71 流されるままに
日が沈み、帝都は暗くなっていた。
再開発のため、街灯がほとんどない再開発エリア。
その暗闇の中に、俺とハルヴィンダちゃん、ベルンさん、そして師匠はいた。
隠れていた。
いや、別に隠れるつもりだった訳ではない。
ただ、結果的にそうなってしまっただけだ。
日中に起きた再開発エリアでの三すくみの睨み合いは、まだ続いていた。
ダークの称号持ちのフードの一団。
騒動を機に一気に取り壊しを行いたい一団。
強引過ぎる撤去作業に反対する一団。
それぞれが睨み合い、それを俺達みたいな野次馬が遠巻きに見ている。
なぜ俺達がここにいるのか。
それは、昼間のハルヴィンダちゃんからの報告から始まった。
この騒動を何とかできないか。
そういう話になったのだ。
最近、二柱の降臨によって話題になっているヘイムだが、
所詮はただの飲食店でしかない。
政治的な力も影響力もない。
何ができるというのだろうか。
本来なら影響力のあるアンリ先生やトール夫人、ハーケン夫人。
しかし今、彼女達は帝国内でかなり微妙な立場にいる。
下手な介入はできない。
それに、皇族であるアンリ先生の言う事を、
フードの一団が聞くかどうかも分からない。
下手に介入すれば、余計に反発するかもしれない。
ブラスさんに神殿で何かできないかと聞いても、
「ダークの称号持ちの方々については、
『夜を司る女神』様の神殿が仲裁に動いていますが、
どこまで仲裁できるか。」
「帝国政府も立ち退き先や必要資金は提示しています。」
「ですが、それを拒否しているのは、ダークの称号持ちの方々ですし。」
「帝国政府にとっても再開発は国是です。」
「あのまま古い建物や壊れた建物を残せば、
犯罪の温床になります。解体工事は止まらないでしょう。」
「私達の『大地母神』神殿でも保護はしていますが、限度があります。」
「それに、その方々にばかり保護や援助をしていれば、
他の信徒の方々から不満が上がります。」
そう言って、これ以上は難しいという答えだった。
つまり、何もできない。
飲食店だから、飯の差し入れ?
それをどの立場の人にすればいい。
フードの一団か。
解体工事を進める一団か。
それを止める一団か。
心情的にはフードの一団だ。
だが、どこに差し入れしても問題がある。
結局、誰も良い案を出せず、首を横に振るばかりだった。
皆、やるせない気持ちを抱えたまま仕事に戻った。
何かしたい。
でも何もできない。
俺も、あの時の子供達の顔が頭に浮かぶ。
悔しい。
けど、何もできない。
そんなの、日本でのサラリーマン生活で充分学んだではないか。
世の中がどれだけ理不尽でも、声を上げる事もしない。
見て見ぬふりをする。
もう何十年も、そうやって生きてきた。
異世界転移して、スキルが使えるようになっても。
世の中の理不尽に立ち向かう声を上げる事はできない。
それが俺の人生だ。
多分、これからも変わる事なんかできないだろう。
この世界では、スキル持ちなんて珍しくない。
俺はただ、ヘイムというチートな店と、
師匠を始めとした良き人達に巡り会えただけの、ただのおっさんだ。
今の充実した生活を捨ててまで、誰かのために何かできる人間じゃない。
そんな自分が嫌で。
分かっているのに何もしない俺がいて。
その苛立ちを抱えながら、忘れるように料理を続けた。
夜になり、お客様達が来ても、出る話題は再開発エリアでの事だった。
まだ睨み合いは続いているらしい。
それに、遂に衛兵が派遣され、
強制的に排除されるのではないかという話も入ってくる。
そんな話も、どこか他人事のように聞いていた。
俺には何もできないのだ。
俺にできるのは、こうやって料理を作るだけ。
それだけ。
閉店後、店の後片付けと明日の仕込みが始まる。
ああ。
イライラする。
「ハンスさん、ごめん。ちょっと外の空気を吸ってくるわ。」
そう言って、仕事をみんなに押し付けるようにして外へ出た。
ヘイムの外に出て、夜風に当たりながら歩き出す。
どこへ向かっているのだろう。
