表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
51/78

51 仕方なく参加しますわ

みなさん、改めまして。

アルマデッタ・ヴァル・セイレス・ミョルニルこと、

アルマ・フォン・トールです。


トール夫人とお呼び下さい。


公爵夫人であったのは昔の事。

今は隠居の身ですので、お気になさらず。



さて、本日は当家の料理人ドンナーを伴って来ています。


昨日はマリーに何かあったらしく、

ヤキモキしましたが、

朝早くリオニーと帝宮へ行くと、

無事でほっとしました。


首から『軍神』様のアミュレットを下げた姿を見る事ができました。


その瞬間、

リオニーと共に涙を流すのを堪えるのが大変でした。

雰囲気もどこか、

わずかですが昔に戻ったような。


昨日何があったのか、聞くのは止めました。

いつか話してくれるのを待ちましょう。

だって私達、友達だから。



そして今日。

スミズル親方とトレース親方との約束通り、

昼過ぎに遅めの食事を頂きにまいりました。


この店に派遣する料理人は、

流石に料理長や副料理長という訳にはいかず。

それなりの腕があり、

思考が柔軟なドンナーを選びました。


少し早く来すぎたのか、

まだお客さんが沢山いましたわ。


リオニーもどうやら同じようでして、

既に喫茶スペースにいました。


まあ、お店の邪魔をしては本末転倒。

綺麗な庭園でも見て時間をつぶそうかしら。



何度見ても見事だわ。

色とりどりの花が咲き乱れ、

目をつむると鳥の声が聞こえる。

目に魔力を込めて見ると、

精霊達が見えるわ。

フェアリーガーデンがあるそうだけど、

これは本当に妖精と精霊の庭園。

人が踏み入れてはいけない、

最後の楽園なのかしら。



リオニーと庭園を見ていると、

アンリちゃんとミレディちゃんも来たわ。


あらあら。

帝国学園のクラスはいいのかしら。

問題児ばかりと聞いているけど、

ここにも来るのよね。

それを考えると、

問題児の存在も悪い事ではないわね。


でも、そんなにヴァルナ殿の事が気になるのかしら。



お店の方はまだ時間がかかりそうだから、

アンリちゃんの提案でお風呂を頂く事になったの。


どちらのお風呂を使えるのかしら。


お風呂用品や化粧品はどちらにもあるそうだけど、

生徒用かしら。

従業員用かしら。


アンリちゃんも悩んでいると、

噂の家事妖精シルキーが姿を見せたの。

たしか、エマと言ったかしら。


「アンリ様、旦那様に許可は頂いています。」

「これで、貸し三ですね。」


アンリちゃんが大きなため息をついた。


久しぶりね、そんなため息。

最近は見なくなったけど、

やはりここは特別なのかしら。


「トール夫人、ハーケン夫人。エマの話ですと。」


アンリちゃんは額に手を当てながら、

少し諦めたように続けた。


「店主が、もう見張りと躾も従業員と一緒でしょう、と。」

「生徒と一緒だと、生徒が可哀そうだから、奥を使う様にと。」


まあまあ。


昨日の今日よ。

今日は未だ会ってもいないし、

昨日は緊張しっぱなしで良い印象もないでしょうに。


「まあ、我の教師じゃから、問題ないと。」


ふーん。

そこまで信用されているのね。

これは本当に、何もしなくても問題ないと思うわ。

なんの打算もなくこの店に協力して、

仲良くなれば、きっと力を貸してくれるわ。

帝国や帝室には無理でも、


アンリシアやミレディア。


貴方達にはきっと。

さぁ、噂の帝宮越えのお風呂場。

日本製品、待ってなさい。


・・・・

・・・

・・


これは、まずいわ。

本当に帝宮越えだわ。


扉を開けて、

暖簾という物をくぐり抜けて、

再度扉を開ける。

ここ、本当に更衣室なの。


立派なサロンじゃない。


室温も一定に保たれているし、

お風呂上がりにくつろぐのであろう椅子や机。

リネン室には、

綺麗なタオルが沢山並んでいる。

その横には噂の化粧品が色々と置かれていた。


何に使うのだろう。

気になって仕方ないわ。


そして一列に並んだ化粧台。

そこには壁一面の鏡。

こんな大きな鏡は見た事がない。

その鏡に映るのは、

一人で服を脱ぎ、

お風呂に向かうアンリちゃんとミレディちゃん。


置いて行かれない様に、

私も急いで服を脱ぐ。


ついて来た侍女が、

いつもみたいに脱がそうとするが、

