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57 また編入生ですの?

朝のホームルームで、先生からまた編入生があると言われて、

皆さまと顔を見合わせました。


前回のソレイアさんやリナさんに続き、

こんな短期間でまたもや編入生が来るなんて。

今度こそ、留学生か帰国された貴族の子弟でしょうか。



教室中がざわつく中、先生に促されて入ってきたのは――。


童顔で、とても可愛らしい見た目をした男子。

半ズボンに白い靴下。

まるで、絵本や児童向け雑誌から飛び出してきたような、

そのままのショタっ子男子ですわ。


キューブ様も大人の魅力でメロメロですが、

あちらは触れることのできない高嶺の花。

でも、こちらは同じクラスの一員。


じゅるり。


いけない、いけない。

思わず涎が出そうになりましたわ。


私ってショタコンでしたっけ。

思わず、あのロリコンナルシストの顔が頭に浮かびましたが、あれとは違います。


だって今の私は少女。


同じ年ですもの。

そう自分に言い聞かせて納得していたら、彼が自己紹介を始めました。


「僕は、アレキサンドリア・スリジ・ソルヴェイン・アステリア」

「気軽に、アレクと呼んで下さいね」


そう言って、にっこりと笑う。


ちょっと待ちなさい。


アレキサンドリア・スリジ・ソルヴェイン・アステリアって。

プリンツ・アレクじゃありませんの!


滅多に公式の場に出てこない。

お写真もさらに幼少の頃のものしかない。


幻の第三皇子。


周りの皆さまが騒ぎ始める中、私は別の意味で頭を抱えていました。


本当にここは乙女ゲームの世界なのでは?


そんな疑惑が、日に日に強くなっていきますわ。

しかも、席はなぜか私の隣。


昨日まで埋まっていましたわよね?


いつの間にか一つずれておりますわ。


「君が、西園寺家令嬢だね」

「父上から、編入するクラスには貴族は君しかいないと聞いていて」

「何かあったら頼るように言われているんだ」

「よろしくね」


そう言って向けられた笑顔に、思わず鼻血が出そうになりましたわ。


エマージェンシーですわ。


殿下からアレクと呼んでくれと言われ。

アレク殿下と呼びつつも、つい下の名で呼ぶ許可まで出してしまいました。

これではまるで婚約者候補みたいではありませんの。


そう思いましたが、クラスの皆さまも遠慮なく名前で呼び合っておりますし。

アレク殿下も気さくな方で良かったですわ。


フラグじゃなくて。


「おっーほっほっほっほ」


つい高笑いしてしまったら。

いつもの如く皆さまも。


「「「「おっーほっほっほっほ」」」」


と続くものですから。


「なんだいそれは。このクラスの号令かなにかかい」


とアレク殿下まで参加し始めたものですから、慌てましたわ。

先生はもう慣れたのか、

皆さまの大合唱が終わるのを待って、そのまま授業に入りましたわ。



休憩時間になると、早速Aクラスの方々がやって来ましたわ。


先頭にいるのは、リスティーナ・シャルルーズ・カスパール侯爵家令嬢。


その後ろにも、次から次へと貴族のご令嬢やご子息たちが続いております。


そりゃまあ、同年代の皇族ですもの。

来ない訳がありませんわね。

上手くいけば皇族入り。

家を継げない女子や、

まだ婚約者が決まっていない者にとっては再有力候補でしょう。

嫁げるのは伯爵家以上ですが、そこはお約束の養子縁組で何とでもなりますし。


今のところ、

顔よし。

性格よし。

身分よし。

本当に良い物件ですわ。


しかし、ここが乙女ゲームだとすると。

もしかして、リスティーナ様が悪役令嬢ポジションなのかしら。

私、取り巻き令嬢いませんし。

リスティーナ様にはいますものねぇ。


そうなると、お約束の騎士団長の息子とか宰相の息子とかがいませんわね。

アレク殿下にも側近候補がいないようですし。


おそらく舞台は高等部になってから。

これから攻略対象が増えていくのかしら。

ピンク髪のヒロインは高等部から編入してくるのかしら。

そんな事を考えていると、いつの間にか休憩時間が終わっていましたわ。



家に帰ると、何やら屋敷中が騒がしくなっていました。


廊下を行き交う使用人たちも慌ただしく、

執事たちまで忙しそうに走り回っております。

聞き耳を立ててみると、なんでも帝国政府から大口の商いの打診があったとか。

どうやら帝国東方の国境付近がきな臭いらしく、騎士団が派遣されるそうです。

その軍事物資の特需が来ているとの事でした。


戦争なんて嫌ですわ。


平和な日本でOLをしていた私。

こちらでも話でしか聞いた事がありません。

正直、あまり実感が湧きませんわ。


――はっ。

もしかして、これもフラグでは?

