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60 それぞれの覚悟

「我は――戦争を止めてみせる」


そうじゃ。

止めてみせる。


相変わらず勘違いしとる店主を見ながら、

我は急速に計画を練り上げていく。


店主よ、そなたはそのまま勘違いしとれ。

その政争とは無縁の顔は、我の癒しじゃ。

これから色々と動くが、勘弁じゃ。


そなたが気付かんように、見事になしてみせるわ。

店主が明日出すお菓子を考えながら、パティシエキッチンに消える。


残されたのは、楽しそうにお菓子を頬張る子供達と、

我の発言が気になって仕方ない大人達。


我は笑う。

こ奴らにも従ってもらう。

共に奇跡を目の当たりにした仲じゃ。


逃がしはせんぞ。


我は子供達の世話をする侍女達を残し、大人達を集める。



ミレディ。

アルマ様。

リオニー様。

爺や。

セバス。

アンナ。

ハンス。

シュヴァルベを始めとした帝国学園の教師達。

ドンナー、モーントリヒト達料理人。


帝国の息が掛かっている者達。


スミズル親方。

トレース親方。

ムラマサ親方。

ブラス殿。

エルミナ。

グラウハイム卿。

マルタ殿。

ハルヴィンダ。

そして、西園寺家令嬢、春香嬢。

少し離れた後ろには、天宮や鈴木達六人。

さらに、配管工ブラザーズと店主に呼ばれておる商業ギルドの職員もおる。


先程の我の発言が気になったのじゃろう。


良い。

聞いていけ。

そなた達にも関係ある話じゃ。



子供達に聞かれぬよう、我らはテラスの隅へ寄った。

部屋の中では、子供達が楽しそうに菓子を食っておる。

笑い声が、扉越しに小さく聞こえてくる。


あれを守らなくては。


皆が、我が何を言うのか固唾を呑んで見ておる。

我は一つ深呼吸をした。


「皆、聞いておるじゃろう」


ざわつきが小さく止まる。


「最近、世間で流れておる噂じゃ。内乱が起きるかもしれんと」


めいめいが色んな顔をする。

帝国の息が掛かった者は顔をしかめ、

爺やなどは我を止めようと一歩踏み出した。


「姫様」


他の者も、知っておる者はやはりかという顔をし、

知らぬ者は目を見開いて驚いておる。


「事実じゃ」


我の言葉に、空気が一段重くなる。


「早ければ年内。遅くても来春には起こるじゃろう」


そこで一度言葉を切る。

皆の視線が、さらに鋭く我に集まった。


「いや、起こす」


アルマ様もリオニー様も、言ってしまったかとため息をつく。

爺やも苦い顔で首を横に振った。


「のう、皆。これは決定事項じゃ。今更覆らん」


我は皆の顔を見回した。

誰も言葉を挟まん。


「じゃが、我は戦を、内乱を止めたい」


そう言って、我は膝をついた。


「どうか、力を貸してくれんか」


そのまま、深く頭を下げる。


「そなたらの力が必要じゃ」


皆がざわつく。


皇族が。

第一皇女が。

頭だけでなく、膝まで折ったのだ。


当然の反応じゃろう。


「当然、帝国政府の決定に逆らう事になる」


我は頭を下げたまま続けた。


「反逆罪に問われるかもしれん」

「加担したくない者は、今すぐこの場を出て、

 帝国政府に報告してもらって構わん」

「恨みはせん。それが帝国民として当然じゃ」


誰も何も言わん。

静かな沈黙の中、部屋の中から子供達の楽しげな声だけが聞こえてくる。

その声が、我の胸に突き刺さる。


「のう、アンリよ」


沈黙を破ったのは、スミズル親方じゃった。


「それはあれか。マリーに……いや、あの皇后陛下に一泡吹かせる事かのう」


我が顔を上げるより早く、スミズル親方が近づいてくる。


「ほら、顔を上げんかい。立たんかい」


そして、いつもの豪快な声で言う。


「今聞いておるのはスミズルではなく、

