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52/76

52 食べた記憶がありません

一日って、二十四時間だった気がする。

一週間で七日だよね。


おかしい。


昨日、アンリ先生のお母さんが来て、

だいぶ経つのに、次の日が来ない。


あれから七回程、朝のパン造りをした気がする。

ハルヴィンダちゃんとセバスさんの出前を七回程、

見送った気がする。


トール夫人とハーケン夫人、仕事早いな。

早速、助っ人の料理人を連れて来てくれたけど、

時々いなくなるのはなんでだろう。

ハンスさんも。

帝国学園の先生、

シュヴァルベ先生だっけ。

みんな仕事中にいなくなるのは困るなぁ。


あれ。

そういえば俺は、今日何回目かの賄いを作っている。


みんな食いしん坊だなぁ。


何?

昨日のラーメン美味しかったって?

何言っているの。

今日の夜だったでしょう。


あれ。

まだ日が高い。

ラーメン食べたっけ。


仕事中に居眠りして夢を見るとは、

俺もまだまだだね。


『沈静化』


と師匠の声が聞こえる。

ん、何みんな。

変な人を見る様な目で見て。

ほらほら、手を止めない。

まだランチタイムは終わってないよ。


「店主さんよぉ。悪い事言わないから寝な」


何言っているの。

睡眠って……。

あれ、いつ取ったかな。


「これが、流派至高不敗。」

「何という過酷な試練。」

「我々は今、歴史の一ページに遭遇しているのでは。」


なんだ、なんだ。

みんな変な事言って。


おっ、よく見るとみんなお揃いの制服着てる。


カッコイイなぁ。


いいなぁ、俺もって。

着ているし。

いつの間に。


『いらっしゃい、ブラック天界へ』

『ふっ、七徹ごときで記憶障害とは』

『かつ丼まだ。つゆだく忘れないでね』


ランチの注文と一緒に何か混じっている気がするが。

気のせいかな。


ほら、飲兵衛エイトからも注文だよ。


酒蒸しを仕上げてね。


あれ。

いつの間にか、レベル上がっている。

そんなに作ったかなぁ。



『うっ、なんかみんなの目線が痛い』

『しかし、七徹なんて、まだ入り口にも立ってないじゃないですか』

『天界には、まだまだ働く術も道具も……』

『ええい、そんな目で見るな』

『仕方ない。今晩だけですよ』

『一日休めば、取り戻すのに四日かかるのですよ』



はっ。


目覚ましの音で目が覚める。


ここは、どこだ。


ベッドの上か。

なんか、長い夢を見ていた気がする。

さぁ、今日の分のパン造りをしないと。


パン工房に行くと、ハンスさんがいた。


「店主さんよ、あんたもう大丈夫なのか。」


と心配そうに聞いてくる。

何言っているの。

俺はいつも通りだよ。

それにしてもなんでいるの。

いつもならまだ寝ているのに。


「いや、そのよう。しばらくパン造り、俺も手伝うわ。」

「他のみんなも、早く来るって。」


なんだ。

なんかあったのかなぁ。


そうか、人が増えて、

みんな腕がいいから、ライバル関係になったんだな。


お前に負けるかってやつだな。


うんうん、青春しているねぇ。

おっさんにはないよ、そんなの。

ひたすら作るだけだからな。


ハンスさんも、無理するんじゃないぞ。


そうして、今日もヘイムの一日が始まる。


そして今日からいよいよ、

勇者クラスの生徒達が本格的に来る。

鈴木さんや松平君達みたいに、

いい子だといいなぁ。



昼前に、ミレディさんに連れられて、

新しい生徒達が来た。

男子生徒と女子生徒、それぞれ三人ずつ。

全部で六人だ。

エプロンを着けて、

二階でトール夫人とハーケン夫人の監視の元、

帝国学園の商業科の先生に接客の仕方を習っている。


まあ、今の所、

身分の高い人はまだ来てないから、

普通にしていたら問題ないと思うけど。

そろそろ来だしてもおかしくないらしい。


トール夫人とハーケン夫人には、

身分が高い人が来たら、

