『ここに居ても仕方ありません。』
『力ある限り、ヴァルナさんの延命はします。』
『でも、そんなに持ちませんよ。』
御使い様が、力なく、我らになすべきことを促してくる。
我らは神殿を後にし、ヘイムの店舗へと向かった。
あれから、プリセスガードが城壁内を偵察したところ、
城門らしきものはなく、出入り口は店舗――つまりヘイムしかないと分かった。
城壁を乗り越えて侵入を試みた者もいたそうじゃが、
城壁どころか、堀やその周りの並木通りにすら入ることができなかったそうじゃ。
何か結界のような、見えない壁に阻まれていると。
衛兵や貴族の私兵が集まり出し、
情報員や工作員が引き上げ始めたところで、
手が空いた爺ややセバスから報告があった。
出入りできるのは、ヘイムの入口のみ。
これは手勢の少ない我らにとっては助かる。
戦いの場を絞れれば、戦力を集中できる。
しかし、手元の戦力は、プリセスガードと
『大地母神』神殿がよこしてくれた神官戦士達、そしてヘイムの面々だけ。
どこまでできる。
先程の話を聞いた後では、あまりにも少なすぎる。
「姫様。」
ミレディが話しかけてくる。
「先程の話、皆には。」
「するでない。」
我は首を横に振る。
「これが世界を、人類の命運を懸けた戦いと知れば、
意識してしまう。万が一が起こりかねん。」
「ですが、せめて帝宮に知らせて、力を借りるべきでは。」
「力づくで手に入れて、その結果、帝国だけでなく世界が滅んでは……。」
「そうじゃな。正論じゃ。」
だが、正論だけでは人は動かぬ。
「じゃが、信じるか。」
「ただの時間稼ぎ、混乱させるための世迷言と取られるぞ。」
「まあ、時間稼ぎも何も、援軍の見込みはないがの。」
「それに、混乱すれば他勢力が動くぞ。」
「そちらにも話すか。それこそ鼻で笑って、
ならば管理してやると乗り込んでくるぞ。」
我は城壁の外を見る。
「見ろ。」
「あんなに軍旗を高々と掲げおって。」
「我の弟妹は気でも触れたか。」
城壁のこちらからでも見える軍旗。
第二皇子と第二皇女のものが掲げられている。
「これを機に、後継者の席を我が物にしたいのではないか。」
今度はノートが話しかけてきた。
「なんじゃ。まだ居ったのか。」
「てっきり、この混乱に乗じて帝都を出たものかと。」
「まだ間に合うぞ。包囲が完成する前に出ていくがよい。」
「そなたらより、ここを手に入れることに躍起で、誰も気にもかけんぞ。」
戦闘衣装に身を包んだノートを見ながら、我は歩く。
「そうだな。それが正解だろうな。」
ノートは静かに笑った。
「だが、金を払ったとはいえ、一宿一飯の恩は忘れん。」
「それに、先程の話を聞いては、どこにいても同じだろう。」
「まあ、あと正直期待しているのさ。」
「期待じゃと。」
「ああ。」
ノートは神殿を振り返る。
「魔法使いの伝説。特権ってやつをさ。」
「昨日の口論を、一族の者も聞いていて知っている。」
「そして、ヴァルナが取った行動もな。」
「こんなことになるとは思っていなかったが。」
「それでも、会ったばかりの俺達のことを思ってしてくれたことだ。」
ノートの目が真っ直ぐに我を見た。
「都合の良いことを考えているとは思っている。」
「あんなにヴァルナを怒鳴っておいて、縋るなんて図々しいとも思っている。」
「だが、それでも縋る。」
「一族の長だからな。」
「ヴァルナなら、助けてくれるのではないかと。」
「魔法使いの工房。絶対の自治区なんだろう。」
「神々や他の魔法使い以外、干渉不可能な国。」
そう。
魔法使いと各国との取り決め。
所在する国の魔法伯として迎え入れられ、その国に属する形は取る。
だが実際は、互いに干渉しない。
下手に手を出せば滅ぼされる。
超帝国の全盛期、ある魔法使いの工房を支配下に治めようと、
全軍を挙げて侵攻し、負けた。
それはもう、一方的に。
その事実は世界中の国や地域を震撼させた。