 そちが店主と共に赤毛親方と呼んどるワシじゃ」

「そうじゃ。ワシも聞きたいぞ。飲兵衛エイトじゃったか」


今度はトレース親方、いや茶毛親方が、我の手を取って立ち上がらせる。


「飲兵衛仲間の悪ふざけじゃ。そこん所、聞きたいのう」


二人はまるで、重大な反逆の相談ではなく、

酒場の悪巧みでも聞くような顔をしておった。


「で、どうなんじゃ。皇后陛下に何をするんじゃ。手伝うぞ」


どうして、この二人はいつもそうなんじゃろう。

昔からそうだ。

アンリシアではなく、アンリの味方だ。


「姫様!」


アンナが一歩前へ出た。

その目には涙が浮かんでおる。


「私だけでなく、プリンセスガードの忠誠は姫様のものです!」


泣くでない。

泣きたいのは我じゃ。


「姫様、俺はただの料理人っす」


今度はハンスが、少し照れたように頭をかきながら前に出た。


「きっかけは料理長ですけど、

 こんな面白くてやりがいのある場所に連れて来てくれた姫様に

 感謝してるっす。ついていくっす」


ありがとう、ハンス。


「私は、しがないバーテンダーですので」


セバスが、いつもの涼しい顔で口を開く。


「戦になれば客足も遠のき、また無職になるのは困りますので」


そんなに長台詞を喋れたのか。

そんなに怒るな、セバス。

自然と笑みがこぼれる。


「はあ、姫様」


爺やが厳しい目で我を見る。


「私は、あなたの教育係である前に帝国の目ですぞ」


その言葉に、我は身構えた。

しかし爺やは、少しだけ目元を緩める。


「しかし、あなた様の親代わりの一人でもあります」

「昔から、お忙しい陛下達に代わり、どれだけ泣かされたことか」

「今更ですな」


そう言って、肩をすくめた。

だから泣かすでない。


「姫様、俺は元騎士で……ご存じの通り、色々あって店主に拾われて、その……」


言いたい事がまとまらんのか、グラウハイム卿が口ごもる。

すると、隣に立つマルタ殿が、すかさず肘でつついた。


「姫様。夫が言いたいのは、任せろ、との事です」

「そ、そうです」


グラウハイム卿は慌てて背筋を伸ばす。


「ヘイムにいて、同じ苦労をしてきた、

 店主に振り回されている仲間です。家族です」

「その願いを、ましてや内乱を止めるなど。邪魔するどころか」


そこで彼は、騎士だった頃の癖なのか、我の前に膝をついた。


「このベルンハルト・グラウハイム。一命をかけて成し遂げる所存でございます」


一命をかけるでない。

そなたには奥方も、可愛い娘もおるではないか。


「はい、姫様」


ハルヴィンダが胸に手を当てる。


「狼族は仲間を見捨てません」


ハルヴィンダ。

そなたら姉妹も、我が守りたい者の一つじゃぞ。


「どうしましょう、アルマ。なんか面白そうよ」


リオニー様が、目を輝かせてアルマ様に話しかける。


「わくわくしてきたわ」


良いのか。

父親を、家を、裏切る事になるかもしれんぞ。


「そうね、リオニー」


アルマ様は、扇で口元を隠しながら微笑んだ。


「ここにいるのは、ただのアルマ・フォン・トールだもの」

「そうそう。私もリオニー・フォン・ハーケンだしね」


私はもう一度、お二人に頭を下げた。


「んんもう、どうしていつもいつも、いきなりなのよ」


エルミナが頭を抱える。


「クラスのイベントも、学園祭の時も、

 いつもいきなりで。どうして前もって教えてくれないの」


そう言うな、エルミナ。

いきなりの方がインパクトがあって面白いだろう。

おかげで、イベントも学園祭も上手くいったではないか。


「尻拭いするのも、一緒にいたずらするのも、準備がいるのよ」


エルミナはため息をつき、それから我の背後へ視線を向けた。


「ねっ、ミレディちゃん」


我は振り向く事ができなかった。

姉妹同然に育った、我が腹心の中の腹心。

