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59 進むべき道

御前会議を終えて部屋を出ると、まあ、おるわおるわ。


何が話されたのか、知りたいのじゃろう。


騎士から文官、女官に至るまで、密偵ばかりじゃ。

さすがに忍んでの密偵は即逮捕処分じゃからおらんが、


皆、二重三重の密偵活動とはご苦労な事じゃ。


しかし、こんな中枢まで入り込まれるとは。

やはり、第二皇子と第二皇女の手の者じゃな。


あ奴ら、本当に帝室の一員という自覚があるのか。


自らの寄るべき場所の中枢に密偵を入れるなど、

もし帝位を継いでも情報が筒抜けではないか。


騎士団総長が言う様に、次期皇帝なぞ無理じゃな。


ほんにのう、本人達が間抜けなのか、

取り巻き達の誘導が上手いのか、解らんのう。

まあ、どのみち事が実行されれば、取り巻き共々幽閉じゃろうな。


あの顔をした皇帝陛下達は、身内にも容赦せんぞ。


一度甘い顔をして今の現状じゃからな。

全ての泥を被って、アレクに玉座を渡すつもりじゃろうて。


さて、我は当面は普通どおりじゃな。

我の動きも見張られておろう。


今回の策の最初は、東方への国境警備じゃ。


我の出る幕ではない。

せいぜい、帝国学園での生徒の仕分けかのう。

誰を人質に取り、誰を見せしめにするか。


気に入らん。


何があったか、ミレディにも話せん。

誰にも言えん。

言えば、愚痴って漏らしてしまいそうじゃ。



じゃが、数日もすると、やはり漏れておるのう。

あの会議の参加者ではない。

普通に東方への騎士団派遣の話しかまだ公表されておらんし、動いてもおらん。


となると、やはり邪神やトリックスターじゃろうな。

囁きおったか。


帝国学園内を歩いておると、

すれ違うたびに不安そうにこちらを見てくる生徒がおる。


北や西に領地を持つ子らじゃ。

中には、露骨に休学して領地へ戻る者もおる。


そして、こちらを不安そうに、怯えた目で見る生徒を見て


そこで気づく。


我はヘイムと、そこに住まう者達をどう守るかばかり考えておった。

切り捨てようと思っておったはずなのに。


こ奴らも、我の大事な生徒じゃ。


守ってやらねば。


黙れ、アンリシア。

今の我は、アンリじゃ。


しかし――


人相手ならともかく、神々相手には全てを隠せんからのう。

本当に厄介じゃ。

こちらには情報が入ってこんのに、あちらには流れる。


よくカールおじい様や皇帝陛下は、建国時から戦い、

勝利を収めたものじゃと感心するわい。



しばらくすると、アレクの帝国学園編入の話が発表された。


久々に会った弟じゃ。

普段は離宮にて、カールおじい様に教育されておるからのう。


第一皇子も、第二皇子も、第二皇女も。

あの弟や妹も、昔はアレクの様にまともじゃった。


いつからじゃろうな。

名前も呼ばず、皇子だの皇女だのと呼び出して、争う様になったのは。


そんなに、あの玉座が欲しいかのう。

血まみれで、いつ蹴落とされるか震えながら座る玉座を。


表の煌びやかさだけしか見えておらんのか。


その玉座を保つ為のものが見えておらんのか。


見えていて今の状況だとしたら、余程の阿呆か大物じゃ。

まあ、座っても傀儡か、自らの血で汚すだけじゃろうが。


さて、アレクには特に言う事はない。

まだ幼く、腹芸は無理じゃ。

カールおじい様からまともな教育を受けておるが、腹芸をするには経験が足らん。


取り巻きもおらんしのう。

近い年代で信用できる家がなかったからじゃ。


第一皇子で次期皇帝は決まっておったからのう。

今更、幼い皇族に取り入る家もおらんかった。


それを考えると、編入するクラスの西園寺家令嬢には期待大じゃ。

何度か会うたが、中身が転生者で、まともな考えを持った大人じゃ。


上手くいけば、良き相談相手になるじゃろう。


アレクには、帝宮の外では第一皇女ではなく、

教師として接する様に言い聞かせた。

帝国学園ではともかく、

いずれ来るであろうヘイムで呼ばれたらかなわんからな。



そして、何日かしてヘイムに行けば、久々に親方達と会った。


「お主、大丈夫か。寝とるのか」


第一声がこれだった。


親方達にも、もう話が行っているのか。

これは来春とか言っておれんのではないか。


年内に内乱が起こるのではないか。


話が広がるのが早すぎる。

北や西の諸侯が領地に帰るのを、もっと監視せねばならん。

噂を真実と捉えて、行動を起こしかねんぞ。


我は曖昧に返事をして、親方達と二階へ上がる。

皆、集まっているようじゃからな。


皆の顔を見て、安らぎが欲しいと思っておったのに。


何も知らんリナ嬢やソレイア嬢。

そして、此度の一件に巻き込んでしもうた西園寺家令嬢に、

辛く当たってしもうた。


我は何をやっている。

こ奴らを守りたかったのではないか。

だから、裏で一人動いていたのではないか。

本末転倒じゃ。


気付けば我は、許してくれと子供達を抱きしめておった。

じゃが、逆に心配されてしもうた。

そんなに表に出とるか。

子供達にまで心配される程に。