ダークの称号持ちの問題なんか、この世界全体の問題だ。
住居の立ち退きも当人達の問題だ。
俺は関係ない第三者だ。
放っておけばいい。
なのに、足は再開発エリアへ向かっている。
俺って、こんな奴だっけ。
事なかれ主義だったはずだ。
異世界転移して、急にやる気や正義感が目覚める訳がない。
ハルヴィンダちゃんやベルンさん。
天宮さんの件だって、打算もあったし、成り行きだった。
たまたまできる事があって、しただけだ。
今回は何もない。
そう思いながら歩いていると、
「店長さん、どこに行くんですか。」
声がして振り向くと、ハルヴィンダちゃんがいた。
背中にはグレートアックスを背負っている。
「明かりも少ないこんな夜道を、何も持たずに歩くなんて危ないですよ。」
そう心配してくれる。
「別に。ただ少し、外の空気を吸いに来ただけだよ。」
俺はぶっきらぼうに答えた。
「そうですか。珍しいですね。」
ハルヴィンダちゃんは少しだけ笑った。
「実は私もそうなんです。」
「なんだか、無性に外の空気を吸いたくなって。」
そう言って、俺の隣に並んで歩き出す。
やれやれ。
見透かされているな。
それとも、ハルヴィンダちゃんもフードの一団が心配なのだろう。
仲良くなったと言っていたからな。
誇り高き狼族。
仲間は見捨てない。
その誇りが、少しでも俺にもあればな。
無言で歩く二人。
しばらくして、ハルヴィンダちゃんが低い声で告げた。
「店長さん。このまま真っ直ぐ歩いてください。」
「合図したら物陰に隠れてください。」
「つけられています。」
なに。
物取りか何かか。
俺は緊張しながら、ハルヴィンダちゃんの指示に従う。
「店長さん、今です。あそこに隠れて。」
その声に従い、俺は慌てて走り出した。
「誰ですか。怪しい者なら容赦しませんよ。」
うん。
最近のハルヴィンダちゃん、本当に頼もしい。
息を切らしながら指定された物陰に隠れ、
グレートアックスを構えるハルヴィンダちゃんを見る。
もうフロアスタッフじゃなくて、立派な戦士だよね。
そして、ハルヴィンダちゃんが睨みつける暗闇から出てきたのは――。
「ベルンさん?」
両手を上げ、苦笑いしながら歩いてくるベルンさんだった。
俺は安心して物陰から出る。
でも、どうしてベルンさんが。
ハルヴィンダちゃんも相手がベルンさんだと分かり、肩の力を抜いた。
「あのなぁ。」
ベルンさんが呆れたように息を吐く。
「戦闘力のないヴァルナ殿と、戦えるとはいえ若い女性を、
治安がいいとはいえ、
こんな時間に二人だけで行かせる訳にはいかんでしょう。」
そう言って俺とハルヴィンダちゃんを見る。
「それにハルヴィンダ嬢。」
「いくら正当防衛とはいえ、その獲物は過剰だ。」
「そんなものを振り回して相手を怪我させたら、こちらが悪者になる。」
ベルンさんの指摘に、
ハルヴィンダちゃんは少しだけ気まずそうにグレートアックスを見る。
「それに、これから行く所はなおさらだぞ。」
「怪我人を出せば、余計に話がこじれる。」
どうやら、俺達の行き先はバレているらしい。
「はぁ……二人共、顔にすぐ出るからな。みんな気づいているぞ。」
「トレース親方やスミズル親方なんか、
二人してついて来ようとしたが、あのお二方は有名人だからなぁ。」
「話が大きくなるから遠慮してもらった。」
「セバスさんも、同僚に会うから駄目だと言われてな。」
「まあ、俺が来た訳だ。」
そう説明してくれる。
「もう騎士団を辞めて、会ってまずい奴もいないからな。」
ベルンさんはそう言って歩き出した。
「さっ、早く行って早く帰ろう。」
「親方達や姫様がプリンセスガードを動かす前にな。」
いや、別に問題を起こしに行くんじゃないし。
ただの散歩だし。
確かに年頃のレディがこんな時間に歩くのは危険だけど。
大丈夫だよ。
ねっ、師匠。
いつの間にか。
いや、最初からだろう。
俺の頭の上、いつもの定位置に師匠がいた。
そして現場に着く。
三つの集団の睨み合い。
それを見る野次馬達。