戦争が膠着したり、負けかけたりして。

ヒロインと攻略対象が『愛の力』とかいう訳の分からない展開で大逆転。

よくある王道パターンですわ。


大丈夫かしら。


おじい様に相談しなくては。

そう思って相談した結果。


「のう、春香。日本とかいう所ではそれが普通なのか?」


と真顔で返されてしまいましたわ。


「そんな目に見えんような不確かな物で解決できたら苦労せんわい。」

「戦争とはのう、まず自国の状況や周辺国の状況を確認してじゃな。」

「戦略を組み、戦術を編み出し。」

「それに基づいて物資の補給や輸送を考えて――」


そこから先は延々と続きました。

長い。

とにかく長い。

どうやらおじい様の戦争講義スイッチを押してしまったようですわ。

あまりにも長いので、私は話題を変える事にしました。


「そう言えば、おじい様。」

「今日、また編入生がありましたの。」

「なんと、プリンツ・アレクですわ。」


そう告げた途端。

おじい様は複雑そうな顔をされ、小さくため息をつかれました。


「そうか……遂に始まったか。」


ぽつりと呟かれたその言葉。

その後、しばらく嫌な沈黙が続きました。

不安になって見上げると。

おじい様は私の頭を優しく撫でながら言いました。


「春香、気にせんでいい。」

「なるようになる。」

「お前の好きなようにしなさい。」

「どんな選択をしようとも、ワシらはお前の味方じゃ。」


そう言って笑うのですが。

その笑顔は少し力がありませんでした。


体は子供でも、中身はアラサー。

現役OLでしたのよ。

その笑顔はよく知っています。

会社で大きなトラブルが起きた時。

社員に心配をかけまいとして笑う部長の顔と同じでした。


本当に何かが起こっているのでしょうか。




そんな杞憂もあるというのに。

まったく。

懲りずに毎日毎日、Aクラスの皆さまは休み時間の度にBクラスへやって来ます。

少しはCクラスを見習いなさい。

皆さま、かなりイライラしておりますわ。


アレク殿下も笑顔で自重するようお願いしてくださっているのに。

聞いておりますか、リスティーナ様。


小学部とはいえ、ここは王侯貴族のいる身分社会の縮図。

多少の無礼は許されるとはいえ、クラスの皆さまは庶民階級です。

イライラが募り、誰かが無礼でも働けば何が起こるか分かりません。

教師の方々も、身分社会を学ぶ良い機会とばかりに干渉してきませんし。

ならば。

ここは公爵令嬢たる私が矢面に立つしかありませんわ。


「リスティーナ様、いい加減にして下さいまし。」


教室中の視線が集まる中、私は一歩前へ出ました。


「毎回毎回、休み時間の度にこちらへ来られて。暇ですの?」

「こちらは次の授業の準備などで忙しくってよ。」

「しかも大勢でぞろぞろ来られては、

 皆さま休めなくて迷惑ですので、遠慮くださる?」


クラスの皆さまから、


「おおー……」


と感嘆の声が漏れます。

よくぞ言った。

そんな羨望の眼差しまで飛んできますわ。

これくらい当たり前ですってよ。


「おっーほっほっほっほ!」

「「「「おっーほっほっほっほ!」」」」


皆さま。

私に続かなくてもよろしくてよ。


私の効果音ですもの。


決して貴族の皆さまを馬鹿にしている訳ではなくてよ。

たぶん。

きっと。

おそらく。


「うっ、五月蠅いですわね。」


リスティーナ様が眉を吊り上げ、露骨に不機嫌そうな顔を向けてきます。


「相変わらず、高笑いの合唱をして。」

「頭がおかしいのではなくて?」


そう言いながら、一歩前へ出て私と真正面から向き合う。

いわゆるメンチの切り合いというやつですわね。

貴族令嬢がやる事ではありませんが。


「ふっ、羨ましいならそうおっしゃい。」


私が胸を張ると。


「誰が。」

「今時、高笑いなんて流行らないのよ。」


即座に返されました。

むむ。

それは少し否定できませんわね。

ですが、ここで引く訳にはいきません。


「大体、貴方に用事はありませんわ。」

「御用があるのは、アレク殿下だけですもの。」

「婚約者でも何でもないのでしょうに、黙って頂けます?」


そう言って、ぱしりと扇子を開き。

その先端を私へ向けてきました。


ほほう。

そう来ましたか。

ならばこちらも遠慮は無用ですわ。


「何を言うかと思えば、その年で色ボケですか。」


教室中が静まり返る。

後ろで誰かが息を飲む音まで聞こえましたわ。