我は彼女を疑い、相談できずにいた。


そして、それに気づいているはずだ。


「やれやれ。本当に小さい頃から面倒ばかり」


背後から、柔らかな声がした。


「困った妹ですねぇ」


そのまま、後ろから優しく抱きしめられる。


良いのか。

我は、そなたを。


「最期の瞬間まで、あなたの側に居ると決めています」


ミレディの声は、少しだけ震えていた。


「たとえ、貴方の長い生の中で、わずかな期間だとしても」


違うぞ。


我は何度も言うが、泣いてはおらん。

皇族は人前では泣いてはいかんのじゃ。

これはそれなんじゃ。


埃じゃ、埃。


見ろ。

エマが気を利かせて、壁をはたいておるではないか。


むっ。


埃のせいかのう。

エマが沢山見えるのだが。

その。

赤。

緑。

青。

増えとらんか。

この感じ、間違いない。

エマと同じ存在じゃが。


なぜ、そなたら目をそらす。


先程、帝国政府に逆らうと決意したのはどこに行った。

家事妖精が増えて頼もしいではないか。


そのエマが増えて……。


貸しが怖いのう。


なんか、空気が白けたのう。


ゴホン。


まあよい。

これから作戦を話す。


「作戦は簡単じゃ」


我は全員を見回し、はっきりと言った。


「明日のお茶会を利用する」


その言葉に、皆が顔を見合わせる。


「案ずるな。子供達を利用したりはせん」

「ただ、保護者席に幾人か保護者が増えるだけじゃ」


皆が首をかしげる。


保護者席。


子供達だけでお茶会が無事に行えるか、

大人達が見学し、何かあれば手助けする所。

本来はない。

だが、デビュタントもしていない子供達が行う

正式なお茶会ではなく、練習の場だからこそ用意された席じゃ。


まだ解らんか。


「ミレディ」

「はい」

「すまんが、すぐに家に戻り、

 帝国の為ではなく、そなたや我の為に戦ってくれる者を集めよ」


ミレディは一瞬だけ目を細め、それから静かに頷く。


「その際、家の者に勘づかれてはいかんぞ」

「これは、時間と情報の勝負じゃ」

「明日のお茶会が始まるまで、できるだけお茶会の中身を隠したい」


続けて、我はセバスへ向き直る。


「セバス。あの子達を今日帰す訳にはいかん」

「今日の事が、あの子達から漏れるかもしれん」

「知られれば、明日の妨害や、入れ替わろうとする者が出るかもしれん」

「帰せば危険じゃ。お茶会が終わるまで、ここで保護する」


セバスは静かに目を伏せ、話を聞いている。


「子供達の親御さんの所に使いを出せ。あの方の事は内緒じゃ」

「明日の本番の為、最後の練習と衣装合わせをするとでも言っておけ」

「それでも心配なら、ミレディが連れてきた者に護衛させて、ここへ案内せよ」

「そして明日のお茶会が終わるまで護衛せよ」


セバスが了承のお辞儀をする。


「爺や。ブルボン公爵家に先触れを出せ」

「まだ帝都におるはずじゃ。我が赴いて、ここに連れて来る」

「明日のお茶会に参加してもらうからな」


ここまで言って、アルマ様やリオニー様が、我が何をしたいか理解したようだ。


お二方は大きく目を開き、そして頷いた。

我は西園寺家令嬢の前に行き、目線を合わせる。


「のう、西園寺家令嬢。

 このような事に巻き込んで申し訳ないが、ちと頼まれてくれんか」


西園寺家令嬢は、我の目をまっすぐ見返してくる。


「その、内乱が起こるとは本当ですか。東方の国境ではなく」

「そうじゃ。まず北と西で。そして最悪、南でも起こる。

 その混乱に乗じて、東方の国境でも起こるじゃろうな」


十才とは思えん目じゃ。

その奥には、大人の知性が見える。

転生者とは、このような目をするのじゃな。


「解りました。内乱を止めるという言葉を信じます」


春香嬢は小さく息を吸い、しっかりと頷いた。


「何をすればいいのでしょうか」