それ以降、あのハイ・ヒュマ至上主義の聖国ですら、
魔法使いの工房には怯えておる。
その結果、魔法使いの工房とその周辺は、
魔法使いの自治区、アンタッチャブルな場となった。
もちろん、普通の生活をしていれば何もされない。
逆に、世界で最も安全な場所として栄えている。
もし帝都が侵略され、火の海に沈んでも、ここだけは手を出されんじゃろう。
「そういうことさ。」
ノートは苦笑する。
「上手くいけば、ここに定住できるかもしれん。」
「ようやく、一族は落ち着ける。」
そしてまた、少し寂しそうに笑った。
「だから気にするな。」
「皆、そんな淡い夢を見てしまったのさ。」
「たった数時間の邂逅なのに、
俺達のために動いてくれて、あんな目に遭っている。」
「あいつら、もう同族扱いだ。」
「馬鹿な奴らだ。」
「目を覚ましたら、追い出されるかもしれんのに。」
ノートはヘイムの方を見る。
庭園を抜けた先の入口には、ノートと同じく武装した、
雪原のフェンに住む一族がいる。
責任は取れんからな。
ヴァルナが目を覚まして、何を言うか。
まあ、決まっているだろうがな。
ヘイムに入り、二階の臨時司令部へ向かう。
と言っても、入口が見える席に机を並べただけだが。
二階の窓側やテラスには、プリセスガードが机を並べて矢盾にし、
集まりつつある軍勢を見張っている。
今からそんなに気張っては持たんぞ。
司令席には、ミレディとノート、親方達三人。
それに、アルマデッタ様とリオニー様が集まっていた。
「よろしいのですか、お二方。」
我は二人を見る。
「公爵家と侯爵家の人間が、
しかも宰相と筆頭魔術師長のお身内が、帝国に弓引くなど。」
「何言ってんの、アンリちゃん。」
アルマデッタ様が笑った。
「夫も、好きにするようにと言っているわ。」
「第一、私がここにいて、夫を、宰相を監禁でもしてみなさい。」
「帝国政府は機能不全に陥るわよ。
皇帝陛下も皇后陛下も、夫に頼りすぎなのよ。」
「まあ、監禁して夫の仕事をしてみればいいわ。」
「政治ゲームをしている暇なんてないわよ。」
高笑いしながら答えるアルマデッタ様。
「そうそう。」
リオニー様も肩を竦める。
「うちも、じい様なんて帝国学園にこもって不干渉を貫いているわ。」
「何かあれば隠居して、研究室に籠りそうね。」
「もしかして、弟子にしてくれってここに来るかもよ。」
「それにね、何度も言うけど、私はリオニー・フォン・ハーケン。」
「ガイアースブルク侯爵家は関係ないわ。」
そう言って、ウィンクしてくる。
「そうよ、気にしないで。」
アルマデッタ様――いや、アルマ様が赤毛親方に顔を向けた。
「で、スミズル親方。武具の調整はまだですの。」
「今やっとるわい。」
赤毛親方は不機嫌そうに答える。
「姫に集まれと言われたから来たんじゃ。少し待て。」
「で、なんじゃい。作戦会議か。」
「入口はあそこしかない。叩けばよかろう。」
相変わらず分かりやすい。
我は簡潔に、ここにいる者だけに聞こえるよう、
先程の御使い様の言葉を告げた。
責任者だけには伝えておかねばならん。
皆が黙り込む。
そうじゃな。
重すぎる話じゃ。
「神々の薬か。」
ムラマサ親方が腕を組む。
「話には聞くが、実物は見たことがないな。」
「新大陸の魔法使いが、神秘の桃から神酒を作るとは聞いたことがあるが、
確かめようにも新大陸までは行けんぞ。」
「念のため、カスパール侯爵に聞いてみるか。」
「しかし包囲が完成してしまえば、外とのやり取りは難しくなるぞ。」
恐らく、各勢力の諜報員が網を張っていよう。
しかし、少しでも可能性があれば賭けるしかあるまい。
「爺や、セバス。」
我が呼ぶと、二人は音もなく後ろに立った。
「聞いておったな。すまんが、すぐに走れ。」
二人は現れた時と同じように、音もなく消えた。
「しかし、これは悪い知らせね。」
アルマ様が顔を曇らせる。
「もう一つ、悪い知らせよ。」