「私は学級委員長として、クラスの環境を守る為に言っているのです。」

「そんなに色恋したいのでしたら、サロンでも行って。」

「同じような方々を捕まえて語り合えばよろしくってよ。」


そして私は、手に持った扇子で教室の外を示した。


「ここは教室。」

「勉学の場ですわ。」

「友情なら教室の外で。」

「色恋はサロンで。」

「これ、常識ですわよ。」


見事なまでの正論ですわ。

たぶん。

きっと。

おそらく。

少なくとも私はそう思います。


その瞬間。

教室のあちこちから。


「おお……」

「言った……」

「西園寺さん、言ったぞ……」


と感嘆の声が上がりました。

そこで、ちょうど予鈴が鳴り響く。


リスティーナ様達は悔しそうな顔をしながらも、渋々教室を出て行きました。

ですが、あの顔。

全然納得していませんわね。


これはまだ続きそうですわ。

そして残されたBクラスでは。


「おおおおお!」

「よく言った!」

「流石、西園寺さん!」


と拍手喝采。

よしなさい。

それは火に油ですわよ。


ほら。

教室から出て行くリスティーナ様の肩が震えておりますわ。



「凄いなあ、春香嬢。」


振り返ると、アレク殿下が感心したようにこちらを見ていました。


「僕もちょっと引いていて。」

「どうやって傷つけないように言えばいいか考えていたんだけど。」

「思いつかなくて。」


そう言って、キラキラした目を向けてきます。


これはあれですわ。

中身は大人ですので。

あの程度の子供には、当分負けませんわ。

アレク殿下の年齢なら、それが普通ですもの。


あれは獲物を見つけた野獣の目ですもの。

その目をした女子は怖いのです。


だからアレク殿下。

そんな目で見つめられると、別のフラグが立ちそうですわ。



しかし、これは本格的に考えないと大変ですわね。

日に日に酷くなっています。

本当に皆さまの学園生活が脅かされております。

私の見えない所で嫌がらせでも始まったら大変ですわ。


そうねぇ。

ありきたりだけど。

アレク殿下と接触できる機会を別に設けて。

普段は我慢して頂くしかないかしら。


うーん。

ここはアレク殿下に茶会でも開いてもらうか。

そう相談すると。


「ごめんね。」


アレク殿下は困ったように笑った。


「まだ茶会を開く許可を貰ってないんだ。」

「誰かの茶会に参加するにも。」

「最初の茶会相手は政治が絡むから難しいかも。」


そうでしたわ。

よく聞く話です。


最初の茶会。

最初の屋敷訪問。

最初の交友関係。


全部が政治的意味を持つ。

貴族って面倒ですわね。

どうしましょう。

正式なデビュタントもしていないから、私が開く訳にもいきませんし。

それに私が主催してアレク殿下を招いたら。

婚約者候補に名乗りを上げたと思われますわ。


当然、リスティーナ様達に任せる訳にもいきませんし。

他に交流の場なんて。

何か良い案はありませんの。

アイドルみたいに握手会なんて論外ですし。


さっきみたいに、私が矢面に立つのも限界ですわ。

教室の外だと理由がありませんもの。


どうして私が悩まなくてはいけないのよ。

そういうのは側近候補がする事でしょう。

どうしていないのよ。

これじゃ私が側近候補みたいではありませんか。


だから。

そんなにキラキラした目で見ないで下さいまし。



「ねぇねぇ春香ちゃん、お茶会するの?」


ソレイアさんが首を傾げながら聞いてきた。


「そうねぇ。」

「やりたいのだけど、場所と名目がね。」

「名目?」

「そう。」

「お茶会を開く理由がいるの。」

「アレク殿下をお招きする理由がね。」


私が説明すると。

ソレイアさんは「ふーん」と言いながら首を傾げた。


流石に勉強ができても、まだ十歳。

しかも庶民ですもの。

授業で習ったとしても、実際の政治が絡むなんて分からないわよね。

私も中身が大人じゃなかったら理解できないわ。

いや。

アラサーだけど、本当に理解できているのかしら。

そう自問自答していると。


「だったらヘイムでやろうよ。」


ソレイアさんがあっさり言った。


「みんなでアレク君の歓迎会。」

「ね、リナちゃん。」

「うん。」


リナさんも元気よく頷いた。


「ヘイムだといつもやってるよ。」

「新しい人が来たり。」

「何かあった時はしょっちゅう。」

