54 店主、酒
帝国学園での決闘が終わってから、
早々に戻ってきて正解だった。
ハンスさんを始め、みんなで量のある料理を作り始めたら、
案の定、飲兵衛親方達を筆頭に、
勢いよく扉を開けて入ってきた。
そして第一声が、
「店主、酒」
だった。
そのまま、セバスさんの所に突撃して、
エールからビールから、
酒ならなんでもいいのかという勢いで配りだす。
俺達も苦笑いしながら、
料理を作り、次々と並べていく。
ハルヴィンダちゃんの応援に来てくれたみんなも、
そのままヘイムに来ている。
乾杯の音頭もなく、飲み食いが始まる。
こういうのって、
主役が来てからじゃないの。
ハルヴィンダちゃんは、決闘の最後の手続きをしていて、
終わり次第、アンリ先生達と来るらしい。
なぜ、そんなに時間がかかっているかというと。
なんか、ひと悶着というか、
揉めたらしい。
あのナルシスト野郎、
俺達が引き上げた後、
決闘の勝利者たるハルヴィンダちゃんの主張、
二度とハルヴィンダちゃんとリナちゃんに近づかない事。
それを確認した際に、
全裸で、前髪をかき上げて、
歯をキラリと輝かせながら、
「その誓約をしたのは、真っ二つにされた僕ちゃんです」
「こうして、生まれ変わった僕ちゃんは関係ありましぇん」
と、のたまわったらしい。
再度、会場が沈黙したそうだ。
決闘の誓約書も反応しなくて、
審判も困ったらしい。
どうやら、本当にナルシスト野郎は一度死んだ扱いになったみたいで、
国宝級スケープドールの力と、
《聖騎士》のスキル《耐え忍び》、
一度だけ確率で即死攻撃を耐える効果が発動して、
蘇った扱いになったみたいだ。
そのせいで、誓約書の効果が発動しないそうだ。
なんじゃそりゃ。
流石というか、転移勇者。
悪運が強すぎる。
たしかに、闇討ちしようとか、
真っ二つになれとかは思ったが、
死んでしまっては、ハルヴィンダちゃんが人殺しになってしまうから
死なずに、せめて重症くらいはと思ったが。
そりゃないだろう。
誓約書の効力がないから、
神々が認めたと言われたらそれまでだ。
伊達に神々がいる世界じゃないからなぁ。
その事を全裸で延々と語ったらしい。
服着ろよ。
そんなイレギュラーな状況に困る審判陣や大人達。
そこで声を上げたのが、
我らが勇者、松平君。
「往生際が悪いでござるよ、竹田氏」
「ならば、改めて勝負でござる」
と、決闘場に降り立ったそうだ。
斎藤君が。
決闘代理人らしい。
まあ、突っ込むのは止めよう。
「なんだ、自称勇者君じゃないのかい」
「てめえなんかに、勇者が出てくるわけがないだろう」
「俺が相手になってやるよ」
と斎藤君が手をクイクイとする。
「ふっ、考えなしの熱血君ごときで、僕ちゃんの相手になるのかい」
手を頭の後ろに組み、
全裸で挑発してくるナルシスト野郎。
「なんだ、ビビッているのか」
「まあ、ハルヴィンダさんに一撃だったからなぁ」
「そうやって、口で自分を大きく見せるしかできないのかい」
と、色々な舌戦をしばらく交わしたあと、
ナルシスト野郎が剣と盾を取り出し、
それに合わせて斎藤君も飛び出し、
決闘が始まったそうだ。
まだ、なんの取り決めもしてないのに。
ナルシスト野郎は全裸なのに。
そこからは、これこそ決闘だったと赤毛親方が語る。
《格闘家》対《聖騎士》。
《熱血バカ》対。
壮絶だったそうだが、
珍しく酔っている飲兵衛親方達の言葉はわからん。
ドカーンとか、
シャキーンとか、
シュバババとか。
擬音ばかりだ。
まあ、最後は斎藤君のアッパーカットが決まって、
ナルシスト野郎をノックアウトして、
斎藤君は、
「ハルヴィンダさ~ん」
と、昭和時代に流行った某ボクシング映画みたいに、
手を上げて名前を叫んだが、
決闘場になだれ込んできた観客達に、
もみくちゃにされてしまい、
当のハルヴィンダちゃんは、
「もう一度真っ二つにしたかったのに」
と拗ねて、相手にしなかったらしい。
まあ、二度も負けたせいか、
今度は大人しく従ったらしいが、
もうハルヴィンダちゃんとリナちゃんに近づかないと誓った時も、
全裸だったらしく、
斎藤君に、
「いい加減に服着ろよ」
と突っ込まれたが、
両手を上げて、
自らの裸体を誇示するかのようにくるっと回り、
「僕ちゃんの為に、集まってくれたみんなへのサービスだよ」
「ほら、神々も嫉妬する僕ちゃんの美を堪能するがいいよ、ベイビー」
と、最後までのたまっていたそうだ。
因みに、この時、
世界中の『太陽神』神殿が震えて、
その場にいた人達は、すわ天変地異の前触れかと慌てたらしい。
帝都の神殿長がお伺いを立てると、
『これで、もう奴はこことは関係ない』
と返答があっただけだった。