「してもらいたい事は二つ」

「一つ目は、手紙を書いてもらいたい」

「今、帝都におるのは前西園寺公爵じゃな」

「はい。両親は領地です。帝都にはおじい様が」

「前西園寺公爵に、何も言わず、ここにすぐ来てもらいたい」

「明日では遅いのじゃ。今すぐ来てもらって、明日のお茶会に参加して欲しい」

「当然、今日の事は内緒じゃ。頼めるか」

「お手紙ですか。私が直接言った方が」

「じゃろうな。じゃが、そなたもここから出す訳にはいかん」

「何が起こるか解らん。相手は帝国政府だけではない」

「邪神やトリックスターが何をするか解らん。奴らは戦乱を望んでおる」


我は春香嬢の目を見たまま、声を落とす。


「内乱を止める為に動いていると判れば、どんな妨害をしてくるか解らん」

「そなたの身に何かあれば、それこそ内乱じゃ」

「ここは大丈夫じゃ。あのお方の加護に守られておるからのう」

「それに、二つ目じゃが。子供達をなだめて欲しい」

「家に帰れんとなると、不安がるじゃろう」

「ちょっとしたお泊まり会と思わせてくれ」


我の話に、春香嬢は少し考え込み、やがて頷いた。

話が早くて助かる。


「ブラス殿。そういう事じゃ」


我が声をかけると、ブラス殿はすぐに姿勢を正した。


「邪神やトリックスターの妨害があるかもしれん。頼めるか」

「はい、すぐにでも」

「すぐに戻り、神官戦士を連れてきましょう」

「さすがに、そんなに沢山は無理ですが」

「助かる。じゃが」


我が言いかけると、ブラス殿はいつもの胡散臭い笑顔を浮かべた。


「ええ、心得ております。ご降臨の事は、明日のサプライズという事で」

「助かる」


そのいつもの胡散臭い笑顔が、今日は妙に逞しく見えた。


「グラウハイム卿」

「はっ」


彼は我の前に膝をつく。


「よせ。これは命令ではない。仲間としてのお願いじゃ」


そう言うたが、彼は立とうとせん。

まあ、長年騎士として仕えてくれたのじゃ。

癖が抜けんか。


「ハルヴィンダや親方達と一緒に、いつも通りでよい」

「ただし、客に間違いなく、隠密の類が紛れ込んでこよう」

「店を閉めればよいが、

 それは間違いなく何かあると言っているようなものじゃしな」

「それに、お茶会が始まればこちらのものじゃ」


我は少しだけ笑う。


「逆に、情報をばらまいてもらわんと困るからの」

「そなたを中心に、その辺りを頼む」

「ご命令、確かに承りました」


だから、ここは騎士団ではないというのに。

ほれ、ハルヴィンダまでそなたの真似をしているではないか。


「アンナ。そなたもじゃ」

「帝宮に増援は呼べん。呼べば皇帝陛下達に気づかれてしまう」

「あくまでも平常運転じゃ」

「かしこまりました」


こちらも見事な了承の礼をとる。

じゃから平常運転と言うとろうに。


「アルマ様、リオニー様」


お二方を見ると、


「私達は何をすればいいの」


と、まるでプレゼント箱を開ける子供の様に、目を輝かせておる。


「いや、その、お二方には明日のお茶会が上手くいく様に最終調整を」

「えー、それだけ?」


リオニー様が口を尖らせる。


「これ、リオニー。駄々をこねるんじゃありません」


アルマ様がたしなめる。


「お茶会が成功しないと意味がないのよ」


助かります、アルマ様。

しかし、何をお二人でこそこそ密談しているのです。

今回は時間と情報漏洩を防ぐのが勝負なんですよ。


「大丈夫よ、アンリちゃん。足は引っ張らないわ」

「お姉さん達に任せておきなさい」

「明日は立派なお茶会にしてみせるわ。ねっ、リオニー」

「そうよ、任せておきなさい」


なんか嫌な予感がするが、問い詰める時間も惜しい。


信じますぞ、お二方。


「エミリア。そなたは我と共に、ブルボン公爵の所じゃ」

「ミレディは、ここの護衛で連れていけんからのう」

「我一人で行くのは無礼じゃし」