「東方の国境が動いたわ。」
「今朝、大陸連合国が侵攻してきたの。」
「恐らく、あの光柱を見て焦ったのでしょうね。」
「帝国に世界樹が現れた。しかも主が不明と。」
「早いわね。魔道具の発達も考えものね。情報が早すぎる。」
アルマ様はため息をつき、続けた。
「世界樹の主が、魔法使いが現れるまでに、
少しでも侵略したいってところかしら。」
「おかげで、公爵家の軍も、騎士団総長率いる騎士団も動けないわ。」
そしてこちらを見る。
「つまり、援軍は来ない。」
「こっちも同じ。」
リオニー様が続ける。
「運悪く領地に第三騎士団がいて、動かせないわ。」
援軍の宛ては、これでなくなった。
その時。
「姫様。」
二階から外を見張っていたプリセスガードが、我を呼んだ。
同時に、外から喊声が響く。
動いたか。
どこの軍じゃ。
「第六騎士団です。」
◇
さて。
昨日からこの橋の上にいるわけだが。
城壁や堀ができてから、ヘイムの入口の前には少し広間ができた。
堀には橋が架かり、その先に門ができている。
門を閉められないかと調べたが、仕掛けが動かなかった。
仕方なく、橋の上で仁王立ちをしている。
しかし、大きな門だねぇ。
これじゃ、どちらからもお互いが丸見えじゃないか。
おかげで奇襲の心配はないが、店内になだれ込むにはこの橋を通るしかない。
後ろにはハルヴィンダ嬢が控えている。
すぐには攻めてこないから、店内で待っていろと言ったのに、
「ベルンさんを一人にはできません。」
と来たもんだ。
まあ、律儀なものだ。
こちらはこの程度のことには慣れている。
無駄な体力を使わずに警備するなど、騎士団時代に散々やった。
油断せずにサボる方法も、よく知っている。
そう思っていたのが悪かったのか、早速攻めてきやがった。
よりによって古巣とはな。
先頭に見えるのは見知った顔だ。
俺が濡れ衣を着せられた時に、死刑を叫んでいた中隊長殿じゃないか。
「ベルンハルト・フォン・グラウハイム!」
そう呼んでくるので、俺は肩を竦めた。
「ベルンハルト・グラウハイムです。もう騎士じゃないので。」
そう返すと、相手は顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
「うるさい、黙れ! 貴様のせいで!」
肩をぷるぷる震わせている。
おや。
肩の階級章が、小隊長のものになっている。
その視線に気付いたのか、男の顔がさらに歪んだ。
「貴様のせいだ!」
「だいたい昔から気に入らんかったのだ。」
「親無しのくせに、生意気で、澄ました顔でいつも見てきおって。」
何を言っているのか。
あんたとは、ほとんど接点などなかっただろうが。
「そう、その目だ!」
「馬鹿にした目で見おって!」
「だから、不正を働いたと聞いた時は喜んだのに!」
「処刑できると、その目をくり抜いてやれると思ったのに!」
ほう。
なぜそこまで嫌っているのかは知らんが。
「で、例の一件で、ろくに調べずに処刑しようとしたと。」
「そうだ!」
男は勝手なことを言い出す。
「証拠不十分とか、他に真犯人がいたとか。」
「裏から手を回しおって、この恥知らずが!」
「あれは間違いではなかった。」
「それなのに、処刑を叫んだワシを降格しおって。」
「見よ。今まさに帝国に弓引いておるではないか、反乱者め!」
「成敗して、ワシの無実と降格を取り消してやる!」
そう叫び、男は剣を抜いた。
「安心しろ、ベルンハルト。」
「貴様の首を落として中隊長に復帰した暁には、
貴様の女房も娘もワシが面倒を見てやる。」
「もっとも、情婦としてだがな。」
騎士どころか、人としてあり得んことをほざきながら向かってくる。
俺のことだけならまだいい。
だが、マルタやソレイアのことをコケにしたんだ。
覚悟はできているよな。
「くらえ! 南極一刀流免許皆伝の一撃!」
知らんがな。
北辰一刀流ならともかく、南極一刀流って何だ。
