表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
68/77

68 悪役令嬢どころではありませんわ

皆さま、ごきげんよう。

カスパール侯爵家令嬢、リスティーナ・シャルルーズ・カスパールですわ。


えっ、なんですの春香様。

そこは高笑いをするか、見下した挨拶をしないと悪役令嬢ではない、ですって?

嫌ですわ。

私に悪役令嬢を押し付けないでくださいまし。

そんな役、嫌ですわ。


えっ、アレク殿下の第一婚約者候補でしょうって。

もちろんですわ。


取巻きが沢山いる、ですって?

当然、カスパール侯爵家に相応しい人数と質ですわ。


見えない所で勝手に名前を使われていそう、ですって。

そんな馬鹿な人いませんわ。

……多分。


第一、春香様。

貴方の方が金髪ドリルで高笑い。

悪役令嬢ですわ。


自分には《メタ・メタモルフォーゼ》で

人魚になれるという特徴もあるからもういらない。


私は、将来美人になることは間違いないけれど、

侯爵家令嬢以外に特徴がないから。

だから悪役令嬢というステータスを私に譲ってくれると。


自分は私みたいな取巻きもいないし、庶民の皆様とも仲が良い。


前作の悪役令嬢役だったブルボン公爵家令嬢ローズ様は、

金髪ドリルではありませんでしたし、高笑いもしませんでしたわ。

でも第一候補で、取巻きもいて、勝手に名前を使われていた。


ええい、すぐに調べさせますわ。

私の知らない所で勝手に悪さをされて名前を使われるなんて、許せませんもの。



それに周りの皆様も、もう一度身元を洗わなければなりませんわ。

お父様もおっしゃっていました。


状況が変わった、と。


元々、我が家は中央とは距離を取っていました。

次期皇帝は第一皇子殿下でしたし。

第二皇子殿下とは年も離れていて、まあ貴族の結婚ですから、

年の離れた結婚も珍しくはありません。

ですが、既に第二皇子殿下には婚約者がおりましたし、


側室候補の方も何人も囲っておられました。


今更そんな中に入っても、大した扱いはされず、金づるとして使われるだけ。


そう判断した我が家は中央から距離を取りました。


絶対帝政へ突き進む帝国政府に関わるよりも、

西の海の玄関口として万全な政治と商売を行い、確固たる立場を築くこと。

強力な帝国政府に対し、ある程度の影響力を持ち、

簡単には潰されない地位を築くこと。

それが最優先事項でした。

お父様も一族も、そのために動いていましたわ。



第一皇子が失脚し、継承者争いが起きた時も、その考えは変わりませんでした。

争っている間に力をつける。


元々、帝国西部は独立独歩の気風が強い地域です。

これは超帝国時代、大陸の西の端で中央から遠く、

港以外に大きな街も無かったこと。

逆に新大陸からの移住者が多く、様々な人々が住み着いたこと。

さらに二百年戦争で魔族が暗躍し、小国が乱立したことが原因だと習いましたわ。


我がカスパール家は港を守り抜き、

当時のアステリア辺境伯とミョルニル王国の連合軍と共に挟撃を行い、

勝利に貢献したことで侯爵家となりました。

その後は協力的だった商人貴族達と連携し、帝国西部のまとめ役として発展。

新大陸との交易で財を成し、今に至っています。


ですが、その時に乗り遅れた家や最後まで抵抗した家が、

皇位継承争いに参加し、家の復興や拡大を狙っているそうです。

表向きは西部の取りまとめ役である我が家に従っていますが、

内心は分かりません。

中立を保つ我が家を、自陣営へ取り込もうとあの手この手を使ってきています。

毎日のように気を付けるよう言われていますわ。


そんな中、現れたのが――


アレキサンドリア・スリジ・ソルヴェイン・アステリア様。

アステリア帝国第三皇子、アレク殿下ですわ。


顔よし。

身分よし。

性格よし。

ですわ。

年も同じ。


しかも皇位継承争いには参加していないはず。

ならば帝国政府のいざこざに巻き込まれませんわね。


では、いいですわよね。


近い年齢で私以外に釣り合う方はいませんわ。


「さすがリスティーナ様。悪役令嬢にぴったりな性格でござる」


松平様、お黙りになって。


なのに、なんでBクラスなのですの。

普通はAクラスでしょうに。

案の定、お会いしに行くと春香様が邪魔をしてきて。

クラスメイトの学校生活があるから来るな。

クラスメイトの邪魔になるから来るな。

そんな正論を言われたら引き下がるしかないじゃありませんか。


「おお、常識のある悪役令嬢は、ざまぁする側でござるな」


だから悪役令嬢は春香様ですって。


まあ、春香様も公爵令嬢。

貴族同士の交流の重要性は理解しておられます。

歓迎会の話が出た時は助かりましたわ。


私のクラスから無言の圧力がありましたもの。

クラス代表としてアレク殿下をAクラスへ移せと要求しろ。

春香様を黙らせろ。

それこそ悪役令嬢ですわ。



そして歓迎会当日。


なんでお父様がいるのでしょう。

歓迎会の話をした時、お父様は珍しくいい顔をしませんでした。


アレク殿下は諦めろ。

それどころか、「西の領地へ戻るぞ」と。


理由を聞いても教えてくださいませんでした。

侍女や執事に聞いても同じ。

皆、難しい顔をするばかり。

本当はその日のうちに領地へ戻る予定だったそうです。


「まあ、帝都最後の思い出になるかもしれん。楽しんできなさい」


そう言われました。

不吉でしたわ。

領地へ戻ったら説明してやる、と。

なのに、歓迎会会場に着いたら普通にいるのです。

問い詰めたかったですが、もう歓迎会という名の戦いは始まっています。


負けませんわよ、春香様。

Bクラスの皆様。


結果ですか?