これでも戦場では世話人などいなかったのよ、と。

私もリオニーも一人で脱ぎ、

お風呂に向かう。


ほら、貴方達も早く来なさい。

これは役得よ。



中に入ると、

更にビックリ。

洗い場も大きく、

シャワーが一つずつ付いている。

まあ、庶民の方々が行く銭湯では、

それが当たり前ですって。


成る程。

勉強になるわ。


そして洗い場に座ると鏡があり、

その前には――


これね。


日本製のシャンプーとリンス。

そして、ボディーソープ。

早速使わせて貰うわ。

私もリオニーも侍女に髪の毛を洗って貰い、

体は自分で洗う。


ほら、貴方達も使いなさい。

遠慮はいらないわ。


最初、自分達が使っていいのか迷っていたが、

何度か勧めると喜んで使いだす。


今度から連れて来る侍女を選ぶのが大変そうね。


ようやくお風呂に入ろうとすると、

またもやビックリ。

一体何種類のお風呂があるのかしら。


効能が違う物から、

壺風呂、

檜風呂、

ジャグジー付きまで。

サウナも種類があり、

岩盤浴室まで。


そして、室内なのに露天風呂ってなんなの。


考えるのは後。

今は楽しみましょう。

全部は無理だけど、

これからここに通うのだから、

順番に楽しめばいいわ。


そして風呂上がりの冷蔵庫の中に、


牛乳、

フルーツ牛乳、

コーヒー牛乳があったわ。


これが伝説のお風呂上がりの儀式ね。

確か腰に手を当てて飲むんだったかしら。

リオニーが、


「ビールはないの?」


って言っていたけど。

風呂上がりのビールは美味しいけれど、

アルコールが一気に回るから危険よ。

牛乳もこれから一つずつ味を確かめればいいわ。


そして髪を乾かそうとしたら、

魔道具“怒雷弥”が、

これも各席にあるなんてすごいわね。


いつの間にか、

エマさんと、噂の転移勇者かしら。

天宮さんでしたわね。


二人が来ていて、

エマさんが、風の魔術かしら。

妖精らしいから、

もしかしたら魔法かもしれない。

私達四人の髪を同時に、

あっという間に乾かしてくれたわ。


侍女達は、天宮さんが怒雷弥を使って乾かしていた。

まだ慣れていないのか、

少し手間取っていたのは初々しくて、


つい笑ってしまった。


どうやらエマさんが教育しているみたいで、

この子は口を出す必要がないわね。


そしてエマさんが、

天宮さんに手伝わせながら化粧品の説明をしてくれる。


これは聞き逃せないわ。


説明を聞き、

実際に試してみる。

魔術の品ではないので、

すぐには効果が出ないが、

使っていけばそのうちに出てくるとの事。

アンリちゃんを始め、

ここの女性陣は皆毎日使っているのね。


羨ましいわ。



十分にお風呂場を堪能して、外に出ると、

リビングでスミズル親方とトレース親方が酒盛りを始めていましたわ。


「相変わらず、女どもの風呂は長いのう。」

「いつまで待たせるんじゃ。」


スミズル親方、女性にとっては普通です。

約束がなければ、もっとゆっくりしていましたわ。


ため息をつくと、リオニーがツカツカと親方達に近づき、

当然のように椅子へ腰掛ける。

もしかしてリオニー、駄目よ。


今日はこれからヴァルナ殿の料理を頂くんだから。


そう止めようとしたが、その前に。

自ら空いていたコップにビールを注ぎ、一気に飲み干した。


「ぷはーーぁ、この一杯の為に生きているのよね。」

「そうじゃろう、そうじゃろう。」

「ほら、店主が作ったつまみじゃ。」


トーレス親方が肉串を差し出すと、

リオニーは嬉しそうに受け取る。


まったく、この人は。

昔からそうだった。

戦場から戻った時も。

大仕事を終えた後も。


まずは一杯。


それがリオニーという女だった。


私には理解できない。

お酒とは料理と共にゆっくり味わう物だ。

特にジパング酒はそう。


香りを楽しみ、

肴を楽しみ、

そして酒を味わう。


その時間こそが贅沢なのだ。


今度こそ口を開こうとすると、


「スミズル親方にトレース親方。」


エマさんの声が聞こえた。

これは怒っているな。

声が低い。


「こんな所で、お酒を飲んで、しかも焼き鳥なんて。」

「リナやソレイアが間もなく帰ってきますよ。」

「こんなにお酒の匂いをさせたら、

 また臭いと言って距離を取られますよ。」

「それに匂いが付いたらどうするんですか。」