「解ったわ、アンリちゃん」


慣れておるのか、あっさりで助かる。


「他の者は状況に応じて指示を出す」

「何度も言うが、これは時間と情報の勝負じゃ」

「皆、頼むぞ」


その声と共に皆が動き出す。


配管工ブラザーズなぞ、何も言っておらんのに、

その任せておけと言わんばかりのポーズは何じゃ。

帝国政府に逆らうのじゃぞ。


一方で、教師達や料理人達の中には不安そうな顔をしている者もおる。


無理もない。

これから我らがやろうとしている事は、下手をすれば反逆じゃ。

じゃが、それでも誰一人、この場を去ろうとはせなんだ。

ここにおるという事は、賛成と受け取ってよいのかのう。


今から帝国政府へ告げても構わんのじゃぞ。

我は逃げも隠れもせん。

何かあれば、全て我のせいにすればよい。

第一皇女に命令されたとな。


そう伝えようとした時じゃった。


「内乱を止める為っすよ」


ハンスがそう言った。


「嫌じゃないっすか。戦争なんて」


その言葉に、不安そうな顔をしていた者達も顔を見合わせる。

やがて、


「そうだな」

「戦争なんて碌なもんじゃない」


誰かがそう呟く。

覚悟を決めたのか、それぞれが頷き、自分の仕事へ戻っていった。


「それに、明日もあのお方にお会いしたいしな」


そんな声まで聞こえてくる。

まったく。

動機が不純なのか純粋なのか解らんのう。


その中で、天宮や鈴木達がこちらを不安そうに見てきた。


そうじゃな。

こ奴らも不安にさせてしもうたな。

我は、いつもの教授の顔で近づく。


「アンリ先生、内乱って。それってもしかして」


相変わらず聡いのう、鈴木は。

普段からそうしておればよいのに。


「案ずるな。そなたらを戦場には行かせん」

「必ず守ってみせる」


明日のお茶会次第ではどうなるか解らん。

それでも、安心させる為にそう語る。

我の言葉と顔から何かを察したのか、鈴木達は静かに頷いた。


いかんのう。

こ奴らに察せられるとは。

まだまだ、我も未熟よのう。


「そなたらも、今日は寮に帰す訳にはいかん」

「明日まで、ここで待機じゃ。帝国学園には使いを出す」

「本当でござるか。では早速、作業を続けるでござる」


松平が一瞬で元気を取り戻す。


「締切が近くて、大変困っていたでござる」

「佐々木氏、行くでござる」


そう言って、松平と佐々木が“ヘイム漫画研究部”じゃったか、

その部室とやらに向かう。


「じゃ、私もパティシエキッチンに行くね」


冨樫は、ぱっと表情を切り替えた。


「明日のお菓子を作らないと。店長さん一人で困ってそうだもの」


そう言って、パティシエキッチンに向かう。


「先生、とびっきりの奴作るからね。期待してて」


おう、期待しとるぞ。


「私は、エマお姉様達を手伝ってくるね」


天宮はそう言って、エマ達の所に行く。

お前は、あの集団を見て何も思わんのか。


「じゃ、私どうしようかな」


鈴木が一人取り残されたように周囲を見回す。


「俺は、ムラマサ師匠の所で鍛錬してくる」


斎藤は鈴木を置いて走っていく。


「ちょっと。私一人じゃん」

「そなたは、子供達の相手でもしてやれ。それか、冨樫を手伝ってやれ」

「えー、めんどいなぁ」


そう言いながらも、鈴木は子供達の輪に入っていく。

皆、良い子じゃ。


しかし、色々と勝手に決めたが。

店主に何も言ってないのう。

勝手に泊まり客やら、明日の参加者やらを増やしたが。


「心配ないですよ、旦那様の事は」


いきなり現れるな。

相変わらず心臓に悪い。

後ろから現れたエマに振り返る。


「旦那様には適当に、明日の客が増えた、泊まり客もいる、と言えば大丈夫です」


エマは、いつもの涼しい顔で言う。


「ブツブツ言いながらも受け入れてくれますよ」

「詳しく話しても、理解なんかできませんから。それで十分です」