男が大上段から剣を振り下ろす。
俺は半歩だけ身体を開いた。
振り下ろされた剣を紙一重でかわし、伸び切った両腕の下へ踏み込む。
腰を落とし、剣を跳ね上げるように振り抜いた。
悪いな、ヴァルナ殿。
大事な店先を汚してしまった。
元中隊長は崩れ落ち、何が起きたか分からぬ顔で地面を見つめている。
やがて、自分が戦えぬ状態にされたのだと気付き、情けない悲鳴を上げ始めた。
騎士としてあり得ぬ発言をしたせいか、
他の騎士達は複雑な顔をして、喚き散らす元中隊長を引きずっていく。
俺は落ちていた剣を拾い、そちらへ投げてやった。
「ほら、忘れ物だ。」
金を積めば、神殿でどうにかしてくれるだろう。
まあ、もう二度と何だっけ、南極一刀流ってのは使えんだろうし、
騎士の称号も剥奪だろうな。
そんな俺を見て、ヘイムから歓声が上がる。
まずは一勝、と言いたいところだが。
これ、前哨戦ですらないんだがな。
師匠のニューワールド講座 70
~魔法使い編~
師匠。
『なんです。』
魔法使いってそんなに強いのですか。
超帝国全盛期の軍勢に勝つなんて。
『そりゃ強いですよ。』
『どんなに転生者や転移者がチートでも、
所詮はこの世界に収まる力しかありませんからね。』
『ですが、魔法使いは違います。』
『世界の法を。』
『理を。』
『仕組みそのものを書き換えます。』
えっ……
『だから国家では勝てません。』
『超帝国は世界を統一し、全盛期を迎えました。』
『そして、その余韻に浸り――』
『愚かにも、世界樹の守護者たる魔法使いへ臣下になるよう命じたのです。』
『当然、断られます。』
『相手にされませんでした。』
『激怒した皇帝トヨミアスは軍を差し向けます。』
『陸海空。』
『戦車兵団。』
『巨大機動兵士。』
『軍艦。』
『潜水艦。』
『飛空艇。』
『戦闘機。』
『浮遊要塞。』
『ありとあらゆる近代兵器とロマン兵器を投入して侵攻しました。』
結果は……
『一日と持たず敗退です。』
一日!?
『皇帝トヨミアスは激怒しました。』
『さらに全軍へ総攻撃を命じます。』
『ですが、これも敗退。』
『結局、超帝国は自らの力の限界を証明し、
魔法使いの伝説を事実にしてしまいました。』
うわぁ……。
『この事件は』
『禄文・長慶の役として、世界中の歴史教科書に載っています。』
『副題は――』
『"成金皇帝の愚行"。』
ひどい言われよう。
『事実ですからね。』
『それ以降、魔法使いは本当に恐れられる存在となりました。』
『ですが、人というものは、自分より強い存在を理解できません。』
『だから』
『味方に引き入れよう。』
『駄目なら敵になる前に叩こう。』
『そう考えてしまうのです。』
なるほど。
だから今回も……
『ええ。』
『魔法使いがアステリア帝国へ力を貸す前に、少しでも国力を削ろう。』
『そう考えた者達がいても不思議ではありません。』
でも……
魔法使いって国に力なんか貸さないんですよね。
『その通りです。』
『魔法使いが力を振るうのは』
『世界の危機。』
『あるいは、自らの身を守る時だけです。』
『それ以外では、世界樹を守り、世界を修復する。』
『それが魔法使いの役目です。』
じゃあ各国とも勘違いしてるんですね。
『本当にやれやれですよ。』
『各国も神殿も、何を教えているのでしょうね。』
『しっかり伝えたはずなのですが。』
もしかして……
誰も歴史の授業を聞いてなかったとか。
『それは十分ありえますね。』
『歴史はテストが終われば忘れるもの。』
『どこの世界も同じです。』
そのせいで戦争になるなんて、
笑えないよ……。
『だから歴史は学ぶのですよ。』
『同じ愚行を繰り返さないために。』
作者メモ
※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。
※本編とは時空が違います。
※本編の都合により、設定が変わる事があります。