こんな時間に、こんな所まで。
暇な奴が多いんだな。
「まあ、娯楽が少ないからな。」
ベルンさんが周囲を見回しながら答える。
「乱闘でも起きたら、良い見世物だとでも思っているんじゃないか。」
「それか、この騒ぎを大きくして混乱を起こそうとしている奴とか。」
そう言いながら、ベルンさんは呆れたように三つの集団を見る。
その中心では、恐らく『夜を司る女神』様の神官達だろう。
それぞれの集団に話しかけ、何とか場を収めようとしている。
でも恐らく、昼間からこの状態なのだろう。
解決するようには見えない。
どこも動きがない。
フードの一団の先頭には、あの時、族長と呼ばれていた女性の姿が見えた。
彼女は後ろの一団を守るように立ち、他の集団を威風堂々と見据えている。
こうなっては、もう後には引けないのだろう。
引けば、自分達が魔族だと認めてしまう。
この場所を立ち退かなくてはいけない。
引けば負け。
でも、勝利もない。
解決策がないのだ。
俺なら、多分帝国政府の指示に従う。
金を貰って、新たな住居へ行くだろう。
本当に、この世界の人達は強い。
内乱を止めるために、家族を、帝国政府を敵に回したアンリ先生。
家族の思い出と隣人のために、不正貴族と戦ったハルヴィンダちゃん。
家族との暮らしを守るために、耐え忍んだベルンさん。
他にも、皆が何かを背負って生きている。
俺は何を背負っているのだろう。
ヘイムを開いて経営しているのも、考えてみれば成り行きだ。
ただ流されているだけ。
決断も、いつも必要に迫られてからだ。
本当に、何をしているのだろう。
そう自問自答しながら見ていると、動きがあった。
衛兵が到着した。
今までの騒ぎを大きくしないための警備ではない。
鎮圧のためだ。
かなりの人数がいる。
それを見て、野次馬の中からもここを去る人間が出始めた。
乱闘なんかじゃない。
帝国政府の武力介入。
巻き込まれたらたまらない。
次々と離れていく野次馬達。
ベルンさんが、俺達にも帰るよう促す。
戻ろうとして――。
見つけてしまった。
あの時の子供達かは分からない。
けれど、フードの一団の中に子供達がいた。
動けなかった。
そして、衛兵達が動き出す。
それを止めようとする神官達や労働者達。
混乱が始まった。
怒声と悲鳴が上がる。
フードの一団も戦う構えを見せる。
逃げる先がないのだから当然だ。
「ヴァルナ殿、早く退くぞ。巻き込まれたら面倒だ。」
「店に帝国政府の介入を許す、格好の材料になるぞ。」
ベルンさんが警告し、俺の腕を引っ張る。
目の前では、衛兵が止めようとする神官や労働者へ武器を向けている。
その姿が、子供達と重なった。
怖くて震えているのに。
俺の足は動いていた。
フードの一団へ向かって。
「ああ、もう。」
後ろからベルンさんの声が聞こえる。
俺がフードの一団へ近づいた頃には、
止める神官達や労働者の壁を抜けた衛兵達が、
もうフードの一団に迫っていた。
それを迎え撃とうと、先頭の族長がレイピアを抜く。
「傷つけるんじゃない!」
ベルンさんの声が飛ぶ。
「血が流れれば、それを理由にお前たちを拘束するぞ。」
「投獄なり追放なり、好きに理由を作られる!」
それを聞いたのか。
一瞬動きを止めた族長は、舌打ちをして防御の構えを取った。
取り押さえようとする衛兵の攻撃をレイピアで受け流し、
足を掛けて転がしていく。
他のフードの一団もそうだ。
攻撃ではなく防御。
身を守るためだけに動いている。
でも、これじゃ時間稼ぎにもならない。
いずれ大勢の衛兵が来て、捕まってしまう。
子供達が震えて固まっているのが見えた。
俺はそこに駆け寄る。
何をしているんだ、俺。
俺はただのおっさんで、自称料理人だ。
こんな所にいて、何かできる訳じゃない。
なのに。
「族長さん!」
俺は叫んでいた。
「逃げるんだ! ここにいたら、みんな捕まってしまう!」
「そんな事は分かっている!」
族長は衛兵を転がしながら叫び返す。
「で、どこに逃げるんだ!」