そうじゃな。

今の段階では、我ができる事などたかが知れておる。

帝国学園の生徒達をいかに守るか。

その段取りをつける計画を立てるだけしかできん。


実行すれば、噂を肯定してしまう。


皇帝陛下や皇后陛下に知られれば、やめさせられるじゃろう。


なんの為の人質かと。


事情を知っているアルマ様も、リオニー様も気遣ってくれる。

じゃが、信用できん。

お二人共、宰相と筆頭魔術師長の身内。

ミレディも騎士団総長の娘。


いかんのう。

最も頼るべきミレディすら疑うとは。


もう解らんのじゃ。

誰が味方で、誰が敵なのか。


我のしようとしている事は、帝室すら欺く事。


どうすれば良い。

やはりアンリシアとして、帝室の忠実な駒として動くべきか。

アンリとして、少しでも被害を少なくする事はできんのか。


答えは出ない。


そうじゃな。

少なくとも、今目の前におる子供達は関係ない。

純粋に、アレクの事を歓迎したいと言ってくれておる。


なんじゃ、Aクラスの生徒達との問題か。

そうじゃのう。

アレクには側近候補も婚約者候補もおらん。

上手くいけば、男も女も、側近候補か婚約者候補になれるかもしれん。

十才やそこらで大変じゃのう。


そのうち上級生や下級生も来るぞ。


やれやれ。

皮肉しか出んとは情けない。


いつもは店主の頭の上にいらっしゃる御使い様が、

ヘイムに来ると、最近よく我の頭の上におる。

そして、頭を撫でてくださる。


なぜか落ち着く。


そうじゃ。

店主が困っておったから、茶器でも持ってくるか。

子供達に貸して壊されては、ばあや辺りが卒倒しそうじゃが、


それはそれで面白そうじゃ。


せめてもの、皇后陛下への仕返しじゃ。

それぐらい良いじゃろう。



「マイ・フェア・レディ計画」とか言ってはしゃぐ鈴木達。

何も知らず、学生生活をしとる。


それで良いと思うし、そうであるべきだ。


しかし、内乱か戦が始まれば、そなたらのクラスからも徴兵じゃぞ。

このままでは、斎藤や松平は前線へ。

佐々木も情報部へじゃな。


下手をすれば、この間の決闘騒ぎでは済まんぞ。

背後の取り込まれた家次第では、クラスメイト同士で殺し合いじゃ。

こ奴らもなんとかしたいが、どうすれば良いか解らん。


我一人では無理じゃ。


のう、店主よ。

子供向けの物語の様に、何もかも片付けてくれるヒーローとやらはおらんかの。

本当に、八枚目の葉は舞い降りんかのう。



そして、無力感に苛まれながら日にちは過ぎ、

子供達のお茶会のリハーサルに付き合う事になった。


我は出とうなかったが、最近元気のない我に、

気晴らしにとミレディに言われてのう。

頑張っておる子供達の成果を見てやってくれと言われた。


ミレディも気づいておるじゃろう。


幼き頃から、ずっと姉妹同然で過ごしてきた仲じゃ。

中身は解らずとも、我が苦悩しておる事も。

自分が信用されていない事も。

我は恥ずかしゅうて、ミレディをまともに見られんかった。



子供達は必死じゃった。


我みたいに、誰かを陥れる為でも、欺く為でもない。


クラスメイトの為に。

己の矜持の為に。


明日の本番を前に、こんなに大人達に囲まれて、プレッシャーをかけられて。

失敗して泣き出した時は、そうであろうと思ってしまった。


駄目じゃ。


もう何を見ても、何を思っても後ろ向きじゃ。


我も泣きたい。


目の前の子供達の様に。

じゃが泣いてしまえば、立ち上がれない気がした。

目の前の子供達は、立ち上がろうとしているのに。


見ていられん。


こっそり抜け出そうとした。

この場をまとめるのは我くらいじゃろうが、今の我では無理じゃ。

罵倒しか出てこん。

そう思い、外に出ようとした時。


その方は現れた。


初めてその尊顔を拝するのに、知っておった。

神殿に行くたびに見ておったからかのう。

神殿にある女神像よりも、


優しく。

慈悲深く。

気高く。

温もりのあるお方であった。


ありえぬ。


女神降臨なぞ。


前回の降臨といえば、二百年戦争の末期も末期。

異星の侵略者に世界が蹂躙され、滅びかけた時ではないか。

たとえ、その降臨がこのクリスタルの山であったとはいえ、

たかが明日のお茶会に苦しむ子供達の為に、わざわざ……。


……。


……そうか。


『大地母神』


母なる大地にして、子供達の守護者であったな。


ここには店主もおる。

名付け親らしいしの。


『大地母神』様の御使い様もおる。


きっと、ご覧になっていたのであろう。

子供達の泣き声に、降臨されたのであろう。


それにしても、なんという存在感。

そこにおわすだけで、子供達が笑顔に、勇気づけられていく。


やはり、我はこの場にふさわしくないかもしれん。

この猜疑心にまみれ、何をどうすれば良いか解らん我など、

こんな神聖な場所にはおれん。


しかし、動けんかった。

我の中で、いつも泣いておる幼いアンリが救いを求めておった。

子供達の輪に入りたいと泣いておった。



そして、リハーサルが終わり、この神聖な場も終わりかけた時じゃった。