「エマさんが、イベントは大事って。」


そう言って。

仲良し二人組は顔を見合わせる。


「ねー。」

「ねー。」


そして二人同時に笑った。


ぐふっ。

尊い。

尊すぎますわ。


美少女二人の笑顔が眩しすぎて、鼻血が出そうです。

必死にこらえながら。


私は閃いた。

その手がありましたわ!

クラスの歓迎会。

これなら誰か個人のお茶会ではありません。

クラス全体のイベントです。

しかも。

これなら仕方なくAクラスの皆さまも参加させる事ができるかもしれません。


完璧ですわ!

ならば後は実行するのみ!


「おっーほっほっほっほ!」

「「「「おっーほっほっほっほ!」」」」

「西園寺さん。」


静かな声が教室に響いた。


振り返る。

先生でした。


「今は授業中です。」


先生は無表情で教室の扉を指差した。


「廊下に立ってなさい。」


あっ。

またやってしまいましたわ。


師匠のニューワールド講座53

~お茶会編~


「師匠」

『なんです』

「お茶会ってめんどくさいんですね」

「普通に友達と喫茶店に行って」

「お茶とケーキでも食べながら」

「おしゃべりすればいいのに」

『はぁ……』

『相変わらずのお花畑ですね』

「なんで!?」

『ヴァルナさん』

『貴族にとってのお茶会とは』

『戦場です』

「戦場」


『まず着ていく服』

『宝飾品』

『開催場所』

『招待客』

『出される茶葉』

『お菓子』

『料理』

『使用する食器』

『花の種類』

『席順』

『会話の内容』


『全てに意味があります』

「怖い」

『当然です』


『相手にどう見られるか』

『自分の立場はどうか』

『どの派閥と繋がっているか』

『誰と距離を取るか』


『全てが評価対象ですから』

「胃が痛くなるなぁ」

『なるでしょうね』

『だから貴族の子弟は』

『幼少期から礼儀作法を叩き込まれるのです』

『お茶会で失敗した結果』


『縁談が潰れたり』

『商談が破談になったり』

『出世の道が閉ざされたりしますから』


「ケーキ食べるだけじゃないんだ」

『当たり前です』

『お花畑の方々は』

『貧しい庶民を放っておいて』

『貴族が贅沢している場だと勘違いしていますが』

『実際には』


『情報交換』

『根回し』

『政敵への牽制』

『派閥調整』

『商談』

『人材発掘』


『ありとあらゆる事が行われています』

「なるほど」

『日本のように』

『携帯電話も』

『インターネットもありません』

『だからこそ』

『直接会う事に意味があるのです』

『政治とは人間関係ですからね』

「確かに」


『舞踏会などはさらに顕著です』

『参加人数も多い』

『各国の使節も来る』

『有力貴族も集まる』

『当然』

『重要な話も行われます』

「でも会場で堂々と話せないですよね」

『ですから』

『個室があります』

『談話室があります』

『庭園があります』

『人気の少ないバルコニーがあります』

「完全に会議室じゃん」

『会議室ですよ』

『表向きは舞踏会ですが』

『裏では政治が動いています』


『誰が誰と話したか』

『どれだけ長く話したか』


『それだけで噂になる世界です』

『ですから』

『誰かの屋敷に集まるより』

『舞踏会やお茶会の方が都合が良いのです』

「なるほどなぁ」

『それに』


『豪華な料理』

『高価な服』

『宝飾品』

『会場運営』


『全てにお金が動きます』

『経済も回ります』

『社交界というのは』

『思っている以上に重要なのですよ』

「表面だけ見てた」

『本当に』

『表だけしか見ていない人が多い事で』

『嘆かわしいです』

「そんなに大事なんだ」

『ええ』


『有名な話ですが』

『第四次ナルトは要るか戦争も』

『舞踏会で開戦が決まり』

『お茶会で終戦が決まりました』

「台無しだよ!」

『歴史とはそういうものです』

「絶対違う!」



※貴族のお茶会は社交の場です。

※社交の場は政治の場です。

※政治の場は戦場です。

※そして歴史は時々ナルトで動きます。

※人類は昔からあまり成長していません。




作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。



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