別メニュー、別料金で料理を出すように言われている。

もうメニューもお二人が選定済みだ。


最初のうちは、連れてきた侍女さんが手伝ってもいいと言ってくれた。

なぜか、お付きの人が増えて、

リーダーらしき人以外、毎回違うんだよな。

みんな、飲兵衛エイトが集まって宴会を始めると、

ウキウキとお風呂場に消えて行くけど。

そんなに、うちの女性用のお風呂いいのかなぁ。


一度、誰もいない時に、

ベルンさんと覗こうとしたけど、

色んな意味で怖くて覗けなかった。



ランチタイムが始まると、

生徒達も一階の食堂に投入だ。

男子生徒に比べ、

女子生徒の気合が半端なかった。

男子生徒は、

ハルヴィンダちゃんがセバスさんと出前に出ていないと知ると、

やたら落ち込んでいた。


お前ら手を出したら許さんからな。


まあ、二階から睨みつけている飲兵衛親方達の目を、

まだ知らんからだろうが。


後は昼飯を食いに来ていた帝国学園の生徒が、

ビックリしていたそうだが、


まあ、問題なくアンナさんとベルンさんと共に頑張っているみたいだ。

終わったら賄いランチ出してやるから。


頑張れ。



ランチタイムが終わって、

賄いを食べていると、

ハルヴィンダちゃん達が帰ってきた。


“リアカーMr-Ⅲver4.5”から荷物も降ろす。


どこまで進化するのだ、このリアカー。

もうどこがどう変わっているのかも分からんが、

パワーアップしているらしい。


こら男子共。

さっきまで死にそうな顔してたのに、

急に元気になって荷下ろしを手伝うんじゃない。


皿洗いだ、皿洗い。


夕方からまた沢山来るからな。


生徒達が先生から指導を受けている間に、

俺は二階のパティシエキッチンに向かう。


冨樫さんには負けてられないからな。


レシピや作り方は分かるが、

帝国学園の先生の指導を受けながら一緒にお菓子を作る。


先生も冨樫さんのお菓子作りに触発されたらしい。

もう一度、基礎からやってみるそうだ。


そうこうしていると、

いつの間にか冨樫さんもお菓子作りに参加している。


もう、そんな時間か、


冨樫さんは、最初の頃に比べて良い笑顔をする様になった。

師匠に頼んで、

スマホから家族の写真を大きくプリントアウトして貰い、

壁に貼っている。

まだ、ここは三人しかいないし、問題ない。


さて、俺はキリがいい所で切り上げて、

一階のキッチンに戻る。

さあ、夜の部の料理の仕込みだ。



キッチンスタッフのみんなは、

もうかなりのベテランなのに、

文句ひとつ言わずに野菜の皮剥きなど下ごしらえをしてくれる。

今日は生徒達も一緒だ。

仕事が分担できて助かる。

ハンスさんと二人だけだった時は、

今考えるとよく出来てたな。


フロアから、鈴木さんの元気な声が聞こえる。

という事は、

天宮さんや松平君、佐々木君も来てるなぁ。

本当に毎日すごいよ。

と感心していたら。


「ねぇ、おっさん。ラーメン作れるって本当? 晩飯、あたし塩で。」


と、鈴木さんから遠慮のない注文が飛んできた。

生徒達が一斉にこっちを見る。

固まる調理スタッフ。


「まじで。すごいなここ。本当に色々ある。店長、俺は味噌で。」

「あっ、私も。」


と生徒達が口に出す。


待て。


ラーメンだと。

いつだ。

いつ食った。

いつ店で出した。


それに、出汁を作るのに時間かかるだろう。

君たちは夜になる前に帰るだろう。

間に合わないよ。


ねっと。

ハンスさん達を見る。

なぜ目をそらす。

まさか。


俺はキッチンの端にある、

以前ヘイムが作ってくれたラーメン用の調理器具の前に急ぐ。


なんだ。

なぜ出汁がある。

麺や具がある。

みんな、俺に隠れてラーメン作って食べたのか。


酷いよ。

俺も楽しみにしていたのに。


唖然とする俺に、

料理人のみんなが何か言いたそうだったが、


「俺は醤油が食いたい。」


一人、泣き崩れる。


(店主さんよう、それ、あんたが作ったんだぜ。覚えてないのかい)