圧勝でしたわ。


皆様かなり特訓したようですが、所詮は付け焼き刃。

頼みの春香様も主催側で手一杯。

Bクラス全員のフォローまでは回っていませんでした。


お父様。

私達の勝利は最初から分かっていたことでしょう。

そんな勝ち誇った顔で前西園寺公爵様と張り合わないでくださいまし。


恥ずかしいですわ。


でも――

これでアレク殿下のお隣は私のものですわ。

今はまだ可愛らしいお顔ですが、このまま成長すれば美男子間違いなしですもの。


「良いでござるなあ。拙者はモブ顔でござる」

「美男子に生まれたかったでござる」

「佐々木氏はエミリア殿に目を付けられているでござる」


きっと松平様のお顔が好きな方もいますわ。

それまで我慢ですわ。



まあ、その後が大変でしたけれど。

皆様ご存じの通りですわ。

まさか、ご尊顔を拝することができるなんて。

しかも名前を呼んでいただけるなんて。

このリスティーナ。


我が人生に一片の悔いなしですわ。


いえ、まあ。

アレク殿下のお嫁さんになることとか。

ポエール・ルメエ・バリの新作を食べることとか。

まだやりたい事は沢山ありますけれど。


ああ、《天秤の女神》様。

お許しください。

このお方に褒めていただきたいのです。

まるでもう一人のお母様のような、あのお姉様に。



そして急遽、デビュタントが決まりました。

普通は高等部入学時に帝宮で行われますのよ。

ですが今年の収穫祭で、アレク殿下と春香様と私の三人で。

通りすがりのお節介焼きのお姉様のご指名ですもの。


仕方ありませんわね。


お父様。

アレク殿下を諦めろとは言わなくなりましたわね。

……というか、何故そちら側にいるのですの。

通りすがりのお節介焼きのお姉様に媚びを売って。


《天秤の女神》様に叱られますわよ。



はあ。

この後が本当に大変でした。

お父様がどこかの貴族や商人に会う度に

私が言った


「あの、またお会いできますか」


たったそれだけ。

本当にそれだけでしたのに。

何の打算もなく、ただお会いしたいと思っただけでしたのに。


その一言のお陰で、

お節介焼きのお姉様がちょくちょくご降臨されるようになった。


そんな事を言ふらさなくても。

あの一言が無くても、きっと来てくださっていましたわ。


私達子供のために。



難しい話ならともかく、汚い政治の話はよそでやってくださいまし。


その後どうなったのです。

歓迎会の後、そのまま領地へ戻るのではなかったのですか。

家の倉庫だけでは満足せず、領地から茶器や茶葉まで取り寄せて。


確かに、お姉様にお使いいただく物ですから

確かな品でなければなりませんけれど。

隠しもせず必死に集めるから、色々な人が吹っ掛けてくるのですわ。


「何を言う」

「これほど名誉な事があるか」

「この程度の出費など安いものよ」

「それに女神様がお使いになる物を我が家が用意するという話が広まり、

 これほどの宣伝になるか」

「喜ばしい事だ」


そう言って、品を仕入れる度にヘイムへ押しかけて店主さんへ

自慢するのはどうかと思いますわ。

あれ、絶対に解かっていませんわね。


「分かってないでござるよ」

「料理人に焼き物の説明されても分かるかって言ってたでござる」


でしょう。