子供達が明日の本番に不安を感じ、落ち込むと、


『そうねぇ。じゃあこうしましょう』

『明日も見に来てあげるわ』

『それなら大丈夫でしょう?』

『今日みたいに楽しくやるの』


そう、おっしゃられた。


明日も来られる。


ここに。


その瞬間、我の中にある計画が急速に組み立てられていく。

それを実行してよいのか。

できるのか。

そう思考していると、


『明日の準備、抜かりないように』

『決戦よ』


と店主の肩に手を置かれ、我の方も見られた。

まるで、我が何を企んでいるか解っているように。


気のせいか、我の中で泣き声をあげるアンリの頭を、

優しく撫でてくださった気がした。


気づけば、もうお帰りになっていた。


そして

我は笑っておった。

心の底から。

久し振りじゃ。

こんなに気持ちが良い笑いは。


「そうか」

「明日も来られるか」


我は天を仰ぐ。

神官長達が言っておった。


「いずれ解るでしょう。その長い時の中できっと」


それが、少し解ったかもしれん。


「我はここで、初めて心の底から祈るぞ」


ああ、感謝します。

進むべき道が見えました。

帝国学園の生徒達を一人でも救うのではなく――


「我は、戦争を止めてみせる」


そうじゃ。

必ず止めてみせる。


師匠のニューワールド講座55

~神々の降臨編~


「師匠」

『なんです』

「なんか前回から」

「女神様が降臨してますけど」

「いいんですか?」

『良い訳ないでしょうが!!』


思わず耳を塞いだ。

珍しく師匠が本気で怒鳴った。


『何をしているんですか、あの方は』

「えっ」

『大体ですね』

『神々とは』

『この世界より上位世界の存在です』

『中にはさらに上位世界に属する存在もいます』

『そんな存在が地上へ降臨して』

『問題ない訳がないでしょう』

「そんなに?」

『そんなにです』

『世界が悲鳴を上げます』

『本来いてはいけない存在が』

『無理やり入り込んでくるのですから』

「なるほど」


『分かりやすく言えば』

『ネットゲームでチーターが暴れているからといって』

『運営が無敵キャラでログインして』

『全部吹き飛ばすようなものです』

「それは駄目だ」

『駄目ですよ』

『世界のルールそのものを無視していますからね』


『だから神々は』

『原則として降臨しません』


『神託』

『神官』

『使徒』

『眷属』


『そういった手段を使います』

『それがルールです』

「でも前にも降臨したんですよね」

『しました』

『あれは特例です』

『異星の侵略者が現れ』

『世界滅亡寸前でしたから』

『他の神々も』

『もう終わったな』

『と諦めかけていました』

『邪神やトリックスターですら』

『流石に、この終わり方はまずい』

『と焦っていましたね』

「そんな状況だったんだ」

『ええ』

『ですが』

『あの方は』

『孤児院を守るために降臨しました』

「はい?」

『孤児院です』

『世界ではありません』

『孤児院です』

「そこ強調する?」

『重要です』

『皆が世界の未来を考えている中』

『あの方だけ』

『孤児達が泣いている』

『よし行こう』

『でしたからね』

「行動力の化身か」

『そして無双しました』

『侵略者も』

『魔王級も』

『災厄級も』

『まとめて吹き飛ばしました』

「うわぁ」

『おかげで世界は救われました』


『ですが』

『天界は地獄になりました』

「なんで」

『後処理です』

『報告書』

『始末書』

『被害報告』

『世界修復申請』

『予算申請』

『監査対応』

『説明会』

『無限書類地獄です』

「急に会社みたいになった」

『零細企業ですから』

『大変なんですよ』

「師匠、それ前から言ってるな」


『しかも』

『未だに処理が終わっていません』

『その時の書類が』

「まじで?」

『まじです』

『なのに』

『今回も降臨しているんですか?』

「明日も来るって」


『終わった』

「師匠?」

『大地母神班』


『ボーナス消滅』

『休日消滅』

『残業確定』

『書類無限地獄』

『他部署から苦情殺到』

『監査部激怒』


『終わりました』

「そんなにか」

『他の神々も怒りますよ』

『当然、また仕事が増えるのですから』

『唯一の利点は』

『邪神やトリックスターも』

『しばらく大人しくなるでしょう』

『あの方』

『本当に怒ると怖いですから』

「師匠」

『なんです』

「もしかして」

「下手な邪神より危険なんじゃ」


しばらく沈黙が流れた。


『……』

『下手をすると』

『あの方が破壊神ですよ』

「言っちゃった!」


※神々の降臨は本来禁止です。

※世界が壊れるからです。

※大地母神様は時々ルールより子供を優先します。

※天界職員は泣きます。

※でも誰も止められません。



作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


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