後日、ナルシスト野郎がステータスチェックをした時、
ジョブが《聖騎士》から《性騎士》になっていたそうだ。
そんな話を聞いていると、
今日の主役が帰ってきた。
みんな大歓声で迎える。
そして、ようやく乾杯だ。
ハルヴィンダちゃんは、
「皆さん、応援ありがとうございます」
と、隣のリナちゃんと一緒にペコっと頭を下げた。
みんなが手に持った杯を掲げて、
改めて宴が始まった。
ほら、学生諸君はノンアルコールだぞ。
もう成人してるから、酒よこせだと。
知らん。
ここでは学生である以上、出さん。
酒の匂いがつらかったり、
我慢できないなら二階へ行け。
そっちにも料理は用意してあるから。
「ほら、アンリ先生やご婦人達もなんか言って……」
駄目だこりゃ。
飲兵衛エイトになっていた。
「うう、リオニー」
「どうしよう、家宝のスケープドールが壊れちゃった」
「旦那にどう言おう」
どうやらトール夫人、
自分用のスケープドールをナルシスト野郎に渡していたらしい。
泣きながら、リオニーさんの横で、
日本酒もといジパング酒を煽っている。
「まあ、私達が稽古つけてやったんだから当然よね」
リオニーさんは明後日の方角を見て、
ビールを飲みだす。
「ねえ、アンリちゃん。おうちに余ってないかしら」
今度はアンリ先生にもたれかかって、
甘えた声を出す。
「うむ、斎藤もやればできるではないか。のう、ミレディ」
「そうですね。方向さえ間違ってなければ」
急に、アンリ先生とミレディさんは斎藤君を褒めだす。
いつもなら、あれくらい当然じゃ、と言いそうなのに。
「スミズル親方、トレース親方。私達友達ですわよね」
飲兵衛親方達の間に入り、
両肩を掴む。
「たわけ。ただの鍛冶職人がそんな物持っとる訳がないじゃろう」
トール夫人は項垂れる。
「そう言えば、倉庫にいくつかあった気が」
トレース親方の言葉に、
勢いよく顔を上げるトール夫人。
「あれは、嫁のカルラとハルとリナの分じゃ。すまんの」
床に崩れ落ちるトール夫人。
最後にムラマサ親方を見上げる。
「だはは、ないない。貴重な酒ならいくつか隠しているが、魔道具などないぞ」
最後の砦が落ちる。
「どうしよう、旦那だけじゃない。息子にも怒られる」
「禁酒させられるわ」
そう言って勢いよく立ち上がり、
席に着く。
そして、ジパング酒を煽り始める。
「飲み貯めよ」
飲み貯めって、
いつも浴びるほど飲んでいるでしょうに。
他の飲兵衛エイトは、
横目でそんなトール夫人を見る。
やけ酒を飲むトール夫人に、
最後の一人が囁く。
「高いですよ」
おーい、エマさん。
みんな忙しいの。
手伝ってというか。
本当になぜ、普通に混ざっているの。
バレたらどうするの。
トール夫人はエマさんに詰め寄る。
というか、本当に持っているのか。
かなりの上物って師匠が言っていたぞ。
そこらに転がっている物じゃないって。
エマさんが机の上に、スケープドールを並べだす。
『どれも本物ですね。ランクも良い物です』
マジか。
一体どこから。
『スケープドール自体が、かつていた精霊魔法使いが作った物ですから』
『妖精であるエマが持っていても、不思議ではありません』
『しかし、これが知られては、ますますエマの存在が……』
だよね。
問題だよね。
それにトール夫人。
ナルシスト野郎が真っ二つになったのはもう知られているし、
スケープドールが身代わりになったのも、
それを用意したのがトール夫人とハーケン夫人だった事も、
みんな知ってるし。
新しい物を用意したから問題ない、
とはならないのでは。
そう思ったが、口に出すのはやめた。
トール夫人がかなり必死だし。
他のメンツが引きながら見つつ、
耳だけは大きくしているよ。
飲兵衛親方達も、武闘派の皆さんも、
さりげなく席を詰めてきている。
トール夫人の交渉次第で、
目の前のアーティファクトが手に入るかもしれないからね。
結局、トール夫人の秘蔵のジパング酒を今度持ってくる事で成立したらしい。
「ああ、私の秘蔵の『鳥羽』が、『大灘』が、『東条』が……」
と呟きながら、
更にジパング酒を煽りだす。
やれやれ、これだから酔っ払いは。
巻き込まれそうだから、
とっととキッチンに戻ろう。
そして、二階の未成年組に料理を運ぶと、
見つけてしまった。
なんでお前がいる、ナルシスト野郎。
流石に全裸ではなかったが、
取り巻きの女性生徒に囲まれて、
「ふっ、ベイビー。俺っちはちゃんと、あの姉妹には近づいてはいないさ」
と言い出した。
師匠。
こいつ入店拒否したいんですけど、
結界で弾けないんですか。
『うーーん、結界はあるんですが、邪悪な者にしか反応しないんですよね』
『入れているって事は、邪悪ではないのかと』