「掃除するのは、私ですよ。」


しごく真っ当な事を言っている。


だが。

その手に持った物はなに。


知っているわよ。

ビール缶とやらではないの。

それも箱詰めで。


「ほら、匂いが籠る前に下の社員食堂へ行きますよ。」

「天宮。」

「はい、エマお姉さま。」

「旦那様の所に行って。料理の追加を。」

「私が食べるから、ちゃんとチートする様に伝えて。」


なに、チートですって。


やはりヴァルナ殿もチート使いなの。


「トール夫人、ご心配なく。料理の味が二ランク程上がるだけです。」

「普段は使ってません。天界へのお供えとエマにしか使用してません。」


とミレディちゃんが説明してくれるけど。

何それ、面白い能力ね。

二ランクも上がるって。

もしかして、あの紅茶もそうしているのかしら。


「いえ、あれは素です。店主の実力です。」

「普段はチートの使用を御使い様から禁止されています。」


成る程。

素であれほどの物を淹れる事ができるのね。

そのチートを使えば、もしかして筆頭女官長に並ぶのではないかしら。


面白いわね。


「ほら、アルマ。置いていくわよ。」


親方達やリオニーが両手に酒と料理を持って移動し始める。

侍女達が慌てて手伝おうとするが、


「いいのいいの、自分で運ぶわ。それより残りをお願い。」


とリオニーが親方達の後を追う。

アンリちゃん、貴方まで。

生徒達の前に、この子達の方を先に躾ないといけないかしら。

こめかみに手を当てて進むと、

後ろからため息をつきながらミレディちゃんが付いて来る。


「大変ね、貴方も。」


そう言おうとしたが止めた。

何そのワインとワイングラスは。

貴方も同類なのね。



社員食堂に着くと、

既に親方達やアンリちゃん、リオニーが酒と料理を楽しんでいた。


このバッカス共め。


他には、連れて来たドンナーと、

リオニーの所の料理人モーントリヒトが待機していた。

そして、その前に次々と並べられていく料理。

運んで来るのはハンスという料理人。

確か宮廷料理人だったはず。


「トール夫人、店主からの伝言です。」

「俺はフルコースみたいな上品な物は作れるけど、

 作った事ないから、普段出している物でお願いします。」

「フランス料理なんて、余裕ないです。との事です。」


フランス料理。

フルコース。

あれよね。

転生者達が言う。


「おフランスなミーでざんす」


とかいう人達の国の料理。

彼らの世界の宮廷料理らしいけれど、

話でしか聞いた事がないから、一度は食べてみたいわね。


しかし。

作れるけど作った事がないとは、どういう意味なのかしら。


それにしても量が多いわ。

いくら今でも鍛錬を続けているとはいえ、

こんなには食べられない。


「トール夫人、こちらを。」


ハンスが取り皿を差し出してくる。


「種類が沢山あるんで、少しずつ取って下さい。」

「毒とかは大丈夫です。」


そう言って社員食堂の一角を見る。

そこには神棚があり、女神像があった。

そうね。

女神様の前でそんな事はできないわよね。

ハンスはそのまま料理人達や侍女達にも取り皿を配っていく。


それでも多くないかしら。

まだまだ来そうよ。


「問題ないです。トール夫人。」

「エマさんがいますから。」


いつの間にかエマさんもテーブルへ座っている。

そして。

酒と料理が次々と消えていく。


えっ。


アイテムボックスで収納しているのかしら。

目を疑ったが、

どうやら彼女の胃の中へ消えているらしい。

妖精って謎だわ。


さて。

エマさんに全て食べられてしまう前に、

私も頂こうかしら。


うむ。

不味くはない。

物によっては唸る物もある。

種類によって落差があるわね。

なんでも料理自体に熟練度という物があり、

味に差が出るらしい。


成る程。

スキルによる恩恵と障害か。


その熟練度を上げる為に、

ヴァルナ殿は日々鍛錬しているという。


ふむ。

武術と同じね。

今はともかく、将来は楽しみだわ。


それに、良い味を出している物は貴族に出しても問題ない。

これは貴族向けのメニューも考えてあげないといけないわね。


しかし。

味が良い物は酒の肴に合う物が多いわ。

そう思って親方達を見る。

そして納得する。

原因はこのバッカス共ね。


まったくリオニー。

あなた何をしに来たの。


そう呆れていると。


「おおう、みんなここにおったか。」