なんとなく、そんな顔をしていますもの。

芸術に疎そうな顔を。


「でも使うと分かるって」

「茶器も茶葉も、淹れてみると良い物だって分かるらしいでござる」


確かに、実際に使って褒められた品はアンリシア様も

マチルダ様も高く評価していましたわ。

見た目では分からなくても、あの味の紅茶を淹れる事ができるのですから、

使えば分かるのですね。



でも驚きましたわ。


歓迎会の後に聞いた話では、

帝国政府は我が家を潰すため軍事行動を起こす寸前だったとか。


第一皇子の件で後継者がいなくなり、

継承者争いが起きているとは聞いていました。

ですが、その混乱を収めるために北のブルボン公爵家を始め、

西の我が家を潰し、

その勢いのまま南の西園寺家まで支配下に置こうとしていたなんて。


お父様も、自分が帝室ならそうするとおっしゃっていました。


帝室を中心とした絶対帝政を完成させるため。

本来は第一皇子とローズ様の婚約などを利用して、

ゆっくりと地盤を固めていく予定だったそうです。


我が家も少しずつ協力し、確かな立場を得る予定でした。

しかし第二皇子と第二皇女が思っていた以上に愚かで、


後ろ盾の操り人形になってしまった。


泥沼の内戦になりかねない。

さらに東方国境も不穏。

工作員や魔族も暗躍している。

それを止めるには北・西・南の大貴族を潰して直轄領にするしかない。

そう判断したそうです。


もちろん、分かっていても簡単に滅ぼされるわけにはいきません。


建国以来、一度も逆らった事のない建国の功臣の家を飲み込まれるなど許せない。

そうして最初の標的だったブルボン公爵家と手を結んでいたそうです。



そして――

その全てをひっくり返したのがアンリシア様でした。

お節介焼きのお姉様のお力を借りたとはいえ、

全てを投げ打って策を巡らせてくださった。


お陰で一応は止まりました。


北のブルボン公爵家。

西のカスパール侯爵家。

南の西園寺公爵家。

そして東のミョルニル公爵家。

これらがアレク殿下の後ろ盾となる。

それが収穫祭。



ですが終わりではありません。


東方国境は騎士団と東部貴族が支えてくれます。


その間に本格的な皇位継承争いが始まる。


短期決戦です。


そのために各派閥は既に動いています。


帝国政府中枢はアレク殿下の味方ではあっても、私達の味方ではない。

お父様はそう言いました。


信頼している西部貴族ですら、明日には敵になっているかもしれない。


私も誘拐や暗殺の対象になる。

婚約者候補の座を狙い、私を陥れようとする者も出てくる。


だから――


悪役令嬢ごっこなんてしている場合ではないのですわ。


「リスティーナ様、その年でそこまで考えているのは凄いでござる」


当然ですわ。

だから松平様。

もっと悪役令嬢物の情報をよこすのですわ。

その漫画の続きも早く描くのですわ。

締切は近いですわよ。



えっ、春香様。

その年で納得している方がおかしいですって?

私も春香様と同じ転生者ではないか、ですって?

体は子供、魂は大人でも納得できないですって?


春香様。

そんな事ではアレク殿下の第二夫人になれませんわよ。

帝室の血を迎え、帝室と親族にならなければ家を守れませんもの。


えっ。

中身は大人だから子供はちょっと、ですって?