「しかしじゃなぁ。ここの店主であろう」


はぁ、とエマがため息をつく。


なんじゃ。

おかしい事を言っておるか。


「その企みを理解できると思いますか」


エマは呆れたように我を見る。


「一から帝国の情勢を話さないといけないのに、途中で寝ますよ。旦那様」

「それに、時間勝負なんでしょう」


そうじゃな。

時間が惜しい。


「泊まる所や、その他諸々の用意はこちらでしておきます」

「なので、祝杯の用意をお願いしますね」


そう言って、エマは奥に向かう。


やれやれ。

アルマ様に続き、我の秘蔵の酒も出す事になるとは。


そう思いながら、我は社員食堂の女神像の前へ向かう。

ブルボン公爵の所へ先触れが届き、我が向かうまで少し時間がある。


女神像の前に立ち、静かに手を合わせた。


どうか、明日、我がお茶会でする事を許したまえ。

天罰なら、我が受けよう。

だから、どうか明日の企みが上手くいきますように。


そして。


来おった。


そ奴は静かに社員食堂に入って来て、我の後ろに立つ。

正念場その一じゃな。

明日までに、一体いくつ迎えねばならんのか。


意を決して振り向く。


そこには、店主の謎の執事が、不敵な笑顔を浮かべて立っていた。


師匠のニューワールド講座56

~主役交代編~


「師匠」

『なんです』

「最近」

「出番がないっす」

『はい』

「出てもすぐ退場っす」

『はい』

「俺、一応主役っす」

『そうでしたね』

「そうでしたねって!」

「もっと何かあるでしょう!」


『ふっ』

『キッチンはハンス達料理人に』

『パティシエキッチンは冨樫に』

『接客はハルヴィンダに』

『経理はマルタに』

『そして遂に』

『主役の座までアンリに奪われましたか』

『無様ですね』

「そんなぁ……」


「ザメザメ」

『泣くんじゃありません』

『おっさんに需要はないのです』

「酷くない?」

『世の中とは非情なものです』

『需要があるのは』


『ケモ耳幼女』

『美少女』

『美女』

『そしてイケメンです』


「俺は!?」

『おっさんです』

「即答!」

「でも俺がいなくなったら」

「師匠も困るでしょう」

『困りませんよ』

「えっ」

『今度はアンリの頭の上に移住します』

「裏切った!」


『そうですねぇ』

『タイトルは』

『アンリ先生奮戦記』

「やめろ」

『どうでしょう』

『私の完璧な指導のもと』

『アンリが世界を征服する物語です』

「どこへ向かってるの」


『まず』

『ヴァルナさんは徴兵されます』

「おい」

『そして最前線へ』

「待て」

『あるいは後方勤務』

『炊事担当』

『荷物運搬担当』

『食料管理担当』

「なんか妙に現実的だな」

『そして歴史の表舞台から静かに退場します』

「退場させる気満々じゃん!」


『その悲しみを乗り越え』

『アンリが決意するのです』

『先生は世界を変える』

『と』

「絶対言わない」

『いいですねぇ』

『ご飯三杯はいけます』

「行くな!」


『では次回』

『アンリ先生奮戦記』

『悲しき別れと決意』

『こうご期待』


「勝手に新連載始めるな!」

『ヴァルナさん』

「なんだよ」

『あなたの事は』

『もう過去の一ページです』

「まだ現役だわ!」




※主役はヴァルナです。たぶん。

※師匠は面白ければ何でもいいと思っています。

※アンリ先生は何も知りません。

※ハンスは今日も働いています。

※冨樫も働いています。

※ヴァルナだけが危機感を覚えています。




作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


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