そんな俺に、容赦なく注文が入る。

悲しいかな。

体が料理を作りだす。



日が暮れかかると、

生徒達は終了だ。


ほら、お風呂入って汗流してこい。

出てきたら、お望みのラーメン作ってやるから。

味は保証せんがな。


男子生徒共はすぐに出てきて、

生徒用のリビングでスマホをいじっている。

女子生徒が出てきたら伝える様に言ってある。

あまり遅くなると門限あるからな。


遅いよ。


結局時間なくて早食いじゃないか。

そして少ないが、日給を渡して終わりだ。

みんな元気にお礼を言って、

急いで寮へ帰る。


ミレディさんが、


「送り届けたら、姫様と一緒に来ます。」


と言っていた。


生徒がヘイムから出たのを確認すると、

もう残りの飲兵衛達が酒盛りを始めたからな。

注文が一気に増えた。



次の日も似たような感じだった。

生徒達も問題児と聞いていたが、

そんなに悪い子達じゃなかった。


ところが、問題は三日目だった。

男子生徒の一人が、


学校帰りのリナちゃんにナンパしやがった。

てめぇピーするぞ、このナルシスト野郎。


この男子生徒、竹田というらしい。

店に来た時から、なんだこいつはと思った。

挨拶の時に前髪をかき上げて、

歯をキラリと輝かせた。


「うぃ、僕は竹田だよ。カワイ子ちゃん達、ヨロピク。」


初めて見たよ。

これは人間ですか。

昭和のおっさんには理解できません。


周りの生徒も距離を取っていたよ。


仕事を始めても、すぐ消えて生徒用リビングでスマホをいじっているし。

だいたい、アプリも使えないのに何してんの。

ゲームか。

でもあれはサーバーいるだろう。


ああ、俺もF▽Oしたい。

アフタータイムって何。

気になるよ。


早速トール夫人に見つかって連行されていたけどな。

キッチンにいたから詳しくは分からんが、

料理を運びながら女性客に声をかけまくりだったらしい。

ベルンさんが何度注意しても止めなかったそうだ。


帝国学園の先生が頭を抱えて、

厨房に回して皿洗いをさせていたが、

手が荒れるなどブツブツ言って、

なかなか洗いやしない。


我慢だ、我慢。


ハルヴィンダちゃんが戻ってきた時なんか、

いきなり手を握りだして。


「君みたいなカワイ子ちゃん、初めて見たよ。」

「どう? 僕と遊びに行かない?」


飲兵衛親方達の目線だけでなく、

バトルアックスまで構えられたのに、

ナンパを続けるなんてすごいな、こいつ。


ハーケン夫人の雷撃を喰らって皿洗いに戻るまで、

手を握っていたからな。

ようやく諦めて皿洗いを始めた時だった。


リナちゃんが用事でもあったのか、

キッチンに来た時だった。

いきなり跪いて愛を語りだした。

何が、


「君こそ僕が探し続けた理想の子だ。さあ共にエデンに行こう」


だ。

キッチンにいた全員が手に何かを持ったぞ。

だが、それと同時にそれを落とした。

だって怖かったんだもん。


「だから、店主。可愛くないって。」


ハンスさんのツッコミはともかく、

キッチンの温度が氷点下以下になった。


だって吹雪いていたからな。

その吹雪の中心にいたのは、


ハルヴィンダちゃん。


手に持っていたのは、

それ親方のだよね。

両手にバトルアックスを二つ構えて、

口から冷気を出しながら一歩一歩、歩いてくる。


「その手を放しなさい。この腐れピー野郎。」


ハルヴィンダちゃん。

レディがそんな言葉を言っちゃいけません。


そんな状況なのに、

ナルシスト野郎はすくっと立ち上がり、

髪をかき上げて歯を光らせる。

いちいちそれをするんじゃない。


「なんだい、ベイビー。やっぱり僕の魅力の虜かい。」

「よく見ると君たち、姉妹だね。」

「大丈夫。二人共、僕の胸に飛び込んでおいで。」


そう言って両手を広げる。

なんなんですか、こいつ。

本当に理解できないどころか、きしょい。


ハルヴィンダちゃんが動きだす。

二つのバトルアックスを軽々と掲げて。

その瞬間、キューブが現れ、

リナちゃんを抱えて消える。


ナイス、キューブ!