「そんな場所はない!」
「子供達を連れて今から帝都を出るなんて無理だ!」
「上手く行っても、城門で捕まる!」
そうだ。
この人数だ。
ざっと見ても数十人いる。
こんな人数で移動して、匿える場所なんてない。
近くでこの人数を受け入れる場所なんて――。
俺の頭に、一つだけ浮かんだ。
「大丈夫!」
俺はもう一度叫ぶ。
「逃げ込む所があるから、ついて来て!」
そう言って、怯えている子供を抱える。
「信じて、ついて来て!」
残った子供達にも、ついて来るよう促した。
そんな俺の行動に、族長や大人達が目を見開く。
「おい、待て。勝手な事をするな!」
族長がこちらへ向かおうとする。
「ええい、やはりこうなったか!」
ベルンさんの声が響く。
「ハルヴィンダ嬢、そこの柱を壊せ!」
「建物が崩れて目くらましになる!」
ベルンさんの指示が飛び、ハルヴィンダちゃんが側の柱へ向かう。
そして、グレートアックスを振り抜いた。
一撃。
柱が吹き飛ぶ。
次の瞬間、建物が崩れ落ちた。
衛兵達が巻き込まれないように慌てて下がる。
舞い上がる埃が、衛兵達の視界を奪った。
そのまま、ハルヴィンダちゃんは子供達へ駆け寄り、数人を抱え上げる。
呆然としていた族長へ、ベルンさんが近づいた。
「ほら、じきに埃が晴れる。」
「今のうちに逃げるぞ。」
そこからの族長の動きは早かった。
すぐにフードの一団をまとめ、俺達の後を追わせる。
大人達は子供達を背負い、この場から一斉に移動し始めた。
街灯のない再開発エリア。
月明かりだけを頼りに、俺達は走る。
後ろからの視線が痛い。
当然だ。
あの場に、見知らぬ第三者が入り込み、場を乱し、
自分達をどこかへ連れて行こうとしているのだ。
怪しさしかない。
だが、今は混乱に乗じてこの場を離れるのが第一だ。
途中で、族長がはぐれた者がいないか確認する。
そうだな。
誰か、特に子供や老人などが取り残されていたら大変だ。
どうやら全員いるらしい。
良かった。
全員から安堵のため息が漏れる。
あとは俺達の正体と行き先か。
「どこへ我々を連れていく。」
族長が俺の横へ並び、低く問いかける。
「この人数だ。月明かりしかないとはいえ、すぐに見つかるぞ。」
「この辺りの建物は全て壊されている。隠れる所などない。」
そうだな。
普通なら、すぐに見つかるだろう。
「大丈夫です。」
ハルヴィンダちゃんが月を見上げて言う。
「きっと、あのお方が見てくださっています。」
「目的地まで、無事に辿り着けます。」
族長もつられるように月を見上げた。
「そうだな。」
その声が少しだけ柔らかくなる。
「あのお方は、我らを見捨てないからな。」
「で、行き先は貴様の店か。」
えっ。
なんで分かるの。
驚く俺に、族長が横目でこちらを見る。
「貴様の事は、あの時のあと調べた。」
「飲食店ヘイムの店主、ヴァルナだろう。」
「我らは情報が命なのでな。関わりができた者の事は常に調べている。」
「子供達が寂しがっていたぞ。」
「あの日以来、来ないとな。」
「俺が脅し過ぎたと、責められた。」
そう言って、族長は少しだけ笑った。
いや、別にあれは怖かったけど。
最初からあの日だけの予定だったし。
そんな言い訳をしながら、俺達は先を急いだ。
でも、どうしよう。
いきなりこんな人数を連れて帰ったら、みんな驚くだろうな。
ねぇ、師匠。
なんて言おう。
先程から何も言わず、頭の上にいる師匠は上機嫌だ。
怒られるの、俺なんですけど。
『何を言っているんですか。』
『ヴァルナさんほど分かりやすい人はいませんよ。』
訳の分からない事を言ってくる。
そして、ヘイムに着いた。
クリスタルの山の周辺は街灯も少なく、
住宅も夜が遅いのか、ほとんど明かりがない。
衛兵に見つからず、無事にヘイムへ入る事ができた。
本当に力を貸してくれたのだろうか。
ダークの称号持ちを夜の闇で匿い、安全な場所へ逃がす。
そう聞いている。
『人の世の事は、人の手で』
って言ったくせに。
そう思い、俺も月を見上げた。