『ナルシストだから拒むのは問題あるかと』
と、師匠も唸っている。
ナルシストじゃなくても、
この性格は十分邪悪だよ。
ほら、目が今度はソレイアちゃんと西園寺さんに向いている。
ベルンさん。
その右手の手袋、投げてもいいと思います。
まあ、ちみっこ達の前に、
西園寺さんの護衛らしき人が立ちふさがったけどね。
そう、この金髪ドリル令嬢こと、
西園寺春香さん。
アステリア帝国西園寺公爵家令嬢にして、
西園寺財閥の令嬢なのだ。
リナちゃんやソレイアちゃんと同じクラスで、
唯一の貴族。
前からちょくちょく遊びに来ていた。
転生者疑惑の少女だ。
元、西園寺公国の当主。
アステリア辺境伯が統一戦争を始めた時に、
戦わずに降伏。
元々防衛の為の戦力も乏しく、
アステリア辺境伯の保護下に入る代わりに、
公国民の安全と商売の保証を認めさせたそうだ。
西園寺公国は、この大陸の南方随一の港を持ち、
他の大陸との商売で儲けているらしく、
下手すれば帝室よりお金持ちとか。
立場的には中立。
どこの派閥にも属しておらず、
中央の政治にもあまり関与しないそうだ。
名前からして、初代は転移者であり、
オセロ、トランプで財を稼ぎ、
それを元手に甜菜畑を作り砂糖を生産。
その莫大な利益で、大陸の南に港を作り、
他大陸も跨ぐ大商人として活躍したそうだ。
そして何より、
当主の家には転生者が多いそうで、
異世界知識で活躍。
そして気づけば公国になっていたが、
代々政治より商いだそうで、
公国も国というより企業に近かったみたいだ。
もうこれで一つ物語いけるんじゃねぇ、
と思ってしまう。
親友のリナちゃんのお姉さんの勝利を祝って、
沢山の差し入れありがとうございます。
マルタさんとエルミナさんの顔が喜んでくれてよかったよ。
良かったよね。
……
…
だんだん顔が怖くなってきていますが。
確かに大盤振る舞いだけど、
皆さん、食べすぎ飲みすぎじゃありません?
もう差し入れ消えてますが。
倉庫の中身の減りが早いんですが。
師匠のニューワールド講座㊿
太陽神様編
「師匠」
『なんです』
「この世界の神様って」
「かなり俗っぽいですよね」
『ほう』
「特に『太陽神』様とか」
『ヴァルナさん』
『命知らずですね』
「えっ」
『一度天界で』
『大地母神様にお会いしているのに』
『そんな感想が出てくるとは』
「いやいや」
「別に悪い意味じゃなくて」
「本編見てても」
「そんな描写ないでしょう」
「太陽と法と秩序を司る神様ですよ」
「主神っぽいじゃないですか」
『主神っぽいですね』
『ですが』
『直情的で』
『思ったら一直線』
『感情で動いて』
『行動した後に後悔する』
『うっかり女神です』
「えっ」
『その結果』
『裁きの権能を』
『天秤の女神に取られ』
『主神の座を』
『双子神である夜を司る女神に取られました』
「えっ」
『実力はあるのに』
『管理職としての才能が少し足りず』
『課長止まりで部長になれなかったタイプですね』
「そんな描写どこにあるんですか」
『今しました』
「おい」
『だいたいですね』
『融通は利かない』
『思ったら一直線』
『いつも勢いで動く』
『そのくせ』
『実力だけは飛び抜けている』
『本当に困った女神です』
「めっちゃ言うじゃん」
『その配下の皆さんが』
『どれだけ苦労しているか』
『想像してみなさい』
「なんか可哀想になってきた」
『ですが』
『妙に人望があるんですよね』
「へぇ」
『地上の信徒達も』
『思慮深く真面目な方が多いですし』
『聖騎士達なんて』
『聖魔術を使いながら』
『何十年も鍛錬を積んだ騎士です』
『法だ!』
『秩序だ!』
『正義だ!』
『と言いながら突撃してきます』
「怖い」
『怖いですよ』
『ドン引き集団です』
「信徒に怒られるぞ」
『事実ですから』
「師匠も大概だな」
『そんな太陽神様の悪口を言うなんて』
『命知らずですね』
「だから!」
「俺は悪口じゃなくて!」
「人間っぽくて親しみやすいなって!」
『……』
『ほう』
「えっ」
『ヴァルナさん』
『太陽神様の本質を見ていますね』
「は?」
『良い目をしています』
『日頃の私の教育の賜物ですね』
「絶対違う」
『ちなみに』
『本人に言うと』
『照れ隠しで天罰が飛んできます』
「それ先に言え!!」
※太陽神様は今日も元気です。
※配下の皆さんも元気です。
※たまに胃薬が必要になります。
※本人は「そんな事ない!」と言っています。
※だいたい本当です。
作者メモ
※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。
※本編とは時空が違います。
※本編の都合により、設定が変わる事があります。