「しかも、こんな時間から始めおって。」


報告にあったムラマサ親方だ。

私は席を立って挨拶する。


「おお、これはミョルニル前公爵夫人。」

「ムラマサ親方。今は隠居した貴族、アルマ・フォン・トールです。」


そう答えると察してくれたのか。


「これは失礼した、トール夫人。」

「年を取ると勘違いが多くてのう。」


と笑ってくれる。


「で、今日はな。いい物が手に入ったんじゃ。」


そう言って掲げられた一升瓶を見た瞬間。


私は思わず目を見開いた。


三大ジパング酒の一つ。

『鳥羽』


入手困難な銘酒。

その姿を見た瞬間。

先程までリオニーを呆れて見ていた自分が、

少しだけ恥ずかしくなった。


「アルマ。」

「何かしら。」

「目が輝いてるわよ。」


リオニーがニヤニヤしながら言う。


「気のせいです。」


即答した。

気のせいではなかった。


これは仕方ない。


本当に仕方ない。


鳥羽が相手では仕方ないのだ。


そう言って私も仕方なく、


バッカス共の輪に加わる。


本当に仕方ない。


ヴァルナ殿。

『鳥羽』に合う肴を早急にお願いしますわ。


キッチンから、


「まだ夕方にもなってないぞ!」

「遂に進化したか、飲兵衛エイトめ!!」


と聞こえましたが、何の事でしょう。

異世界の言葉は変な物が多くて解りませんわ。


師匠のニューワールド講座㊼

日本人と食への執念編


「師匠」

『なんです』

「日本酒もあるんですね」

『ありますねぇ』

『もう諦めなさい』

「何をですか」

『日本人転生者・転移者の食への執念をです』

『あの人達は異常です』

「そこまで?」

『そこまでです』

『イタリア人転生者の料理愛も凄いですが』

『日本人は別方向で凄いんですよ』


『味噌』

『醤油』

『米』


『この三つは絶対に諦めません』

「わかる」

『あと卵かけご飯ですね』

「わかる」

『わかるんですか』

「わかる」

『そうですか』


『当時は大騒ぎでしたよ』

『生卵を御飯にかける』

『しかも混ぜる』

『さらに食べる』

「うん」

『現地人から見れば奇人変人の類です』

「そこまで!?」

『生魚も大概でしたが』

『卵かけご飯もかなり衝撃的だったようですね』

『その結果』

『除菌という生活魔術が誕生しました』

「えっ」

『安全に食べたい』

『ただそれだけの理由で』

『魔術体系が一つ発展しました』

「日本人怖い」

『おかげで』


『細菌』

『感染症』

『衛生管理』


『そういった概念も広まりました』

『病人や死者も減りましたし』

『結果的には良かったのでしょう』

「なるほど」

『ただ』

『いずれ誰かが発見したであろう知識を』

『また転移者が先回りして持ち込んだ』

『という見方もありますね』

『複雑な話です』

「確かに」


『そして』

『ネットショップ系スキル持ちが現れると』

『今度は現物を取り寄せます』

『さらに作り方も取り寄せます』

「やりたい放題だ」

『気候と材料さえ揃えば』

『現地人が再現しますからね』


『味噌』

『醤油』

『酒』

『うどん』

『蕎麦』

『ラーメン』

『カレー』


『気付けば定着しています』

「食文化つよいな」

『美味しい物は強いのです』

『宗教も』

『国家も』

『民族も』

『美味しい物の前では意外と弱いですからね』

「名言っぽい」

『事実ですよ』

『元々この世界にも独自の料理文化がありますし』

『むしろ今では』

『ヴァルナさんのいた世界より』

『料理の種類は多いかもしれません』

「そんなに?」


『新聞は最近』

『ラジオも最近』

『テレビはまだ発展途上』

『そんな世界です』

『大衆娯楽として一番手軽なのは』

『酒』

『そして料理です』

「なるほどなぁ」

『だから安心して』

『色々な料理を作りなさい』

『皆の娯楽になるでしょう』

「おお」


『ただし』

『ラーメンだけは気を付けなさい』

「まだ言うの!?」

『下手をすると』

『第九次ナルト戦争が始まります』

「始まらねぇよ!!」


※日本人転移者はだいたい米を探します。

※見つからないと作ろうとします。

※無ければ栽培します。

※それでも無ければ神に祈ります。

※たぶん諦めません。



作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