ヘイムに入って、どうみんなに説明しようかと思った。
だが、俺達が中へ入ると、皆が待ち構えていた。
アンナさんを始めとするプリンセスガードの皆さんが、
フードの一団を食堂へ案内する。
そこには、温かい料理が用意されていた。
ハンスさん達が作ってくれていたのだ。
エミリアさんやマルタさんは、フードの一団を見ながら、
すぐに部屋の割り振りを決めていく。
食事を終えた者から、キューブやエマさん達が部屋やお風呂へ案内する。
最初は戸惑っていたフードの一団も、
ヘイムのみんなの勢いに押され、それぞれに従って動いていった。
「まあ、最初からこうなるじゃろうと思っておったがのう。」
二階から、アンリ先生がゆっくりと降りてくる。
「ようやった。」
そう言って、ハルヴィンダちゃんを褒める飲兵衛親方達。
その横で、アンリ先生達貴族組と族長が向き合う。
「知っておると思うが。」
アンリ先生は俺を苦笑いしながら一度見て、それから名乗った。
「我は、アステリア帝国第一皇女。」
「アンリシア・ヴァレリア・ソルヴェイン・エーテリア・アステリアじゃ。」
「言っておくが、帝国政府とは関係ないぞ。」
「これは店主の一存じゃ。」
「我も色々あって、ここで匿ってもらっとる。」
それに対して、族長はゆっくりとフードを脱いだ。
現れたのは――。
「俺は、雪原のフェンに住む一族の族長。」
「ノート・ヴァン・イアールンヴィズ。」
額に刻印を持った、エルフだった。
師匠のニューワールド講座 67
~再開発とスラム編~
師匠。
『なんです。』
やっぱり、
古い建物や壊れた建物がある場所って、
犯罪の温床になるんですか。
『そうですねぇ。』
『人が住まなくなった場所は』
『人の目も人の手も入らなくなります。』
『特に戦争で瓦礫になった地域などは典型的ですね。』
『戦火を免れた家に住み続ける人もいますが』
『周囲の環境が悪くなると、結局出て行ってしまいます。』
『余程その土地や家に愛着がなければ難しいでしょう。』
なるほど。
『そうなると』
『行き場のない人間や訳ありの者が集まり始めます。』
つまり……
『そういう事です。』
『犯罪は、どんな統治者にとっても頭の痛い問題です。』
『犯罪組織など』
『まともな為政者からすれば許容できる存在ではありません。』
『よく』
『"毒をもって毒を制す"』
『などと言いますが。』
『上手くいっても一時的です。』
『いずれ腐敗し』
『犯罪はさらに広がります。』
怖いなぁ。
『だから帝国政府は』
『犯罪組織を見つければ徹底的に叩き潰します。』
『容赦はありません。』
『匿った者。』
『資金を流した者。』
『加担した貴族。』
『全員まとめて処分対象です。』
厳しい。
『それでも無くなりません。』
『潰しても潰しても』
『次の組織が生えてきますからね。』
雑草みたいだ。
『本当にそうですよ。』
『ですから帝国は』
『スラムそのものを作らせません。』
えっ。
『出来そうになれば再開発します。』
『住民には住居を与え。』
『仕事を与え。』
『税を納めてもらう。』
『その方が国家として利益になりますからね。』
なるほど。
『今回の再開発地区も』
『まだスラムと呼ぶほどではありませんでした。』
『だから後回しになっていたのです。』
『ですが近年』
『犯罪の芽が目立ち始めた。』
『ようやく本格的な再開発に乗り出したという訳ですね。』
そういう理由だったんだ。
『衛兵や騎士団の巡回にも限界があります。』
『ならば犯罪が生まれにくい街を作った方が早い。』
『それが帝国の考え方です。』
つまり……
『街づくりも治安維持。』
『立派な安全保障なのですよ。』
なるほど。
色々考えているんですね。
『ヴァルナさん位ですよ、何も考えてないのは』
ぎゃふん。
作者メモ
※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。
※本編とは時空が違います。
※本編の都合により、設定が変わる事があります。