知っていますわよ。

アレク殿下を見ながら、


「生足が……」


とか、


「ショタっ子……」


とか言って涎を垂らしているの。

しかも、


「これでご飯三杯いける」


とか言っているの。

……ところで春香様。


どうして、ご飯なのです?


師匠のニューワールド講座 64

~諜報戦編~


師匠。

『なんです。』


本編で、

帝国政府の動きを貴族達も知っていましたよね。

やっぱりスパイ合戦とかあるんですか?

『ありますよ。』

『人である以上』

『情報は必ず漏れます。』

『どれだけ隠そうとしてもです。』

そんなものですか。

『そんなものです。』

『だから様々な魔術や魔道具が発明されました。』

『盗み聞きを防ぐ魔術。』

『覗き見を防ぐ魔道具。』

『記録を残さない仕組み。』

『色々あります。』

おお。

『ですが。』

『それを破る魔術や魔道具も発明されます。』

あっ。

『そしてまた対策が作られます。』

『典型的なイタチごっこですね。』

なるほど。

『ですので』

『最終的には昔ながらの人力に行き着きます。』

『人による諜報戦です。』

結局そこなんだ。

『結局そこです。』


『それに』

『戦争は終わりましたが』

『長命種族もいます。』

『中には二百年戦争を昨日の出来事のように語る者もいます。』

『本人達にとっては本当に昨日みたいなものですからね。』

怖いなぁ。

『平和になれば』

『露骨な武力行使は難しくなります。』

『その代わりに重要になるのが情報です。』

『誰よりも早く知る。』

『誰よりも早く動く。』

『誰よりも有利な立場を取る。』

『そういう時代ですね。』


『それに前にも言いましたが』

『帝国は落ち着いているようで落ち着いていません。』

『表面上は平和。』

『中身は火薬庫です。』

うわぁ。

『ですから』

『本当に馬鹿な貴族は生き残れません。』

『いても滅ぼされるか。』

『上位貴族に上手く利用されるかです。』

『だから皆必死ですよ。』

『情報網を張り巡らせ。』

『子供達を教育し。』

『余計な失言を防ぎ。』

『隙を作らないようにする。』

『それが当たり前です。』


そう考えると、

カスパール侯爵家令嬢って凄いんですね。

『驚かれていますが』

『この世界では割と普通です。』

『あの立場の子供なら当然求められる水準ですね。』

大変だなぁ。

『本当に大変ですよ。』


『そういう意味では』

『帝室は子育てに失敗したと言われても仕方ありません。』

あっ。

『第一皇子は転生者に利用されました。』

『ですが』

『利用されるだけの素地があったのでしょう。』

『そうでなければ』

『あそこまでの醜態は晒しません。』

厳しいなぁ。

『偉大な祖父。』

『偉大な父母。』

『そして帝国を築いた人々の苦労。』

『それらを理解できなかったのでしょう。』

『第二皇子。』

『第二皇女。』

『こちらも色々と問題があります。』

『まあ、その辺は皆さんご存じでしょう。』

師匠、遠回しだな。

『大人の事情です。』

『ですので』

『本当に奇跡なのですよ。』

『アンリがまともに育ったのは。』

確かに。

『もちろん』

『アンリにも色々あります。』

『完璧ではありません。』

『ですが少なくとも』

『帝国を背負う覚悟は持っています。』


『だからこそ』

『最後の一子。』

『プリンツ・アレクにかかる期待は大きいのです。』

アレク殿下か。

『ええ。』

『ですが問題はこれからです。』

『今度の収穫祭。』

『そこでどこまで後継者としての資質を示せるか。』

『どれだけ貴族達に認められるか。』

『どれだけ民衆に顔を覚えてもらえるか。』

『それが問われます。』

『そして当然』

『残る二人の皇族も黙ってはいないでしょう。』

うわぁ。

『うわぁ、ですね。』




※平和な時代ほど情報は価値を持ちます。

※魔術と魔道具が発達しても最後は人力です。

※貴族の子供達は幼い頃から諜報戦の世界で育ちます。

※帝国は平和に見えて綱渡り状態です。

※アンリは奇跡枠です。

※アレクはこれからが本番です。

※師匠はだいたい全部知っていますが、面白そうなので見守っています。




作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