そして振り下ろされるバトルアックス。

やば。

これは死んだ。

しかし、ハルヴィンダちゃんのバトルアックスは、

片方は躱され、もう片方は盾で流される。

ナルシスト野郎、


いつの間にか武装してやがる。

盾に剣。

ハーフプレートまで装備している。


「ふっ、これでも『聖騎士』のジョブ持ちでね。」

「アイテムボックスもあるから、瞬時に装備も可能さ。」


なにそれ。

ジョブはともかく、

装備の瞬時の展開なんてゲームみたいだな。

チートだな。

あっ、転移勇者だったな。


くそう。

アイテムボックス羨ましい。


そして一触即発の二人。


「そこまでじゃ。」


二人の間に現れる、アンリ先生。


カッコイイ。


一瞬、俺をジト目で見るが、

すぐさま二人に向かう。


「双方、武器を置け。」


アンリ先生の有無を言わせない声だ。

しかし、


「いえ、例えアンリ様のお言葉でもできません。」

「こいつは、狼族の誇りにかけて磨り潰します。」


そう言って、ハルヴィンダちゃんはバトルアックスを手首で回しだす。


「ふっ、そんなに熱く求められているとは、罪作りな男だね、僕は。」


ナルシスト野郎も止めるつもりはない。

二人共、引く気がない。


やばい。


アンリ先生が腰を落とした。

素人でも分かる。

アンリ先生も本気だ。


「はーい、そこまでよ。」


その声と同時に、

ハルヴィンダちゃんとナルシスト野郎を囲む様に、

電撃の檻が出来上がる。


「ここをどこだと思っているの。」

「料理人の神聖なキッチンよ。」


ハルヴィンダちゃんとナルシスト野郎の後ろに、

トール夫人とハーケン夫人が立っている。


二人共、理解したのだろう。

動けば、この電撃の檻が狭まり拘束される事を。

しかし、武器を構えたまま相手を睨む。


「仕方ないわね。狼族の誇りまで出されたら、止められないじゃない。」


とハーケン夫人が言う。


「それに、監督も任されていた私達の落ち度でもあるわ。」


トール夫人も静かに頷いた。


「だから、決闘よ!」


なんですと。

決闘ですと。


師匠のニューワールド講座㊽

アイテムボックス編


「師匠」

『なんです』

「羨ましいです」

『何がです』

「アイテムボックスです」

『ああ』

『無理ですね』

「なんでですか!?」

「転移勇者達も持ってますよ!」

「それに絶対親方達も持ってますよね!」

『持っていますね』


『まず親方達ですが』

『あれは世界から与えられた物です』

「世界から?」

『ええ』

『"親方"の称号を得る程の功績を積んだご褒美ですね』

『称号と共に授けられています』

「そんな特典あったの!?」

『あります』

『時間停止機能付き』

『容量もかなり大きいです』

『無限ではありませんが』

『一般人から見れば十分チートですね』

「いいなぁ……」


『そして』

『転生者や転移者です』

『全員が持っている訳ではありません』

『邪神やトリックスターが関与した者の一部ですね』

『ランダムだったり』

『騒ぎを起こしそうな者だったり』

『基準はかなり適当です』

「ろくでもないな」

『ろくでもないですよ』


『逆に』

『やむなくこの世界へ来てしまい』

『六大神などの助力を受けた者には』

『基本ありません』

「なんで?」

『与えられないからです』

「えっ」


『そもそも』

『アイテムボックス自体がおかしいんですよ』

『時間停止』

『大容量収納』

『劣化なし』

『重量無視』

『そんな物が普通に存在していい訳がないでしょう』

「確かに」

『それだけで物流革命です』

『戦争も変わります』

『商売も変わります』

『国家の在り方すら変わります』

「うわぁ」

『つまり』

『チートです』

「身も蓋もない」


『あれはですね』

『上位世界の住人が下位世界に来た時に発生した』

『バグみたいな物です』

「バグ」

『どれだけエネルギーを使うと思っているんです』

『本来なら維持できませんよ』


「でも邪神やトリックスターは配ってますよね?」

『前にも言いましたが』

『あの連中は本社から来た出向組です』

『本社の備品を勝手に持ち出しているような物ですね』

「最低だな」

『本来』

『アイテムボックスは天界の住人が使う物です』

『この世界には不釣り合いなんですよ』

『言ってしまえば』

『専用の次元』

『専用の小世界』

『それを個人で所有しているような物ですから』

「スケールが急にでかくなった」

『人間が扱っていい代物ではありません』


『だから』

『称号持ちの方々は特別なのです』

『世界が認め』

『世界が維持費を払ってくれている』

『そういう状態ですね』

「世界公認かぁ」


『一方』

『邪神やトリックスター由来の物は』

『世界から無理やりエネルギーを吸い上げています』

「迷惑すぎる」

『迷惑なんですよ』

『だから私達は嫌っています』

「師匠達のは?」

『天界負担です』

『ちゃんと予算が出ています』

「予算なんだ」

『予算です』

『経費です』

「夢がないなぁ」

『という訳で』

『ヴァルナさん』

『アイテムボックスが欲しいなら』

『世界に認められる偉人になりなさい』

「ハードル高くない?」

『親方達くらい頑張れば貰えるかもしれませんよ』

「無理だろ!」

『大丈夫です』

『まずはクリスタルの山を消しましょう』

「急に難易度が上がった!」



※アイテムボックスは便利です。

※便利すぎるので普通はありません。

※師匠は経費で使っています。

※たぶん一番チートです。




作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


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